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<インタビュー>Billboard International Power Players vol.3 島田 和大

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 米Billboard誌が、アメリカ以外の国で音楽ビジネスの成功を牽引しているリーダーを称える【Billboard International Power Players】。各国から音楽業界を牽引するリーダーが選ばれた中、日本からアマゾンジャパン デジタル音楽事業本部の島田和大ゼネラルマネージャーらが選ばれた。今回、本選出を記念し島田氏へインタビュー。デジタル化が急速に進む日本の音楽シーンの未来、そしてヒットチャートについて話を聞いた。 (Interview:礒崎 誠二/高嶋 直子 l Text:高嶋 直子 l Photo:辰巳隆二)

“More Music”と、“More Than Music”の充実

――御社は空間オーディオを通じて、Unlimited会員に対してより豊かな音楽体験を実現されたことが評価されて、【Billboard International Power Players】に選ばれました。

島田和大:現在、映像のクオリティはどんどん進化していますが、音楽にとっても、ハイクオリティ・サウンドは新しいシーンを作る1つの要因であると考えています。我々は、もともとAmazon Music HDというブランドでハイクオリティ・サウンドを先駆けて展開してきました。そして、昨年は月額980円のAmazon Music Unlimitedと、月額1980円のAmazon Music HDの2つの会員を統合し、より多くの方にハイクオリティ・サウンドを届けることを実現させました。そういう意味で、非常に画期的な一年だったと思っています。


――ユーザーからの反応はいかがでしょうか。

島田:まだ始まったばかりなので、ハイクオリティ・サウンドの領域が、どれくらいお客様に受け入れられるかという点については、マーケットの成長を見ていきたいと思っています。ですが、現状の価格帯のままで、よりハイクオリティなサウンドを届けるということに、我々としては舵を切ったので、当面はオーディオの充実を目指して進んでいきたいと思っています。そしてラインナップの充実にはレーベルやアーティストの皆様の協力が欠かせませんので、協力体制をしっかり築いていきたいと思っています。


――2020年の音楽ストリーミング売上は589億円と前年比127%、2021年は744億円で前年比126%と、2年連続で大きな成長を続けています。

島田:おっしゃる通り、コロナ禍でデジタルサービスは顕著に伸びた2年間でした。ですが日本のマーケットを見ると、欧米と比較してペネトレーション(浸透率)は、まだ約半分ほどです。ですので伸びる余地はまだまだあると考えていますし、過去2年間の勢いは維持できると考えています。その指標をベースに、成長戦略を描いていくというのが、今我々が取り組んでいることです。

 一方、お客様の獲得競争というのは、「いかに余暇の時間を自社サービスに使っていただけるか」という点にあります。つまり、音楽を聴いているか、ビデオを見ているか、デジタルブックスを読んでいるか…。そういう“限られた時間の取り合い”という点での競争環境は、今後より増していくと思います。どうすればアマゾンミュージックを選んでいただけるのかは、UIやUX、コンテンツの充実、ハイクオリティ・サウンドなど、お客様が求めているものを、しっかり提供していくということだと思いますので、他サービスとの差別化を進めていきたいと思っています。


――下半期、どういったところを強化されていく予定ですか。

島田:私が入社した時からの戦略を引き続き推進していきますが、“More Music”と、“More Than Music”の充実です。More Musicというのは、音楽ストリーミングだけではなく、空間オーディオやライブ配信など、音楽という領域の中で、より幅広いコンテンツをお届けすることです。これまでにも、あいみょんさんにご協力いただいてライブ配信を行ったりしてきましたが、姉妹サービスのTwitchとAmazon Musicでも、2020年よりライブストリーミングを行っています。

 More Than Musicは映像とポッドキャストです。映像は、オリジナル作品はアマゾンオリジナルズというブランドで展開していますが、アマゾンミュージックによるオリジナル作品として、ショートフィルムやアーティストによるトークセッションを配信したり、さらにそれらを見たあとで、またそのアーティストの音楽を聴いてもらうといったように、一面的な音楽の聴き方ではなく、多面的にタッチポイントを作っていくことを考えています。

 ポッドキャストについては 現在、海外のポッドキャスト市場は、かなり成長しており、人気のポッドキャスターを独占で起用するなど、広告による収益も増大しています。日本のポッドキャスト市場は、まだ始まったばかりですが、今後我々がコンテンツ投資を促進することで成長をドライブしていきたいと思っています。


――映像に関しては、日米ともにYouTubeやTikTokから数多くのヒットが生まれています。

島田:そうですね。ですので、2020年からアマゾンミュージックではミュージックビデオを見られる機能を追加しました。音楽というのは、聴くだけではなく、ダンスも含めてビジュアルも重要になってきています。当社としても、映像の部分をどう強化していくかは現在の課題の一つです。


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恣意的に操作されていないチャートが存在することで
業界のクレディビリティーが高まる


Photo:辰巳隆二

――YouTubeやTikTokは、UGCによってユーザーが参加する余地を作ったことでヒットを数多く生み出しています。御社は、UGCについてはどのようにお考えですか。

島田:現在、我々が提供しているのはオフィシャルコンテンツのみですので、UGCやソーシャル機能の強化についてはこれからの課題です。YouTubeさんは、UGCを含めて様々な形でのコンテンツが揃っていることが一番の強みなので、それを踏まえて我々がどのようにコンテンツの差別化を図っていくかが重要なポイントになります。


――島田さんは、前職がユニバーサルミュージックですので、アーティストやファンの皆さんがどういったことを必要とされているのかを考えることができるというのが、強みなのかもしれませんね。なぜ、転職しようと思われたのでしょうか。

島田:私の強みを自分で話すのも変なので、ロンドンにいる私のボスに聞いてもらいたいですが(笑)、日本の音楽業界におけるアマゾンミュージックの信頼度とプレゼンスを高め、アーティストやレーベル各社さんとパートナーシップを作っていく上で、私のバックグラウンドが活きると思ってもらえたのだと思っています。

 私はユニバーサル時代に、ストリーミング型のデジタル音楽市場を形成し、新しい音楽の聴き方を提案するということに取り組んでいました。ユニバーサルには約10年在職しましたが、その間に日本にもグローバルDSP(デジタルサービスプロバイダー)が進出し、LINE MUSICさんや、AWAさんも立ち上がりました。アマゾンミュージックにおいても、ストリーミング市場の更なる成長に取り組むことを自分自身の継続したチャレンジとして、アーティストやレーベル各社様と強力なパートナーシップ築いて、よりポジティブなインパクトを作りたいと考えています。


――ユニバーサルミュージックもアマゾンも、いずれもグローバル企業ですが、社風に違いはありますか。

島田:違いというより、共通点がたくさんありますね。やはり、常に世界を見ているということ。それは、私自身の志向性にも合っていると思っています。例えば、K-POPの成功事例を日本のアーティストにどう当てはめるのかというのは、今の日本の音楽業界にとって課題の一つだと思いますが、それはアマゾンやユニバーサルのようなグローバルで展開する企業でないと、実現できないことなのかなと思っています。また日本では洋楽のシェアが90年代、2000年代と比べて低い状態が続いていますが、今年はレディー・ガガやビリー・アイリッシュなど、大物洋楽アーティストが来日します。日本の洋楽市場を活性化させることに対しても、我々のグローバル性というのは強みになってくると思っています。


――ビルボードのインタビューですので、チャートについてもお伺いできればと思います。ヒットチャートは世の中に必要だと思われますか。

島田:はい、絶対に必要なものだと思っています。客観性があって、恣意的に操作されたデータではないことを前提としたチャートが存在することで、音楽業界全体のクレディビリティー(信用性)や音楽ファンとの親和性が高まると思っています。当社も常にデータを重視してビジネスを展開していますが、クレディビリティーが高いデータを御社のような第三者が提供してくださるというのは非常に重要です。

 一部のステークホルダーに忖度してチャートを作っても、消費者に対して客観的なデータにはなりません。ビルボードさんのような信用力のあるブランドから正しいチャート情報が提供されることで、音楽市場の活性化につながると思っています。音楽を聴いてくれるファンのことを考えるのであれば、そこはしっかりやっていかないといけないですし、チャート情報を伝えるメディアに対しても正確なデータを提供することが重要だと思っています。


――先日、ビルボードでは上半期チャートを発表しましたが、今年の上半期 当社で最も議題に上がったのが、ストリーミングサービスにおける再生回数キャンペーンについてでした。キャンペーンに関して、どのように考えておられますか。

島田:何かをきっかけに、ファンの方たちがアーティストに会える機会を作るというのは、アーティストとファンを繋ぐ1つの方法だと思います。ですが我々の取り組みとしてやるには、恣意的に再生回数をドライブする考え方にならないように、やり方を考えないといけないと思います。

 キャンペーンに限らず、不正再生をいかに排除するのは、我々にとっての課題の一つです。それこそ、我々のようなサービスからの分配金を不正に得て、それがマネーロンダリングに使われることもあります。健全な再生回数のみを反映させて、きちんとアーティストに分配するというエコシステムを作るということは、当社や他のDSP各社が力を発揮していかないといけない点だと思っています。


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日本における「所有文化」が海外から見直され始めている


Photo:辰巳隆二

――御社のミッションは「アーティストとファンを繋ぐ架け橋となる」です。それを実現されているのが、これまでにお伺いした様々なタッチポイントを作ることや、今取材させていただいているAmazon Music Studioという場所を提供することなのでしょうか。

島田:おっしゃる通りです。まだ、コロナが完全に終息したわけではないのでドライブしていくのは、これからになりますが、Amazon Music Studio Tokyoという物理的な場所を我々が提供することで、コンテンツクリエイションや情報発信の拠点とし、複数の世代にわたるカルチャー作りに長期的に携わっていきたいと思っています。


――実際に利用されたアーティストの反応はいかがでしたか。

島田:皆さんから「素晴らしいですね」という反応をいただいています。アマゾン色を、あまり出していないことも、自由に発想していただくうえで喜んでいただけている一つのポイントですね。4Fは社内でもペントハウスと呼んでいるのですが、ちょっとお茶を飲みながら、気が向いたら演奏して…というように、アーティストの皆様にとって快適な空間を作るというのが、この場所のテーマの一つです。アマゾンミュージックのブランディングをドライブしていくというより、人が集まりやすい空間を作るという目的で設計したので、最初の3か月間で色々なアーティストの方に見ていただけて、ポジティブなフィードバックをいただけたのは良かったです。


――見えてきた課題はありますか。

島田:このスタジオの機能を活かして、どの規模のコンテンツをアウトプットしていけるのかが次の課題です。また、コロナの収束を見据えて、アーティスト、レーベルパートナー、ファンの皆さんに実際にどのように使ってもらうかも具体案を検討しています。我々はこの場所を有料でお貸しするといった不動産業的な収益を得る予定はありません。アーティスト同士や、パートナーさんとエンゲージして新しいコンテンツを生み出す場にするという、「アーティストやクリエーターが集まるサロン」的な位置づけで運営していきたいと考えています。


――このスタジオで、どんな作品が生まれていくのか、これから楽しみですね。冒頭で、日本においてストリーミングの浸透率は欧米の半分であるというお話がありました。今後、日本にもストリーミングを浸透させていくための課題はなんでしょうか。

島田:新しいサービスが浸透する際の、海外とのスピード感の違いにも要因があるのかなと思っています。かつてのガラケーからスマートフォンへの移行と同じように新しいテクノロジーに対してアダプトしていくスピード感というのは、日本特有のものがあると思っています。ただ、市場の形成とともに一度加速した流れは止まらないので、日本の音楽市場のデジタル化はこれからも間違いなく進んでいくと思います。具体的にいつになるかは正直分かりませんが、いつか必ず欧米に追い付くポイントがくるでしょう。

 一方で、日本における「所有文化」は非常に強いものがあって、これは逆に海外で見直されています。彼らは、マーチャンダイジングと呼んでいますが、物理的な商品(=CD)にいかに付加価値を提供していくか。ライナーノーツ、DVDやグッズ、チケットなど消費者にとってわかりやすい付加価値をつけるやり方で、日本独特の発展を実現しました。オーナー(=所有する人たち)のニーズに対してしっかり応えていったという、良いケーススタディだと思っています。

 今、NFTなどデジタルアセットを所有するという考え方もでてきていますが、物理的なものを所有する欲求というのは、これからも継続すると思っています。現在、ストリーミングを軸とするデジタルの売り上げが伸び、フィジカルが下がっていますが、なくなることはなく、どこかの均衡点で落ち着くと思っています。アマゾンは、デジタルだけでなくリテールもやっていることが強みです。フィジカルも大切にし、消費者の皆様に両方の価値を届けていくことで、音楽ビジネスを盛り上げていきたいと思っています。


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