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<インタビュー>進化したポルノグラフィティが「今できること」を詰め込んだ、5年ぶりのアルバム『暁』を語る
ポルノグラフィティから実に5年ぶりとなるニュー・アルバムが届いた。7月29日に先行配信された「暁」を表題曲とした本作は、2018年3月にリリースされた「カメレオン・レンズ」以降の既発シングルに加え、言葉の使い手としての新藤晴一がチャレンジングな要素を込めた「証言」、岡野昭仁が自身の歌声の新しい領域を切り開いた「クラウド」や「悪霊少女」など、計15曲を収録。この数年間におけるソロ活動で得た経験値によって、表現者として明らかにレベルアップを果たした二人に、今作の手応えを語ってもらった。(Interview:もりひでゆき)
新藤の歌詞が大きな強みになっている
――前作「BUTTERFLY EFFECT」から約5年ぶりとなるアルバム『暁』が完成しました。ポルノのお二人は2019年9月の東京ドーム公演【20th Anniversary Special Live “NIPPONロマンスポルノ’19~神VS神~”】以降、ソロとしての活動を活発化させていましたが、そこでの経験が本作にどのような影響を及ぼしたのかをまず伺いたいと思っていて。
岡野:あー、なるほど。
新藤:影響したことってあったのかなぁ……。
――まず晴一さんはnoteを始められたり、執筆活動をされたりと、文字にまつわる活動をされていました。で、本作を眺めてみると、収録曲のすべてで作詞を手がけられていたので「なるほど」と納得したんですよね。
新藤:今回のアルバムは既発曲がかなり多く収録されているんですけど、たまたまそのすべての作詞を僕がやっていたんですよ。で、アルバムを作る段階になって、「じゃあその流れで全曲書いてみたら?」と言われたので、「わかりました。大丈夫です」と答えたという感じで。だから、それを大きなコンセプトみたいにしたわけではなく、自分としてはいつも通りに悩みながら、1曲ずつに向き合って書いていっただけではあるんですけどね。
――作詞において大きな変化を感じる部分はなかったですか?
新藤:たしかにちょっと変わったところもあるんだけど、それよりは過去の自分の詞とテーマ的な部分で被らないようにすることがなかなか大変で。これまでにたぶん200曲くらいの作詞をしてきたと思うんですけど、そうなるとどうしたって被ってくる部分はあるわけですよ。そこの難しさを今回は特に感じたかな。ただ、すべての作詞を任せてもらったぶん、全体のバランスは取りやすかったです。リード曲の「暁」のような漢字に意味を持たせる書き言葉的な曲があったら、じゃあ今度は「ジルダ」のようなしゃべり言葉を使った歌詞を書いてみようか、みたいなバランス。
――その中でご自身的に挑戦できたと思う歌詞ってありますか?
新藤:ひとつ自分として大きかったのは「証言」の歌詞ですね。僕は今までてらいなく感情をぶちまける歌詞というのを意識的に抑えていたところがあったんですよ。そこに多少の照れくささがあったから。でも今回は、この曲にはこの言葉が必要なんだと思う場所においては、比較的熱い言葉を素直に使うようにしたんです。それが一番わかりやすいのが「証言」で使った“愛”という言葉だったりしますね。
ポルノグラフィティ『証言』MUSIC VIDEO
――昭仁さんは今回の晴一さんの歌詞から何か感じるものはありましたか?
岡野:今回のアルバムは全体的なコンセプトを持って作り上げたわけではないんだけど、新藤がすべての歌詞を手掛けてくれたことで、ひとつ大きなまとまりを感じさせてくれる仕上がりになったとは思いますね。昨年、『THE FIRST TAKE』で「サウダージ」を歌ったときに、「26歳の晴一が書いた歌詞のクオリティはどうなってんだ」みたいなコメントがあったんですけど、そこで改めてポルノグラフィティにとっては新藤の歌詞がひとつの大きな強みになっているんだということに気づいたんです。で、今回、5年ぶりのアルバムを出すにあたって、その強みをしっかり打ち出せたというのは、自分らにとっても非常に大きな意味のあったことだなと思いますね。
声の幅を広げるいい機会だった
――一方、昭仁さんはソロとして歌うことにしっかり向き合った時間を過ごされていましたよね。結果、明らかに5年前とは違ったボーカリゼーションが各曲に注ぎ込まれている印象を受けました。
岡野:最近、レコーディング・スタジオに近しいくらい歌いやすい環境を自宅に作ったんですよ。それによってデモの段階から自分の歌にフォーカスして制作を詰めていくことができるようになって。結果、表現という意味でのレベルは少しだけ上がったのかなとは思いましたけどね。
――例えば「クラウド」や「悪霊少女」の平メロはかなり低いトーンで歌われていて。そこに今まで聴いたことのない新鮮さを感じたんですよ。
岡野:「クラウド」に関して言うと、新藤の作ってきたメロディの音域がすごく広かったから、下のほうのキーを歌うのが大変だという話をまずしたんです。ちょっと苦情気味に(笑)。でも、ちょっと待てよと。もしそれを僕がちゃんと歌いこなせるようになったら、今までとは違ったトーン、違った声色みたいなものを出せるんじゃないかと思ったんですよね。自分の声は高いトーンのことを褒めていただけることが多いから、新しい聴き心地として受け取ってもらえるんじゃないかと。それは「悪霊少女」も同様ですね。
ポルノグラフィティ『悪霊少女』MUSIC VIDEO
――晴一さんがレンジの広い曲を作ったのには何か狙いがあったんでしょうか?
新藤:いや、そこはまったく意識してなかったですね。「クラウド」なんかは自分的にいいメロディが出てきたなと思ってたんだけど、現場で昭仁からレンジのことを指摘されて。その場にいたアレンジャーの宗本康兵いわく、世の中の名曲はだいたい1オクターブちょいくらいの幅でできているものなんだと。その場でサザンオールスターズの曲を弾いてみたら「なるほど、たしかにそうなってる」と。で、「クラウド」を改めて見てみたら2オクターブくらい幅があって(笑)。
岡野:あははは。そりゃ苦情も言いますよね(笑)。でもね、「悪霊少女」を作っているときに長年一緒にやってるアレンジャーの江口亮くんに「このレンジだからいい声質が出てるんですよ」という意見をもらえたりもして。そういう意味では、自分の声の幅を広げるいい機会だったと思うんですよね。それこそ5年ぶりのアルバムということでみなさん期待もしてくれているだろうから、ボーカリストとしての成長をしっかり見せないといけないなって気持ちもありましたし。
新藤:でもさ、「暁」(作曲:岡野昭仁, tasuku)だって同じくらいレンジが広いだろ?
岡野:うん。それはあとから意識的にそう作ったんだよ。新藤が作った「クラウド」や「悪霊少女」で新しい声のトーンに挑戦できたから、じゃあそこで学んだことを違う曲でもやってみようと思って。
新藤:そうか。わざと低くしたのか。まぁでも今回の昭仁の歌は、その曲に対して最適な歌い方にしっかりフォーカスしてくれていた気がします。僕が歌のことについてあれこれ言うのも違うと思いますけど、全体的にレコーディングもスムーズでしたからね。
ポルノグラフィティ『暁』MUSIC VIDEO
――そこは間違いなくソロを経ての進化なんでしょうね。本作は本当に「5年待った甲斐アリ!」と言える傑作だと思います。手応えも大きいのではないですか?
岡野:うん、手応えはものすごくあります。15曲が出揃った時点で「これはいい仕上がりになるんじゃないかな」って予感がありましたしね。自分で何度も何度も聴き返すくらい、いい作品になったと思います。
新藤:前作からの5年を考えると、例えばTikTokなんかで新しい若い世代の音楽がたくさん生まれている状況にもなっているので、今のポルノがどんなふうに受け取られるかが想像できない部分もあるんですよ。でも昭仁が言ったように、自分たちとしては大きな手応えを感じるものに仕上がったので、自分たちらしく響いていけばいいなとは思っていますね。自分らが今できることをギュッと詰め込んだ作品なので。
――9月からスタートする全国ツアー【18th ライヴサーキット“暁”】も楽しみです。
新藤:アルバムの印象って、聴いてくれた人の反応でまた変わってくる部分もあると思うんですよ。そういった意味で今回はライヴがすごく楽しみではありますよね。実際にステージでやったら想像通り映える曲もあるだろうし、想像を超えた盛り上がり方をする曲もあるだろうし。
岡野:世の中の状況的にはまたちょっと大変な感じにもなってきているので正直、内容を決めかねている部分もあったりはします。いつも以上にセットリストを考えるのが難しいけど、せっかくいいアルバムが作れたのでね。それをいい形でお届けできるよう頑張りたいと思います。
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