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<インタビュー>ロバート・グラスパー最新作『ブラック・レディオ3』が伝えたいこととは



グラスパー インタビュー

 ジャズ/ヒップホップ/R&Bの垣根を越え、その後のブラック・ミュージックの可能性を大きく拡げた『ブラック・レディオ』のリリースから10年、現在のブラック・カルチャーを代表する最新作『ブラック・レディオ3』がリリースされた。クリス・デイヴやテラス・マーティンといったグラスパー作品には欠かせないプレイヤーに加え、ジェニファー・ハドソン、H.E.R.、イェバ、タイ・ダラー・サイン、インディア・アリーなど超一流アーティストが色を添える。

 5月14日・15日に埼玉・秩父ミューズパークで開催される【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL 2022】で来日が決まっているロバート・グラスパーに、本アルバムで伝えたかったメッセージを聞いた。

――2012年に『ブラック・レディオ』がリリースされて10年が経ちます。ご感想は?

ロバート・グラスパー:ただ、歳をとったなぁと感じるよ(笑)。でも、最高な気持ちだ。正直、時間が経つのが早過ぎて10年も経ったなんて気がつかなかった。時間の感覚については、コロナのパンデミックのせいもあると思うけど。

――『ブラック・レディオ』リリース以降、あなたのキャリアはどのように変化しましたか?

ロバート:R&Bとヒップホップの世界に、クロスオーヴァーすることができた。『ブラック・レディオ』を発表する前は、基本的にはジャズの世界にいたんだ。ジャズ界の外の人たちからはあまり知られていなかったし。でも、あのアルバムが世に出てからは一瞬で状況が変わったし、それは期待以上の変化だった。自分でもクールなアルバムができたと自負していたけど、自分だけではなく、音楽や、音楽業界そのものを変えたアルバムだと思う。

――確かに、『ブラック・レディオ』以降のサウンドの潮流というものは間違いなくあると思います。いろいろなアーティストにインパクトを与えたのではないでしょうか。

ロバート:うん。アーティストたちは、もっと自由に好きなことをミックスしてもいいんだ、と自信がついたと思う。『ブラック・レディオ』が【グラミー賞】を受賞した時も、グラミー自体の新しい扉を開くことができたと思っているよ。一つのことに縛られなくていい、ってことを証明できたと思う。これは、特に黒人アーティストにとっては大切なことだと感じている。“同時に一つ以上のことができる、そして【グラミー賞】を獲れる”と。広い意味で、“自分の意志があれば、自分自身でいることができる”ということにも繋がると思うんだ。

――前作『ブラック・レディオ 2』がリリースされたのは2013年でした。なぜ、このタイミングで『ブラック・レディオ 3』を作ろうと?

ロバート:もともと、『ブラック・レディオ』はアルバム一枚で終わるプロジェクトのつもりだった。でも、周りから「続編は?」と促されて『ブラック・レディオ 2』を作って、さらに続編を期待されても「ノー」と言い続けてきたんだ。8年間もね(笑)。でも、パンデミックの期間がやってきて、音楽に取り組む時間ができた。そして、人々は『ブラック・レディオ』を必要としているんじゃないか、と感じるようになったんだ。

――『ブラック・レディオ』シリーズに限定すると、そこには長い空白の期間があったわけで、どのようにして制作を始めていったのでしょうか。

ロバート:まずは、みんなにパンデミック期間中にテキスト(※携帯電話を介して送るメッセージ)を送りまくった。なぜなら、その期間はみんなレコーディングやツアーから離れていたから。それで、「ヘイ、どんな感じ?」と声をかけていって、そこから「実は今、アルバムを制作中なんだ。いくつか曲を送りたいんだけど」と切り出していった。何人かのアーティストは「もちろん!」と言って、すぐにレコーディングして送り返してくれた。でも、中には落ち込んで「努力しているんだけど、どうしてもスランプから抜け出せなくて、今はアーティスティックな気分になれそうもない。申し訳ないけど、今回は無理だ」という人たちもいて。

――あなたも、コロナウイルスによる隔離期間中などに「アーティスティックな気分じゃない」と気分が落ち込むことはありましたか?

ロバート:そういう期間は確かにあった。最初の2か月間は、鍵盤も触らなかったんだ。そんな頭は、ひたすらNetflixを見て、音楽のことはほとんど考えなかったね。でも、すぐに映画やドラマ作品のスコアを担当する仕事が来たから、すぐにそれに没頭するようにした。ありがたいことに、スコアを書く時って、自分自身ではなく、その作品の人物の人生を生きているような気持ちになるんだ。おかげで、落ち込んだ気持ちから自分を遠ざけることができて助かったよ。

――制作はどのように進めていったのでしょうか。リモートで作業することもありましたか?

ロバート:ほとんどをリモートでレコーディングしていった。一緒にスタジオに入ったのは2、3人だけじゃないかな。

――リモートでのレコーディングはいかがでしたか?

ロバート:いい点と悪い点、両方あるね。「悪くないじゃん」と思う時もあるけど、「あぁ、今すぐそこに飛んでいけたらいいのに」と思う時もあった。離れた状態で「それ、変えられる? ここ、こうしてもらえる?」と指示を出すのはなかなかね……(笑)。でも、大体はスムーズに進んだし、予想したよりも悪くなかった。もちろん、一緒にスタジオに入るほうがベターなんだけど。

――『ブラック・レディオ 3』には、デリック・ホッジやクリス・デイヴ、テラス・マーティンといった、ファミリーとも呼べるミュージシャンたちが多く参加しています。こうして『ブラック・レディオ』シリーズに戻るのは、ファミリー・リユニオンという雰囲気もありましたか?

ロバート:全く、その通りだったね。彼らは大好きなミュージシャンだから、一緒に制作を進めていくのはとても簡単だった。何年も一緒に活動してきたし、別に毎日会わなくてもすぐに通じ合える仲間だから。

――アルバムの先行楽曲として発表された「ブラック・スーパーヒーロー」にとても感銘を受けました。BJ・ザ・シカゴ・キッドに加えて、キラー・マイクとビッグ・クリットというパワフルなリリシストたちをフィーチャーしていたのも素晴らしかったです。この曲の背景について教えてください。

ロバート:まず、「ブラック・スーパーヒーロー」では、若い黒人たちにとって、アメリカ社会で成功することはとても難しいこと、そして、だから自分の身近にメンターやヒーローだと思える人がいるということは、彼らにとって非常に大切なんだということを伝えたかった。


――洗礼式の様子やバーバーショップでの風景などを切り取ったミュージック・ビデオも、とても印象的でした。

ロバート:MVでは、まさに誰だってスーパーヒーローになれる、ということを示したかった。あなたのコミュニティにいる先生やバーバー(理髪師)、ネイリスト、給食のお世話をしてくれる人……あなたに話しかけてアドバイスをくれる人は身近にいるし、それに気がつけば、もっともっと高みを目指すことができる。レコーディングの時、キラー・マイクとビッグ・クリットにはざっくりと自分のアイデアを伝えた。「こんな意味の曲にしたい。なかなか大きなテーマだけど」と。「こういったことを言ってほしい」と指示したくはなかったから、二人の考えに任せたよ。そして、先にBJ・ザ・シカゴ・キッドのコーラスを収録していたから、ラッパーの二人には、コーラス入りの音源を渡して、それぞれのヴァースを描いてもらった。

――ジミー・ファロンのTV番組『ザ・トゥナイト・ショー』に出演した時、この曲とともに女性ラッパーのラプソディーが登場してびっくりしました。しかも、歌詞を書き下ろしていましたよね。

ロバート:そうそう。番組への出演が決まったのは一週間前で、キラー・マイクもビッグ・クリットも都合がつかなかったんだ。ラプソディーはたまたま前週に僕の家に来ていて、「出れるか?」と聞いたら「イエス、空いてる!」って答えてくれた。だから「リリックを書いて一緒に来てくれ!」とお願いしたんだ。


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――『ブラック・レディオ 3』は、詩人アミール・スレイマンの強烈なスポークン・ワーズで幕を開けます。とてもパワフルな幕開けで、他の『ブラック・レディオ』シリーズと比べても雰囲気が異なると感じました。

ロバート:確かに、違うと思う。でも、これまでの作品でも一貫して「喋って伝える」ことは続けているんだ。1作目では、インタールード的に自分とクリス・デイヴ、デリック・ホッジ、そしてビラルで話している会話を収録した(「ゴナ・ビー・オーライト (F.T.B.)」の末尾部分)。そして2作目ではコモンとの「アイ・スタンド・アローン」がそうだ。ここでは、マイケル・エリック・ダイソン(デトロイト出身の大学教授/研究者。著書に『プライド アメリカ社会と黒人』など)のスポークン・ワードをフィーチャーしている。一貫しているのは、自分には常に伝えたいメッセージがあることと、今、何が起こっているのかを言葉にして届けることはとても大切だと思っている、ということ。自分名義の作品はしばらくリリースしておらず、8年ぶりの『ブラック・レディオ』シリーズということもあって、このアルバムをどうスタートするかは自分にとって大きなことだった。前進している感じを伝えたかったし、人々が見て見ぬふりをしていることについて正面から取り上げたいと思った。「なあ、まずはこの問題について話すことから始めようぜ!」という気持ち。だから、その気持ちをアミールに伝えて、その後、彼に「ブラック・スーパーヒーロー」を聴かせた。最後に、音楽を乗せたんだ。


――『ブラック・レディオ 3』全体を通して、伝えたいメッセージとは何でしょうか?

ロバート:僕たちはたくさんのことを経験してきた。だから、黒人(black people)として手を取り合うことが必要だ、ということ。それに、自分自身を愛すること。伝わるかな? 自分の信条を大切にして、強く立ち上がること。物事をやり抜いて、続けていくこと。そして愛情を示して、自分も愛されること……。今、世界では本当にたくさんのことが起こっている。だからこそ、僕はこのアルバムを聴いた人々を感動させたい。最近のみんなは、あまり感動しなくなっているんじゃないかと思う。僕は、自分の音楽を通して人々が感動する手助けをしたいと思っているし、「君は強いんだ、きっとできる」と励ましたいと思っている。「君はここに生まれた、君ならできる。君の祖先たちもここにいたし、君のことを見守っているはず。だから、戦うためのグローブをはめろよ」ってね。

――アルバムを聴き進めていくうちに、大きな「愛」というテーマを感じたんです。愛というよりは、むしろヒーリングといった感じに近いかもしれません。

ロバート:まさに、それが作り上げたい雰囲気(vibe)でもあったんだ。愛といえば、たとえば、最近はたくさんの人が怒っていると思う。そして、そこに愛はない。だから、僕達で状況の基盤を修正したいと思ったんだ。今、何が起こっているかという状況を理解することとともに、自分が誰なのか、そしてどこにいるのか、ということを気付かせることも大切だと思った。だから、あなたがヒーリング的なヴァイブを感じたのであれば、とても誇らしく思うよ。

――アルバムの発売に先駆けて、昨年はブルーノート・レジデンシーにもカムバックされ、33日間で66公演をこなしました。久しぶりのレジデンシーはいかがでしたか?

ロバート:とにかく最高だったよ。レジデンシーは本当に大好きなんだ。自分の友達と公園で遊ぶような感覚だからね。

――インターネット越しに、多くのアーティストが飛び入り参加している様子を見ました。コメディアンのデイヴ・シャペルとクリス・ロックまで、同じステージに立っていて、本当にすごいことだなと。

ロバート:それも、レジデンシーを好きな理由の一つ。彼らみたいなメジャーなスターたちが偶然、ステージに参加してくれるんだから。あの狭い感じが最高なんだよ。あんな機会はそうないし、いろんな人が「今、ブルーノートの前にいるんだけど」と連絡をくれたんだ。僕が連絡を取れなくて、後からマネージャーづてに聞いて「本当? あいつも来てたのか!」と驚くこともあった。一度、パフ・ダディが来てくれたんだけど、会場が狭すぎて人もパンパンで、入れないってこともあった。後から、「パフィが来たけど帰っちゃった」と聞かされて「マジかー!」って(笑)。

――5月には、日本での公演も控えています。

ロバート:そう! やっと日本に行ける。前回の来日からしばらく経っているから、待てないよ。日本でのステージはまだどうなるか分からないけど、ベストを尽くすつもり。だって、日本は大好きな場所だから。みんなを楽しませることは保証する。日本でハングアウトしたり、美味しいものを食べたりするのも楽しみ。みなさん、アリガトウゴザイマス。

――次作についても、すでに計画していますか?

ロバート:テラス・マーティンとは、ディナー・パーティーとして次のプロジェクトに取り掛かろうと話しているところなんだ。今は、それがいつ頃になるのか考えている最中。でも、時間が掛かっても必ずやり遂げるつもりだから、楽しみに待っていてほしい。

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