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たむらぱん 『wordwide』インタビュー

たむらぱん 『wordwide』 インタビュー

 本文で、たむらぱん自ら「一区切り」と発言しているが、前作より僅か9ヵ月のインターバルで発表されるニューアルバム『wordwide』は、彼女のこれまでのキャリアにおけるひとつの到達点。音楽的にも、メッセージ的にも、アートディレクション的にも、あらゆる面でひとつの高みに達した大傑作となっている。

 それだけの作品を生み出した側らで、彼女は松平健『マツケンカレーの唄』を手掛け、ヴィジュアル系とアイドルとの対バンに挑み、初の展示会【たむらてん】を開催し、新たな世界への歩みを止めずにいる。今回のインタビューでは、そんなたむらぱんの天井が見えない可能性について迫った。

松平健~対ヴィジュアル系&アイドル~スピッツと

--「松平健さんが3種類のカレーを発売!プロモーション楽曲『マツケンカレーの唄』の作詞・作曲・編曲・コーラスをたむらぱん(田村歩美)が担当!」というニュースが舞い込んできたんですが、たむらぱん、すっかりマツケンさんのお気に入りですね。

たむらぱん:ハハハ!今回も前回同様にカレーの宣伝で、こういう企画にまた呼んでもらえたのは嬉しかったですし、逆に「こんな曲、歌ってくれるのかな?」みたいなところもあったんですけど(笑)快く歌って頂けて。大物の器の広さを感じましたし、経験値上げさせて頂きました。

--やっぱり曲作りはマツケンカレーを食べてから?

たむらぱん:曲作っているときはまだ食べられない感じだったので、想像で! インド編、欧風編、タイ編の曲をそれぞれ作りました。基本的にダジャレで構成されているので、好きな分野の仕事でしたね。ちゃんとふざけていい感じが。

--最近は外部交流が盛んですけど、8月の【-SuG VS たむらぱん VS BABYMETAL-】は、未だかつてないチャレンジだったと思います。ヴィジュアル系とアイドルとの対バン、いかがでした?

たむらぱん:本当に楽しかったですね。BABYMETALちゃんはすごく若いのにプロっぽいと思ったり、各アーティストが大事にしているところ。これまで一緒にやってきた人たちとはまた違う部分で感じました。あれはすごく良い経験だったなぁ。やっぱりそんなに多くはない機会だと思いますし。

--トップバッターで登場し、BABYMETALファンに「別に私がずっと出ててもいいんだよ」と嘯くシーンは上手いなと思いました。

たむらぱん:(笑)。私、BABYMETALちゃんに対しては本当に後悔していることがひとつあって、開演前に彼女たちが挨拶してくれたんですよ。ポーズを決めて「SU-METAL DEATH!!」って。それをなんで私はステージでやらなかったんだと!

--(笑)

たむらぱん:普通に挨拶しちゃった。そこだけが……あれをやっていたら盛り上がったんだろうなと思うと、心残りなんですけど。あれだけはいつかリベンジできたらなと思ってるんですけど。

--その為だけにもう1回対バン!? で、あのライブの最後は、SuGと繋がるきっかけとなった「ジェットコースター」で、全出演者のファンを鼓舞させるという感動的な光景を生み出しました。ステージに立っている側の手応えとしてはいかがだったんですか?

たむらぱん:本当に未知のイベントだったんですけど、その最後の感じとかも含めて「こういうお客さんたちがいてくれて、だから一緒にできるのかな」って。アーティスト同士の繋がりで何かをやることはもちろんあると思うんですけど、お客さんの繋がりが自分たちにとってどれだけ大きいか。そこが繋がってくれないと出来ないイベントだったと思うし、出てよかったと思えた一番の要因でしたね。お目当てじゃないアーティストのライブも楽しもうとしてくれている、そう思うとグッと来ちゃう。

--あのような異種交流は、楽曲の良さはもちろん、世間が持つ“女性シンガーソングライターのイメージ”からの脱却、たむらぱんの独自性を知ってもらう為にも必要な作業だと思うんですが、自分ではどう捉えていますか?

たむらぱん:すごくそうだと思いますし、ようやくそういうところが出来るようになってきたのかなって。で、そこが出来るようになると、自分のこともすごく好きになるというか、大事に思えたりするところはあって。だから私にとってもすごく必要なことだと痛感しました。そういうことが出来る自分ももっと培わなきゃいけないなって。やっぱり言ってるだけで伴ってないのは、一番みっともないなと思うので。

--そういう意味で、対バンしてみたいアーティストって誰かいますか?

たむらぱん:希望としては…………、スピッツ。

--デカイ名前が出てきましたね!

たむらぱん:前からスピッツは好きなんですけど、話題というか、ネタという感じじゃなく、音楽として一緒にやる。というところでの憧れはスピッツなんですよ。あとは、日本人じゃない人とやってみたい。今回、Shing02さんと「でもない feat. Shing02」を作ったニューヨークで会った人たちもそうだったんですけど、音楽の捉え方としてアーティストより作品が優先されている。そこは今の日本とは逆なような気がしていて、海外の方が音楽の見方がすごくフラットだから、一緒にイベントやるならそういう人たちとやってみたい。

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--また、新たなチャレンジと言えば、10月19日~28日 渋谷パルコ PART1 6Fのギャラリースペースにて展示会【たむらてん】を開催。たむらぱんのCDジャケットで使われたイラストの原画を含め、今まで描いてきた絵の中から厳選した作品を展示しているそうですが、こちらはどういう経緯で実現することに?

たむらぱん:前回のアルバム『mitaina』リリース以降、Shing02さんとのコラボもそうだったんですけど、展示会もどこかでやりたいと思って、時期や場所についてみんなと話し合っていて。そんな中、2.5Dさんから「トークイベントをやりませんか?」というお話を頂いたんですけど、展示もできると聞いたので「じゃあ、展示会も」という感じで決まったんです。

--たむらぱんがイラストに目覚めたきっかけって何だったんですか?

たむらぱん:イラストを書く環境ができたのは、音楽があったからですね。ジャケットを描くとか。音楽をやってなかったら、ここまでイラストも書いてなかったかもしれない。音楽を始めて、最初にデモテープを送る作業のときから封筒も自分で作ったりして。そこからですね。

--たむらぱんのあらゆる表現方法の中で、イラストやジャケットってどういう立ち位置なんでしょう?

たむらぱん:音楽に絡めたものに関しては、楽曲全体のイメージの一部を切り取ることが多いかもしれないですね。他のただ書くものに関しては、ぶっちゃけ分かんなくて(笑)。気付いたらこうなってるというか、線が線を呼んでいくイメージです。で、後からそれを読み解く感じなんですよね。

--アートワーク周りの話は2.5Dでより深く聞かせて頂くとして(このインタビューは、10/20(土)2.5Dイベント前に敢行。同イベントのレポートはこちら)、10月24日にニューアルバム『wordwide』がリリースされます。まだ前アルバム『mitaina』から9か月しか経ってないんですけど……この異様なペースは一体なんなんですか? もう漲っちゃってしょうがないの?

たむらぱん:(笑)。私はインディーズの頃からずっと似たような作り方をしていて、なんとなく景色が続いている。今回も前作『mitaina』制作時の頃から録っていたものはあったし、景色は一続きではあると思うんですけど、このペースでアルバムを出すことについては「今、貯めておいてもしょうがない」「今、出しておきたいものがあった」という想いがあったからですね。

--あと、毎回アルバムは『mitaina』『ナクナイ』『ノウニウノウン』『ブタベスト』と変わったタイトルを付けてましたけど、今回は『wordwide』とシュッとした格好良い感じになってます。

たむらぱん:シュッとしてます(笑)。タイトルは最後に考えたんですけど、このアルバムをどういう風に表現するか。タイトルひとつでこの世界を崩さないようにしなきゃと思っていて。で、今回、5枚目のアルバムということで、これまでのことを振り返ったとき、アレンジとかいろんなことが出来るようになって、いろんな人とも作業するようになって、伝え方も分かるようになってきて。その中で自分が変わっていないところって、歌詞とか、言葉の部分かなと思って。そもそも自分の音楽は、音よりもそっちが優先で作られているものだったなって、改めて感じたんですね。それをこのアルバムで敢えて注目してもらうのも良いなと思って。音に拘ってるのは当然のことっていう感じだし。で、自分の音楽は言葉が広げている、という解釈が一番相応しいと思って付けました。

--その『wordwide』、どんなモードやコンセプトで制作していったの?

たむらぱん:大きいコンセプトはなかったんですけど、でも録りながら「これを聴いてもらえないのは有り得ない」と思える瞬間がいっぱいあって、そうした楽曲が詰め込まれた作品ですね。あと、偶然か分からないですけど、今作は遠いところの話じゃなく、ものを見る、その対象との距離が近い作品になったと思って。ベーシックは自分の存在から始まって、自分が何かするときの何かや誰かとの関わり方が集まったアルバム。表現が神様的じゃない感じが多いかな。

--なんでそうなったんでしょう?

たむらぱん:本来はそうだったと思うんですけど、どこかで客観的な方が良いと感じるようになっていったんだと思う。でも「客観的にしたい」と言っている時点ですごく主観だなとは思っていたので、そういうところをもっと素直にしたというか、元に戻したというか。

--また、前回のインタビューでは「今回『new world』を放ったんですけど、そこからどこかに繋がるとかじゃなくて、また元の場所から違うモノを違う場所に放つって感じだと思うな。続きというよりは。だからまた違う山に登る」と言っていましたが、その通りのアルバムになったと思いますか?

たむらぱん:思いますね。今回「new world」を1曲目に置いて入口的な役割を担ってもらってるんですけど、かと言ってその世界に他の曲が引っ張られることは少しもなかったですし。

--では、今作は12種類の山を登った結果だと?

たむらぱん:そうですね。だから次はひとつの山でアルバムを作る、というチャレンジになっていくのかなって。今回これだけの山を登ったので。ただ、コンセプトをガッツリ決めて作り出したときに、どこかで飽きちゃう自分が出てきそうで怖いんですよね(笑)。でもそういうのも挑戦と言えば挑戦なので、やってみてもいいなって思っています。浮気をせずにひとつの山だけを見つめる。

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人生のテーマを曲に~いろんな経験の一区切り

--今作収録の新曲で、自分が最初に聴いたのは「ぼくの」で。6月のアコースティックワンマンライブで、泣き叫ぶように「僕をなき者にしないでよ!」と歌い上げるたむらぱんの姿には、これまでのイメージを超越したエモーションと衝撃がありました。何がどうなってこの山は登ることになったんでしょう?

たむらぱん:何かを作っていく上での原点。それを曲にしてみたっていう感じはあるのかな。なんだかんだ言って自分も、何かをやる=自分の存在意義をどれだけ感じられるか。それが人生のテーマなんだろうなと思うし、それを曲にした。私は音楽って良い意味で夢物語であってほしいんですけど、やっぱりリアルもないと楽しくないと思うし、嘘じゃないことを作品にしたいとは思っていたし。で、そもそもこの曲はアルバム用とか、何か用に作っていた訳ではなくて、いつか出せたらいいなと思っていたんですけど、ようやくこういう曲を入れられる時期がやってきたんだろうなって。

--それにしても「僕をなき者にしないでよ!」「僕はまだここにいるんだよ 忘れないで お願い」って凄いフレーズですよね。

たむらぱん:どれだけ寂しいんだっていう(笑)。こういう想いって、関わる人が多くなればなるほど出てくるものだと思っていて。私、知らない人って好きなんですよ。知り合うしかないから。でも知り合った人とは知り合わなくなる可能性が出てくる。そういうパターンになるじゃないですか、展開としては。だから知った人が増えれば増えるほど、その恐怖も増えるのかと思うと怖いなと思って。いろんな人と関われるのって良い状況だと思うし、だからこそそうした想いも膨らむ。自分自身の状況も反映されている、ややノンフィクションの曲。

--この曲はたむらぱんを知ってる知らない関係なく、たむらぱんが本気で歌えば誰もが振り向く1曲だと思います。歌うとどんな気分になりますか?

たむらぱん:歌っているときは、自分のことみたいに歌っちゃうかも。でも聴いているときは、「ぼくの」って人のことだけじゃないなと思って。その辺に咲いている花とか、ここにある椅子とか、何にでも当てはまる。椅子も座られなくなったら存在意義を見出せなくなるんだろうなと思ったり(笑)。

--続いて「でもない feat. Shing02」。これまた新機軸じゃないですか。本当に1曲1曲、違う山に登ってるんだなと驚いたんですが、自身ではこの曲はどう評価されていますか?

たむらぱん:この曲は「ぼくの」よりは自分のことを刺すような言葉はないんですけど、これも私が人と関わる中での、いつも疑問に思っている部分ではあって。人が話すときの単語って、自分の想いに近いものを選ぶじゃないですか。でもその単語でさえ本当は当てはまってないんじゃないか、とか。考え出すとキリがないんですけど、それぐらい人と何かやるというのは繊細なことなんだと思っていないと、自分も悲しいことになるかもだし、相手もそうなるかもしれないし。そういうことを考えながら書いたので、一番答えが分かりにくくなっている曲だなとは思いますね。だからこの曲を聴いた人がどう思うのか、みんながどう思っているのか、教えてもらいたい。

--Shing02とはどういった経緯でコラボすることに?

たむらぱん:前にShing02さんのアルバムに参加させてもらったときに「自分の曲でもできたらいいな」と思っていて。でも、Shing02さんのことを好きになったきっかけは言葉の部分だったので、そこをすごく大事にする曲じゃないと一緒にやりたくなかった。っていう中で、この曲が出来たときに「この曲でやりたい」と思ったんですよね。で、音とかもShing02さんに託そうと思ったのは、いつものたむらぱんとは違った形で聴いてほしい曲だったからで。全然知らない人たちが聴いてくれる機会も増えると思ったし。あと、自分でやるとダサい曲になるなと思ったんですよね(笑)。

--あと、今作にはクイーン「ボヘミアン・ラプソディー」級の大作、自身の「ファイト」を上回る組曲的大作「おしごと」が収録されています。たむらぱんのやってやった感が満載ですけど、自身では仕上がりにどんな印象を?

たむらぱん:前のアルバムの制作時から録っていたんですけど、そこから7ヵ月ぐらいかけてどんどん重ねていった曲で。詰め込んだなって思いますね。で、それだけ状況が変化していくので、周囲とのイメージの共有ってすごく大事だなと改めて教えられましたし、そういうところをいろいろな意味でクリアーできたから、達成感がすごくあるんですよね。

--一歩間違えれば「複雑」という印象で終わる楽曲にもなりかねない訳ですけど、それをポップミュージックに昇華するのは、きっとたむらぱんにとって一番面白い、やり甲斐のある作業なんでしょうね?

たむらぱん:そうでしたね。でもこれも結局はメロディに対してアレンジとかを当てはめていったんですよ。だからポップさってやっぱりメロディの流れによって形成されるんだなって。アレンジよりも。さっきのイラストの話じゃないですけど“そこに従う”みたいな。それによって続いていく、繋がっていく。

--この曲、世界中のミュージシャンやアーティストに聴いてほしいです。多くの人が驚愕、もしくは爆笑すると思いますよ。

たむらぱん:爆笑してほしい!

--今、3曲ほどピックアップしましたけど、今作には他にもポップな衝撃作が目白押しです。アルバム全体の仕上がりにはどんな印象を?

たむらぱん:自分にとっては、いろんな経験の一区切りみたいな感じ。アレンジだったり、技術的な部分だったり、音としての経験においての一区切り。だからこれと同じことをしても次はつまんないだろうなって思っているんですよ。

--ということは、ある種の到達があったということですよね。だからこそ今のたむらぱんの、音楽的にも、メッセージ的にも、ライブ的にも、アートディレクション的にも、あらゆる面で高まっている感じはしっかりと伝わってほしい。その想いは強くあるんじゃないですか?

たむらぱん:あります、あります。そういう意味では、タイトルとジャケットの関係性とかも含めて、各要素たちが力を合わせている感じは今作にはあるような気がしていて。みんなで手を取り合って「これを聴いてもらおう」みたいな(笑)。そういう雰囲気は見えますね。

--正直なところ、たむらぱんってどんな風に評価してもらえるのが一番嬉しいの?

たむらぱん:そこって難しいんですよね。私って欲しがるし、でもビビるし、すごく面倒くさいというか、ややこしいと思ってるんですけど。でも……カリスマ的ではなくてもよくて、興味ない人に好きになってもらえるように頑張るっていうよりは、自分のことを好きでいてくれる人に褒められたい。だからいろいろやってみるのかもしれないし。例えば、ウチの親は、私がマツケンさんの曲を作ったら喜んでくれるんですよ(笑)。そこって結構大事だなと思ったりしていて。自分の意欲にもなっているのかなって。

Music Video

TAMURAPAN「wordwide」

wordwide

2012/10/24 RELEASE
COCP-37599 ¥ 3,080(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.new world
  2. 02.おしごと
  3. 03.でんわ
  4. 04.ぼくの
  5. 05.はだし
  6. 06.ST
  7. 07.ふれる
  8. 08.直球
  9. 09.ヘニョリータ
  10. 10.ポーズ
  11. 11.知らない
  12. 12.でもない feat.Shing02

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