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<インタビュー>香取慎吾×ジャズ×豪華コラボレーション、東京からお届けする“新しいシンゴ”
香取慎吾がまた新たな魅力を世の中に発信する。2020年1月1日にリリースした1stアルバム『20200101』は“皆でワイワイ楽しもう!”がテーマで、思わず踊りたくなるようなノリのいい楽曲が詰まっていた。そんな『20200101』から約2年3か月、4月13日に2ndアルバム『東京SNG』をリリースする。
同作のコンセプトは“タキシードが似合うジャズ”。様々な角度からジャズにアプローチをしており、香取の新たな一面が見えるだけでなく豪華アーティストたちとのコラボレーションで起こった化学反応も楽しめる。同作に込めた思いを1曲ずつ丁寧に、本人に語ってもらった。
歌に対する感覚が変わった
――まずは『東京SNG』の出来上がりについての所感からお伺いさせてください。
一緒に作品を作ってくださった皆さんも快く引き受けてくださって、早い段階で理想の作品になっていたと思います。2日に1回くらいのペースでレコーディングをして、ウワーッと1曲ずつ仕上げてきた感じです。
――かなり速いペースだったのですね。楽曲制作はいつもそれくらいのペースなのですか?
人生全体がそんなペースです(笑)。
――(笑)。同作のコンセプトは“タキシードが似合うジャズ”。このコンセプトを据えられたのはどういった理由からなのでしょうか?
まず、前作の『20200101』が今っぽいデジタルの音を使った、2020年の楽曲が多かったので、違うジャンルにいきたいという思いがありました。2014年に『オーシャンズ11』というミュージカルをやったときに、作曲を担当された太田健さんからマイケル・ブーブレの曲を教えてもらい、「こういう感じで声を出してほしい」と言われたことがあって。僕は何十年もボイトレをしないできたのですが、太田さんの言葉もあって『オーシャンズ11』に向けてボイトレすることにしたんです。すると、自分の声がすごく変わったと感じられて、歌に対する感覚が変わったことが実感できました。そして今回、アルバムを作るタイミングで当時のことを思い起こしてみると、気持ちよく歌えた感覚があり、「じゃあ次はジャズをやってみようか」とこのコンセプトを立てました。
香取慎吾「FUTURE WORLD(feat.BiSH)」 Music Video
――8年前のことがきっかけだったのですね。曲順にもこだわりがあるのでしょうか?
制作段階で曲順もなんとなく決まっていました。特に最初の「東京SNG」と最後の「道しるべ」はオープニング曲、エンディング曲にしようと思って作った曲です。そのうえでこのアルバムを通して一つのショーを表現しようとこの順番になりました。
――各楽曲もほぼ全て香取さんが制作に携わっていらっしゃいます。1曲ずつお話をお伺いさせてください。まず1曲目の「東京SNG」。
“SNG”には“SONG、SING、SWING、SHINGO”と四つの意味があります。思いついたときに「これだ!」とまずタイトルを決めました。その後、ジャズを歌うアルバムだからビッグ・バンドの生音でやりたい、それならスウィング・ジャズで1曲目から爆発しようというようにこのスタイルになりました。
――作詞はZAZEN BOYSの向井秀徳さんが手掛けられてらっしゃいます。
向井さんは初めましてで、お会いできていないんです。けど、紹介していただいてお願いをしたら「歌詞は書けないかもしれないけど、言葉は吐き出してみます」とお返事をいただきました。
――かっこいい……!
本当に。「まじかよ!」っていうような返事をいただけて、一発目でこの歌詞が来ました。その後もいくつかキャッチボールをして微調整したくらいです。仮歌も歌ってくださっていて、そのニュアンスを受け取ってレコーディングをしました。実は僕、作詞をお願いするまで向井さんのことをあまり存じ上げていなかったんです。作曲は草彅(剛)と稲垣(吾郎)と一緒にやった映画『クソ野郎と美しき世界』で僕が歌っている「新しい詩」や、『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』のサントラなどを作ってくださった山下宏明さんにお願いしたのですが、歌詞はどうしようという話になって。スタッフと話し合っているなかで、向井さんのお名前が出てきて知りました。思い切ってお願いをしてみたところ、さっきのかっこいい言葉が返ってきたんですよね。
――向井さんにはどんな内容でオーダーを出されたのですか?
『東京SNG』というアルバム・タイトルにしようと考えていたので、「タイトル曲も『東京SNG』にしたいんです。『東京SNG』って曲の歌詞を書いてほしいです」とストレートに伝えました。というのも、ファンの方が「今、慎吾ちゃんどこにいるんだろう?」と思ってくださったとき、今までは海外かもしれないし、地方かもしれなかった。でも、コロナ禍で身動きが取りづらい今、僕は東京にいるんですよね。なので、「今の香取慎吾が東京から勢いのあるジャズをお届けしたい」という思いがありました。羽田空港のことを“HND”って表記するじゃないですか。なので“東京SNG”ってエアポート的な雰囲気もありましたし。それに僕は東京が大好きなので、このタイトルにしたくて。そういった思いをお伝えしてオーダーをしたら、この歌詞が返ってきました。
その言葉の先にある僕の思い
――2曲目の「こんがらがって」は、H ZETTRIOさんとのコラボレーションです。
彼らとも会えていないんですよ。でも、出来上がるのは一番早かったかもしれないです。思った通りの曲だったので、キャッチボールもほとんどしていないんじゃないかな。歌詞の内容も曲の雰囲気も僕が伝えたまんまです。メロディラインも変わっているけど歌いやすくて、気持ちよかったですね。
――歌詞の内容はちょっと大人なイメージがあります。
慣れ親しんで一緒にいるけど、「アンタわかってないでしょ」「え、何が悪いわけ?」みたいな感じがありますよね。それに加えて、最近のSNS事情も反映していて。スマホの中でわかった振りをしているけれど、上手く使えていなかったり、いろんなことが増えすぎてついていけなかったり。そういう状況と恋愛模様を一緒にしたいとオーダーしました。H ZETTRIOも含めて、一緒にやってくれている皆さんは才能がある方ばかりなので、違う方向に逸れることもなくスムーズにできましたね。
――3曲目の「Catharsis」は、以前もタッグを組んでいたWONKさんをフィーチャリングしています。
彼らと一緒にやるのはもう3曲目。「Catharsis」は、曲ができてレコーディングが終わった後にタイトルを決めました。WONKとの1曲目が「Metropolis」、2曲目が「Anonymous」で「~s」で終わっていたので「これって三部作みたいじゃない?」という話になって。みんなで「~s」という言葉をたくさん検索して、ワイワイ決めていきました。こういう緩さも好きなんですよね。レコーディングのときもWONKの4人全員が来てくれて、僕が歌っているときに一人ずつブースに入ってくれるのですが、メンバー同士で言い合いが始まるんですよ。「このニュアンスはこうだ」「いや違う」って(笑)。
――チーム感がありますね。
そうなんです。僕が「こういう音がほしい」と言うと、WONKのみんなが一斉に「アレのことじゃない?」とか「あのアーティストのあの音のことだよ」とか話し合うの。それで「わかりました。香取さんが言っているのってこれですよね」って教えてくれるんだけど、違うんですよ(笑)。それでまた「え、そうじゃないの!?」「こっちだよ」って始まったりして。すごく楽しかったですね。このアルバムは全曲通してのバランスを考えながら制作していて、もちろん「Catharsis」もそうなんですけど、この曲は「Metropolis」「Anonymous」とのつながりも考えています。三部作映画のように「Metropolis」がオープニングで、「Anonymous」が中盤の盛り上がり、「Catharsis」がエンディング。でも、いざ作り終わってみたらまだエンディングになっていなかったので、続編があるかもしれません。
香取慎吾「Anonymous (feat.WONK)」Music Video
――そして4曲目は「今夜最高ね」。
この曲はとにかく<今夜最高ね>というコーラスのインパクトがすごくてハマりました。デモを聴かせてもらったときにすでにこのコーラスが入っていて、もう頭から離れないんですよ。ちょっとかっこ悪いけど、それがかっこいい。その雰囲気を活かすために歌い方も工夫しました。そのまま歌っちゃうと一生懸命すぎるから、イメージは20年くらいこの曲を歌い続けていて、崩して歌っちゃってる感じ。譜割りもそのイメージで作り変えたいよね、と話し合いながら作っていきました。
――5曲目の「ひとりきりのふたり」は、ヒグチアイさんとのコラボレーションです。
彼女とも初めましてなんですが、「東京にて」という曲でヒグチアイさんを知ってからずっと好きで聴いていました。実は「東京SNG」を作っているときから、ヒグチアイさんは頭の中にチラついていたのですが、お願いはしていなくて。そんなときに彼女のYouTubeを見にいったんです。そこで「やめるなら今」を見て「やっぱり彼女に曲を頼みたい」と次の日にはお願いして、その翌日には会いにいきました。歌詞にある<一笑懸命 テキトーに>というのは、応援してくれる方々に僕がずっと言っている言葉。その言葉の先にある僕の思いはこれまで言わないできたのですが、曲を通して感じ取ってもらえれば、皆さんと繋がりが深くなれるのかな、と。そんな話を彼女とけっこう長い時間打ち合わせてできた曲です。タイトルが面白いですよね。
ヒグチアイ / やめるなら今 【Official Music Video】
――「ひとりきりのふたり」。
ここに行き着くまでが面白くて。最初挙げてくれたのは、めっちゃかっこいい感じの英語のタイトルでした。なので「違う」って言ったんです。そうしたら、今回が初対面だったのにヒグチさんが「わかってますよ!(怒)」みたいになって(笑)。僕も面白くなっちゃって「え、なんでこれにしたの?」とか「この曲の感じでそのタイトルってかっこよすぎない?」と言いながら、笑っちゃったんです。ヒグチさんも「なんなんすか!?」「忘れてください!」ってなって。そのときに彼女と打ち解けられた気がしました。その後、何度かタイトルについて話し合って、最後の最後に彼女が出してくれたのが「ひとりきりのふたり」だったんです。
――レコーディングも一緒にされたのですか?
しました。彼女がピアノも弾いてくれて、弾き方をすり合わせたり、僕の歌に彼女がハモリを乗せてくれたり。二人で歌うのにいいところの音を探り合いながら作りました。そういえば、僕が新しい学校のリーダーズと小西(康陽)さんと一緒にいたときに、ちょっとお話したいですってヒグチさんが来てくれたことがあったのですが、リーダーズと小西さんとヒグチさんが一緒にいるのを見てなんだか痺れました。僕が才能に惚れてお願いした方々が交わっている感じが嬉しかったです。
ちょっとだけ違う路線の曲
――そして6曲目の「シンゴペーション」では、Gentle Forest Jazz Bandとご一緒されています。
Gentle Forest Jazz Bandは三谷幸喜さんの『誰かが、見ている』でテーマソングを歌ってくれていて、いつか一緒にできたらなと僕の中でうっすら思っていました。今回ジャズがテーマだったので、Gentle Forest Jazz Bandさんでしょ、と。タイトルはずっと決まっていなかったのですが、歌詞の中にあったシンコペーションという言葉を聴いているうちに“シンゴペーション”に聞こえてきて。ジェントル(久保田)さんに「シンゴペーションでもいいですか?」と聞いたらOKをもらえたので、歌詞も<シンゴペーション>に変えました。
――歌ではスキャットにも挑戦されています。
面白かったです、難しくて(笑)。スキャットが上手い海外アーティストの映像を見ながら教えてもらったのですが、苦戦しましたね。ジャズやスキャットの歴史も学びました。
――歴史!
スキャットってもはや楽器なんですよ。もともとジャズには歌がなかったけれど、人の声も参加していくためにスキャットが生まれて、というところから学びました。僕、いろんなことを雰囲気で乗り越えてきましたが、スキャットは雰囲気で乗り越えられませんでした。明治座で歌えるかなって不安。もしかしたらコーラスをやっているGentle Forest Sistersが歌っているかもしれないです(笑)。
――香取さんの生スキャットも舞台のお楽しみですね。7曲目の「Mack the Knife」はスタンダード・ジャズですが、この曲を選ばれた理由をお伺いしたいです。
自分も含めて聴いたことがあるという王道のスタンダード・ジャズを歌いたいなと思っていました。いろいろ候補はあったのですが、アルバムの流れに合うのが「Mack the Knife」かな、と。
――英語詞でカバーされていて、ここでも香取さんの新たな一面が見えているように思います。
日本語で歌詞を新しくしようという気持ちがなかったんですよね。ここではオリジナルそのまんまをカバーしよう、と。
――聴き馴染みのある曲の後、8曲目の「Slow Jam」ではアルバムの流れが変わります。
今回ジャズのアルバムだけど、ちょっとだけ違う路線の曲、なおかつアルバムに入っていても収まりのいい曲があるんです。一つはWONKとの「Catharsis」、もう一つがこの「Slow Jam」。前回のアルバム収録曲「Trap」と同じチームで作っていて、もっと打ち込み色が強かったのですが、もう少しアルバムに馴染ませたかったので、打ち込みを生で弾き直すなど全体のバランスをすごく考えて作った曲です。
香取慎吾「Trap」Music Video
――たしかに、テイストは違うのにアルバムから浮いていません。
僕、やっぱり『20200101』のようなデジタル色が強い打ち込みの音楽も好きなんですよ。なので、楽曲制作をしてくれた森善太郎くんやZINの曲が好きで。二人にお願いしつつ、「今回ジャズがテーマだからそっちに寄せてくれる?」とオーダーしました。
体と頭で感じながら聴いてみて
――そして9曲目の「Happy BBB」はOriginal Love・田島貴男さんとのコラボレーションですが、どういった経緯でタッグを組まれたのでしょうか?
田島さんがゲストで来ていた【草彅剛のはっぴょう会】を観に行ったら、とんでもないテクニックを披露されていました。草彅のファンの方も僕も見たことがない世界が広がって、自然にスタンディング・オベーションが発生するくらい。その後、去年リリースされたOriginal Loveのカバー・アルバム『What a Wonderful World with Original Love?』にWONKの長塚(健斗)くんが参加していて、繋がりも感じてじわじわ気になりだしたんです。それでこのアルバムを作るうえで思い切ってお願いしてみたら、二つ返事で「はい、やりましょう」って。
――田島さんのフットワークが軽い……(笑)!
でも、超職人ですよ。この曲、細かい設定があったんです。バースデー・サプライズのときに流れるStevie Wonderの「Happy Birthday」みたいな曲が作りたかったんですよ。ドアを開けて友だちが入ってきた瞬間、おめでとうって言うための曲。そういう思いを田島さんにバーッと説明したら、「はいはいはい。えーっと、できました」みたいな(笑)。
――それは職人すぎます。
そこからはやり取りしながら調整。「ドアを開けたらすぐに“ハッピーバースデー”が聞きたいので、AメロもBメロもいらないんです」「いきなりサビがきて、友だちは『え、なになに?』ってなっている感じで。ケーキやプレゼントが出てきて『ありがとう』ってなったときにやっとAメロが来る感じにしたい」「ちょっと落ち着いた頃にまた“ハッピーバースデー”がきて終わりたい」というように、細かく詰めていきました。僕が伝えたことを田島さんが上手く汲み取ってくださって出来上がった楽曲です。
――ファンの方々の中でも定番の誕生日ソングになりそうです。10曲目の「東京タワー」は美空ひばりさんの名曲です。
子供の頃から東京タワー周辺で仕事をすることが多かったので、東京タワーが大好きなんです。見上げると東京タワーがあったから頑張ってこれました。そんな中で美空ひばりさんの「東京タワー」という曲があるのを知って、いつか歌えたらいいなと思っていたので、コンセプトにハマる今回のアルバムに収録することにしました。
――新しい学校のリーダーズさんとは一緒にやってみていかがでしたか?
出会いから最高でした。スタジオに入ろうとしたらSUZUKAがいたんですけど、この時点で僕はまだ彼女たちに会ったことがなかったんです。それなのに、とてもフランクに「どうもどうも! このスタジオですよね? いやぁ会えて嬉しいっすよ」とすごい勢いで話しかけられて(笑)。そのテンションが最高ですぐに打ち解けました。歌も素敵でしたし、リーダーズは自分たちでディレクションするんですよね。彼女たちよりずっと年上の小西さんも僕もいるなかで「ちょっといいですか?」って意見を言っていて。振付も自分たちでやっているので、そういうタイプの子たちなんだろうなとは思っていましたが、想像以上で最高でした。
――まさに若い才能ですね。そして最後は「道しるべ」。こちらは先程お名前が挙がった太田さんが作曲ですが、作詞は劇団ひとりさんが担当されています。
そうなんです。同い年で『笑っていいとも!』で一緒にレギュラーをしていたし、僕ね、ひとりさんがすごく好きなんです。優しいし、いい人だし、それでいて才能もあるし。なので、彼が出演したり監督したりした映画を追いかけて観ていたんですね。お正月に『浅草キッド』を観たら作中でスウィングも流れていて、ジャズのアルバムを出そうとしている僕の背中を押してくれる作品でした。そこで「道しるべ」の作詞をお願いしたら、快く受けてくれたという経緯です。
――香取さんの才能と人柄、人脈、豪華なアーティストたちとの化学反応、全てが詰まったアルバムですね。最後にファンの方にメッセージをお願いします。
心とろけるような素敵なアルバムができたと思います。今、何かを楽しむことがいけないと思ってしまうような難しい状況になってしまっています。みんなで乗り切ろうと頑張っているなかでの癒やしの時間、音に乗って生活する時間を『東京SNG』で少しお手伝いできると思います。体と頭で感じながら聴いてみてください。
Photo by Yuma Totsuka
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