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たむらぱん 『しんぱい』インタビュー
自分に「今、出来ること」が何なのかよく分からない。ニューシングル『しんぱい』が最初は嫌で嫌で仕方なかった。hotexpressとしてはちょうど10回目となる今回のたむらぱんへのインタビューでは、今までになくネガティブな言葉が目立った。その反面、震災によって様々な表現の意味合いが変わっていく中、自分の基本コンセプトが「大丈夫だったんだな」と認識したことについても語っている。どうにかして今を楽しみながら、しなやかに生きようとする姿勢を提示してきた彼女は、今何を考え、ネガティブな想いとどのように対峙し、急遽『しんぱい』を発表することにしたのか。その真相に迫った。
自分に「今、出来ること」が何なのかよく分からない
--3月6日 恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンライブでは、その場で披露した新曲をシングルとしてリリースすると発表。しかしその予定を急遽変更。『しんぱい』を制作してリリースすることになりました。
たむらぱん:震災があっていろいろ考えていたんですけど、自分は“ちょっといいこと”を感じてもらう為にエンターテインメントをやっているので、嫌な気持ちにさせるリスクがあるものを発信するのは違うと思って。あと、表現するものって世の中の出来事によって意味が増えたり減ったり、浅くなったり深くなったりするじゃないですか。
--それで代わりに『しんぱい』を選んだと。
たむらぱん:最初、私は『しんぱい』をこのタイミングでリリースするのはすごく嫌で。1年ぐらい前に作っていた曲なんですけど、さっき話した解釈の差が絶対に生まれるし、このタイトルがすごく意味深になるのも分かっていたので。ただ、最終的には、解釈とか意味が変わってしまったり、+αの要素が増えたとしても、この曲だったらエンターテインメントとして悪い方向には行かないと思ったんですよね。
--世の動きに対して、たむらぱんの価値観だったり、表現している根本的なテーマが変わったりはしてない?
たむらぱん:震災以降、自分自身に対しての新たな詞を書けなかったんです。誰かや何かの詞や曲を書くことは出来たんですけど。異常に敏感になっていたから……ちょっと話が1回逸れると思うんですけど(笑)。
--どうぞ。
たむらぱん:この『しんぱい』っていう曲は「今、伝えられる状況にあるんだったら伝えなくちゃいけない」っていうのをテーマにして「昨日より今日より今だ!」みたいな感じで書いてたんですよね。で、その1年前に書いた『しんぱい』を3.11以降にリリースすることになったとき、ちゃんとそこで成り立てるものになっていたし、意味合いはもしかしたら深くなってるかもしれないけど、自分の基本コンセプトが「大丈夫だったんだな」っていうのは感じられて。だから今まで通りの物の捉え方で感じたり考えたりしながら表現していきたいし、それが出来ていて良かったなと思いましたね。
--では、今は何をしなきゃと思ってます?
たむらぱん:気持ちのスタンスは変わらずにいなきゃというか、同じでも違うんですよ。それは絶対なので。だから同じことをやっていても、前よりも「良い」と思えるもの、思ってもらえることが出来たらなとは思います。
--今まで抑えていたこととか、前だったら地団駄を踏んでいたこととか、気にせずアクションしちゃおう。みたいな感覚はないですか?
たむらぱん:私はないですね。こういうときに明確なアクションが意外と出来ないんですよ。なんか、奥底でこっそりと……っていうのは出来るけど、分かり易くは出来ない。だから“こっそりと”なりに出来たらなって(笑)。
--ただ、たむらぱんの場合は「自分も明日どうなるか分からない」「何事も無くはない」ということを前回のインタビューで公言していたし、その感覚が反映された楽曲をたくさん生んできました。
たむらぱん:明日のことばかり考えるだけではダメだなと感じています。明日のことばかり考えていると今が何も出来なくなるから。ただ「今、出来ること」っていう言葉がありますけど、自分が「今、出来ること」も本当は何なのかちょっと分からなくて。だから今は具体的なことが出来てないし、それ故に説得力にも欠けるんだろうなと思うんです。でも「今、出来ること」が明確になるまでそこに注意を払っておきたいとは思ってます。
--今のその状態を曲にしそう、たむらぱんって。
たむらぱん:そうですね(笑)。
Interviewer:平賀哲雄
とにかくこの曲が嫌で嫌で仕方なかったんです(笑)
--そんな心境の中で打ち出すことになった『しんぱい』。たむらぱんの楽曲はリアリズムを重要視するが故にどこか論理的だったりするじゃないですか。でもこれは感情重視だよね。「大丈夫だよ 心配しないでね」とか「本当に伝えなくちゃ 今日までの日々ありがとう」とか。
たむらぱん:だから私はとにかくこの曲が嫌で嫌で仕方なかったんです(笑)。でも世の中で最終的に力を発揮する、重要なものって本当にコテコテなもの。ベタな感じなんだろうなって。でもそれは私には絶対出来ないと思っていたから、メロディのテンションのままに言葉がうわぁ~ってなっているのを見て、自分で書きながらも「凄いな、これ」みたいな(笑)。それで、私が歌わなくても誰かが歌ってくれるようなものになればいいなと思っていたんです。だから、いざ自分が歌うってなったら「どうしよう?」っていう感じになっちゃって。
--そこまで受け容れられなかったんだ?
たむらぱん:でもこういう曲が大事なのも分かるから「あとは自分次第だ」と思って。多分、この曲は自分が本来持っているシンプルな部分なんですよ。だから恥ずかしくて嫌だったんですけど、そこを照れずに自分がやる音楽として完成させるにはどうしたらいいのか、すごく考えたし。ただ、そもそもこの曲を作った頃「一瞬でいなくなっちゃう人はいる」と感じていて、だから「伝えられるうちに伝える」っていうコンセプトになったんですよ。「じゃあ、そこを重くなく表現する為に“旅立ち”をテーマにしよう」と思って。本質的な部分は見えるようにして、でもあまりにも見えすぎていないものを目指したんです。
--具体的には、どんな人のことやシチュエーションをイメージして書いた詞なんでしょうか?
たむらぱん:実際、自分に近い人のことで「一瞬でいなくなっちゃう人はいる」と感じたんですけど、最終的にはいなくならずに済んだんですよ。だから余計に歌いづらかったと思うんです。照れてる場合じゃない状況ってそのときにならないと感じられないので。
--そういうストレートな歌詞を胡散臭くさせず響かせるには、アレンジが物凄く重要になってくると思うんですけど、今作『しんぱい』はアレンジャーにYUKI、いきものがかり等を手掛ける湯浅篤さんを迎えています。
たむらぱん:自分でアレンジを詰めていたとき、ビートの4つ打ち感とか、ストリングスが引っ張っていく感じが、青春ソングみたいにならないようにしたいと思って。で、最近は自分の感覚じゃないところに触れて自分の感覚を再確認したい欲求もあったので、湯浅さんにお願いしてみようと。それによってこの曲に対する私の中での恥ずかしさが軽減されれば……という心の叫びもあって(笑)。実際に軽減されたと思いますし、今回はジャケットもPVも含めて関わってくれる人みんなにそれをしてもらった印象です。
--自分は湯浅さんが手掛けてるYUKIとかの楽曲が大好きで。抽象的な言い方になっちゃうけど、そのアーティストや楽曲に魔法を掛けられるじゃないですか。
たむらぱん:そうですね。今回、湯浅さんのスタジオへ歌いに行っていて、アレンジの詰めの段階とか、わりと一緒にいたんですよ。それで感じたのは、自分が「こうであったらな」と思ったことをどんどん完成させていく過程が凄かったし、面白かったんです。ひとつの新しい要素を入れただけで急にファ~~ッ!ってなったりするんです!
--(笑)。
たむらぱん:そういうのが堪らなかったですね。あと、私の「どうしてもここのフレーズだけは」みたいなところは尊重してくれて。だからすごく感謝していますし、あれだけ「嫌だ嫌だ」と思っていたものが最終的に良い形に仕上がったと思えたので、良かったなって。
--また、魔法と言えば、今作のミュージックビデオも大変なことになっています。自分では仕上がりにどんな印象を?
たむらぱん:言葉がダイレクトな分、視覚でそのダイレクトさがシンプルに入ってくるようなサポートをしてもらいたかったんです。それを監督に伝えたら「だからと言ってすごくダークな方へ行っちゃったら勿体ない。その恥ずかしさを逆手に取ってミュージカルみたいにしよう」って提案してくれて。
--振り切ってしまおうと。
たむらぱん:でも私の中ではそっちの方が全然恥ずかしくなくって。なんでこの曲に恥ずかしさを感じていたかと言ったら、歌詞が自分に近すぎるからなんですよ。でもミュージカルみたいになったらそれはもう別のスウィッチだし「よっぽど、あのPVのダンスの方が恥ずかしいんじゃない?」って言われるんですけど(笑)それは全く恥ずかしくないんです。そこを監督は汲み取ってくれたような気がするし、どこか気持ち悪い感じとか、視覚としてのこの曲への表現というのは、すごく良いものになったと思っています。
--ああいう、究極にガーリーでファンシーみたいな世界への憧れってそもそもあったんですか?
たむらぱん:ファンシーじゃないかもしれないですけど「ライオン・キング」的な世界観は好きなんですよ。「それはリアルなの?どっちなの? 本気なの?本気じゃないの?」みたいな感じが。だから今回のPV撮影は楽しかったんだと思うんですよね。ああいう世界って現実もちょっと組み込んでいるじゃないですか。昔の童話とか。そこが好きなんですよね。
Interviewer:平賀哲雄
心配させる人がいるっていう事自体は多分良いこと
--ダンスの話がさっき出ましたけど、あれって照れたらアウトじゃないですか。どれだけ天使に成りきれるかっていう。そこはどうだったの?
たむらぱん:絶好調でした(笑)。今回は振り付けしてくれる人もいて、練習に付き合ってもらったんですけど、変な快感があって。ミュージカルの“喋っていたらいきなり歌い出す!”みたいな唐突さ。完璧そうで完璧じゃないけど、本気っていうあの感じが堪らなかったので、わりと楽しんでいましたね。
--そういう部分も含め、今回の楽曲に関しては「眩しいぐらいの、思いっきり振り切れた世界を描きたいんだ」っていう意志が強くあったんですかね?
たむらぱん:そうですね。やっぱり最終的にそういう眩しさを大切にできないとダメだなと思っていたので。そこは躊躇しなかった。世の中を斜めに見る的なものの方が格好良いかもしれないけど、そうじゃない良さっていうのも当たり前のように認めたい想いはあったと思いますね。
--そのミュージックビデオも含め、今作『しんぱい』。どんな風に響いてくれたらいいなと思っていますか?
たむらぱん:今回のシングルは感情が良い方向に向かう率が高ければ良いなと思っていて。いきなりそこに辿り着かなくても、このテンションだけでいろんなものが和らぐような感覚になってもらえる作品であれば良いなって思いますね。
--ちなみにこのシングルにインディーズ時代の楽曲『WARAW』を再収録しようと思ったのは?
たむらぱん:私は前から「如何にして昔の曲を聴いてもらえるようにするか」と考えていて。今回もカップリングに昔の曲を入れるということが決まったので『WARAW』を再収録したんです。今聴くと、改めて私は変わってないなって思いますね。生きる為のスタンスについて歌ってる。この曲だったら、幸せの基準をどこに持っていくか。自分に持っていくか、相手に持っていくか。どっちが自分に良いのか、悪いのか。そういうことについて書いていると思うし。自分のスタンスを改めてちゃんと認識できました。あと『WARAW』が『しんぱい』と並んで入ったことも私としては大きいし、良かったなって。
--そして、今作にはボーナストラックとして、3月6日 恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンライブより『ラフ』『バンブー』『フレフレ』『ゼロ』のライブ音源が収録されています。この4曲を選んだのは?
たむらぱん:気持ちが良い方向に向かう。それを最終的にコンセプトにしようと思ったんですよ。なので、自分の中でも特にそういう風に感じられるシングル曲を選んだ感じですね。流れ的には『しんぱい』から『ゼロ』まで続けて聴けるようにはしたくて。すべての楽曲でひとつ完結できればいいなと。
--そんなニューシングル『しんぱい』リリース以降の話を聞きたいんですが、これから先はどんなモードやテンションで音楽と向き合っていくことになりそうですか?
たむらぱん:具体的な作業のところで言うと、いろんな人と関わることによって自分を再認識していきたいと思っています。だからいろんな人の音が入ってくるんですけど、基本的には先程話した「これで良かったんだ」と思えた部分を大事にしていきたい。ただ、絶対に経験しちゃったことで生まれている感情はあるじゃないですか。誰もがそうだと思うんですけど。それがあるというのもちゃんと認識しつつの、同じことをやれたらなと思いますね。
--歌うことはどう? 自ずと今まで以上に熱が入ったりします?
たむらぱん:前回のツアー以降、熱を込める場所がすごく変わりました。で、今は何を歌っているのか自分でも分かる。それはもしかしたら自分自身のことを見直してこられた結果かもしれないし、もしかしたらそれまでは自分が自分の作ったものを大切にしていなかったのかもしれない。もっと信用すればいいのに、していなかったのかも。そこが変化してことによって、熱を込める部分っていうのがすごく深く強くなった気がしています。
--また、この先には次なるアルバムももちろん生まれると思うんですけど、自分の中でそのイメージやヴィジョンって広がってるの?
たむらぱん:周りを知る為に共作、自分を知る為の共作。そういうレコーディングをちょっとずつ進めているので、その中で私のエンターテインメントを貫けたらいいなと思ってますね。
--では、最後になるんですが、今作『しんぱい』を聴いてもらいたい人たちに向けて言いたいことをぶつけてください。
たむらぱん:心配はしないで済むならそれに越したことはないんですけど、心配させる人がいるっていう事自体は多分良いことなんだなと思っていて。私もストレートな言葉を書きながらも、思い直させられる部分がいっぱいあったので、この曲でそもそもの人との関わりとか、その奇跡感とかを感じてもらえたらいいな。でもそこを重々しく考えすぎない為のこの曲でもあるので、自分の気持ちにいつもと違う間口が出来るような感じになってもらえたら、それも嬉しいなと思います。
Interviewer:平賀哲雄
しんぱい
2011/06/29 RELEASE
COCA-16500 ¥ 1,320(税込)
Disc01
- 01.しんぱい
- 02.WARAW
- 03.ラフ (LIVE VERSION) (ワンマンライブ “パンダフルツアー” @LIQUIDROOM 2011.03.06) (BONUS TRACK)
- 04.バンブー (LIVE VERSION) (ワンマンライブ “パンダフルツアー” @LIQUIDROOM 2011.03.06) (BONUS TRACK)
- 05.フレフレ (LIVE VERSION) (ワンマンライブ “パンダフルツアー” @LIQUIDROOM 2011.03.06) (BONUS TRACK)
- 06.ゼロ (LIVE VERSION) (ワンマンライブ “パンダフルツアー” @LIQUIDROOM 2011.03.06) (BONUS TRACK)
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