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たむらぱん 『バンブー/マウンテン』 インタビュー
なんだか生きづらい。今、誰もが抱えるその想いと向かい合った上で、そんな今をちょっとでも暮らしやすくできないものかと、あんな手やこんな手を次々と音楽を介して呈示している感のある、最近のたむらぱん。昨年リリースしたアルバム『ノウニウノウン』でその表現はひとつの集大成を迎えたように思えたが、2010年もその姿勢は変わらず。というか、更に刺さる音楽をここに生み出してみせた。今を痛快に生き抜くヒントを決して重すぎず、あくまでポップに響かせるニューシングル『バンブー/マウンテン』について、たむらぱんが語ります。
リアクションがあることによって物事のやる気は沸く
--さて、今日は「たむらぱんが熱いぞ」をテーマにインタビューをお送りしていきたいんですが、まず2009年のたむらぱんの全てと言っても過言ではないアルバム『ノウニウノウン』。ツアーなどで歌い続けてきて、今ではあの作品に対してどんな印象や感想を持つようになってます?
たむらぱん:実は今、次にアルバムを出せる分ぐらいの曲はあって、でもまだ時間があるから、また良い曲ができればそれを含めて収録曲を決められればなと思って動いてるんですよ。で、そんな状況の中で『ノウニウノウン』を振り返ると「まだやれたな」って気がするんですよね、不思議なことに。いつもアルバムが完成したときは「すごい頑張った!」とか「良いの出来た!」とか思うんですけど、時間が経つと「まだあそこは詰められた」とか思っちゃう。でも「もう聴いてほしくない」とは決して思わないし、それだけ力を注いだアルバムだったし、自分の中では“もう一段上げてくれたアルバム”だったかなって。
--今日も聴いてきたんですが、前回のインタビューで田村さんが言っていた通り「とにかく勢いが凄い」アルバムだなと。というか、歌も音も熱いよね。いろいろ超えようとしてるというか。自分ではどう思います?
たむらぱん:そうですね。自分の中では一番音楽を仕事にしようとしてるっぽい。テンションだったり、あとサウンド面が一番強いですかね。聴いてくれている人の範囲が広いモノっていうのをイメージしていたし、やっぱりミックスする際に歌を一番前に出すことを考えていたと思うんですよ。もっと独りよがりになっていたら、出したい楽器の音はいっぱいあったし、言葉とかメロディというよりも、そこをどんどん追求しちゃったかもしれないんですけど、でもやっぱり自分のメインに感じているところは、歌のメロディだったり歌詞なのかなって。ようやく自分でもそれが納得できるようになったんです。だから『ノウニウノウン』は、曲の中で優先されるパートが歌にあったと思うんですよね。それは今までと違ったかなって。
--その結果“これでもか!”感が出ましたよね。「この波、まだやってくんの!?」みたいな。
たむらぱん:ハハハハ! どんどん重ねて、乗せて、乗せて、乗せまくりましたからね。
--で、そのアルバムの熱さを更に高めるかの如く開催された【世界パンタム級ツアー】。自分ではどんなツアーになったなと感じていますか?
たむらぱん:初めていろんな場所に廻るツアーで、何日もワンマンをするっていう感覚とかが初めてだったので、とにかく分からないことが多くて。自分自身に対してもどうしておけばステージを賄っていけるのか、っていうのもやっぱり全然分かんないし。でも分かんない中では頑張ったというか、そこをちゃんと認めてその中で一番ベストなことを目指して。もちろん観に来てもらってる訳だから、損をしたって思わせないようにしたかったですし、来てもらうからには楽しい日だったり、特別な日だと思ってほしかったので、そのときは最大限頑張ったと思ってるんですけど、多分まだ出来たと思う。それはアルバムとかと一緒で、あれがあったからまた一段階上がれると思うんですよ。そういう意味では、すごくベストなライブの日々だった……けど、ベストじゃない。
--(笑)。伸びしろがまだ見えるってことでしょ?
たむらぱん:そう。そこが見えるっていうのも良いことなのかなって思ったし、伸びしろがあることがダメではないとは思ってるので。だからすごく良い日々だった。それでまず終われる感じですね。でもこれからもっと良くなるぞっていう。
--僕は渋谷CLUB QUATTROの公演を観させてもらったんですが、ひとつ印象的なトピックとしては『エトピリカ』のヴァイオリン演奏がありました。
たむらぱん:あれは元々はレギュラーでやらせて頂いているラジオ番組で「新しい楽器に挑戦!」っていうことでやっていたんですけど、何かをやることって、私のイメージの中ではよっぽど出来た人間じゃないと、自分の中だけで終わらせることって難しいなと思って。やっぱり何かしらのリアクション、それは「良いね」でも「へたくそだね」でもいいんだけど、そういうのがあることによって物事のやる気とか沸くんだろうなって思ったんです。で、それを見せることによって何かが起こるかもしれないなって、ライブで勝手に披露したんです。あと、私は作品を制作する中ではエンタテインメント性をすごく大切に思っていて。でもまだライブには同じぐらいの力が出せてないというか、バランスが悪いと思ってるんですよね。だから楽曲制作におけるエンタテインメント性ぐらいのモノを、ライブでも形にできるといいなって。ヴァイオリンもそこへの一歩だと思うし。
Interviewer:平賀哲雄
単純に強いだけだったら、あっさり折られるかも
--あと、個人的には『ジェットコースター』『十人十色』『責めないデイ』の畳み掛け。あの時点での“たむらぱん三大必殺技”と言ってもいいキラーチューンたちを連発しましたが、あの場面は非常に今のたむらぱんらしかったと思います。全部出してやろうっていうね。
たむらぱん:ライブをする中でとにかく音だけで通すことって、それまであんまりなかったんですよ。すごく短いスパンでMCを入れたりとかしていたんですけど、でもあの日のあの瞬間は歌詞以外の言葉はなしで、伝わる想いがあればいいなって思ったんです。で、最後に『責めないデイ』をやることで、わざわざそれをライブ中に説明はしないんだけど「ここまで来たんだな」って感じてもらえるようになったらいいなと思いましたね。
--あの畳み掛けは今後のライブにおいても重要になると思いますよ。歌うの、大変だと思うけど。
たむらぱん:(笑)。でも確かに畳み掛けは大事だなって思いますね。私の中では「どうやって心臓を止めないようにするか」っていう感覚に近いんですけど、体のリズムがテンションとか感情とかに繋がっていきますからね。だから次のアルバムもそういう曲順をイメージしたりしながら制作を進めてるんですけど。
--で、2009年の時点でそこで出せるモンを全部出してしまった感のあったたむらぱんなんですが、ちゃんとまた出てきましたね。両A面シングル『バンブー/マウンテン』が。
たむらぱん:そうですね。いろんな楽曲を新たに作っていった中で『バンブー』は、本当に今の世の中をイメージして作った曲だったので、今出さなきゃ意味がないなというところはあったんですよね。ちょっと前の年代や未来だと、ここで書いてる言葉の意味が無くなってしまうと思って。どの歌詞が今を反映しているとか、そういうことじゃないんですけど、すごく自由そうで生き易い感じが一見しつつ、実はすごく生きていきづらい感じだなと思って。今の世の中が。新しい発見とか感動とかも多分無くなってきていて、昔だったら「冷蔵庫だ!洗濯機だ!」ってあったと思うんですけど、ああいうのってもう無いと思うんですよ。じゃあ、追求していくべきは「自分の幸せをどう見つけていくか」になっちゃって、高揚や楽しさみたいなモノは自分でしか操作できないんだろうなって。じゃあ、今リアルに自分にある状況をどうするか、どう生きればちょっと幸せが増えたりするのか、そういうことを考えて作ったのが『バンブー』で。だからこのタイミングでシングルとして発表することに決めたんです。
--それをたむらぱんに歌わせたきっかけって何だったんでしょう?
たむらぱん:さっき話したみたいな世界で暮らしていく中で、やっぱり「自分がしっかりしなきゃダメだ」みたいなところがあるなって思ってて。何を言われてもそれに耐えうるような人でなきゃいけないとか、そういう強さを今はみんな求めてるんだろうなって。でも「単純に強いだけだったら、あっさり折られるかも」って思ったんですよ。だから言葉は悪いけど「やっぱり要領の良さが必要なんだ」っていう。それを綺麗にというか、良い表現にしたのが“しなやかさ”で。多分これが今は必要。で、それに関係する話なんですけど、例えば誰かと揉めて、そこで妥協しなきゃいけないっていうときも、そこで妥協せずに「もういらない」とする。で、その後に何も出来なくなるよりも、ちょっと妥協しておいて、先に続いた方が変化する可能性はあるから、そっちの方が良いんじゃないかっていう感覚を持てると良いなって。それって意志が強いってことだと思うんですよね。妥協する勇気を持つってことは。上手く生きる秘訣じゃないですけど、そういう今のご時世に必要な種類の強さを書いてみようかなって。あと、映像として浮かんだのが竹の雰囲気だったのでタイトルを『バンブー』にしたりしたんです。風吹けばなびくし、ゆらゆら揺れてるんだけど、どんどん真っ直ぐ伸びていく様がこの歌にはピッタリだなと思って。
--確かにその強さは前の年代では理解されなかったかもしれないですね。「この軟弱者が!」みたいな。
たむらぱん:そうそう(笑)。ダメ人間だと思われそうですよね。でも今の時代において成功している人はそういう人が多いのかなって。成功者じゃないとしても、毎日を楽しめてる人ってもしかしたらそうなのかもしれない。
--「ドアノブに添えた手を見つめ 強くなったねと胸張って進め」っていうフレーズを使ったのは?
たむらぱん:実はこの曲ってAメロで時間が動いていって、まぁ1日を書いていたりするんですけど、実のところは一瞬の想いを1曲を通して表現してるんですよ。「行ってくる」って言ってドアノブを掴んで、その瞬間に今の自分の状況とか、そもそも思っていたこととか、それを走馬燈のようにバーって思って「じゃあ、それをどうするか?」っていうところを書いてる。ドアを開けるのか、もしかしたら行かないのか、みたいな。だから「開ける」って歌うよりも「添える」っていう状況がこの曲では重要だった。急に自分のことを思うきっかけとなる行為としては「ドアノブに手を添える」が正しいというか。
--僕はそういう曲の最後が「笑え」でほんと良かったなと思って。ここで「笑え」と歌えるたむらぱんにグッと来たんですけど。
たむらぱん:最初は「強くなったねと、ちくしょうと笑え」って歌詞だったんですよ。でもその“ちくしょう”の意味を辿るとリスクのある言葉であることが分かって、変えたんです。でもそもそも“ちくしょう”を使おうと思ったのって、竹が笑うでそう読ませたら面白いなって思ったのと、あとは「なんだかんだ言って私は働きに行くんだな、くそー」って思いながら笑ってるニュアンスがこの曲には欲しかったんです。だから最後はガーって勢いで突き進んで、ニヤけるような雰囲気で終わらせたくて「笑え」に。
Interviewer:平賀哲雄
どうせ超えなきゃいけないなら、夢中になった方が良い
--今日は「たむらぱんが熱いぞ」をテーマにお送りしている訳なんですけど、そこで「笑え」って言えるのはある種の熱さだと思うんですよ。その熱さをどれだけポップに響かせられるかが今のたむらぱんのモードだと思うんですけど、実際のところはどうですか?
たむらぱん:ポップス、まぁ実際にはどこのカテゴリーに属しているかは分からないんですけど「そういうモノを作っている」って今は言っていたいなとは思います。例えば、すごく分かり易いプラス表現に対して嫌悪感みたいなモノを持つ人もいるかもしれないし、私にもそれはあるって言えばあるんですけど、でもそのプラス表現が普通じゃなくって、意図があると思えたら、すごく特別な言葉になるような気がしていて。前向きな言葉も意図があれば全然恥ずかしくないっていう。そういうのは最近ようやく自分の中に浸透してきた。ただ、私の曲の中で絶対的な幸せ、完璧100%幸せな曲です、みたいなモノは多分無いんですよ。で、マイナス要素っていうのをわりと長い文章で書いているので、それを一言でひっくり返せるような言葉は曲の中に使わなきゃいけないなって思うんですよね。マイナスとプラスの言葉の量は違うんだけど、バランスとしては一緒みたいな。
--続いて『マウンテン』についても話を伺いたいんですが、自分ではどんな印象や感想を?
たむらぱん:今聴いて、例えば、1分少々の1番の間によくこんなにもいろんな展開を作ったなって自分で思いますね(笑)。この曲もそもそもが「乗り越えなきゃいけないモノが人にはある」っていう、テーマ的には苦労系なんですけど、それを払拭するようなテンションの曲にしたくて。だからアニメソングというのもあったので、ひたすら明るく、でも絵本みたいな感じもあって。私のいとこの子供はそのアニメを見て楽しく口ずさんでるらしいんですけど、親は「すごく楽しい曲なのに“人生はマウンテン”って歌ってるところが凄い」って言っていて。その時点で大人と子供がそれぞれの角度で聴ける曲になってるんだって分かって、すごく嬉しかったんですよね。でもその子供は親の影響でヘヴィメタとたむらぱんしか聴かないので、参考になるかちょっと分からないんですけど(笑)。
--ちなみに「夢中になりたいわ」というフレーズはどんな想いやきっかけから出てきたの?
たむらぱん:結構『バンブー』の話に似てるところもあるんですけど、どうせ超えなきゃいけないモノがあるんだったら、夢中になったり、入り込んでそれに努めた方がいいかなって思うんです。あと、そもそも夢中になれるモノがあるって、大変だとは言え、結構幸せなのかなっていうことをイメージして作ったんですよね。夢中になるってありそうで、あんまりない。でも人生においてそれがあって欲しいっていう願いがこの曲にはあると思います。
--最近よく思うんですけど、俗に天才と呼ばれてる人とか、いわゆる成功者って、夢中になれる力というか、単純に没頭できる何かと出逢った人なんじゃないかと思って。その没頭力の差で超えられる山のデカさとか数に違いが出るんじゃないかっていう。
たむらぱん:そうですよね。夢中になれるってその人生に大きい影響を与えると思いますね。そういうのって理解されないことが多かったりするんだけど「そんなこと関係ない」ってなれるのは、相当羨ましいことだなって思うし。逆に言えば、夢中になれないっていうのは寂しいことなのかもしれない。夢中になると苦労もあるだろうし、大変なこともあると思うし、夢中にならなきゃ当たり障りなく生きていけるかもしれないけど、最終的にそれでいいのか?っていう。
--ちなみにベタな質問ですけど、たむらぱんが今超えたいマウンテンって何なの?
たむらぱん:ちょっと恥ずかしい感じもするんですけど、この答え(笑)。今、デビューしてからいろんなことを一通り終えてきて、多分これから自分次第のことが多いだろうなって思っていて。だから超えたいのは自分かなって。自分の考え方とか捉え方ひとつで良い方にも悪い方にも転ぶっていうか。そんな気がしてて、すごく最近はいつもビビってる(笑)。いつ自分がマイナス方向に行くか分からないから。山なんて転がってたらどんどん転がっていくから、慎重に登らなきゃなって。ちょっと足を滑らしたら、どん底まで落ちて上がってこれないかもしれないし(笑)。そういうことをよく思ってますね。だからどれだけ自分で自分のテンションを上げられるか、それこそ夢中にさせる要素を自分で作るっていう感じなんですけどね。
--それにしても、アルバム『ノウニウノウン』の2009年を経て、この最新シングル『バンブー/マウンテン』から始まるたむらぱんの2010年は、更に凄いことになっていくような気がします。自分ではどう?
たむらぱん:去年はすごくいろんなことをやったと思ってるんですけど、多分まだあるなとも思ってるんですよ。今年もやれることがたくさん。漠然とはしてるんですけど、そう思えてることはすごく嬉しいなと思うし、それの影響か分からないですけど「曲を書かなきゃ、どうしよう?」ってならずに済んでる余裕が、更に曲を作ろうとするテンションを生んでいて、どんどん良いサイクルになってるなって感じるんです。だからそこから飛び出た面白いことが今年はできればいいなと思ってるんですよ。前にShing02さんといろいろやったときみたいなノリで、また何かやれたら良いなとも思っていたりするので。……なんか、今「今年は何かあるのかも!」って思いました。
--(笑)。
たむらぱん:でもその「今年は何かあるのかも!」っていうソワソワ感が、絶望的なことだったらどうしよう(笑)。どっちのソワソワ感かは分かんないんですよ。でも何をするにしても自分だけで楽しむってことにはしたくないですね。誰かに聴いてもらう為にとか、見てもらう為に、自分以外の人も含めて楽しめるモノを作っていく。っていうところは今年も変わらないかなって思います。
Interviewer:平賀哲雄
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