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<インタビュー>馬渡松子がアニメ『幽☆遊☆白書』主題歌「微笑みの爆弾」を歌い納め、如月-kisa-として次のステージへ

インタビューバナー

 『幽☆遊☆白書』のオープニング・エンディング曲で広く知られている馬渡松子。代表曲「微笑みの爆弾」はリリースから30年が経つ今でも日本だけでなく、全世界で愛され続けるアニソンだ。『幽☆遊☆白書』の作者・冨樫義博のTwitter開設をはじめ、展覧会の開催など、再びのブームの兆しが見える中、今回、馬渡松子にインタビュー。「微笑みの爆弾」の作曲秘話やラブコールがやまない海外での反響、さらには如月-kisa-として再スタートを切ることになったきっかけの出来事、新作『Love Legal』について聞いた。(Interview & Text: 渡辺彰浩 / Photo: Yuma Totsuka)

30年間愛され続けてきた「微笑みの爆弾」

――今年5月に放送された『マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)で「微笑みの爆弾」が話題になったことは知っていますか?

馬渡松子:そうなんですか!?


――ちょうど『幽☆遊☆白書』の作者である冨樫義博先生がTwitterを開設したばかりの頃で、番組でもタイミングよくリスナーから「微笑みの爆弾」に関するメールが寄せられていたんです。『幽☆遊☆白書』の大ファンであるマヂラブの2人は「当時は意味が分からなかったけど、今聞くといいことを言ってたりする」と1番Aメロの〈都会の人ごみ 肩がぶつかって ひとりぼっち 果てない草原 風がビュビュンとひとりぼっち どっちだろう 泣きたくなる場所は 2つマルをつけて ちょっぴりオトナさ〉の歌詞の深さを絶賛していたんですよね。

馬渡:私も歌い始めた当初はそこまで歌詞を理解していたわけではありませんでした。田舎で人のあまりいない中でも寂しいだろうし、都会で人がいっぱいでも、人間関係が希薄なので、そこでの風を感じても悲しいだろうし。でも、どんどん大人になるにつれて、対極する言葉や状況が互いを肯定するということを考えるようになったんです。作詞をしたリーシャウロンがそこまで意図していたかは定かではないんですけど、私はこれが平和への架け橋、そういったメッセージだと今は解釈しています。


――デビューの同年にリリースされた「微笑みの爆弾」から今年で30年が経ちますが、馬渡さんにとって「微笑みの爆弾」はどのような楽曲ですか?

馬渡:私を知っていただくきっかけになった曲であり、音楽を続けさせてくれている曲、全世界の人に歌っていただいている、聴いていただいている大切な曲ですね。また次の世代に繋がっていく曲でもあります。


――リリースされた1992年当時の熱狂を教えてください。

馬渡:『幽☆遊☆白書』を観ていても、最初は「私の曲だ」ぐらいにしか思っていませんでした。元々がアンダーグラウンドな人間だったので、タイアップが付いたことにそこまで喜ぶこともなく、「流れてますね」ってくらいで。そこからどんどん視聴率が上がっていくんですよ。そこで初めて私じゃない感じが湧いてきました。最初にフジテレビから主題歌のオファーをもらった時は、とても躊躇しました。その当時のアニメには、アニソンシンガーの方がいらっしゃったんですよ。堀江美都子さん、水木一郎さんといった方々が歌っていらっしゃって、私にできるのだろうかと思ったんです。その時にいろいろなアニメソングを聴いたんですけど、正義のメッセージがすごく強い。だから子供たちの中でアニメソングって大事なんだと思いながら、正義を貫くために、私がどうしていくべきかを考えました。もともとプログレパンクのようなアバンギャルドな音楽をやっていたので、なかなか正義には結びつかないと感じていたんですけど、マニアックな世界の自分を捨てちゃだめだとも思ったんです。なので、クライアントの意見を50、自分のやりたいことを50入れて「微笑みの爆弾」は完成しました。


――そのクライアントの意見と自分のやりたかったことを詳しく教えてもらえますか?

馬渡:A、B、C(サビ)メロとあって、Aでは自分のやりたいことをやりたい、Bではその架け橋を担い、Cではみんなに歌ってもらいたいという思いがありました。私には悲しい過去があったりもしていて、〈メチャメチャひとりぼっちの人にあげる〉という歌詞に一人でも勇気を持って聴いてほしいという思いを乗せていたり、楽曲のコード自体は切ないんですよね。あとは従来のアニメソングだったらキーは〈ホ・ホ・エ・ミ・ノ・バ・ク~~・ダ(→)ン(↓)!〉になるんですけど、ここが私にはできなかったところなんです。今の〈ホ・ホ・エ・ミ・ノ・バ・ク~~・ダン(↑)!〉にしたのは、アニソンではなくひとつのポップスというくくりで考えてもらいたかったというのがありました。

 「微笑みの爆弾」はリーシャウロンと徹夜をして書いた曲です。妥協はしたくないという思いもあり、最後の〈ダン!〉で実際に爆弾の音を入れたところで、クライアントからは「そちらの方が耳に残っていいですね」とリアクションをもらったんです。でもその前の〈するんだろうね(↑)〉だけはクライアントから全部上げてくださいと修正が入りました。本当は〈するんだろうね(→)〉で最後だけが上がるはずだったんです。クライアント的にはキャッチーにしたいということで。最終的にはプロデューサーからも、「よくやった!」と言われて嬉しかったですね。


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  1. 「如月-kisa-の名義で再出発」
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如月-kisa-の名義で再出発

――馬渡さんは7月9日よりブラジルで開催される【Anime Friends】で「微笑みの爆弾」を歌い納めするとのことですね。【Anime Friends】には2015年にも出演されていますが、現地の盛り上がりはいかがでしたか?

馬渡:【Anime Friends】は10万人規模のアニメイベントで、会場にアトラクションがあったりコスプレしてる人がいたりして、そこにステージがあるんです。以前出た時は「MATSUKO」コールがすごかったんですよ。日本では聞いたことのないような。そこで私は拙い英語でしたけど思いを伝えたんです。私は病気になって声は出ないけれど、みんなに思いを伝えていきたい、一緒に歌いたいということを話したら、「おー!」って応えてくれたんです。ポルトガル語で「微笑みの爆弾」をみんなが歌うんです。すごいですよ。全然上手く歌えないと落ち込んでいる私に当時のマネージャーは、「思いを届けるってことは生きていくパワー。どれだけつらくてもそこをみんなに見せていくんじゃないの?」って励ましてくれたのを覚えています。帰りの空港でも現地の人が何人か待っていてくださったりして、「悩み事があったけど、あなたのパワーで俺は生きていくことができる」とメッセージをくれました。ブラジルでは今も盛り上がってくれていてラブコールがすごいんですよ。


――Netflixなどで『幽☆遊☆白書』のアニメが観られたり、Spotifyで馬渡さんの楽曲を聴くことができるストリーミングサービスの環境がその盛り上がりを継続させている要素でもあります。

馬渡:今回のブラジルのテーマは「No Spotify」なんです。要するに生で聴こうということ。とはいえ、時代は便利になって、アラブ共和国とかバングラデシュ、ドミニカ共和国というような世界各国の人に聴いてもらえているのはありがたいなと思いますね。


――この取材はブラジルに向かう前のタイミングですが、今の心境はいかがですか?

馬渡:まず何を伝えたいのか。練習したものを発表しにいくのではなく、今の馬渡松子を伝えに行く。そして、みんなで歌っていくということ。行くっていうことが大事なことだと思うんですよね。36時間かけて。ブラジルには一人で行くので、とにかく辿り着きたいと思っています。


――応援しています。「微笑みの爆弾」を歌い納めするということは、如月-kisa-として本格的なスタートを切るということでもありますよね。まずは如月-kisa-の名義で再出発を切ろうと思った理由を教えてください。

馬渡:2017年に自分でまたレーベルをやりたいと思い勉強をし始めたんですけど、その時にある恋愛をしたんです。今まで“女の歌”は歌いたくなかったんですよ。こっぱずかしいし、愛の歌ってありふれている、そう思っていたんです。またインディーズから頑張るために毎日法律と経営の勉強をしているうちに、お金が110円しかないくらいに底を尽きてしまいました。そんな死ぬか生きるかの状況でも、好きな人が涙を流してくれるような曲を作りたいと思って、1日1曲作っていったんですよね。私はその人が好き過ぎて精神病院に入院するんです。何もかも没収をされて、あるのは薬紙と貸し出しの鉛筆のみ。絵とポエムを書き始めた、それが2月だったんです。寒くてつらい思いをしている人たちに温かな気持ちになってもらいたいと思って、如月-kisa-として再出発しようと思ったんです。だから恋心から、ですかね。


――この『Love Legal』には「Only I need you」「Mistake同士」といった多種多様な恋愛ソングが収録されていますが、特に「駆け引きのゴールへ」は“強い女”が歌われていますよね。

馬渡:「駆け引きのゴールへ」は強気ですね。男と女が駆け引きをする世界観が私の中では都会のネオン街のようなイメージなんですけど、好きだった人が実際に駆け引きをしてくるような男の人だったんですよね。悲しい気持ちも客観的に自分の作品に落とし込んだ、そういった今までになかった曲です。


――『Love Legal』を聴いていて全体的にジャズの雰囲気が通底しているなと感じました。

馬渡:私が張る歌い方ではなく、そのままのナチュラルな声で歌っているのもあって、これもジャズ的要素だと思います。一番大きいのは、コード展開とかボイシングがジャズっぽいのは大きいかなと思いますね。「Learning Bridge」なんかは、一番最初のAメロは、ブリティッシュパンク……まではいかないですけど、パンクなんですよ。精神的なパンクの世界からAORを経てファンクになる。音楽のジャンルはそれぞれのメロディーで別々なんですけどそうは聞こえない、音楽の架け橋になっている。まさに「Learning Bridge」なんですよね。


――馬渡さんは「一般財団法Keep right」を立ち上げ、代表理事を務めていらっしゃいます。馬渡さんは事業の一環として「音楽療法としての講師」という顔もお持ちなんですね。

馬渡:初めて取った資格がメンタル心理ミュージックアドバイザーだったんです。みんなの心のケアになる音楽があってもいい。人間の作ったルールの中で気持ちいいと思えるもの、それがポップスなんですよね。


――平和貢献としての「Smile Bomb」の商標を取得したということですね。

馬渡:「微笑みの爆弾」の英語名なんですけど、ブラジルでも「Smile Bomb」と書かれたTシャツで歌うつもりです。みんなに“クリーンなスマイル”、つまりはみんなに笑顔でいてほしい。それだけのためです。泣いた後でも笑えるんですよね。


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如月-kisa-「Love Legal」

Love Legal

2022/07/27 RELEASE
KPRT-2 ¥ 2,500(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Learning Bridge
  2. 02.Chain the world people
  3. 03.Mistake同士
  4. 04.Rainy Trouble
  5. 05.Only I need you
  6. 06.Invitation
  7. 07.駆け引きのゴールへ
  8. 08.Dreaming Star~希望の星~ (album Ver.)
  9. 09.Separate
  10. 10.Love Legal

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