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<コラム>ハリー・スタイルズも登場した『THE FIRST TAKE』の魅力、その軌跡を象徴する5本の一発撮り



コラム

一発撮りを切り取る『THE FIRST TAKE』

 ハリー・スタイルズが、アーティストの一発撮りのパフォーマンスを切り取るYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』に初登場。ニュー・アルバム『Harry's House』に収録された新曲「Boyfriends」のスペシャル・バージョンを披露した。



Harry Styles - Boyfriends / THE FIRST TAKE

 ハリーは、優しく親密なムードを持ったこの曲を、【コーチェラ・フェスティバル】で初披露したときと同じく2本のアコースティック・ギターとコーラスを担当する4人のサポート・メンバーと共にパフォーマンス。聴きどころは後半のアカペラ・パートだろう。目をつぶりながら丁寧に歌い、最後に「アリガトウゴザイマス」と日本語で告げるハリーの表情も印象的だ。

 チャンネル登録者数は630万人を超え、いまや日本で最も影響力のある音楽メディアのひとつとなった『THE FIRST TAKE』。視聴者はすでに世界各国に広がるが、グローバルに活躍するポップ・スターであるハリー・スタイルズの今回の出演をきっかけに、初めてこのチャンネルを知ったという人も多いだろう。改めてその魅力と足跡を紹介したい。

 『THE FIRST TAKE』が立ち上がったのは2019年11月。そのコンセプトは明快だ。アーティストは、白いスタジオに置かれた一本のマイクに向かって歌う。演奏は一度きり。たとえ失敗やアクシデントがあったとしてもやり直しは一切なし。一発撮りならではの緊張感が漂うなかで、アーティストが音楽に向き合う瞬間を鮮明に記録する。

 こだわったのは、余計な要素を削ぎ落とし、シンプルな見せ方を徹底すること。また、高画質・高音質で収録し、ハイクオリティな映像としてそれを届けること。そのことで、音楽そのものの魅力をストレートに伝えることだ。このチャンネルのためのオリジナルなアレンジで楽曲が披露されることも多い。また、統一されたロゴやサムネイル画像のデザイン、白を基調にしたカラーリングも特徴だ。その一貫した魅力が人気を集め、チャンネル開設からおよそ2年半で動画の総再生回数は21.2億回を突破した。

 カメラ正面に向かって歌うのではなく、アーティストの横顔を中心に映していることや、口元などを近い視点で捉えていることもポイントだ。歌や演奏だけでなく、収録に挑むアーティストの何気ない一言や息づかい、視線の動きなども収められている。無音の空間であるがゆえに、足音や唾を飲む音、服がこすれる音なども臨場感を持って生々しく聴こえる。それによって、ライブともレコーディングとも違う『THE FIRST TAKE』独特のムードが生まれ、没入感ある映像につながっている。

 毎週新たなアーティストが出演し、これまでに公開された映像は257本、出演アーティストは100組を超える。『THE FIRST TAKE』は結果的に、ミュージック・ビデオともテレビの音楽番組とも違う、ストリーミングが主流となった今の時代に即した新しい音楽プラットフォームとして支持を広げてきた。


『THE FIRST TAKE』の軌跡を象徴する5本の動画

 ここからは、特に反響を集めた楽曲を紹介していきたい。



DISH// (北村匠海) - 猫 / THE FIRST TAKE

 『THE FIRST TAKE』から生まれたヒット曲の代表例としては、DISH// (北村匠海)の「猫」が挙げられる。

 もともと、この曲の音源がリリースされたのは2017年。シングル『僕たちがやりました』のカップリング曲だったということもあり、いわば知る人ぞ知るタイプの楽曲だった。しかし2020年3月、DISH//のメンバーが事前レコーディングしたアコースティック・アレンジのサウンドに乗せて北村匠海が歌い上げたバージョンで『THE FIRST TAKE』に出演すると、その伸びやかな歌声がSNSを中心に広い賞賛を集める。楽曲は「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」として配信リリースもされ、2021年2月には『THE FIRST TAKE』初の1億再生突破を果たした。



YOASOBI - 夜に駆ける / THE HOME TAKE

 YOASOBIのデビュー曲「夜に駆ける」も大きな注目を集めた。

 この曲で2020年のBillboard JAPAN総合ソング・チャート“HOT 100 of the Year 2020”1位を獲得、その後も数々のヒット曲を送り出し、いまや2020年代のJ-POPシーンを代表する存在となったYOASOBI。しかし、この曲の『THE FIRST TAKE』でのパフォーマンスが公開された2020年5月は、まだデビューして約半年。COVID-19のパンデミックによって外出に制限がかかっていたこともあり、アーティストの自宅やプライベート・スタジオで収録する『THE HOME TAKE』のスタイルでの出演となった。そのパフォーマンスが反響を集めたことは、YOASOBIにとって飛躍の大きなきっかけの一つになったはずだ。



LiSA - 炎 / THE FIRST TAKE

 2020年10月に公開されたLiSAの「炎」は、記録的なヒットとなったアニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌として書き下ろされた楽曲だ。

 情熱的なバラードのこの曲をドラマティックなピアノ・アレンジに乗せて迫力ある歌声で歌いきり、感極まった表情で思いを告げたLiSAの姿は、大きな感動を呼んだ。

 ちなみに、LiSAは『THE FIRST TAKE』スタート当初の2019年11月にも出演し、テレビアニメ『鬼滅の刃』オープニングテーマとして脚光を浴びた「紅蓮華」を披露している。当時の率直な思いを告げつつ、この曲を披露した鮮烈なパフォーマンスが話題を呼んだことは、チャンネル自体の人気拡大にもつながった。



Little Glee Monster - Dear My Friend feat.Pentatonix / THE FIRST TAKE

 Little Glee Monster「Dear My Friend feat.Pentatonix」も国境を超えて支持を広げた。この曲は、女性ボーカル・グループのLittle Glee Monsterと世界的に活躍するアカペラ・グループのペンタトニックスによるコラボ曲。両者は2014年のペンタトニックスの来日時から親交を深めてきたという。2021年1月に公開されたこの曲の動画では、Little Glee Monsterが東京で、ペンタトニックスがアメリカ・ロサンゼルスで一発撮りを収録した映像が1本に編集されている。距離を超えて音楽を共に届ける『THE FIRST TAKE』の新たな可能性を開拓したと言える。



Stray Kids - Mixtape : OH / THE FIRST TAKE

 2021年10月に公開され、『THE FIRST TAKE』では初の韓国語でのパフォーマンスとなったStray Kidsの「Mixtape : OH」も注目だ。8人組ボーイズ・グループのStray Kidsは、メンバーがずらりと横一列に並び、それぞれがマイクに向き合う形でパフォーマンス。感情を込めた歌声や巧みなラップなどメンバーそれぞれのヴォーカルの魅力を引き出した。Stray Kidsを筆頭に、出演した様々なボーイズ・グループにとっても、『THE FIRST TAKE』は飾らない実力を見せ、ファンを広げる場になっているはずだ。

 基本的には日本国内のアーティストを中心にしたラインナップの『THE FIRST TAKE』だが、今回のハリー・スタイルズの出演をきっかけに、この先、世界中のトップ・アーティストが登場する機会が生まれるかもしれない。リスナーにとっても、新たな形の音楽との出会いの場になるだろう。この先の動向にも期待したい。

Text by 柴那典

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