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<インタビュー>ジャンルも国境も自由に飛び越えた4s4kiが語る、センスの共有で拡がる同志の輪
東京発、新世代のオルタナティブ・ポップ・アイコンとして飛躍を果たしている4s4ki(アサキ)。昨年7月にリリースしたメジャー・デビュー・アルバム『Castle in Madness』、そして2枚のEP『Here or Heaven』『Here or Hell』を経て、国内外からの支持はさらに高まりつつある。
“ジャパニーズ・ハイパーポップの旗手”として海外からも注目を集め、パンク、エモ、エレクトロなど様々なジャンルを飲み込みつつ、苛烈なダークさとカラフルなキュートさの二面性を表現してきた4s4ki。作詞、作曲、編曲、トラックメイクの全てをひとりで手掛け、海外アーティストとも意欲的なコラボを繰り広げてきた。インタビューでは、改めてそのルーツからユニークな感性の由来、今後の展望に至るまでを語ってもらった。
ハイパーポップの自由さに憧れて
――ここ最近は日本以外のリスナーやメディアからの反響も増えていると思いますが、どんなふうに感じていますか?
本当にうれしいですね。自分の作りたい音楽を自由に作っていたら、自然に海外の方に聴いてもらう機会が増えたんです。私としては、何かを狙って作るということはほとんどなくて。たまたま趣味嗜好が近い海外の方たちにもハマってくれたのかな、という感じです。
――4s4kiさんの楽曲はハイパーポップとしてカテゴライズされることも多いと思います。2021年初頭から「Sugar Junky」などの楽曲がSpotifyで『hyperpop』のプレイリストに入るようになったことが一つのきっかけだったと思いますが、自分の音楽がハイパーポップと括られたときの最初の印象は?
当時はハイパーポップがちょっと流行ってきていて。ああいう音楽みたいに自由に作りたいというのもあったし、自分はトラックの足し算が大好きで、ハイパーポップも足し算だと思ったので、自分には向いてるかもと思ってました。なので、カテゴライズしていただいたことには嬉しい気持ちもありつつ、ただ、複雑な気持ちもありました。今までカテゴライズされたことがなかったので、不思議な気持ちにもなったし、カテゴライズされたからにはこういう曲しか作っちゃいけないのかな、とか変なことを思っちゃって、ちょっと苦しくなってしまった、というのもありましたね。
――今回のインタビューでは、4s4kiさんの音楽的なルーツから今に至るまでを改めて紐解いていければと思います。まず思春期はどのようなアーティストを聴いて、どんな影響を受けていましたか?
私が中学生の頃、ニコニコ動画にラップを投稿するニコラップという文化が流行っていて。そこが一番の原点ですね。そこから、ニコラップの人たちがどういう音楽を聴いてきたのかを遡って、グランジという音楽に触れました。「グランジとはなんぞや?」と思って検索して、最初にヒットしたのがニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」だったんですけれど、それを聴いて「こんな鬱屈とした音楽があるんだ」と衝撃を受けたんです。あとは、アヴリル・ラヴィーンがすごく好きでした。ちょうど来日していた時期で、「アヴリル・ラヴィーン、めっちゃ可愛いな」ってルックスから入って。私は気が弱いタイプだったので、「今日も学校か。人と会わなきゃいけないのか……」って毎日思いながら通っていたんですけど、アヴリル・ラヴィーンの曲を聴きながら登校すると、なんだか自分自身が強くなったような気持ちになるんですよね。そこから女性ボーカルのポップな、パンクっぽい音楽が好きになって。もともと音楽ジャンルに詳しいほうじゃなかったので、検索してみたらパラモアというバンドが出てきて。それを聴いても「私、強くなれる」と思ったので、当時はよくアヴリル・ラヴィーンとパラモアを聴きながら学校に通ってました。
Nirvana - Smells Like Teen Spirit (Official Music Video)
――4s4kiさんの今のスタイルと直接つながっているわけではないですが、曲を聴いて根っこにグランジやパンク・ロックがある気がしてました。
そう言ってもらえると嬉しいです。一番音楽を吸収していた頃に聴いていたので、意識せずとも作る音楽に反映されていった感じはありますね。
――バンドを組むのではなくトラックを作ろうと思ったのは?
私、本当に協調性がない人間で。バンドはできる気がしないと思ったんです。憧れの気持ちはあったし、高校の軽音楽部に入ってみたかったけど、イケイケの人たちが多すぎて怖くなっちゃって。でも、音源を作りたいし、ちゃんとしたクオリティにするためにはどうすればいいんだろうと思ってネット検索をして、トラックメイクというものを見つけたんです。YouTubeでやり方を解説している動画を調べて、「これならゲーム感覚で作れるかも」と思って始めました。ちょうど当時は、スマホでGarageBandが使えるようになった頃で。それで高校1年生のときに曲を作ってみたら、「意外とこれだけでもうまくいくんだな」という手応えがあって、そこから始めました。で、もっとクオリティを上げたいという気持ちが強くなってきて、必死でバイトしてPCと宅録環境を揃えて、Logicを買って。初めて本格的なトラックメイクをしたのは高校2年生の頃です。
――最初から一人でトラックメイクをするほうが性に合っていた。
そうですね。こだわりたいところも人に指示せず、自分でやれるのがラクだったので。歌よりトラックメイク、曲を作るほうが好きだったんです。なので、私はプロデューサーになりたいと思ってました。アーティストというより、曲を作る裏方の人になりたいって。ただ、歌ってくれる友達もいなかったので、仮歌を自分で入れていて。歌うようになったのも最初はそこが始まりです。
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転機となったフジロック
――今のような4s4kiとしての活動が始まるターニング・ポイントはどんな感じでしたか?
専門学校でトラックメイクを教えてくれていた先生が舞台音楽を制作している会社の人で。その先生と仲良くなって「社会に向いてないんです」とか「アルバイトができないです」みたいな相談をしていたら「じゃあウチで働いて、音楽で稼げばいいじゃん」と言ってくれて、舞台音楽の制作アシスタントの仕事をさせてもらうようになったんです。そのなかで「女の子の声が足りないから仮歌を入れてほしい」と言われて送ったときに、すごく褒めてくれた人がいて。「自分でアーティスト活動とかすればいいのに。もったいない」みたいなことも言ってくれたので、自信はなかったけどやってみようかなって。そこから路上ライブを始めたんですけど、その動画をKussyさん(所属事務所・ササクレクト代表)が見つけてDMを送ってきてくれたり、同じ頃に釈迦坊主さんが主催しているイベントにブッキングしてもらったりして、本格的に活動するようになっていきました。
――釈迦坊主さんやササクレクトとの出会いで、聴く音楽の幅も広がっていきました?
そうですね。新しい音楽に触れる機会を作ってくれたと思います。釈迦坊主さんのイベントに出させていただいたときは、みんなSoundcloudに音楽をアップしていたんですよ。そこから「こんなに格好いい音楽があるんだ」ってSoundcloudにもハマっていった感じです。
――ここ最近はどうでしょう? Spotifyに発表している自身のおすすめ楽曲のプレイリストはかなりバラエティに富んでいますが、どんなふうに好きな曲を見つけていますか?
私はそんなに新曲をチェックするほうじゃなくて。Spotifyを使ってるんですけど、関連アーティストがズラっと出てくるじゃないですか。ジャケットとかアー写が格好いいなと思った人を見つけて、そこから音楽を探っていくのが多いですね。
――メジャー・デビュー・アルバムの『Castle in Madness』ではZheani、Puppet、Smrtdeathなど海外アーティストとのコラボもありました。このつながりはどう生まれたんでしょうか?
インスタですね。Zheaniはたまたまコメントとフォローをしてくれたので。もともとZheaniの音楽を聴いていたので、嬉しくなって「一緒に曲を作ろうよ」ってDMを送って、OKだという話になったので、そこからスタッフさんを交えて一緒に曲を作ることになりました。Puppetは、私の友達のトラックメーカーのgu^2が友達だったんです。Puppetが「4s4kiの曲をリミックスしたから聴かせてくれ」ってgu^2に送ってくれて。「じゃあ、せっかくだから一緒に曲を作ろうよ」みたいになった感じです。Smrtdeathもインスタのやり取りですね。私が一方的に「あなたの音楽は格好いいです」と送っていたところから、たまたま実を結んだという。
4s4ki - gemstone feat. Puppet(Official Music Video)
――改めて、アルバムはどんな作品になったと思いますか。
めちゃめちゃ気合いを入れて作った作品でした。メジャーでどれくらいまで好きなようにやらせてくれるのか、どこまで攻められるのかみたいなことを探った結果、すごく自由にさせてくれたので。私の内面的な二面性みたいなものも表してるアルバムだと思います。すごくダークな曲もあれば、すごくポップな曲もある。自分はこれだけ自由に幅広く音楽を作れるんだよ、というのをアピールしたかったアルバムですね。
――アルバムのリリース後には【FUJI ROCK FESTIVAL】への出演やツアーもありましたが、振り返ってどうでした?
正直、フジロックが自分のライブ・パフォーマンスの一つの引き金になっていて。あのときは本当に記憶がないんですよ。完全にナチュラルハイになっちゃって。初出演で緊張していたのもあったと思うんですけど、正直、歌はめちゃくちゃだったんです。でも、すごい楽しかった。やり切ったという思いだけ残っていて。ツアーはフジロックほど飛ばしすぎないようにしつつ、それくらいアグレッシブさは残したいという気持ちで練習するようになりました。結局、感情に身を任せればいいライブができるということがわかったので。「ライブの神様が降りてくる」みたいな表現をしてるんですけど、そうなったら上手くいくように思います。
4s4ki - 胎内(FUJI ROCK 21)
――ギターを持ったり、パンキッシュなステージ・パフォーマンスも増えてきていますよね。このあたりも、自分の音楽性が変わってきたという感覚はありますか?
そうですね。アングラなファッション界隈ではまたちょっとパンク・ファッションが流行りつつあって。そこから昔のアヴリル・ラヴィーンのジャケットを見たり、昔好きだった曲を聴いていたら「やっぱり格好いいな」と思って。グライムスにもとても影響を受けていることもあって、ソロアーティストでも枠に囚われないパフォーマンスをしたいという思いが芽生えて、ギターの演奏も取り入れたって感じですね。
――去年にはポップ・パンクのリバイバル・ムーブメントも出てきましたが、そのあたりとの同時代性みたいなものも感じていましたか?
全然意識はしてなかったですけど、たまたま同じ流れになったのはすごく嬉しかったです。2000年代初期のリバイバル・ブームがファッションでも音楽でもありますよね。自分が思春期のときに本当に好きだった音楽なので、それも嬉しいことでした。
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センスの共有から広がるコミュニティの輪
――最新作の2枚のEPについても聞かせてください。『Here or Heaven』と『Here or Hell』は対になるコンセプトなんですよね。これはどういうアイディアから出てきたんです?
今回も二面性というのは表現したくて、曲のストックもたまっていたし、2枚出せることになったので、せっかくだからタイトルも対になる言葉を考えました。天国と地獄って両極端じゃないですか。そういう両極端な二面性を出しつつ、どっちか1枚しか聴いてない人にも4s4kiというアーティストがわかるようにしたかった。そういうことを意識して作ったEPです。
4s4ki - 0h G0D!! (Official Music Video)
――天国と地獄が表裏一体みたいな感じもありました。
そうですね。天国も地獄も死んだ後の話なので。言ってしまえば一緒かなっていうのもありますし。歌詞のニュアンスも少しずつ変えたり、細かいバランスをとって書いていきました。
――歌詞はどんなふうに書いているんでしょうか?
私のリリックは自分の内面を表していることが多いですね。私、躁と鬱の感情差がすごい激しいので。どっちかのマインドのときにバーっと頭の中に文字が出てくる。降りてくるって感覚です。そうやって書いたものをずっとためていて。1曲まるまるってよりは断片的なメモもあるんですけれど、それをつなぎ合わせたりして歌詞を書いてます。
――『Here or Heaven』ではYultron/Star Seedが「space coaster」のアレンジに参加したり、Curtainsが「砂漠」のトラックを提供したりしていますが、これはどんなふうに作っていったんでしょう?
これは向こうからのアプローチですね。Yultronは「4s4kiと一緒にやりたい」と連絡をくれて、Curtainsもトラックを送ってきてくれました。
4s4ki - space coaster (Official Music Video)
――パンデミックで国境を超えた往来が難しくなっていた時期でしたが、そんなことにはまったく関係な同志を増やしている感じがありますね。
なんせ私はインターネット大好きっ子だったので。こんな時代だからこそ国境を越えられるチャンスだと思って、ネットを駆使しています。DMを送って、作ったものを投げたら「いいね」って言ってくれて。そしたらすぐに送り返してくれる。言葉で話すというより音楽で会話している感じです。
――センスを共有しているからこそ、そういうやり取りになるんでしょうね。ジャンルやカテゴリというよりも「こういうものが格好いい」という感覚をシェアしている人たちのインターネットを通じたゆるいつながりがあって、それが結果的に“Hyperpop”とか“Digicore”というキーワードで言い表せられるようになったのかなとも思いました。
うん、そうだと思います。格好いいと思うもの、きれいだな、美しいなって思うものが近しい人たちって感覚的にわかるんですよね。そういう人たちは自然に集まってくるというか、つながるんだなっていうのも感じました。
――ちなみに、この後やってみたことは?
今一番やりたいのは、今までコラボしてくれた海外のアーティストたちを日本に呼んで、日本で“4s4kiフェス”をしたい。まだできるかどうかわからないけど、できたらいいなと思います。
――ちなみにこの先、コラボしてみたい人にはどんな人がいますか?
たくさんいてキリがないんですけど、ひとつ挙げるなら、私が17歳くらいのとき、トラックメイクの勉強をしていた頃にPorter RobinsonとMadeonの曲をよく聴いて耳コピしたりしていたんですよ。それが自分のルーツの一つにもなっているので、Porter RobinsonとかMadeonとかにも一緒に曲作ろうよって言いたいし、できたらいいなと思ってますね。
――長期的な目標として、こういう存在になりたいというのは?
具体的なものとしては、コーチェラにいつか出たいなというのはあります。ただ、全ては巡り会わせだったり、運命とかだったりだったりすると思うので。一番は、自分が格好いいと思うことを曲げずにずっとやっていきたいですね。
4s4ki - Live in Parallel World 2022 [YouTube Edition]
※6/23(木)23:30からプレミア公開。【SXSW2022】にオンライン出演した際のライブ映像を再編集した、4s4kiの新章開幕の狼煙となるスペシャルライブ。
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Castle in Madness
2021/07/07 RELEASE
VICL-65538 ¥ 2,644(税込)
Disc01
- 01.gemstone feat.Puppet
- 02.FAIRYTALE feat.Zheani
- 03.m e l t
- 04.ALICE feat.Smrtdeath
- 05.天界徘徊 feat.釈迦坊主
- 06.moonlake
- 07.幸福論
- 08.Sugar Junky
- 09.OBON
- 10.UNICORN
- 11.STAR PLAYER
- 12.kkkk
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