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<インタビュー>Osteoleuco、2ndアルバム『いっそ死のうか、いや創ろう。』で唱える幸福論とは

インタビューバナー

 MGFのプロデューサー兼MC、KSKとしても知られるKeisuke Saitoとlofi-surfという新ジャンルを提案するピアニスト、プロデューサー、サーファーのShimon Hoshinoのプロデューサーユニット・Osteoleuco(オステオロイコ)が2年ぶりに2ndアルバム『いっそ死のうか、いや創ろう。』をリリース。ヒップホップをベースにインディソウルやドリームポップの要素が感じられる作品に仕上がっているが、同時に骨肉腫と白血病で2度も死に直面したKeisuke Saitoとサーフィンで死線を彷徨ったShimon Hoshinoの人生哲学が滲んだ作品となっている。彼らのこれまでから、2ndアルバムに込めた想いまで、たっぷり語ってくれた。(Interview & Text: 高久大輝 / Photo: Yuma Totsuka)

二人の出会いと結成のきっかけ

――Osteoleuco結成についてはホームページで拝見しましたが、改めてお二人の出会いから結成の経緯について教えてください。

Keisuke Saito:元々は共通の友人がいてその共通の友人が下田でホテルを家族経営していて、夏休みにバイトに来ない?と言われて行ってみたらShimonもいて。そこで出会ってすぐバンドを組んだんです。


――生い立ちの部分でお互いに響き合うところがあったんでしょうか?

Shimon Hoshino:自分は小さい頃からいろんな国に行くような環境で、本当に一期一会、この人とまた会えるかわからないということがほとんどで。Keisukeがよく話す、やりたいことは今やっておこうという精神性がよくわかったんです。例えば日本に定住していたら「まあ明日もあるでしょ」という感覚が普通だと思うんですけど「そんなことない」という共通した感覚があった。


――ちなみにそれはいつ頃ですか?

Keisuke:大学2年生くらい。Shimonとは長い付き合いになります。最初にバンドを組んだとき彼はベースで。

Shimon:ピアノは20歳を超えてからなんです。

Keisuke:Osteoleucoとして活動を始めるのはそこからかなり時を経ます。そのバンドでデビューなどはなく、2年ほど活動してスーッと消えていって。



Keisuke Saito(左)、Shimon Hoshino(右)

――フェードアウトしていた期間があるんですね。

Keisuke:そう、僕は大学を卒業して普通に広告会社に就職してそのままサラリーマンとして5年くらい働きました。その間に別でMGFっていうクルーを始めて。MGFをやっているときShimonと「また曲作ろうよ」って話になった。


――再会したんですね。

Keisuke:いや、そのバンドをやってなかっただけで会ってはいたよね。

Shimon:物理的に離れたのは僕がアメリカにいったときくらいかな。飛行機の免許を取りに行った。

Keisuke:そうだ、そこでも死にかけてたもんね。。

Shimon:大学院に落ちちゃって、これからどうしようかなと思っていた時に、サン・テグジュペリと『紅の豚』が好きだったから人生一度きりだし彼らの世界を体感したくて「よし、飛行機の免許取りにいこう」と思って(笑)。


――死にかけたというのは?

Shimon:パイロット育成スクールで、自分で整備確認して、教官にチェックしてもらってから、ソロフライトしてたんですけど、飛んでる最中に「プツン」ってエンジンが切れちゃって。ちゃんと落ちるんですよねあれ。ゆっくり旋回して落ちながら「ヤバい、何も誰かの役に立てずに人生終わる」と思って、ギリギリ教官に無線で連絡したら、ちゃんと指示がもらえて、なんとか生きてた。

 それでお金も無くなっちゃったんで、帰国してからは地元の湘南のサーフショップでバイトしながら、夜はアーティストの友達と僕のコンビで「人種も性別も偏見なく皆がお酒と音楽を自然に楽しめる場所」をコンセプトとして六本木に開いたバーでピアノを弾いていました。そんな中ふと渋谷タワレコに行ったら友達のJuaとWONKさんのミュージックビデオが流れていて、MGFのCDがバーっと並んでいてふと「まだ間に合うのであれば、また一緒に音楽やりたいな」って。

 それからいっしょに音楽をやるには、まず自分で実績を作らないと失礼だと思って作曲事務所を立ち上げて。東京にも事務所を作って、整ったときに遊びに来てもらいました。

Keisuke:そこでShimonのプロジェクトのプロデュースを頼まれたんです。

Shimon:仕事としていっしょにやろうかなと思っていたんで。

Keisuke:けど僕はプロデュースとかじゃなく、いっしょに何かやりたかったので、「Osteoleucoっていうユニットを考えてるんだけどいっしょにやらないか?」と伝えて。

Shimon:僕としては「え?いいの?」という感じ。


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<トイレという私的宇宙で繰り広げられる無限メディテーション>とは

――そこからOsteoleucoとしての活動が始まるわけですね。ここからは2ndアルバム『いっそ死のうか、いや創ろう。』について伺っていきたいのですが、まず今作の<トイレという私的宇宙で繰り広げられる無限メディテーション>というコンセプトはどうやって決めたんですか?

Keisuke:会社員時代に辛くなるとトイレに駆け込んで一息ついていて。トイレが逃げ場だったんです。会社員を辞めてからも、トイレに逃げ込んで完全に一人になるっていうことを結構していて、そのときに宇宙を感じたというか、いろんなアイディアが降ってくる感覚、いや元々頭の中にあるアイディアたちに出会える感覚って言う方が近いかな、そんな感覚があって。それがきっかけですね。


――構成も印象的です。特に冒頭が「休 -Intro-」で休みから始まっていたり。

Keisuke:いきなり休んでますからね(笑)。あれは無限ループの中の一区画を切り取っているということなんです。地球も6、7回文明が繰り返されているとか言うじゃないですか、それと同じであのループはあそこから始まったのではなく、何回も躁と鬱を繰り返している中のワンシーンに過ぎない。だからたまたま休みから始まっている。そういうストーリーになっています。


――マイナスをプラスに捉えていくようなリリックも印象的でした。

Keisuke:結果的にポジティブになるんだなって知ったんですよね、人生を通して。骨肉腫や白血病だったり、Shimonもサーフィンで死にかけたり、飛行機で死にかけたり、そのエッセンスが自分の栄養になって曲や歌詞になる。結局ポジティブになっていく。だからポジティブに“捉える”ってことではなくて結局ポジティブになるって“知ってる”だけなんです。Shimonがどう思っているかわかんないけど、Shimonは元々どポジティブ人間なんで。

Shimon:たしかに辛いことが起きたかって言われたら「ない」と答える気がします。

Keisuke:僕は辛いことは辛いことなんで。僕には巨大なネガティブとポジティブという二つの人格があるので、OsteoleucoはポジティブShimon、ネガティブKeisuke、ポジティブKeisukeの三人組なんです。



――自由なフロウも大きな魅力の一つです。フロウの点で何か気をつけていることはあります。

Keisuke:何も意識しないこと。しっかりフロウが統一されたラップもすごくかっこいいと思うんですけど、それをやろうとすると僕は窮屈になっちゃう。自分を縄で縛っている感覚。僕の場合トラックが違えば自然とフロウも変わるんです。なぜかわからないけど統一感がないとダメという強迫観念のようなものもあって、だから「何も意識するな。ノッてるのかノッてないのか、そこだけ見てろ。」って自分に言い聞かせてやっています。


――トラック作りはどのように進めるんですか?

Shimon:Keisukeと僕の作業の割合を9:1でイメージしてもらうといいね。

Keisuke:僕が先に軸を作ってShimonの味付けをお願いすることもあるし、その逆もあるんですけど、僕が手を掛けすぎてしまって、いろんなバージョンを作りまくっちゃうんです。Shimonは全部「いいね!」って言ってくれるんでひとつのトラックが20バージョンくらいあったりして。それでアルバムに2年も掛かっちゃった。

Shimon:全部いいんですよ(笑)。


――「Drunk A Little」では演説的なパートがあります。こういった演説をサンプリングではなく自分の声でやっているのは珍しいですよね。

Keisuke:「NERO」で歌っている明け方2時から制作しているというストーリー通り、もう深夜のテンションで。朝起きたら「なんだこれ?」ってなるようなアイディアだけど、でもその自分がいたことも確かなわけで、だからこそそのまま直さずに出しました。


――ブライアン・イーノをネームドロップしているのも驚きました。

Keisuke:イーノをそのときに聴いていたから出てきたんだと思います。インストの曲もかなり制作中に聴いていて、ジョン・キャロル・カービーとか。自分の歌声を歌としてじゃなく楽器として響かせたくて「Drunk A Little」は歌詞のないフックにしたりしました。


――今まで共演したことのある方もそうでない方もゲスト参加しています。

Keisuke:アルバムを作っている日々起こる出来事の流れのまま、基本的にはプライベートで繋がりがある方にお願いしていますね。KAINAさんは、日本語がネイティブじゃない方にボーカルをお願いしたいと思って友達に相談して紹介してもらったので、彼女だけ例外で。雰囲気と言葉のズレによる違和感が欲しかったんです。


――影響を受けた作品や今作と並べて聴いて欲しい作品などはありますか?

Keisuke:ブラッド・オレンジの『Cupid Deluxe』(2013年)はドリーミーな感じに影響を受けてますね。あと三宅洋平さんがカトマンズでアコースティックのライブを録音したアルバム(三宅洋平×Peace-K『Music Journey ep-2 NEPAL ~NEW MOON BLACK OUT KATHMANDU~ 』(2011年))があって、その現場感というか、降りてきた言葉をそのまま言っているような感じがするんで並べて聴いたら面白いと思う。

Shimon:今作の制作中ひたすらエリック・サティとラヴェル(モーリス・ラヴェル)の二人の作品を聴いていました。僕は譜面が読めないので、音を聴いて音の構造を建物でイメージをしているんですけど、その昔の作曲家が作っていた構造をOsteoleucoの死生観に投げてみたら面白いかなと思って。どちらも自由で、BPMやコード進行、タイトルのつけ方とか、ちょっといい感じに外すところも似ている。いっしょに聴いたら自分が影響を受けているのがわかりやすいと思います。「NERO」は完全にラヴェルですね、ループだけどベースやピアノがどんどん変わっていく感じとか。


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自分達の在り方「作ることにどれだけ幸せを感じられるかが重要で」

――お互いに対して作家性も含めどういった印象をお持ちですか?

Keisuke:もともと彼のルーツのジャズにある即興性というか。彼のソロ名義でlo-fi surfというプロジェクトがあるんですけど、本当にその場で作って録り直しもせずリリースしたりしていて。そういう一瞬の刹那を切り取ったような即興性に僕はすごい影響を受けていて。僕は元々リリックを作り込むタイプだったんですけど、彼に影響されたジャズスタイルのラップを今回は取り入れたつもりです。もちろん作り込んだ曲もありますけどね。

Shimon:バンド名になっているOsteoleucoの通り、死に2回直面した男の言葉ってポンと出た言葉に重みがあるんです。通り過ぎそうなところを絶妙なワードチョイスで、それこそ刹那を切り取っていて。あと言葉のチョイスが1stと2ndだと全然違う。1stやMGFでのリリックの雰囲気には近しいものを感じるんだけど、2ndは内省的で日によって違う響き方をして面白い。


――今はツアー中で、この間は銭湯でライブしていましたよね?

Keisuke:そうです、アートワークの展示もして、銭湯を美術館にしてライブするような感じで。

Shimon:風呂のイスに座ってもらってね。不思議な感じでした。リバーブがすごくて、勝手にディレイが掛かるような感じで、でも音の抜けは良くて。

Keisuke:銭湯のライブはおすすめです。あとグッズも含めアートワークをやってくれているAKIRA HAJIME(晃一)さんに展示をやってもらったんですけど、彼の絵がクラシック・スタイルだから、その絵が銭湯の時代感ともぴったり合った。


――ライブは活動の中ではどのような位置付けですか?

Shimon:ライブは即興に近い感覚です。Keisukeもよく喋れるなってくらいずっと喋ってますし。

Keisuke:漫談のような感じで。

Shimon:僕がそのBGMを弾いていて、曲に行くなと思ったら曲に流れていく。

Keisuke:ライブをすると今のフィーリングが勝手に出てくるので、次の作品のインスピレーションになるんです。だから次の作品を作るためにライブをしているようなところがあって。降りてきているものは出さないと今何が降りてきているのかわからないので、ライブを二人でやってそれを確かめてる。「あそこで鳴っていたキーボードのリフ良かったから音源にしようよ」「あのMCの内容をラップにして」とか終わった後に話しますね。

Shimon:スタジオに近いのかな。

Keisuke:公開スタジオですね。制作現場を見てもらっている。


――目指しているビジョンなどはありますか?

Keisuke:いやどういう風になりたいというよりも、瞬間瞬間で自分の自由を獲得していきたいってことだよね。心の自由を得たいから表現しているわけだし。何になりたいかじゃなくて、どう生きたいか。

Shimon:本当にその通りで。Keisukeは僕のプライベートをすごく気にしてくれて、「ごめん、この日は妻と......」って言うとそっちを優先してくれる。

Keisuke:音楽をやるために、例えば家庭を投げ捨てる必要なんて全くない。幸せで、心が豊かでいるためにやっているんだから。サラリーマン時代は、お金はあっても豊かじゃなくて。どうすれば幸せに生きられるか考えたら、やっぱり表現することや自分で活動して自分でお金を作り出すことだった。Shimonには家庭も自分の仕事も優先して欲しいし、Osteoleucoの活動をすることでもっと豊かになるならいっしょにやっていきたい。


――創作の在り方をすごく俯瞰で捉えているように感じました。他のアーティストを見て苦しそうに思うことはありますか?

Keisuke:みんな辛いと思います、ミュージシャンは特に。あまりにもお金にならないから。音楽10年以上やってますけど全然お金にならない。ただ単に稼ぐ能力が欠落しているとも思ってますが(笑)。

 僕はShimonのようにクライアントワークはあまりないので、誰にも依頼されなくても自分で何かを創ってそれを買ってもらうスタイルを続けていかないと生きていけない。そういう状況でどうやって楽しんで音楽をやっていくかだと思います。



――お金にしなきゃいけないプレッシャーとのバランスがうまく取れてるんですね。

Keisuke:うーん、それができていないから「いっそ死のうか」とか言ってるんだと思います(笑)。でも試行錯誤してバランスを取ろうとはしていますね。

Shimon:Keisukeは今ゾーンに入ってきている気がしていて。絵や文章に放射線状にアンテナを張ってリリースしているから、音楽も肩の荷が下りて楽しめているように見えますね。

Keisuke:そういうマインドの流れで全然違う。グッと構えているものは見向きもされないけど、もっとフラッと「良かったら見てって」くらいの絵にはみんな興味があるんだろうなって。そこで得たインスピレーションをまた音楽にしたくて、次は「Bad Sound is Good」みたいな形で、作り込まない作品を作りたい。

Shimon:今作は作り込んで、音も良くしたので、その反動で次はそっちに振ってみようという覚悟もできた。


――当然リスナーも苦しみを抱えている時代ですよね。

Keisuke:今作では作ることこそが幸せなんじゃないかってことを言いたくて。売れる売れないは一切関係ないんですよ。自分で時間を使って何かをこしらえることに喜びを感じることができれば、どんなに辛くても生きていける。絵も今は80作品くらいあるんですけど、売れたのは30作品くらい。でもいいんです。心が豊かになっているから。Shimonもそうだと思う。インスト曲を作って初めは誰にも聴かれなかったけど、ずっと作り続けていた結果、今は毎月20万人に聴かれている。だから作ることにどれだけ幸せを感じられるかが重要で。今はみんな大変な時代で、そういう苦しい中でどうやって生きていくかという幸福論をアルバムの中で言っているつもりです。


――なるほど。

Keisuke:どんなに成功している様に見えても自殺しちゃう人もいるし、どこかに空虚な気持ちが残っていたら、どれだけお金があって注目されていても生きていけない。死なないために自分で自分の豊かさを作り上げる技術が必要だと思うんです。それが僕らにとっては音楽、僕にとっては絵だったり文章だったりするだけで。

Shimon:だから音楽を発表することはコミュニケーションの一種でしかない。英語、フランス語、音楽みたいな。コミュニケーションを取りたくてリリースしているからリアクションが返ってきたときの喜びは半端じゃない。今朝もスペイン人がアルバムを聴いて「英訳はまだか?」ってメッセージをくれて。

Keisuke:スペインに僕らのTシャツ着てくれているトラックメイカーがいるらしくて。何百万人に聴かれているとかじゃなくて、僕らのTシャツ着てくれているスペイン人が一人いるだけで僕らは幸せ。それでいいんじゃない?って。


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