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<コラム>麗奈が描いた“僕”三部作、10代で抱いた“なりたい自分”への後押し



コラム

“僕”が綴る成長の軌跡

 これまで数多くのアーティストたちが緊張感あふれる“一発撮り”を披露しているYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』が、次なる才能を探すオーディション・プログラムとして立ち上げた『THE FIRST TAKE STAGE』。昨年このオーディションで、約5,000組の応募の中から見事グランプリを受賞した麗奈が、「僕だけを」「僕らの明日」に続くデジタル・シングル「ぼく」を3月21日にリリース。新曲「ぼく」は、一人称“僕”が綴る“僕”三部作のラストを飾る楽曲だ。

 「ぼく」の主人公は、自分に自信が持てず、ネガティブな思いばかりを抱えている。そんな自分のことが好きになれずに、もがいている。だけど、こんな自分じゃダメなんだという思いが自分の中にあることに気づき、一歩ずつでもいいから前に進んでいこうと視線を上げている。“僕”三部作の一作目「僕だけを」や二作目「僕らの明日」、そして三作目「ぼくには、それぞれの歌を書いた当時の麗奈の思いが投影されているが、三部作最後に届けられた「ぼく」には、主人公“ぼく”の成長と共に、グランプリを受賞以降のアーティスト・麗奈の想いも刻まれた楽曲になった。

 麗奈は、家族の影響で音楽やギターに興味を持ち、中学生になってからは独学で作詞作曲を始めるようになった。いつしか「音楽を続けていきたい」という夢を持つようになり、地元・鹿児島のライブハウスに出演するようになるが、ライブハウスに自ら電話をして出演交渉をしたなんていうエピソードを知れば、私自身もそうだったが、自分の夢に向かってどんどん突き進んでいる“アクティブな女の子”という印象を持ってしまうかもしれない。しかし、筆者は彼女に取材したことがあるがそのとき、初めてあった彼女は、とてもシャイで、「伝えたい思いがたくさんあっても、言葉にしてうまく伝えることができなくて。だから自分に歌があってよかった」と言っていた。自分の気持ちにいちばん素直になれるのは歌。歌だったら自分が抱えたマイナスの気持ちから逃げずに向き合える。自分の思いを素直に届けることができる。音楽や歌にはそんな魔法のような力があることを信じているからこそ、そして、彼女自身が音楽や歌に背中を押してもらえているからこそ、自分の歌を聴いてくれた誰かが少しでも前向きな気持ちになってもらえたらという思いを込めて歌っている。



僕だけを / THE FIRST TAKE


 “僕”三部作の一作目「僕だけを」は、『THE FIRST TAKE STAGE』の3次選考やグランプリ受賞後の『THE FIRST TAKE』で歌唱した楽曲。高校2年生当時、何もかもがイヤになって、自分にも周りの人たちに対しても素直になれない自分が嫌いだった時期に書いた楽曲だ。それまでにもオリジナル曲を書いていたが、気持ちの真っ最中にいるときにその思いを歌詞に書くことがなかった彼女が、真っ最中の思いをちゃんと書けた初めての歌だ。「僕だけを」は、自分の気持ちを正直に、素直に書いていきたいという思いを強くした麗奈の歌詞の原点だ。



僕だけを [Official Video]


 “僕”三部作の二作目「僕らの明日」は、高校卒業後、専門学校に進学する前に書いている。これから音楽活動を続けていけるのか、自分はどうしたいのだろうと新しい環境に飛び込む不安や悩みを抱え続けるなかで、「明日なんか来なければいい」という思いになったのだという。そんな誰にも言えない気持ちが歌になっていく。そして、この歌を聴いてくれる誰かが、自分と同じような思いを抱えている誰かが、「一緒に頑張ろう!」と思えるような曲になったらという思いが、「僕らの明日」になった。



僕らの明日 [Official Video]



“なりたい自分”への後押し

 新曲「ぼく」は、もとは高校一年生の時に書かれたもの。この曲の中にも、なりたい自分になれずにもがいている“ぼく”がいる。そんな自分と向き合うことで、すぐに変わることはできなくても、強くなりたい、優しくなりたい、なりたい自分に少しでも近づきたいと強く願っている“ぼく”がいる。「ぼく」の歌詞には<昨日が好きになって>というフレーズがある。昨日までの自分を好きになれるのは、今日を生きているからだ。「僕らの明日」にも<生きてることを探してみたんだよ>というフレーズがあるが、生きることがどんなに辛くても、なりたい自分にすぐにはなれなくても、前に進めない日があったとしても、昨日が終われば今日が来て、今日が終われば明日が来る。どんなに些細なことでもいいから願いや夢を持って生きてさえいれば、それが希望の光となり、自分の命がある限り日々は続いていく。だから「ぼく」の最後にある<今はもう大丈夫だから>というフレーズは、“僕”三部作の最後にふさわしい言葉であり、麗奈のこれからに続いていく言葉だと思った。

 “僕”三部作のMVはすべて、麗奈が今も暮らしている鹿児島で撮影されているが、「ぼく」のMVからは彼女の日々が見えてくる。レコーディング・スタジオ、地元の風景、道ばたで出会った猫たち……。MVの中には麗奈がインスタント・カメラで撮った写真が何枚か挿入されているのだが、それがちょっとピンボケだったりするのもご愛敬!? MVの最後に映っているピースサインをしている麗奈の姿(シルエット)は、自分が書いた<今はもう大丈夫だから>の言葉に、彼女自身が背中を押してもらえたんだなと思えたシーンだった。



ぼく [Official Video]


 『THE FIRST TAKE STAGE』グランプリ受賞後、麗奈には大きな変化があった。それはアレンジャーとの出会いだ。『THE FIRST TAKE』パフォーマンス時の「僕だけを」ではトオミヨウが奏でるピアノが加わったアレンジで歌唱し、デジタル・シングル「僕だけを」「僕らの未来」「ぼく」ではプロデューサー/アレンジャーに野村陽一郎を迎えている。それまでアコギだけで歌っていた曲にいくつもの楽器の音が重ねられ、麗奈の楽曲が新しい扉を開けていくことになる。そのアレンジに刺激されて歌唱も変化し、彼女の歌はより包括力を持ち、大きく成長している。

 また、今年2月にリリースされたCHEMISTRYのベスト・アルバム『THE BEST&MORE 2001~2022』に収録されているボーナス・トラック「終わらない詩」に参加したことも大きな刺激になっているようだ。これまでひとりで歌ってきた彼女にとって、誰かと一緒に歌入れをしたり、ハモることは初めての経験だった。自分がこれまで作ってこなかった90年代の雰囲気を持った楽曲を、20年を超えるキャリアを持つCHEMISTRYの堂珍嘉邦、川畑要とコラボした経験から受けた刺激や経験は歌唱のみならず、彼女の楽曲制作や楽曲のふり幅を広げてくれるのではないだろうか。

 『THE FIRST TAKE STAGE』グランプリ受賞からの月日はあまりにもそれまでの日々とは違い過ぎて、戸惑うことも多かったかもしれない。それでもその日々の中には心が躍るような初めての経験がいくつもあって、新しい出会いもたくさんあるだろう。2月には21歳になったことで新たな思いを胸に、麗奈は一歩一歩前に進んでいる。ここ数年はコロナ禍でなかなか実現することができなかった有観客ライブも、きっと遠くない未来に実現することだろう。自ら発信しているSNSなどに届くファンからの言葉に「いつも勇気や元気をもらっている」という彼女だけに、彼女自身もみんなと直接会えるライブを楽しみにしているに違いない。麗奈は“僕”三部作の次にどんな楽曲を私たちに届けてくれるのか。「ぼく」の最後にある<今はもう大丈夫だから>の続きを、一歩一歩前に進んでいる彼女の歌を、気は早いけれどすぐにでも聴きたいと思っている人は多いだろう。もちろん、私もそのひとりだ。

Text by 松浦靖恵

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