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【再掲】<コラム>シティポップ・ブームを紐解く重要な存在、杏里のデビューからブレイクまでの足取り
近年のシティポップ・ブームにより、ベテラン・アーティストたちの70年代、80年代の音源に対する再評価が著しい。日本を代表するシンガー・ソングライターの杏里もまた例外ではない。国内外で彼女の楽曲が多数再生され、カヴァーされる機会もあり、海外におけるサンプリングの例も見られる。もちろん、精力的にツアーを行い、2021年にはPeach & Apricot名義で竹内まりやとのデュエットも聴かせてくれた。ここでは、杏里のデビューから80年代末までの足取りを追いながら、どのようにブレイクし、シティポップ・クイーンとなったのかを解説したい。(※2022年3月23日初出)
杏里は1978年11月に17歳の若さでデビューを果たした。デビュー曲は尾崎亜美が詞曲を書き下ろした「オリビアを聴きながら」。ロサンゼルスでレコーディングした楽曲群の中から選ばれたこの曲は、今でこそ名曲の誉れ高いが、当時はデビューにしては地味だと思われていたそうだ。ほぼ同時期に発表されたデビュー・アルバム『杏里 -apricot jam-』には、溌剌とした「ラプソディー」や「Flying 午前10時発」から、フォーキーな「中国人形」、レゲエ調の「キーワードを探せ」、ファンク風の「Blue City」まで様々なタイプの楽曲が揃っている。
▲杏里 ANRI / オリビアを聴きながら [Official Video]
1979年には尾崎亜美によるポップなシングル「地中海ドリーム」と、その楽曲を含むセカンド・アルバム『Feelin'』を発表。本作は鈴木茂が全面的にアレンジを担当し、坂本龍一、松任谷正隆、高橋幸宏、小原礼といった豪華なミュージシャンがサポートしている。やはり尾崎亜美による楽曲が突出しており、グルーヴィーな「ブルー・ムーン」やメロウな「スリップアウェイ」など聴きどころは多い。続いて、バラードの「涙を海に返したい」(1979年)、ドラマ主題歌の「インスピレーション」(1980年)、瀬尾一三によるポップな「風のジェラシー」(1980年)、鈴木慶一がオールディーズ風に仕上げた「可愛いポーリン」(1980年)、CMタイアップ曲の「コットン気分」(1981年)とシングルをリリースし続けるがセールスは低迷。ムーンライダーズが全面バックアップした3作目のアルバム『哀しみの孔雀』(1981年)は、ヨーロピアン・サウンドを取り入れた意欲作だったが、こちらも成功とは言い難い結果となった。
風向きが変わったのが、杏里のバックバンドに参加していた小林武史による10枚目のシングル「思いきりアメリカン」(1982年)だ。タイトル通りアメリカ西海岸のイメージのこの曲は、CMタイアップの効果もあって健康的な杏里のキャラクターを印象付けた。その流れで作り上げたのが4枚目のアルバム『Heaven Beach』(1982年)である。本作で初めて角松敏生とのコラボレートが実現。ファンキーな「二番目のaffair」、メロウなミディアム・グルーヴ「Last Summer Whisper」、シングル・カットされたポップな「Fly By Day」という3曲のみではあるが、“杏里=夏”というイメージの礎を作り上げた。なお、「Last Summer Whisper」は、2020年に米国のR&Bシンガー、ジュヌヴィエーヴの「Baby Powder」という楽曲でサンプリングされている。『Heaven Beach』には他にも、小林武史やブレッド&バター、そして杏里自身の楽曲も収められ、シティポップ期のスタート地点となった。
▲ANRI アンリ 杏里 ”Last Summer Whisper” Heaven Beach🎤♪🎶🎸[Official Video]
1983年は杏里にとって大きな飛躍の年となった。5作目のアルバム『Bi・Ki・Ni』は、A面を角松敏生、B面を小林武史と杏里自身が楽曲を手掛け、さらに夏のイメージを定着させてスマッシュヒットとなった。とくに角松が全面的にバックアップしたA面の楽曲は秀逸で、ディスコ・ビートの「Good Bye Boogie Dance」や「Lady Sunshine」、ミディアム・チューンの「September Walkin'」、バラードの「Yes I'm In Love」と人気曲が目白押しである。そして、極めつけとなったのが、この年の夏にリリースされたシングル「CAT'S EYE」だ。TVアニメ『キャッツ・アイ』の主題歌に使われたこの曲は、空前の大ヒットを記録。各チャートを総なめにし、年間チャートでも6位という大きな成果を出した。テレビの歌番組でも露出が多く、一気にお茶の間に彼女の顔と名前が広がったのもこの頃からだ。
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1983年の更なる快進撃と続く第二の黄金期
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公演情報
杏里
ANRI with #bestbuddies Ⅴ
ビルボードライブ横浜
2023年3月12日(日)
1stステージ 開場15:30/開演16:30
2ndステージ 開場18:30/開演19:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪
2023年3月16日(木)- 3月17日(金)
1stステージ 開場16:30/開演17:30
2ndステージ 開場19:30/開演20:30
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ビルボードライブ東京
2023年3月22日(水)- 3月23日(金)
1stステージ 開場16:30/開演17:30
2ndステージ 開場19:30/開演20:30
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TEXT:栗本 斉
しかし、彼女の快進撃はこれだけでは終わらなかった。同じく1983年にシングル「悲しみがとまらない」を発表。康珍化が作詞、林哲司が作曲、そして角松敏生がプロデュースというチームによって作られたこの曲は、ノンタイアップにも関わらず「CAT'S EYE」に続く大ヒット曲となった。その後リリースされたアルバム『Timely!!』も角松敏生が全面的にプロデュースを担当。ディスコやコンテンポラリーなポップを昇華したスタイリッシュなポップスを展開してロングヒットとなっただけでなく、杏里の代表作として君臨している。特に、角松が詞曲とアレンジを手掛けた「WINDY SUMMER」や「STAY BY ME」、「GOOD-NIGHT FOR YOU」といったナンバーは屈指の名曲群として高く評価されている。そして、この年のNHK紅白歌合戦に初出場し、「CAT'S EYE」を披露した。
▲杏里 ANRI / CAT'S EYE -2000- キャッツアイ 2000 [Official Video]
1984年になってもその勢いはとどまらす、杏里自身も出演した「日清焼そばU.F.O.」のCMソング「気ままにREFLECTION」と、7作目のアルバムアルバム『COOOL』が大ヒット。さらに翌1985年にはシングル「16 BEAT」とアルバム『WAVE』を発表し、すっかりサマー・ポップスの代名詞となった。しかし、密にコラボレートしていた角松敏生との共同作業はこの年でいったん終了。杏里は新たな道へと進んでいく。1986年に発表した9枚目のアルバム『MYSTIQUE』は、小倉泰治と入江純をメインのアレンジャーに据えたのと同時に、その後の重要なパートナーとなった作詞家の吉元由美との共作が始まる。音楽的にはそれまでのブラック・コンテンポラリーを、よりディープに推し進めていくことで、新たなアイデンティティを見出した。
1986年の10作目のアルバム『TROUBLE IN PARADISE』は、井上鑑をプロデュースに迎えてロンドン・レコーディングを敢行。当時の洋楽を見据えた斬新なサウンド・プロダクションで、これまでのサマー・ポップ路線とはまた違う大人っぽい魅力をアピールした。なお、本作のタイトル・トラックは英語ヴァージョンが作られ、12インチ・シングルとしてカットされている。1987年に入ると再び夏路線の杏里が戻ってくる。ポップな先行シングル「HAPPYENDでふられたい」に続くアルバム『SUMMER FAREWELLS』では、再び入江純と小倉泰治をアレンジャーに起用。「SURF & TEARS」を始めとするポップ路線へと回帰した。
1988年は杏里にとって第二の黄金期といえるかもしれない。少々マニアックな路線に向かっていたここ数作から一転し、小倉泰治にすべてのアレンジを委ねてダンサブルでポップな面を押し出した12枚目のアルバム『BOOGIE WOOGIE MAINLAND』は、アルバム・チャートで2位を記録。本作からシングル・カットされた「SUMMER CANDLES」は、ドラマ『恋人も濡れる街角 URBAN LOVE STORY』の主題歌に起用されて大ヒット。彼女にとっての代表的なバラードになったと同時に結婚ソングの定番として歌われるようになった。続くシングル「スノーフレイクの街角」もCMソングとしてヒットした。翌1989年に入ると、13作目のアルバム『CIRCUIT of RAINBOW』をリリース。ドラマ主題歌の「Groove A・Go・Go」が収録されているとはいえ、シングル・カットをしておらず、それでもアルバム・チャートでは堂々の首位を獲得した。また、この年にはNHK紅白歌合戦に2度目の出場を果たし、披露した「Groove A・Go・Go」ではバンドとダンサーの全メンバーと一緒に、ライブステージをそのまま持ち込んだような形でパフォーマンスした。
▲ANRI 杏里 アンリ / Groove A・Go・Go [Official Video]
90年代以降も長野オリンピック(1998)の公式イメージソング「SHARE 瞳の中のヒーロー」を制作・歌唱するなど、杏里は常に第一線で活動を続け、今もなお話題に事欠かないのは、冒頭に記した通りだ。さらにいえば、昨今のシティポップ・ブームを紐解くには、杏里の80年代の活動を無視することはできないだろう。あらためて彼女の功績を振り返ることは、今の音楽シーンにとって、非常に重要なことなのである。
▲杏里 ANRI / SHARE 瞳の中のヒーロー [Official Video]
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TEXT:栗本 斉
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