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<コラム>ザ・リーサルウェポンズのオマージュに滲む愛、敬意、そして唯一無二の音楽センス
敬意や愛を込めたオマージュ
“優れたオマージュ”を行うことは難しい。“パクリ”と思われてしまうときもあるし、劣化コピーと扱われて批判されることもある。自身の個性が隠れてしまう場合も少なくはない。しかし、優れたオマージュは高く評価され、多くの人に愛される名曲にもなりえる。例えば、奥田民生はザ・ビートルズのオマージュを自身のオリジナル曲に取り入れることが多い。彼がPUFFYに提供した「これが私の生きる道」には「デイ・トリッパー」や「プリーズ・プリーズ・ミー」のリフを引用している。ザ・ビートルズのファンならば一聴すればどの曲から引用したかわかるフレーズが盛りだくさんの楽曲だ。それでも大ヒットして多くの人に愛される名曲になったし、奥田も批判されることはなかった。むしろ当時から才能を高く評価されていたし、今では日本を代表するロック・ミュージシャンになっている。おそらくオマージュ元である“ザ・ビートルズへの敬意や愛”を音楽から感じるから、奥田民生の音楽はザ・ビートルズのファンからも支持されたのだろう。彼は自身のルーツとしてザ・ビートルズをあげているし、「自身の音楽DNAの50%がビートルズだ」とも語っている。それらの理由があるからこそのオマージュという背景や文脈があるのだ。それが“優れたオマージュ”として評価されているのだろう。
ザ・リーサルウェポンズも過去の名曲をオマージュすることが多い。彼らも奥田民生と同様に、優れたオマージュを行うアーティストだ。オマージュ元への敬意や愛を、彼らの音楽からも感じるのである。メジャー1stアルバム『アイキッドとサイボーグジョー』には「さよならロックスター」という楽曲が収録されている。この楽曲は敬意と愛を感じる素晴らしいオマージュだ。この楽曲はヴァン・ヘイレン「ジャンプ」をオマージュしている。イントロのシンセサイザーのリフはそっくりだし、演奏の雰囲気も近い。歌のメロディにも強い影響を感じる。また「ジャンプ」のMVと近い構図やポージングで「さよならロックスター」のMVは撮られていたり、そのMVがエドワード・ヴァン・ヘイレンの誕生日である1月26日に公開されたりと、作品を届ける方法の全てにオマージュを仕込んでもいる。ヴァン・ヘイレンを知っている人ならば、聴いた瞬間に元ネタがわかってしまう要素が盛りだくさんだし、聴くほどに敬意や愛を感じるはずだ。
[MV] ザ・リーサルウェポンズ『さよならロックスター』
[MV] ザ・リーサルウェポンズ『さよならロックスター』ハリウッドザコシショウ ver.
作詞作曲を行ったアイキッドは「この曲は2年ほど前に急逝した、80年代の大スター、エディ・ヴァン・ヘイレンへのリスペクトソングというか、彼へのレクイエムです。彼が亡くなったときに49日お酒を辞めて、“エディロス”で、この曲を作りました」と語っている。オマージュしたことを隠すことなく、大々的に公言しているのだ。自身の音楽をきっかけに、敬愛するロックスターの魅力を広げようとしているのだろう。そのためオマージュ元を知っているリスナーには愛のあるオマージュかつ追悼ソングとして受け取られ、知らないリスナーには新鮮な音楽として届けられ、新しい音楽を知るきっかけを作っている。これは“愛と敬意があるオマージュ”かつ“意味や必要性があるオマージュ”でもあるのだ。
リリース情報
ザ・リーサルウェポンズ
アルバム『アイキッドとサイボーグジョー』
2022/2/23 RELEASE
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確固たるオリジナリティ
彼らは自分たちが愛する文化やエンタメまでも音楽に取り込み、それさえもオマージュとして作品に昇華させてしまう。それがザ・リーサルウェポンズの魅力のひとつでもある。例えば「昇竜拳が出ない」という楽曲は、カプコンが制作した対戦格闘ゲーム『ストリートファイターⅡ』のオマージュだ。ゲーム内に登場するBGMをオマージュしたメロディと、ゲームの登場人物の名前やプレイした人ならば理解できる“あるあるネタ”が盛り込まれた歌詞が印象的な楽曲である。それは作品への知識や愛がなければ作ることができない内容だ。MVもまるでゲーム画面にメンバーの二人が入り込んだような映像になっている。当然ながらこの楽曲やMVを観て、ゲームファンが彼らを批判することはなかった。むしろ喜んだり称賛している人がほとんどのようだ。ついにはカプコンにも公認され、コラボレーションをするまでになった。引用元のファンだけでなく製作者にも愛されるオマージュを作ってしまったのだ。
[MV] ザ・リーサルウェポンズ『昇龍拳が出ない』
[MV] ザ・リーサルウェポンズ「昇龍拳が出ない feat.カプチューン」
他にも「94年のジュニアヘビー ~ザ・スコア~」では、テレビ朝日『ワールドプロレスリング』テーマソングとして使われているエマーソン・レイク・アンド・パウエル「ザ・スコアー」のメロディを引用し、プロレス・オマージュ・ソングも制作している。歌詞には多くの名プロレスラーを登場させ、1994年の『スーパーJカップ』や『ベストオブ・ザ ・スーパージュニア』などプロレスの激闘について綴ったりと、コアなプロレスファンも唸らせる内容だ。こちらもプロレスファンに好意的に受け取られている。MVには歴代の有名プロレスラーが登場しており、プロレス業界にも認められているようだ。
[MV] ザ・リーサルウェポンズ『94年のジュニアヘビー ~ザ・スコア~』
しかし、全ての楽曲でオマージュをしているわけではない。例えば「雨あがる」のような、はっきりとしたオマージュ元がない楽曲もある。そのような楽曲では80年代リバイバル的なサウンドに、現代のJ-POP的なメロディやセンスが組み合わさった唯一無二のポップ・ソングを作り出している。彼らは引用元がなくとも名曲を作れるだけのスキルとセンスを持ち合わせているのだ。つまりザ・リーサルウェポンズは、影響を受けた音楽やカルチャーに頼って活動をしているわけではない。それがなくとも勝負できる実力は持っている。それでも80年代や90年代の文化を深く愛し、それを表現によって伝えたいという想いがあるからこそ、あえてオマージュをしているのだろう。これほどまでに敬意を持って、徹底的に作り込んだオマージュをするアーティストは滅多にいない。だからか、その愛や敬意が音楽から滲み出て、そのような楽曲でも結果的に“ザ・リーサルウェポンズにしか作れない音楽”を生み出せている。本気のオマージュはパクリにはならない。影響元が伝わりやすいだけで、それは他にはないオリジナリティなのだ。そんな“オリジナリティに溢れたオマージュ”が盛りだくさんなザ・リーサルウェポンズを、ぜひ聴いてみてほしい。
[MV] ザ・リーサルウェポンズ『雨あがる』
リリース情報
ザ・リーサルウェポンズ
アルバム『アイキッドとサイボーグジョー』
2022/2/23 RELEASE
関連リンク
アイキッドとサイボーグジョー
2022/02/23 RELEASE
SECL-2727 ¥ 3,300(税込)
Disc01
- 01.20001年宇宙の旅
- 02.パーティースーパースター
- 03.川中島の戦い
- 04.さよならロックスター
- 05.半額タイムセール
- 06.毎日たのしい1週間
- 07.デンジャーゾーン
- 08.雨あがる
- 09.94年のジュニアヘビー ~ザ・スコア~
- 10.快走!ラスプーチン
- 11.特攻!成人式
- 12.合体!ポンズロボ
- 13.ポンズのテーマ
- 14.押すだけDJ
- 15.昇龍拳が出ない feat.カプチューン
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