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<インタビュー>s-ken、ニューアルバム『P.O. BOX 496』誕生に秘めた想いを語る
1984年に結成されたs-ken & hot bombomsが、5月11日にリリースされたニューアルバム『P.O.BOX 496』を携えて、7月20日にBillboard Live TOKYOにてライブを行なう。これは必見だ。
ニューヨーク・パンクの勃発を現地で目撃し、帰国後に日本独自のパンク・ムーブメント<東京ロッカーズ>を牽引。クラブカルチャーの勢いが増した80年代には伝説的なライブシリーズ『TOKYO SOY SOURCE』をスタートさせ……といった説明は長くなるのでここではいいだろう。そのs-kenが2017年に26年ぶりとなるアルバム『Tequila the Ripper』を発表した際、こう話していた。「もしもまた次を作れる状況があって、自分の頭が働くようだったら、そのときはs-ken & hot bombomsのアルバムを作りたいね。hot bombomsは今も全員元気で、歳をとるほどに深いバンドサウンドが出てきている。だから今回のようにs-ken個人としてのアルバムではなく、全編バンドサウンドのアルバムを作りたいんだ」。
それを実現させたのが『P.O.BOX 496』であり、s-ken & hot bomboms名義では『SEVEN ENEMIES』(1990年)以来、実に32年ぶりとなる新作だ。ファンク、ヒップホップ、アフロビーツ、パンク、ダブ、スカなど多彩な音楽要素を盛り込み、歌とトーキング・スタイルを混ぜながら過去と現在と未来の繋がる物語を伝えるs-ken。そして凄腕メンバーたち(窪田晴男/ギター、小田原豊/ドラムス、佐野篤/ベース、矢代恒彦/キーボード、ヤヒロトモヒロ/パーカッション、多田暁/トランペット)の革新性と円熟が理想的に現れたhot bombomsのバンドサウンド。唯一無二のその合わさりによるグルーブを、今度はライブでも体感できると思うと、今から楽しみでしょうがない。s-kenに話を聞いた。
s-ken & hot bomboms、
待望のニューアルバムの誕生
「革新性を前に出したかった」
――2017年に26年ぶりのアルバム『Tequila the Ripper』が出て、翌2018年には自叙伝(『都市から都市、そしてまたアクロバット S-KEN回想録1971-1991』)も出ました。その後コロナ禍があったとはいえ、今度は32年ぶりにs-ken & hot bombomsのニューアルバムが作られたということで、s-kenさんのなかの表現意欲みたいなものがこの数年途切れずにあることを感じます。
s-ken:コロナ禍が始まるちょっと前に、bombomsのメンバーからおりいって相談があると連絡がきたんですよ。「電話じゃ話せない」と言うから重い話なのかと思ったら、「珍しくメンバー全員のスケジュールが空いている日があるから、何かやりましょう」と言うんで。「じゃあ、新曲をレコーディングしよう」と即答してしまったんです。次はs-ken & hot bombomsとしての作品をつくりたかったからね。新曲はまったくないのにね。バンドが僕にやる気を見せてくれているのなら、チャンスだと。で、とりあえずすぐに2曲作って、「夜空にキスして天国を探せ」と「Low & High」を録った。そしたらコロナがきちゃったでしょ。それで、2曲じゃしょうがないから、あと6曲くらい書いたらアルバムにできるだろうと思って、集中して曲を書いたんです。

――ある意味、成り行きだった。
s-ken:そう。今までの僕の人生、ほとんどが成り行きですから(笑)
――でも「作りましょう」ってなって、すぐに制作モードに入っていけるのはすごい。
s-ken:『Tequila the Ripper』にスカパラホーンズが参加してくれた曲があったでしょ。あれは、レコーディングが始まっている段階で「ここのホーンはスカパラホーンズのイメージだな」って僕が言ったら、スタッフが次の日に「OKです!」って言って実現したものでね。そういうノリで、結局30数人ものミュージシャンがアルバムに参加してくれた。そのときにも思ったんだけど、歳をとってきて、困難が待ち受けていても自分の思うことが意外とその通りに実現していく感覚があるんですよ。
――イメージすることと、それを口にすることが大事だし、そうすれば叶うと。
s-ken:うん。しぶとくやればね。例えば今回のアルバムはコーラスで3人の女性が入っているでしょ。『Tequila the Ripper』のときに2曲くらい女性コーラスを入れたんだけど、それがすごくよかったんです。で、今回は3人。ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズのライブを1975年に観たんですけど、それはあのスタイルになった初めてのライブで、女性コーラス隊がいることがすごくよかったんですよ。
――アイ・スリーズですね。
s-ken:そう。あの当時のレコーディング作品を聴いても、アイ・スリーズがいるのといないのとでは大違いで。それで僕のアルバムも今回は全曲に女性コーラスを入れたいと思ったんです。で、まず、前にライブでもやってくれたTigerとエイミ・アンナプルナがやってくれることになって。レコーディングを進めていたら、たまたまなんだけど中山うりから連絡が来てね。僕がプロデュースした『VIVA』(2011年)というアルバムがアナログ盤になるので、「その節はありがとうございました」と。「ところでs-kenさんはいま何をしているんですか?」って言うので、レコーディングしていると答えたら、「よかったら私も参加させてください」って言うわけですよ。「あれ? これで本当にアイ・スリーズみたいになっちゃうな」って思ってね。3人とも以前に僕がプロデューサーとして長く関わってきたわけだけど、今はみんなスケジュールを押さえるのも大変な人たちで、それなのに揃って僕のアルバムに参加してくれるという。なんか夢が叶ったような気持ちがありましたね。

――『Tequila the Ripper』はソロ名義でしたが、今作『P.O.BOX 496』はs-ken & hot bomboms名義。s-kenさんとしても、このバンドがいかに凄くて最高のバンドであるかを改めて見せつけたいといった気持ちがあったんじゃないかなと考えたんですが。
s-ken:いや、見せつけるとかそんなことは考えていなかったけど。ただ、何か新しいものを作るというときに、それまでと同じことをするんじゃなくて、何かしらの革新的なことを盛り込みたいというのはいつも思っていることでね。37年も関わり合えば、それぞれのメンバーの持ち味はわかるわけですよ。それで今回はハーモニーとかアドリブ性よりも、リズムアレンジの革新性を前に出したかった。今は世界の音楽シーンを見ても、リズムの革新性が鍵になってきている。例えばザ・ルーツというバンドのクエストラヴってドラマー がいるでしょ。それに彼を進化させたようなクリス・デイヴというドラマーがいて、“ドランクビート”といわれるような新たなグルーヴが登場してきた。だから今回はプリプロしたものに対して、彼らと同期するようなhot bombomsなりの革新的なリズムアレンジをしようとメンバーに伝えたんです。そうしたら「s-kenさん、だったらクリス・デイヴを呼んできたら?」って言われちゃったけど(笑)。「いや、そうじゃなくて」って言ったら、佐野篤(ベース)がこう言うんですよ。「s-kenの考えていることはひとりじゃできないけど、3人ならできる」と。ドラムとベースとパーカッション。それで、プリプロから彼に参加してもらい、試行錯誤して僕の意向に近づけていったんです。

――聴けば確かに強烈なリズムに惹きつけられる曲が多い。
s-ken:特に顕著なのが最後の「マジックマジック」という曲。この10年くらいで、アフリカではGqom(ゴム)などいろんなダンス音楽が出てきたけど、特にUKにはアフロビーツ・チャートが新設されて、南アフリカやナイジェリアを中心に若い人たちが斬新なサウンドを大量に生み出している。そういうのにも感化されたところがあってね。「マジックマジック」では、普通だったらドラムが先導してそこにパーカッションが乗っかってくるところを、パーカッションがベースにあって、その上にドラムが乗っかってくるという通常の逆のリズムアレンジに挑んだんです。そうやって最前線のドランクビートやアフロビーツと同レベルのグルーヴを作りたかった。そのアイデアを、プリプロルームで佐野篤と相談しながら一個一個打ち込んでいったら、形が見えてきたんです。
――s-kenさんのなかでは、予めグルーヴのイメージがあったわけですね。
s-ken:うん。佐野はアフリカに行ったりとかしてリズムの捉え方を習ってきている人だから、メンバーからリズムアレンジに関して一番信頼されている。あのヤヒロトモヒロ(パーカッション)が、彼を頼りにしているぐらいだからね。それで、「じゃあリズムセクションだけ練習しよう」ってことになったときに、小田原豊(ドラムス)が「このリズムをいますぐにはできないから、家で練習してきます」と言うんですよ。そしたら佐野が「いや、俺が口で言うから、その通りに叩いてみてよ」って。それで30分くらいやっていたら、hot bombomsのグルーヴがみるみるできていった。長年やってきたバンドサウンドの醍醐味だよね。

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己に向き合い挑戦し続けたアルバム制作、
そして5年ぶりのビルボードライブ東京へ
公演情報
s-ken & hot bomboms
“P.O. BOX 496 CONNECTION 2022”
ビルボードライブ東京
2022年7月20日(水)
1stステージ 開場17:00/開演18:00
2ndステージ 開場20:00/開演21:00
>>公演詳細はこちら
Interview&Text: 内本順一
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