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<インタビュー>ディズニー音楽世界を“声”のみで表現、ディカペラが日本のファンへ贈るラブレター

インタビューバナー

 ディズニー音楽の世界を“声”だけで作り上げるディカペラのワールド・ツアー【ディズニー・アカペラ・コンサート「ディカペラ」】が、東京・東急シアターオーブ公演を皮切りにスタートし、大阪・広島・福岡・鹿児島・名古屋・札幌へと全国を駆け抜ける。

 2019年の初来日インタビュー以来、実に約3年ぶりの再会となったディカペラに、日本ツアーを記念して編集された日本独自企画アルバム『マジック・リイマジンド』に収録される思い出の曲や、待望のツアーの見どころ、そしてオーディションを勝ち抜いてきた彼らだからこそ言える突破の秘訣を聞いた。 (Interview & Text: Mariko Ikitake l Photo: Yuma Totsuka)

遊びながら、試しながら作っていく過程を楽むレコーディング

――アルバムにはディズニーらしさもありつつ、皆さんのスタイルも出ていて、聞いていて楽しかったです。前回のインタビューでケイレンは「『酒場のバンド』を歌いたい」と言っていたので、実現しましたね。

ケイレン・ケリー:この曲はコロナ前に行った最後のスタジオ・レコーディングでした。曲の中盤で女性陣が鼻声で歌ってるところがあるんですが、そのパートでは実際に鼻をつまみながらレコーディングしたり、唇をこういうふうに(人差し指で唇をブルブルさせる)震わせながら歌ったりして、楽器の音を声で表現するためにいろいろな工夫をしたのをすごく覚えています。何よりもアレンジャーであるディーク・シャロンが、ジョン・ウィリアムズがオーケストラ用に作曲したこの曲を声だけで再現できるようにアレンジしてくれたことが素晴らしいポイントです。印象的な原曲のメロディーに加えて、他の楽器の音を声で再現しているので、そこは新しい発見だと思います。新鮮ですし、注目して聞いてもらいたいところですね。オーケストラの楽曲を人間の声で再現しているところを楽しんでください。


――鼻をつまんだり、唇を震わせたりするというアイデアは誰が出したんでしょうか?

ケイレン:みんなでアイデアを出し合いました。自分たちもそうですし、ディークも、どういう音を出したいのか分かってます。それをどうやって出そうか考えて、「じゃあ、こういうのを試してみよう。ああ、違う。じゃあ、これをやってみよう」って試行錯誤して、「あ、今のいいじゃん!」という感じで作りました。特にこの曲はみんなで一緒に作り上げた曲で、遊びながら、試しながら作っていく過程が楽しいレコーディングでした。



▲「Cantina Band」MV


――RJも前回「リフレクション」を歌いたいって言っていましたよね。

RJ・ウェスナー:個人的にバラードが好きなんですよね。「ホール・ニュー・ワールド」もそうですし、「美女と野獣」「カラー・オブ・ザ・ウィンド」など……「リフレクション」の歌詞は奥深くて、今の世界を反映していると思います。残念ながら今回のツアーのセットリストには入っていないのですが、これだけ多くのディズニー楽曲を歌っていると、どうしてもコンサートで全部歌うことができなくて困ってます。いつかこの曲をライブでも歌ってみたいですね。


――「俺のおかげさ」もドウェイン・ジョンソンっぽい低音ボイスとラップがすごくカッコよかったです。パートを担当したジョーとオーランドから、レコーディングのお話を聞かせてください。

ジョー・サントーニ:もともと、もう1オクターブ高いアレンジだったんです。でも、歌ってみて、マウイという風と海をつかさどる人々を表現するには、ちょっとキレイすぎるという話になり、頑張ってもう1オクターブ下げてみたら、すごくいい響きになりました。


オーランド・ディクソン:ラップの部分は、ミュージカル『ハミルトン』をイメージしました。最初は、「ひょっとしたら『ハミルトン』みたいにやれるかも?」っていう期待半分でした。このグループで初めて自分がラップをした曲で、この曲以降、いわゆる現代的な本当のヒップホップというよりも、舞台で歌われるヒップホップのアレンジを2~3曲でも取り入れていきました。自分らしさを出すことが大きなチャレンジで、曲に自分を合わせるのではなく、曲を自分なりに昇華させることを心がけました。自由にやらせてもらいましたし、グループを結成してまだ2~3年でしたけど、それまでとは全く違う系統の曲に挑むことができた点でも、自分にとってすごく大きな意味を持っている曲です。


――「アリ王子のお通り」でもラップが入っていましたが、それは「俺のおかげさ」で違うアプローチができたおかげかもしれないですね。

オーランド:そうです。ただ、同じラップではあるんですけど、全くアプローチが違います。デザイナーの「パンダ」という曲とスヌープ・ドッグの間をうまく取ったイメージです。すごくアグレッシブな曲と、後ろのめりなスヌープを聴き比べながら、ちょうどいいバランスを見つけて完成させたのが「アリ王子のお通り」です。もともとラップの曲ではないので、言葉を使ったリズムやフロウをどのように生み出そうかと、いろいろ探りながら完成させました。



▲「You're Welcome」MV


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最新のテクノロジーを取り入れた巧みなボーカルワーク


Photo: Yuma Totsuka

――メンバーそれぞれの一推しの曲を教えてください。

ケイレン:私は「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」。『メリー・ポピンズ』は大好きで、現代の女性ポップ・シンガー風にアレンジしてあります。イメージとしてはテイラー・スウィフトの「シェイク・イット・オフ~気にしてなんかいられないっ!!」のような感じのノリで、ライブでも必ず観客が盛り上がるような楽しい曲に仕上がっています。


オーランド:僕は「Nobody Like U」(『私ときどきレッサーパンダ』)です。ボーイズ・グループ全盛期のあの感じが楽しいこの曲をディカペラ流に表現してみました。やっぱり懐かしいサウンドが個人的にすごく気に入っていて、ライブでも盛り上がる曲だと思います。


アントニオ・フェルナンデス:「Starting Nowマッシュアップ」ですね。プロデューサーとしても、メンバーとしても、本当にこれを全部自分たちの声だけでやってるのかと驚くようなアレンジで、アカペラですが、全米のポップ・ラジオ局でも十分通用すると思っています。


RJ:「輝く未来」(『塔の上のラプンツェル』)です! 先ほど「リフレクション」のところで話しましたが、ダウンテンポの曲がすごく好きで、ディズニーのコンサートだと盛り上がる曲が多いんですけど、この曲のように静かで各々にスポットライトが当たるような曲が好きなんです。


ジョー:僕は「アリ王子のお通り」。実は長い間、温めてきた曲で、クラブでかかっててもおかしくない出来です。ラップも好きですし、自分たちが声で表現している音色もいろいろ気に入っていて、毎日車でかけて盛り上がっています。


モーガン・キーン:私は「ディズニー・ブロードウェイ・イズ・バック・メドレー」を選びます。ブロードウェイ・ミュージカル『ニュージーズ』の「Seize The Day!」をナショナル・ツアーで歌ったことがあって、今回もそのパートを担当しています。次のセクションに変わるところでキャサリン役のセリフがうまく差し込んであって、すごく思い入れのある瞬間です。


――「増していくプレッシャー」や「ビビディ・バビディ・ブー(マジック・ソング)」を聞いて、「今回はシンセを入れたのかな?」って思ったのですが、やはり全部声で作られているんですね。

アントニオ:そうです! 音声加工ソフトウエアを使って、例えばギターの音色を人間の声にかけているんですよ。「ハワイアン・ローラーコースター・ライド」には、オーランドのギター・ソロがあって、エンジニアがオーランドの声をギターアンプに通すことでひずませることができて、まるでギターの音のように聞こえます。そういった技術も利用していますけど、もともとは全部人間の声なんですよ。「インモータルズ」や「イントゥ・ジ・アンノウン」「ハワイアン・ローラーコースター・ライド」、『インクレディブル・ファミリー』のメドレーなど、加工した曲を今回のライブで披露するので、ぜひ見てください。


――本当に声を使っていることを生のライブで証明するわけですね。

ケイレン:ギターをいろいろなエフェクターを通しているからといってギターでなくなるわけでは決してないですよね。私たちも同じように、最新のテクノロジーを使って自分たちの声にいろいろなエフェクトをかけて加工してみました。



▲「Surface Pressure」Audio


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次に向かってどんどんチャレンジしていくことが大事


Photo: Yuma Totsuka

――今回はディズニー・チャンネルの人気ミュージカルの曲も収録されています。「ディス・イズ・ミー」はデミ・ロヴァートの主演映画『キャンプ・ロック』の曲ですが、皆さんはディズニー・チャンネルを見て育った世代ですか?

モーガン:まさに自分の人生は『キャンプ・ロック』のデミ・ロヴァートのようになると思ってました(笑)。キャンプで才能を見出されて、スター街道が始まるっていう。『ハイスクール・ミュージカル』も大好きで、学校のリュックは『ハイスクール・ミュージカル』のものでした。


ケイレン:『キャンプ・ロック』を見て、キャンプには歌を披露する場があって、有名人になれるかもって思っていたのに、実際に行ったらそんな場所はないと知って、がっかりした思い出があるな~(笑)。


他メンバー:ハハハ(笑)!


アントニオ:僕は兄弟と一緒にTVシリーズの『スイート・ライフ』をよく見ていましたよ。


RJ:僕はそこまで見ていなくて、『ホーカスポーカス』や『スマート・ハウス』、『ブリンク!スケート対決』といったオリジナル・ムービーを見ていた記憶があります。『キャンプ・ロック』も『ハイスクール・ミュージカル』も見てないんだよ(笑)。


オーランド:僕は子供の時からディズニー・チャンネルを見ていました。『GO!GO! ガジェット』、『ザ・プラウド・ファミリー』、『レイブン 見えちゃってチョー大変!』をよく見てた。『ハイスクール・ミュージカル』は少し年下向けの作品だったんですけど、当時の熱狂ぶりはホントにすごくて無視することはできなかったですし、クールなフリをして、電車に乗って『ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー』を見に映画館に行った思い出があります(笑)。


アントニオ:『リセス〜ぼくらの休み時間〜』も思いだした。ああ、懐かしい(笑)!


ケイレン:最近、映画『ヘラクレス』でヒロインのメグの声を担当したスーザン・イーガンと一緒に仕事をする機会があって、私達全員感銘を受けました。子どもの頃から大好きな映画だったので、そんな機会に恵まれて本当にうれしかったですし、ディズニーの伝統を継承する一員として、そういったレジェンドたちと同じステージに立てたことは光栄でした。


――皆さんの夢が叶っている瞬間でもありますね。日本ではここ数年でオーディション番組が増えました。皆さんもオーディションを勝ち抜いて、今こうして世界中を回っています。狭き門を勝ち抜いてきた皆さんからオーディションに参加する人たちへのアドバイスはありますか?

モーガン:自分らしさをとにかく大事にすることです。他の人たちのように歌わなくてよくて、個性がオーディションの中でも目立つポイントです。


RJ:しっかり準備をしていくことは当たり前ですね。準備をしておけば、本番のときに自分あるいはパフォーマンスの世界に入り込むことができます。気が散ったり、予期せぬことが起きて動揺したりすることもなく、パフォーマンスに集中することができるので、とにかく準備を事前にすることが大事です。


アントニオ:たくさんありますが、僕が言いたいのは、建物に入ったときからオーディションはもう始まっているということです。順番が来てスイッチをオンする人がいますけど、部屋に入った瞬間から審査員は見ているので、できるだけ自分の存在感を見せるために、何をするにも意識を持っていたほうがいいです。


――審査員から練習不足を指摘されるシーンをよく見ますが、やっぱり準備や練習はやれるだけやったほうがいいですよね。

RJ:そうですね。目立ちたい、人前に出て有名になりたいという人も当然いますけど、音楽的な準備をせずにやってくると、審査員も容赦なく、そういった部分を突いてきます。そこを突くことで番組がさらに面白くなりますしね。自分が何をしたいのか、目的を持って、それに集中することが大事です。


モーガン:実際のオーディションでは、上手くなかったら「今日はどうもありがとうございました」って言われるだけで、何がダメだったのか全然説明してもらえないので、自分を見直して反省することも必要ですよ。いろいろなところにアンテナを張って、ダメだった部分も把握しないといけないですね。


ジョー:あとは、とにかく根気強くやり続けること。1回目で受かるなんてそうそうないし、落ちたからといって落ち込むのではなく、次に向かってどんどんチャレンジしていくことが大事です。


――興味深いお話ありがとうございます。最後に、今回のツアーの見どころを教えてください。

ケイレン:日本のために特別に構成したコンサートになっていて、皆さんが好きな曲も、まだ世界でどこでも披露していない曲もやります。私たちから日本の皆さんに贈るラブレターのようなコンサートになっています。照明やダンス、映像はもちろん、前回の延長となるような演出、皆さんに喜んでもらえるような新しい演出もあるので、楽しみにしていてください。





ディカペラ「マジック・リイマジンド」

マジック・リイマジンド

2022/07/22 RELEASE
UWCD-1110 ¥ 3,000(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.酒場のバンド 〔スター・ウォーズ/新たなる希望〕
  2. 02.スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス 〔メリー・ポピンズ〕
  3. 03.Nobody Like U 〔私ときどきレッサーパンダ〕
  4. 04.増していくプレッシャー 〔ミラベルと魔法だらけの家〕
  5. 05.ディス・イズ・ミー 〔キャンプ・ロック〕
  6. 06.ビビディ・バビディ・ブー(マジック・ソング) 〔シンデレラ〕
  7. 07.ハイ・ホー 〔白雪姫〕
  8. 08.ストレッチ・ブレイク 〔ディズニージュニア・ミュージック:ミッキーマウス ファンハウス〕
  9. 09.リフレクション 〔ムーラン〕
  10. 10.Starting Now マッシュアップ
  11. 11.とびら開けて 〔アナと雪の女王〕
  12. 12.美女と野獣 〔美女と野獣〕
  13. 13.レット・イット・ゴー/雪だるまつくろう 〔アナと雪の女王〕
  14. 14.パート・オブ・ユア・ワールド/ホール・ニュー・ワールド 〔リトル・マーメイド/アラジン〕
  15. 15.イントゥ・ジ・アンノウン 〔アナと雪の女王2〕
  16. 16.How Far I’ll Go 〔モアナと伝説の海〕
  17. 17.輝く未来 〔塔の上のラプンツェル〕
  18. 18.俺のおかげさ 〔モアナと伝説の海〕
  19. 19.インモータルズ 〔ベイマックス〕
  20. 20.アリ王子のお通り 〔アラジン〕
  21. 21.エプコット・メドレー
  22. 22.ディズニー・ブロードウェイ・イズ・バック・メドレー
  23. 23.ディセンダント・メドレー
  24. 24.ミッキー・フレンドシップ・マッシュアップ
  25. 25.キス・ザ・ガール 〔リトル・マーメイド〕
  26. 26.夢まであとすこし 〔プリンセスと魔法のキス〕

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