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たむらぱん 『new world』インタビュー
たむらぱんメジャーデビュー5周年記念インタビュー敢行!
インディーズ時代から今日に至るまでのストーリー、軽やかに生きる為の攻略法を提示する理由、本人史上最高の領域へ到達したというニューシングル『new world』、楽曲提供を行った私立恵比寿中学らアイドルとの相性などについて迫った。これを読まずにたむらぱんは語れない!
エビ中への楽曲提供~たむらぱんアイドル戦線へ!?
--アイドルグループ 私立恵比寿中学の楽曲『結果オーライ』を制作。自身のブログで「めっちゃウケるよ。作ってて何だけど(笑)」と書いていましたが。
たむらぱん:先方のディレクターさんからお話を頂きまして。彼女たちは凄いですよね。あんなによく歌って、口が回って、なんでも対応できる。なので、すごくいろいろ詰め込んだんですけど、あまりにも変な部分は「いらない」と言われたので無くして(笑)。でも面白かったです。普段考えている流れとは別の思考というか、完全に私立恵比寿中学の楽曲として作った感じですね。ダジャレの知識をフルに発揮しました。
--それは感じました。
たむらぱん:あと、楽しくてノリノリながらも、メッセージとまでは言わないですけど、言葉、歌詞としても成り立つような曲にはしたいなと思っていて。普通に聴いても楽しいし、真剣に聴いても楽しいものをイメージして書いてみました。
--今、アイドルって何でもアリのエンターテインメントになってきてるから、音楽的にも遊び甲斐があるんでしょうね。常識をあまり気にしなくてもいいところがあるというか。
たむらぱん:そうですね。ずっとアイドルの曲は書いてみたかったんですよ。楽曲提供とかできる立場じゃない頃から「自分だったらこうするのになぁ」とか思ってましたし。だからアイドルの曲を作ること自体には何の違和感もなくて。ただ、アイドルの人たちって本当に難しいことをやっていると思うんですよ、曲の展開とかも含めて。だからどれぐらい行っちゃって、どれぐらい行かないのかを見極めるのは難しかったですね。
--で、『結果オーライ』が3形態あるうちの[サブカル盤]に収録されるという。あれだけハチャメチャやってる私立恵比寿中学サイドから“サブカル”と判断された訳ですよね、たむらぱんは(笑)。
たむらぱん:ハハハハ! とりあえず[サブカル盤]は通常盤ということで、初回生産限定盤が無くなってもずっと残るのは嬉しい! あと、この前、ポップカルチャーとサブカルチャーの違いについて話していたんですけど、私が目指しているのはポップカルチャーだと思うんですよ。でも私なりのサブカルの捉え方って、ポップカルチャーは100人いたら100人が理解できるもので、サブカルは受け手の解釈によって反応はいくらでも違ってくるもの。それだけの隙間がある。だとしたら、自分が曲を作るときは、人が入り込む隙間を常に考えているつもりなので、サブカルにも通じるのかなって。……なんて自分なりに分析してみたんですけど(笑)。
--たむらぱんがサブカルかどうかは別としても、自分でも「たむらぱんって相当面白いポップミュージック、やってるよな」的なことを思ったりしませんか?
たむらぱん:自分で「ここがすごくヘンです!」という風に提示はしないけど、なんか面白そうだなと思ってもらえるものは作れているのかなーって。
--その特性を活かして、これを機にアイドル戦線へもぶっ飛んだ曲をガンガン放り込んでいってほしいです。そこからたむらぱんに興味を持つ人も増えると思いますし。Perfumeにおける中田ヤスタカや、ももいろクローバーZにおけるヒャダインのように。
たむらぱん:それはすごく思う……と私が言うのはおかしいんですけど(笑)。ただ、私がなんでアイドルに曲を書きたいと思ったかと言うと、田村歩美としてたむらぱんで出来ないことをやってもらいたかったからで。今の自分では歌えない言葉を歌ってもらったり。そういう意味では、自由度が高いし、振り切れるのかなって思う。あと、私の中では……もしかしたらアイドルの曲を聴く人もそうかもしれないんですけど、アイドルは代弁者的な部分が大いにあると思っていて。なんで私がアイドルにグッと来るかと言うと、自分にはもう無くなってしまった部分が出てたりするからだと思うんですよね。懸命なところだったり。その部分を代弁してもらったりしたい。
--なるほど。
たむらぱん:あと、私なりのアイドルソングの作り方として、面白い展開って意識すればどこまでもいくらでも出来るなと思うから、そこはもちろん突き詰めたいんですけど、そういうのが無くなったときにも成立させられるメロディと歌詞。そこが絶対的に残せる曲を提供できたらいいなって。勢いだけで行ってしまわない感じというか。今回ミックスとかも立ち合ったんですけど、本当にすごく声出してるから、これはもっと残る言葉を歌ってもらわなきゃいけないなと思ったんですよね。
--そちらの動きも楽しみなんですが、そんなたむらぱんの5周年記念シングル『new world』が完成しました。5周年ですよ、メジャーデビューしてから。どんな気分?
たむらぱん:私は「5周年」と言われて気付きました。なので、それぐらいの感じでした(笑)。
--たむらぱんがウチに追われるようになってからは8年目になります。インディーズで発表した『人のいろは』から。で、そのアルバムのリード曲『シーン』を3月のツアーで披露してましたよね。
たむらぱん:ここまで活動してきて、それなりに音源も出していくと、自分の中でどんどん無かったかのようになっていく曲が増えてきて。そうした曲をこの5周年というのをキッカケにして陽に当てるというか、タンスにずっとしまっていたものをたまには日干ししようと。で、周りの意見もあって、たしかに良い機会だなと思って。個人的にも昔の曲好きですし。
Interviewer:平賀哲雄
譲れない部分、確固たる部分が無くなってもいい
--その『シーン』もそうですけど、たむらぱんってインディーズ時代からぶっ飛んでましたよね。音は拘りまくってるし、変則的な展開もするんだけど、どこまでもポップっていう。自分では振り返るとどんなことを思います?
たむらぱん:曲の作り方はほとんど変わってないです。でも、別に今がすごく広い訳でもないんですけど、すごく個人的な世界にいたなとは思います。自分に対して向かっている曲が多かったなって。でもその分「強いな」って思わせるところもいっぱいあって。だからちょっと昔の自分が羨ましいというか、良いなって思うところもありますね。「なんでこんなこと思えていたんだろう?」というのは結構あるんですよ。
--メジャーに来てからはリスナーの姿とかも見えてきた訳じゃないですか。それを意識することで世界は広がったけれど、逆に言えばそこを意識しない故に作れたものもあったんでしょうね。
たむらぱん:それはあると思います。でも、今になっては「そんな考えじゃ無理だったな」とも思うんですよ。今も甘い部分はあると思うんですけど、今の甘い自分よりも相当甘かったというか(笑)。言っていることはすごく立派な雰囲気だけど、そこに考えが伴っていないとか、そういうところが昔はあったんじゃないかな。良くも悪くも周りが見えていなかったんでしょうね。
--今回の5周年記念シングル『new world』付属のDVDには、そのメジャーデビュー前の映像も入っています。440のライブ映像とかを今観ると、どんなことを感じますか? 分かり易くミスってましたけど(笑)。
たむらぱん:違う、なんかもう、あれは、しかも、私……(珍しくうろたえるたむらぱん)。今回、DVDを作る上で昔の映像とか見せてもらったんですけど、その衝撃の、間違えたライブっていうのは記憶には残っていたんです。でも、イントロですぐ間違えて弾き直したと思っていたんですよ。記憶の中では。だけど映像観てみたら、ワンコーラスぐらいやって、そこまで押し通しておいて、最初からやり直してるんです。だから記憶も変えちゃうぐらい衝撃だったんだと思います(笑)。
--当然ながら未熟な部分も当時はあったと思うんですが、でも自分の音楽を聴いてもらえば好きになってもらえる自信はあったんじゃないですか。
たむらぱん:それはありました。でも作ったものを上手く人に聴いてもらう状況を作るのはすごくヘタクソだったなって。
--ただ、2007年のmyspace.comとの出逢いによって状況は一変(参照インタビュー。アルバム『ハロウ』への注文が殺到し、翌年にはメジャーデビューを果たします。あそこは人生の大きな転機だったと思うんですが、当時はどんな心境だったの?
たむらぱん:そうなるのを望んでいたから、そうなったことが普通だと思っている自分と、本当にそうなるんだ?と思っている自分と、ふたりいたっていう感じですかね。周りの状況としては劇的な雰囲気はあったんですけど、感情としては変わらない。何年か音楽を続けていて、ここまで来たら何があっても動じない精神が生まれていたというか(笑)。すごく自然な感覚はあったかもしれないですね。
--いろいろ経験して、そこでキャッキャするほどもう幼くはなかったと。
たむらぱん:そうそう! 嬉しいんだけど、浮き足立って誰かに電話かけまくるとか、そういうのは全然無かったですし(笑)。
--そこから昨日(4月23日)で5年目突入。たむらぱんは音楽で何をしようとしてきたんだと、自分では思いますか?
たむらぱん:ようやく最近になって言葉にできるようになったんですけど、音楽で「良いことないかな?」って探してきた。いろいろあるけど、なんか良いことが起きそうな気もする。それを曲にしてきたんだと思います。
--DVDの中でも言っていた“面白く暮らす作戦を立てよう”ということですよね。それを今日まで音楽で表現し続けてきた訳ですけど、そもそもそういう発想を持った要因や理由って何なんですか?
たむらぱん:多分、自分が自分以外の人に何かを出すということに対して、私は答えがないから。だから何かを100%押し出す自信はなかった。でも相談はしたいというか、質問はしたい、状況は探りたい、そういう想いはあって。答えは書けないけど、問題は作れると思ったんですよね。
--『ゼロ』にしても『バンブー』にしても『ラフ』にしても、軽やかに生きていく為の発想をよく次々と思い浮かべましたよね(参照インタビュー)。これ、普段からめちゃくちゃ考えている証拠じゃないですか。ということは、生きづらいなーと、人一倍感じているから、たむらぱんの曲は生まれる訳ですよね?
たむらぱん:私は何かひとつのことについて恐ろしく詳しい訳じゃないんですよ。政治の世界に詳しいとか、恋愛に長けているとか、数学者であるとか、そういう“とことん”というものがない代わりに“漠然”とした疑問は持ちやすいのかなって思います。よく小さい子がとりあえず「なんで?」って聞く感じ。興味があるというよりも、純粋にそこで起きていることが不自然に感じたりとか、何かに矛盾や理不尽を感じることによって生まれるシンプルな疑問。それを曲に反映させている感覚はあります。
--現実は大変だし、分からないことだらけ。ということを大前提に見据えながら、攻略法をリスナーと共有していきたい想いというのは、メジャーに来てから年々増していますか?
たむらぱん:そうした感覚がどんどん自然になってきてます。今は何かを作ることに対して、その後ろなのか前なのかは分からないんですけど、人々がいるっていう感覚ですね。そこの景色が見えてモノを作っている。以前はもっと個人的だったんですけど。もちろん今もパーソナルな関係、1対1みたいなことも書くんですけど、いっぱいの人それぞれ1人ずつとの関係になってる気がします。前は本当に世界に1人しかいない感じだった。
--そして、ここ数年は他のミュージシャンとのコラボレーションも積極的に取り組み、その上で“たむらぱんらしさ”というのをアルバム『mitaina』で見出した訳じゃないですか(参照インタビュー)。これは自分の中でも大きかったんじゃないですか?
たむらぱん:それまでやりたくてやれなかったことなので、気持ち的には一番大きい。やれて良かったなと思います。もちろん自分のイメージってあるんですけど、譲れない部分とか、確固たる部分というのが無くなってもいいと思っているんですよね。それさえ面白いと思うので。でも確固たる部分を崩すというのは、やっぱり自分に何かひとつ持っていないと出来ないことなんですよね。それを改めて感じたというか、自分にも曲がりなりにもそういうものがあったんだと気付けた。誰かを通したことで。そういう意味では、メジャーに来て関わる人が増えたのはよかったなって。
Interviewer:平賀哲雄
本人史上最高の領域へ~紅白に出る為に必要なこと
--具体的に言うと?
たむらぱん:私は自分で自分を奮い立たせるとか、なかなか出来ないけど、誰かに評価してもらえる環境に置かれたことで、そういうことが出来たり、自分というものが感じられるようになった。それはメジャーに来たのが大きかったと思うし、更にコラボしたことで、自分がミュージシャンであることを把握できたというのも、今更ながら大きかったと思う。
--また、同DVDには、岐阜県飛騨高山での凱旋プレミアムアコースティックコンサートの模様も収録されています。地元でちゃんとライブをやるのは初めてだったそうですが、どんな想いやテンションで臨んだんですか?
たむらぱん:えーっと、テンションはとても低く。
--低かったんだ(笑)。
たむらぱん:低かった。なんて言うと、地元で何か凄いことがあってトラウマになってるとか思われそうなんですけど(笑)、そんなことはなく。本当にシンプルに生きて、シンプルに問題もなくすくすくと育ったからこそ、何か違った感じで見られるのが怖かったのかもしれない。「こんな風になっちゃったんだね……」みたいな(笑)。そういう不安はありました。好きな場所だから、よく思われたい想いがあったんですよね。好きな人に好きって思われたい、その種の純粋な想いが強くなっちゃうから、余計に怖がっていたのかなって。
--実際にライブしてみてどうだったんですか?「好き」って言ってもらえた感じはあったんですか?
たむらぱん:あった、あった!「良かった!」って思った。隣の家のおばあちゃんとか「生きているうちに会えてよかった」って言ってくれたし(笑)。
--そうした象徴的な出来事を経て、ここからどこへ行くのか?という場面で発表するシングルのタイトルが『new world』ですよ。見事です。
たむらぱん:これも偶然の奇跡。これを作っていたときは5周年記念シングルになるというのは知らなかったので、逆に意味深だなと思いました。もしかしたら自分も、5年ぐらい経って無意識に振り返る感覚になっていたのかなって。
--冗談抜きで「天才め」って思いましたよ。このタイミングで発表するシングルがこんなにもファンタジックでエモーショナル。ディズニーランド級の遊園地を音楽で作ったなって。
たむらぱん:今回はその遊園地の規模を大きくしたいなと思って。これまでストリングスのアレンジとかいろいろやってきて、ブラスのアレンジとかもやるようになって、大体ベーシックな部分はなんとなく自分で操作できるようになってきて。で、ストリングスに関しては落合徹也(弦一徹)さんに赤ペン先生をやって頂いてるんですけど、今回の『new world』のアレンジも見てもらったら、タイトルの隣に「なかなか良いですよ」って書いてあって、自分としてもひとつ「来たかな」っていうのはあったんですよね。絶頂ではないかもしれないけど、わりと富士山で言うところの8合目ぐらいまで来てるんじゃないかと。だから『new world』はこれまでで一番豪華に聞こえる曲かもしれない。
--歌詞も「もっと旅に出よう」「もっと飛び込んじゃおう」「もっと夢中になろう」と、たむらぱん史上1,2位を争うポジティブソングですよね。こうした曲をこのタイミングで出せたのは何でだと思います?
たむらぱん:この曲が出る時期だったり、ドラマ主題歌であること(詳細はこちら)だったりも影響してるんですけど、自分として明確なバランスを操作できるようになったからなのかなって。押し出していく自分と、そうはいかない自分。その両方を前より上手く出せるようになったというか。あと、この領域も出来るようにならないとダメだっていうのがあって。で、これがOKだったら、ますますいろんなところへ向かっていけるかなと。
--なるほど。
たむらぱん:役者みたいに音楽をやりたくて、各曲によって、各シーンによって人が変わるというのがあたりまえのようになりたいと思っているし、今回みたいな領域にも踏み込めるんだったら、やがてそうなれるんじゃないかと勝手に思えたりしていて。だから、もちろん無いものは出せないけど、有るんだったら曲に出して存在させておきたいと思ったんですよね。
--この『new world』から始まる新フェーズはどこへ着地するんだと思いますか?
たむらぱん:今回『new world』を放ったんですけど、そこからどこかに繋がるとかじゃなくて、また元の場所から違うモノを違う場所に放つって感じだと思うな。続きというよりは。だからまた違う山に登る。今回が富士山だったら……次は高尾山とか。
--標高が下がっちゃいましたけど。
たむらぱん:下がっちゃいましたね(笑)。いや、そのときどきで質感とか、登る季節とか選んでいきたいという意味で。
--そろそろ〆に入っていきたいんですが、今から5年前。メジャーデビュー当時には、紅白への出演を目標として掲げていました。それは今も変わらず?
たむらぱん:今も変わらずです。この前、地元でライブをやったので、余計に出たいなと思いました(笑)。
--その為に必要なことって何だと思いますか?
たむらぱん:その為に必要なことは……もちろんいろいろあると思うんですけど(笑)、今回の『new world』みたいなことだと思いました。自分の中にいろんな要素があるんだとしたら、やっぱりそれをフルに使って、そういう機会に出逢える自分を作るっていうのは大事だなって。自分の中で「幸せそうなものが増える、楽しそうなものが増える為」というのが共通していれば、どんな雰囲気のものを作っても大丈夫だなって思っているので。
--その結果、紅白に出られるような曲が生まれることもあるだろうと。
たむらぱん:そうそう。だから自分の可能性を自分で決めない。
Interviewer:平賀哲雄
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