Special
たむらぱん 『フォーカス』インタビュー
今年の初夏、たむらぱんのさだまさし『関白宣言』カバーに全国各地のオーディエンスが号泣するという事件(?)が勃発した。外部の要素を思いっきり自分の作品やライブに持ち込めちゃうのは、何をやってもたむらぱんになる自信の表れだと思うのだが、それを更に裏付けるようなビッグニュースが到着した。UKの有名ハードコアパンクバンド SNUFF(スナッフ)と新曲『フォーカス』をレコーディング。これだけでも驚きだが、今後のたむらぱんは強烈なアクションを次々と繰り広げる噂を聞きつけ、急遽インタビューを敢行することにした。
さだまさし『関白宣言』カバーに泣き出す人勃発!
--“さだまさし『関白宣言』のカバーに泣き出す人続出!”の件なのですが、あれは想定外の事態だったんじゃないですか。
たむらぱん:そうですね。自分が作った“平成の関白宣言”『フレフレ』との連動性というか、昭和と平成では表現は違うけど想いは変わらない。そういうところをライブで繋げて歌うことで感じてもらえればいいなと思っていたんですけど、想像以上に『関白宣言』の力がすごくて。まずメンバーへ渡す為に『関白宣言』カバーのデモを作って、歌っていたときですらちょっとグッと来たりしていたので、自分の歌で(笑)。それで実際に人前で歌ったらすごく泣いちゃう人がいて、逆に『関白宣言』にすべてを持っていかれてしまう焦りが生まれたというか(笑)。でもそういう焦りも面白いと思って。想定外だったけど、その想定外がすごく良かったと思っています。
--近頃のたむらぱんは“自分の感覚じゃないところに触れて自分の感覚を再確認したい欲求”に溢れていますが、現在はその欲求の赴くままに日々創作活動をしていると伺っています。例のコラボについては後ほど詳しく聞かせて頂くとして、そもそもそうした欲求が芽生えた理由を教えてください。
たむらぱん:自分に絶望する部分が増えてきたんです。なんか、小さい自分というか、小さい世界の自分みたいなもの、疎外感を強烈に感じてしまって。それはもしかしたら“友達がいない”というだけの話かも知れないんですけど(笑)。すごく盛んにミュージシャンと交流するタイプじゃないので。でも自分の世界だけにいるのがちょっと怖くなったというか。それで「いろんなことやってみたい」「どんな考えがあるのか知りたい」というのと同時に「自分はこのスタンスで大丈夫って再確認したい」という想いも生まれて。だから、やたらと好奇心側だけじゃないんですよね。
--いつ頃から怖くなったんですか?
たむらぱん:メジャーデビューしてからですかね。曲の聴かれ方がインディーズ時代とは全然変わったような気もしたし、良い曲とか悪い曲とかの基準がよく分からないなと思って。自分なりの基準はあるけど“自分なり”っていうところだけじゃダメな世界だなとちゃんと分かったから。でもそれを楽しみたいと思ったから、辞めたいとも思わなかった。これをきっかけにもうちょっと自分が広がればいいなって感じ始めましたね。でもいきなりドン!と全く知らない人と物作りは出来ないと思ってて。だんだんちゃんとした繋がりも増えてきた今このタイミングだから、いろいろとコラボも実現できたんだと思います。
--結果、様々なアーティストやミュージシャンとコラボレートすることで、どんなたむらぱんが生まれているんですか?
たむらぱん:例えば、知識が増えたとか、いろんな方法を知ったとか、新しいレコーディングの仕方を知ったとか、そういうシステム的な部分では多くを得られたんですけど、基本的には“いつもと何も変わっていない”感じがしています(笑)。それで自分が180度変わったというよりは360度回った感じ。
--グルっと見てきて「たむらぱんはやっぱりこうだ」と再確認する作業になったんですかね?
たむらぱん:そうですね。
--それによって絶望や怖さは消えたの?
たむらぱん:消えたと思います。だから「やらなくてもよかったかも?」とは全然思わないんですね。やらなきゃ360度回れなかったし「やっぱりこうだ」と思えなかったし。
--例えば、今は違いますけど、昔の中島美嘉さんは「自分の世界観を勝手に曲げられるのがすごく嫌だったり、変な雑念をもらいたくなかったから」コラボレーションを苦手としていたんですよ。たむらぱんの場合、そっちの怖さはなかったんですか?
たむらぱん:私は逆側だったのかもしれない。交わった方が絶対良いんだろうなと思っていたけど、出来なかった。でも実際に交わってみたらラクになったというか。それは良かったなって。
Interviewer:平賀哲雄
UKの有名ハードコアパンクバンド SNUFFとコラボ!
--その要因のひとつになったであろうコラボについて触れさせて下さい。UKの有名ハードコアパンクバンド SNUFFと新曲『フォーカス』をレコーディング。この情報だけ目にした人は「一体何を考えているんだろう」ってなると思うんですけど。
たむらぱん:ですよね(笑)。
--この共演が実現した経緯を教えてください。
たむらぱん:私がデビューした年にダンカン・レッドモンズ(vo,dr)とは会っていて、そのときに『ブタベスト』(2008年リリースのメジャー1stアルバム)を渡したんです。渋谷でライブをやっているのを偶然観て、すごく感動して、とにかく楽しくて。それまでハードコアパンクをよく聴いていた訳ではないんですけど、とにかくSNUFFはポップで、それにすごく感激したんですね。ハードコアパンクでもちゃんとポップさを持っていて。それでお近付きになりたくて紹介してもらって、CDを渡したんです。そしたら後日、MySpaceでメールをダンカンが送ってくれたんですけど、全然気付かなくて。
--英語だったから?
たむらぱん:それもあるんですけど“SNUFF”って書いてなかったから「誰だろう?」っていう感じだったんですよ。
--スパムメール的な?
たむらぱん:そんな感じ(笑)。なので、全然ノータッチで。そしたらダンカンが日本の知り合いに「メールを送っているんだけど、返事が来ない」って言っていることを知って、そこから「いつかライブやりたいね」「一緒にカバーやったりしたいね」みたいな話をするようになって。まず2010年の3月に来日したダンカンとジョイ(LAGWAGON)と堀江博久さん(the HIATUS)と私で、企画的にバンドを作って下北沢440でライブをやったんですよ。そのときはダンカンの曲とか英語の曲をやったり、たむらの曲も1曲やってもらったりして。そういう感じのやり取りがここ2、3年ずっと続いていたんです。で、今回、私が新しい音作りをやっていく上で、改めてダンカンに「一緒に演奏してほしい」とお願いした感じですね。
--ロンドンでのレコーディングについても詳しく聞かせてもらえますか?
たむらぱん:いつものやり方とそんなに変わらなかったんですけど、自分が作ったデモの各パートを各メンバーに送って聴いておいてもらって。で、ロンドンでのレコーディングの2日前ぐらいからスタジオへみんなで入って、何回もリハーサルをして。最後にレコーディングスタジオで録る流れだったんですけど、身振り手振りでどう演奏してほしいか察してくれたので、そんなに困るようなこともなく。お互い通じているのかよく分からない英語と日本語でコミュニケーションを交わしながらも(笑)。みんな、すごく親切でしたよ。ただ「(演奏が)すごくややこしい。覚えられない」って言われました。
--(笑)。今話してくれた経緯を知ると「なるほど」となるんですけど、今日までたむらぱんに全くハードコアパンクのイメージはありませんでしたから、イントロのギターを聴いたときは「いやいやいや!」って笑ってしまいました。
たむらぱん:(笑)。あのイントロはSNUFFとやることをイメージして。まぁでも私も人生で「オイ!」なんて叫んだことはなかったですし、あれだけ速いビートで歌ったこともないですし、新鮮でしたよ。ただ、SNUFFは日本が好きなので、日本の雰囲気も感じられるような曲にしたいなと思って、フレーズの雰囲気を「外人が弾いているのか?日本人が弾いているのか?」みたいな感じにしたり、歌詞も“東京”をイメージして作ったりしましたね。
--その結果として『フォーカス』が、SNUFFがSNUFFとして思いっきり演奏している『フォーカス』が、途中「オイ!」とか一緒に叫んじゃっている『フォーカス』が、たむらぱん然としたナンバーになっていることに驚きました。こうなる確信はあったの?
たむらぱん:全然大丈夫だと思っていました。とにかくノリは凄い人たちだから、そういうところの心配はないと思っていたし。心配な要素として「もうオジサンだから何テイクも絶対に出来ないだろうな」とか、体力的な……。
--失礼(笑)!
たむらぱん:でもそれぐらいでした(笑)。イメージとしては絶対に良いものが出来ると思っていたので。周りは心配していたんですけど。
--結果、めちゃくちゃキャッチーになっていますからね。
たむらぱん:いくら違うジャンルの人とコラボすると言っても、やっぱり聴きにくいものは嫌だし、歌モノとして確立させたかったし、そういう意味でもすごくまとまったんじゃないかなと思っていて。それはSNUFFも日本の言葉を大事にしているし、そのスタンスがすごく反映されたおかげでもあるのかなって。
Interviewer:平賀哲雄
リスナーが新たな可能性に気付ける驚愕アルバム!
--SNUFFの来日ツアー最終公演、ハイスタの難波章浩 -AKIHIRO NAMBA-さんと彼らのツーマンライブにスペシャルゲスト出演したそうですが、いかがでした?
たむらぱん:元ロリータ18号のエナポゥさんもゲスト出演していて、私がどうなるか分かんなくて「大丈夫ですかね?」って不安になっていたら「出ちゃえば、大丈夫」って言ってくれていたんですけど、SNUFFのファンからしたら「なんでたむらぱんがいるの?」みたいな。というか「そもそも誰?」って言う人もいっぱいいただろうし、ほとんど触れたことのない人たちだったと思うんですよ。でも自分自身は楽しめましたし、お客さんも『フォーカス』が日本語の曲だったので、英語の曲がずっと続く中でのフックとして楽しそうに聴いてもらえていた印象はあって。改めてパンクの世界のお客さんって「優しいな」って思いました。
--実は優しいよね。
たむらぱん:ライブでの一体感とかも温かいし、それをステージの上で感じさせてもらえて嬉しかったです。
--じゃあ、来年の夏はSNUFFとフェス出まくりですか?
たむらぱん:ねっ!また一緒にライブが出来たらいいなと思います。
--たむらさんがダイブしたら絶対にニュースにしますよ。「たむらぱん、感極まって全力ダイブ!」って。
たむらぱん:「たむらぱん、人生初ダイブ!」(笑)。
--今後も素晴らしいコラボ楽曲を発表していくみたいですが、リスナーにはどんな風に楽しんでもらえたらいいなと期待していますか?
たむらぱん:音楽はもちろん、音楽以外のこと、絵や文章を書くことも含めて「新しいひとつのジャンルを作れればいいな」とずっと思っていて。そういう想いがちょっとずつ形になっているなとは思うんですけど、ここまで活動してきた中で「自分だけが楽しいっていうことはあんまりいらない」と思うようになって。新しいチャレンジをするにしても、それを聴いたりする人が“やっちゃっていることを楽しむ”ものでありたい。「変わっちゃったんだ」じゃなく「こういうこともやっちゃうんだ」って、たむらぱんを楽しんでもらえたらいいなって思うんですよね。それで「世の中って結構なんでも出来ちゃうんだな」って(笑)良い意味での緩さだったり可能性だったりを期待できるようになってもらえたらいいなって。
--さっきの夏フェスの例え話じゃないですけど、そうしたコラボレーションによって状況を変えたいところもありますか? 今までだったら会えなかった場所や人へ会える状況を作っていきたいというか。
たむらぱん:それはありますね。決まり事が無くなるのは普通と感じられるような自分になっていければいいなって思います。
--今日話してくれた要素は、この先に発表を控えているであろうアルバムにもたっぷり反映されると思うんですが、どんな作品になりそうか。話せる範囲で聞かせてもらえますか?
たむらぱん:全体を通してもちょっとよく分かんないようなアルバム。
--誤解を招くので、もう少し具体的に(笑)。
たむらぱん:好奇心や探求心が芽生えても、その一方で新しいことをやる際にいつも付きまとう不安、迷いってあるじゃないですか。そういう部分を「こうやっていろいろやっちゃった……みたいな」って濁すことで取り除くような(笑)。聴いてくれた人が、何かに挑む際にそういうスタンスであれば自分のやれることが増えるんじゃないかなと感じ取れるようなもの。新たな可能性に気付いてしまえるような要素が入っているアルバムになると思います。そのすべての曲をポップに仕上げる。どんなジャンルと混ざってもひとつ芯が通っているものになるとおもいますね。「やる気だな、こいつ」みたいな。
--そう思わせるぐらいの。
たむらぱん:そうそう。と言いつつ……みたいなって濁すような(笑)。
--自信には溢れつつも、言い切らないのはたむらぱんっぽい(笑)。では、そのアルバムが完成した際にまたインタビューさせてください。
たむらぱん:はい!
Interviewer:平賀哲雄
関連商品