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<対談インタビュー>久保あおい×上野大樹、初のコラボ「邂逅」を語る



 久保あおいが新曲「邂逅」を4月29日にリリースした。本楽曲は、久保あおいの“心の物語”第2弾として、彼女にとって恩人とも呼べるシンガーソングライターの上野大樹が楽曲提供をしている。
 今回ビルボードジャパンでは、久保あおいと上野大樹の初の対談インタビューを独占公開。コラボレーションの経緯やお互いの印象、「邂逅」に込められた二人の思い、今後のビジョンなど、たっぷり話を訊いた。

Interview:永堀アツオ/Photo:堺柊人

命を救われ、歌う道を示してくれた上野大樹の歌

――久保あおいが歌う自身の“心の物語”第2弾として、シンガーソングライターの上野大樹さんに楽曲提供を依頼した経緯から聞かせてください。

久保あおい:もともと、上野さんの「て」と「ラブソング」がすごく好きで、ループして何度も聴いていたんです。特に歌詞が好きなので、マネージャーさんといろんな話をした時に、最初に上野さんに楽曲提供をお願いしたいと相談しました。

――どんなところに惹かれていましたか。

久保あおい:「て」には<悲しい時に笑わないで>という歌詞があるんですけど、本当に自分が落ちちゃった時に支えてもらったし、心の中では思ってるけど言葉にして口に言えなかったことを代弁してもらったような気持ちになって。すごく刺さったんですよね。「ラブソング」は自分がこの世を去ろうとしちゃった時に、こうやって本当に亡くなってしまった人もいるんだっていうことを知って、生きている実感をすごく感じたんです。

▲上野大樹「て」

――上野さんの曲が一人の少女の生を引き留めたんですね。

上野大樹:曲を書いたのは2~3年前で、そのときのことをあまり覚えてないんですね。歌い重ねていくうちに、いろんな意味が生まれてきて、曲を好きになってくれた方が、頑張って一歩を踏み出そうと思ってくれるような状況になった。だから僕ではなく、曲の成果だなと切り離して考えているので、曲に対して、ありがとうという感じです。

――作った時のことがあまり記憶にないんですね。

上野大樹:そうなんですよ。当時の僕はまだそんなにたくさんのリスナーがいたわけではないので、僕自身もすごくもがいている途中でいろんなものを生み出していたうちの数曲だったんです。だから、当時の自分を投影しているだけで。でも、そういうエネルギーみたいなものが、久保さんに届いてくれたのかなって思います。

久保あおい:私にとっては、私も救う側になりたいって思えた曲たちでもあったんですよ。こんなに歌詞って心に刺さるんだっていうことを教えてもらった曲でもありましたね。

――命を救われ、歌う道を示してくれた上野さんにはどんなお願いをしたんですか。

久保あおい:上野さんの言葉の表現がすごくストレートで、歌いながら意味がわかるような歌詞がたくさんあったので、自分が書いた<心の居場所>という散文(https://novelist.jp/92817.html)を上野さんにお渡して、お任せで書いてくださいっていうお願いしました。ただ、散文では、私が心の居場所を見つけた時から、そこに行けなくなってしまった時までの実話を書いていて。ずっと切ないんだけど、その切なさの中に、暗いものがあったり、明るいものがあったりしていたので、この散文を渡しても大丈夫なのかなっていう不安もありました。

上野大樹:いろんな人がいる中で、みんなが持ってないような経験というのは、それが小さかれ大きかれ、誰もが1つはあると思うんですね。この散文をしっかりと歌詞に書けたら、みんなが大なり小なり抱えている、私は特殊な人なんだっていう部分に共感性を持てるかなと思って。すごくいい文章だったし、そこを見せてもらったからこそ、書きやすかったかもしれないですね

――散文を読んで上野さんはどう感じましたか。

上野大樹:人の人生を深く知る機会ってあんまりないじゃないですか。僕も、自分のことを仲のいい人以外に話すことはあまりなくて。だから、久保さんが書いた散文を読ませてもらったことで、しっかりと人の人生を見た感覚があって。僕は映画一本見たくらいの爽快感みたいなものを感じたんですね。だからこそ、自分とは全く違う部分もあるだろうけど、きっと共通点もあるだろうから、うまくその2つを汲み取って、言葉にしてあげたいなと思いましたね。

久保あおい:うわああああ、すごい(感激)。

――あははは。どうしました?

久保あおい:なんか……なんていうんだろう。私は自分の思ったことをまだうまく言葉にすることができなくて。それで、もやもやしたりすることがあるんですけど、上野さんは私にとってストライクな言葉をどんどん言うのもそうですし、自分の思いをちゃんと自分の言葉で表せるのがすごいなって思いました。

上野大樹:(笑)。全然、年齢が違いますからね。僕も16歳の時は今みたいにちゃんと喋れることなかったです。音楽を始めて、自分が思ってる気持ちをどうやったら人に伝わるだろうかっていうのを何年も繰り返して考えてきた結果だと思うので、久保さんもきっとやればできます。

久保あおい:本当ですか? 頑張ります!

上野大樹:逆に僕は16歳の時に久保さんが書くような散文を書けなかったですからね。もっとありきたりの言葉しかなかった。ただ、僕と久保さんでは持ってるものは違うので、自分のスタイルを突き進んで欲しいですね。

久保あおい:はい。刺さりました! ありがとうございます(笑)。

――(笑)。そこから楽曲制作はどのように進めていったんですか。

上野大樹:リリースを重ねることも聞いていたし、僕に頼んでくれた意味をしっかりと受け止めつつ、ちゃんと久保さんの言葉にならないといけないなと思っていて。だから、自分が普段は使わない言葉をあえて選んだところもあります。あと、16歳は強みである一方、弱みでもあって。人に比べられている部分もあると思うんですけど、それをうまくいかしたら、ピュアな言葉がもっと刺さるというか。僕が言ったら臭くなるような言葉も安心して書くことができました。

――散文を渡して3時間後くらいには第一稿のデモが上がってきたという話を聞いてます。

上野大樹:あまりにも早すぎて、適当に書いてるって思われたらどうしようと思ったんですけど。

久保あおい:いやいや、そんなことはないですよ。

上野大樹:久保さんも歌が書けたらすぐにそれを歌って返してくれて。何回かやりとりをしたんですけど、歌ってもらうと、「ちょっと違うかもな?」という部分もあって。実際に人が歌うとこんなに言葉の響きが変わるんだなっていうことは、僕の新しい経験にもなりましたね。割と、僕は悲しみや怒りをぶつけないようにして曲を書いているけれど、あえてぶつけることで、よりポジティブに誰かが救われるかもしれないなと感じて、ちょっと書き直したりしましたね。

久保あおい:(上野さんの書く)歌詞が深いんです。歌いながらすぐにわかる歌詞もいいけど、この曲は、考えれば考えるほど歌詞の良さが深まっていくというか。本当に言葉の表現の幅がすごく広くて。例えば、<悲しい>っていうことをそのまま<悲しい>っていうだけでなく、連想が広がっていくような言葉がたくさん並べて書いてあって。歌詞ってこういうことなんだなって思いましたね。

――何回かやり取りを繰り返して、完成に近づけていったんですよね。

上野大樹:そうですね。仮で歌ってもらった上で、細かい言葉遣いに手を加えて。例えば、2番のサビに<街をゆく一人ずつの心は知らないけれど>という歌詞があるんですけど、僕だったら<知れないけれど>って歌う。でも、16歳だったらもっと無防備な表現の方がいいかなとか。1つ1つの細かいディテールをしっかりと久保さんに寄せていって。あとは、何年経っても、何歳になっても、デビューした頃の曲が歌えるようにしたかったんです。その当時を思い出すというよりは、どの時代でも自分の言葉として歌えるように、いろいろ調整したりしましたね。仮の段階から歌ってもらって助かりました。

久保あおい:最初、上野さんからはギターと歌の動画を送ってもらって、それが上野さんの歌声に合っていて。それをどう自分なりにアレンジして歌うのかをとても考えました。例えば、<どんな明日もいらないと思っていたけどどうだろう>の<どうだろう>は下がった方が落ち着いてる感じが出て自分ぽいなと思ったので下げたり。自分が歌った時に、その歌詞がどう引き立つかを考えてて。結構、早いラリーだったけど、すごく歌いやすかったので、本当に心に思った感情をそのまま出して歌ってましたね。

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タイトル「邂逅」の意味とは?

――久保さんのとてもパーソナルなことを歌ってるようで、誰にでも当てはまるような普遍性もある歌詞になってますよね。

上野大樹:ありがとうございます。僕は普段からパーソナルだけど普遍的なものを歌いたいと思っていて。すでに僕のことを知ってる方が聞いた時に、「上野くんが思ってることはこういうことなんだ」って伝わると同時に、曲だけを聞いても心に響くような振れ幅があるといいなと思っているんですね。だから、この曲も彼女が書いた散文をもとに書いたけど、その散文を知らない人が聞いても、同じような気持ちを感じるような歌詞がいいなと思って。それは自分の制作と変わらない気持ちでやりましたね。

久保あおい:私もこの散文を書いたときのことを思い出せるし、初めて聞いた人も自分に当てはまるような歌詞になってる。あの長い散文をここまでまとめられることにも驚きましたし、本当に広い意味で捉えられる言葉を使ってて、まず、私の心に響きました。

▲久保あおい「邂逅」

――改めて、完成した歌詞にはどんなメッセージを込めましたか。

上野大樹:散文をいただいた時もそうなんですけど、初めて久保さんに会った時に放課後っぽい雰囲気を感じたんですよね。ちょっと悲しいけれども、また明日もあるっていう。あの散文も放課後っぽいことが書かれていて。16歳という背景があるからそう感じるのかもしれないんですけど、久保さんに会うといつも「学校終わりなのかな?」って感じるような、放課後のふわふわした雰囲気をまとっていて。ちょっと寂しげな感じがあるけど、まだ日は暮れてなくて、夜じゃない。曲の中でもそういう彼女自身の目線で見えてきたものをしっかりと置いていこうと思ってました。暗くもならないし、明るくもならないんだけど、放課後の時間が楽しくもあって。寂しいんだけど、心地の良いような曖昧な部分を書いてみたいなと思って。なので、ここにはあまり強いメッセージを書いたわけではないんですけど、曲全体を通して、そういう雰囲気がみんなの救いになればいいなって思ってましたね。

――「邂逅」というタイトルは?

上野大樹:僕が仮タイトルでつけて、難しすぎる言葉なのでどうかな?と思ったけど気に入ってくれたみたいで。「ふとした出会い」という意味が込められているんですけど、彼女自身はもう、大切な人には何人も出会っていると思うんですね。制作チームもそう。そういうのは、人数でも年齢でもないので、曲の芯に温かい出会いみたいなものが1つあるだけで、どれだけ悲しい背景があっても、ポジティブな歌になるんじゃないかっていう希望も込めて、このタイトルにしました。

久保あおい:苦しい過去があったからこそ、出会えた人たちがいるし、今、同じような思いをしている人たちにもこの曲と出会ってほしいし、届いてほしいし、聴いてほしいと思っていて。共感という感情は、自分が似たような思いや経験をしないと生まれないものなので、ちょっと辛い過去があるからこそ、そういう人たちと繋がれるし、それもまた出会いなのかなと。そういう思いに、一番当てはまる言葉が「邂逅」でした。

――実際に歌ってみてどう感じましたか。

久保あおい:歌いやすかったです。音程も、歌詞のハマり方も自分の声に合っていて、すぐに曲を覚えられました。

上野大樹:声、めちゃくちゃいいですよね。いい声って言うだけだと薄っぺらく感じちゃうから、別の言い方をすると、しっかりとご自身のキャラクターに合った声で、ストレートに胸に届くというか。いい歌だなって思いますね。

久保あおい:ありがとうございます。今、上野さんが私の声をどう思ってるのかわかって嬉しいです。

上野大樹:あと、歌うことが好きなんだなって言うのも伝わってきましたね。人によっては、歌うことが好きじゃないんだなって感じる人もいるけど、久保さんは好きで歌ってる。例え悲しい歌であっても、本当に好きなんだなってことが伝わってくると圧倒的に信頼できますね。あと、彼女は常に「誰かを救いたい」と言っていて。それは、この曲に関わったスタッフ全員が共通で意識していた、それも大きなキーワードだと思っていて。みんながみんな、彼女の想いを汲み取った楽曲になったのかなと思ってます。

――ボーカルディレクションは?

上野大樹:これはいらないですよ。デモの段階でめちゃめちゃ良かった。ミックスしたのが、僕もいつもやってもらっているエンジニアの山田晋平さんだったんですけど、本番のレコーディングが終わった後に晋平さんから電話かかってきて。「お前、あの曲、書いたのか? めっちゃいい歌だな」って褒めてもらって(笑)。初めて聴いた人もそう思ってくれたのが嬉しかったですね。

久保あおい:聞けば聞くほどいい曲ですよね。

上野大樹:僕もずっと聞いてます。カラオケに入ったら歌いに行こうと思ってます。本当に久保さんにピッタリの素晴らしい曲になったし、ここから、その時々に歌った時にどう変わるかが楽しみですね。彼女自身が明るくなったり、暗くなった時に、どんな色を見せてくれるのかが楽しみですね。

久保あおい:私も同じことを思っていて、その時の気持ちに合わせても大丈夫な曲になったと思うんです。自分がちょっと明るくなった時は過去を振り返るように歌えるし、暗くなった時は、ちゃんと自分と向き合える曲だなって思うので、本当に広い曲だなって思いました。

――最後に出てくる新しいメロディによる2行が気になってます。

上野大樹:最後の最後に歌詞を一番最初に書いた歌詞に戻したんですけど、<忘れてしまうことが怖いから、忘れてしまうことを忘れずに>っていう、ちょっと僕視点で書いてたんですね。25歳くらいの年齢って、大事なことを忘れちゃダメだなって思いがちなんですよ(笑)。でも、久保さんに歌ってもらったら全然ハマらなくて。スタートラインに立って、これから行こうっていう時は、そういうものを一回なしにして、闘いに行くようなことだなって思い直して。<忘れてしまうのは怖いけど/忘れてしまうことから始めよう>というのは、僕の中ではポジティブな意味ですね。全部、置いていって、どこかに行こうって。

――この道の先も気になる終わり方ですよね。ちょっと続きがありそうというか。

上野大樹:そうですね。またいつか機会がいただけるなら。僕はこのスタートの彼女を知ってるので、将来、また心境を聞いてみて、違う曲を書いてみたいなという気持ちもあります。でも、まずは、「邂逅」をどう歌っていくのか、ライブで聞いてみたいですね。

久保あおい:上野さんがみていると思うと、一番緊張しますけど、素直に歌えたらなと思います。もう何回も言っているんですけど、本当に上野さんの言葉の表現が自分にとってドストライクなんですよね。全部を表してくれるし、背景までわかる言葉があって。そういう言葉を自分も書きたいなと思うし、機会があればまたご一緒したいなと思います。

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曲を届けるのは時間がかかるから
何十年後も聞いて下さいって言えるようなものを

――最後に上野さんから、ビジュアルを公開し、自分の経験を歌い始めた久保さんにエールをいただけますか。

上野大樹:久保さんに将来の夢を聞いてみたいです。僕は25歳で、将来のことも考えるような年齢になっちゃって。いろんな潰しや方法、選択肢を考えてしまうので、もっとピュアな頃を思い出したいんですよね。僕はサッカーをやめたのがちょうど16歳で、全く夢もなかった。今もなんとなくというと失礼かもしれないですけど、サッカーをやってた時も、勉強は嫌いで、サッカーが得意だからやってただけであって。音楽を始めたときは、音楽が単純に楽しくて、今があるだけなので、あまり背負わずになんとなくで大丈夫だと思います。

久保あおい:あははは。ラフな感じでいいんですね。

上野大樹:自分は歌をやっていくんだとか、顔を出して、いろんな人に見られる仕事なんだって思うとちょっと苦しくなっちゃうかもしれない。でも作品を作ってるだけで社会人の人と何も変わりなくて。僕らがすごいわけでもないなってことを忘れずにやってほしいなと思います。

久保あおい:はい。心にしっかりととどめたいです。

上野大樹:でも、3回くらいは調子に乗ってほしいですけどね(笑)。ちゃんと黒歴史を作ってもらわないと、僕だけが調子に乗って黒歴史を作っちゃってるので。

久保あおい:ありますか、黒歴史?

上野大樹:ありますよ(笑)。ちょっと調子に乗って大きいことを言っちゃったり、友達の前で自慢しちゃったりとか。かっこ悪かったなっていう感じですけど、改めて、別に僕がすごいわけでもないなって思ってて。みんな、それぞれの人生があって、みんな目標や夢があるんだってやっと気づいたんですね。それは早く気づいて、社会貢献とかできたらいいなって思う。そっちが生きがいになると、周りの人も“人”に見えてくるし、自分も“人”になれるというか。最近、“人”になったので、僕。

――(笑)。ではそれぞれから今の夢を発表してもらえますか。

久保あおい:大きいステージでのライブにも出てみたいけど、それよりも、苦しいとか、辛いっていう方に寄り添えるような歌手になりたいです。どんなに自分が大きくなったとしても、初心を忘れずにやっていきたいと思います。

上野大樹:僕が音楽を始めたばかりの頃は、有名になりたい、お金持ちになりたい、大きいステージに立ちたいって思ってたんですけど、曲を届けるのは時間がかかるじゃないですか。2~3年前に書いた「ラブソング」が今、この瞬間に届くこともある。これから先、もっとたくさんの人に届くかもってことを知ったし、新曲をリリースした日にたくさんの人が聞いてくれるとは限らないんですよね。1年後、2年後に注目を浴びるかもしれないので、自分の作品に責任を持って、何十年後も聞いて下さいって言えるようなものを1つ1つ作っていきたいですね。

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