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<コラム>星野源「喜劇」のバイラルヒットから考える、国外マーケット進出の土壌作り
Text by 高橋芳朗
すでに各所で大きな話題を集めているが、4月8日にリリースされた星野源の最新シングル「喜劇」がSpotifyのグローバルバイラルチャート(SpotifyからSNSやメッセージアプリでシェア/再生された回数などをベースに、Spotifyが独自に指標化した「いま世界のSNSで最も話題になっている曲」ランキング)で上位に食い込むヒットを記録している。「喜劇」は5月2日、3日の同チャートで最高14位にランクイン。以降、5月29日まで約1か月に渡って50位圏内に留まり続けた。
国別のバイラルチャートに目を向けてみると、さらに驚くべき動きが確認できる。「喜劇」は5月の第一週に台湾、香港、韓国で1位、日本で2位、ベトナム、マレーシア、カナダで3位、フィリピンで4位、シンガポール、タイ、ペルー、チリで5位をマーク。そして、5月の最終週にはアメリカで5位まで上昇する快挙を達成した。全米シングルチャートを席巻中のリゾ「アバウト・ダム・タイム」などと肩を並べた「喜劇」の躍進に、SNSでは歓喜の声をあげるファンも少なくなかったようだ。
こうした世界のバイラルチャートにおける「喜劇」の快進撃は、同曲が2022年4月よりテレビ東京系列で放映中のアニメ『SPY×FAMILY』のエンディング主題歌であることが大きな原動力になっている。現在、各ストリーミング・サービスを通じて世界各国で視聴できる『SPY×FAMILY』は、公開と共にシンガポール、インドネシア、ベトナムなどアジア諸国のNetflixでトップ10入り。ワールドワイドでの配信に伴って世界でのGoogle検索数も『鬼滅の刃』や『進撃の巨人』を超え、そのエリアはアジアのみならず北米や南米、ヨーロッパ一帯にまで及んでいる。
こうしたデータからも「喜劇」のバイラルヒットの背景に『SPY×FAMILY』の世界的な人気が大きく影響していることがわかると思うが、その一方、これを単に「『SPY×FAMILY』効果」として片付けてしまうのも少々早計な気がしてならない。2019年10月リリースのEP『Same Thing』に端を発する星野の海外マーケットも視野に入れた意欲的な活動が、今回の「現象」の土壌を作ったと考えることはできないだろうか。
『Same Thing』におけるスーパーオーガニズムやトム・ミッシュとのコラボ、Apple Musicのラジオステーション『Beats 1』で初めて日本人としてホストを務めた『Pop Virus Radio』のオンエア、上海~ニューヨーク~台北の公演を含む【POP VIRUS World Tour】の開催(ニューヨーク公演ではマーク・ロンソンと共演)、デュア・リパのリミックス・アルバム『クラブ・フューチャー・ノスタルジア』への参加、マーベル映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のインスパイアド・アルバムでのザイオン・Tとの共演、そしてまもなく7月15日リリース予定のスーパーオーガニズムの新作『World Wide Pop』で実現した彼らとの二度目のコラボレーションーーこの2年半の星野の果敢な取り組みの数々は、海外のリスナーを引きつけるのに十分なインパクトがあるだろう。
また、注目すべきはパンデミックのなかでの制作環境の見直し(DAWソフトを使った音楽制作、キーボードを駆使した作曲など)によって新しいフェーズに突入した星野の近作が、立て続けに海外ミュージシャンから好反応を得ている事実だ。星野は『スーパーマリオブラザーズ』35周年テーマソングとして書き下ろしたシングル「創造」(2021年2月)のリリース時、かねてから交流のある<ブレインフィーダー>所属のルイス・コールから初めて賞賛のメールをもらったことをインタビュー等で明かしており、TBS系火曜ドラマ『着飾る恋には理由があって』の主題歌に提供した次のシングル「不思議」(2021年4月)にしてもインコグニートのブルーイがパーソナリティを務めるApple Musicのラジオ番組『Groove Velocity Radio』で星野へのメッセージと共にオンエアされている。星野は「創造」と「不思議」を作り上げたことで得た収穫について「『新しい星野源』としての自分の色が確立できた」と述べていたが、その成果が実際にいままでにはなかったリアクションを誘発しているのは実に興味深い。
▲【LIVE in JAPAN 2019 星野源×Mark Ronson】
Photo by 田中聖太郎
音楽的には「不思議」を発展させたようなところもある「喜劇」の今回のバイラルヒットは、こうした流れのなかに位置付けて語ることもできるのではないだろうか。以前、星野は『POP VIRUS』制作時のことを振り返って「自分がやりたいものが世界のトレンドともつながっているという確信があったから、そこに向かって突き進んでいこうという気持ちだった」と話していたが、きっといまはその手応えをさらに深めているにちがいない。
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