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<インタビュー>菅田将暉が振り返る“特別な2年間”、発見と刺激に満ちたコラボレーションの軌跡
菅田将暉が、2020年から2021年にリリースした曲を集めたアルバム『COLLAGE』を3月9日に発売する。
今作には、映画『STAND BY ME ドラえもん 2』主題歌としてリリースされ、自身が出演したミュージック・ビデオは1億回再生を突破するなどロング・ヒットを続ける「虹」をはじめ、さまざまな映像作品のタイアップやミュージシャン、俳優らとのコラボによる8曲を収録している。盟友・石崎ひゅーい、Creepy Nuts、俳優の中村倫也など、コラボ相手は個性派揃い。当代随一の人気俳優/アーティストである菅田将暉ならではの豪華な競演作品という印象が先に立ちそうだが、これだけバラエティに富んだ楽曲を“コラージュ”して1枚の作品として描けるのは、彼が実に巧みなヴォーカリスト、表現者として、この2年間に成長してきたことの証明に他ならない。
前作『LOVE』との比較など、菅田自身はこのアルバムをどのように捉えているのか、ひとつの区切りとなる今作を経て音楽活動はどこへ向かうのか、詳しく話を訊いた。
グラデーションが気持ちいい
――今作はタイトルにある通り、2020年から2021年にリリースされた楽曲が収録されています。そのあいだ、コロナ禍という世の中の変化がありました。この2年間を振り返ってどんな想いを抱いていますか?
いろんな意味で“特別な2年間”としか言いようがないですね。(コロナ禍の状況について)どんな先輩方に聞いても「あんなことはない」と言うし、芸能界に関しても、あれだけ全部がストップするということもこれまでなかったですし。僕自身も活動できたのはラジオだけでした。ただ、そのあいだ、音楽のほうはいろいろ仕込みもできたし、いろんな人と動けて。みんなそうだと思いますけど、こういう状況だからこそできるものを探したし、その中でしか生まれなかったものもあるから、せっかくならそれを強みとして1枚にまとめよう、というのが今回の『COLLAGE』というアルバムです。
――様々な方とのコラボレーション、映像作品とのタイアップによる楽曲が並んでいますが、一つひとつの個性の強い楽曲たちを1枚の作品にするために、どのようなことを考えて曲順などを決めたのでしょうか?
う~ん、あまり曲順は気にしていなかったです。一つひとつ、同じように誰かと作っているわけですけど、人によっては寂しい曲になったり、あたたかい曲になったり、そのグラデーションが気持ちいいところに収まった感じだと思います。個人的に思ったのは、それぞれの人と同じように接しても、自分の中で出てくる色みたいなものが違うんですよね。だから、(石崎)ひゅーいくんとはちょっと湿っぽい曲になるとか、Creepy Nutsとは逆にもうちょっと飛ばして、明るく行きたくなるとか、OKAMOTO’Sとは考えずに楽しめるな、とか。そういうもののグラデーションを整えた、という感じです。
菅田将暉&小松菜奈 映画『糸』MUSIC VIDEO( 中島みゆき「糸」フル )
RADWIMPS feat. 菅田将暉 - うたかた歌 [Official Music Video]
――中島みゆきさんのカバー「糸」でのビブラートのニュアンスとか、それぞれの曲で歌い方が違って聴こえましたし、ヴォーカリストとしての菅田さんの面白さが感じられるアルバムでした。というのも、前作『LOVE』(2019年7月10日リリース)は“バンドマン・菅田将暉”という感じがしたんですよ。バンドでギターを弾きながら歌っている印象があったぶん、『COLLAGE』ではソロ・ヴォーカリストとしての特長が際立って聴こえる気がしました。前作との比較って何か考えましたか?
いやあ、そんなふうに言っていただいて褒めすぎな感じもしますけど(笑)。でも、楽曲提供とコラボの違いとして、コラボは“セッション感”という意味で合わせにいくというか。お互いの共通項みたいなところがどうしたって出るから、その調和みたいなものもあって、たしかにいろんな歌い方をしてますね。それによって学ぶことはすごく多かったように思うので、いま聞いていて「たしかにそうだな」と思いました。前作のときは、自分で曲を書いたというのもあったかもしれないですけど、もう少しバンドのみんなで作った感覚があったので。今回は「これ歌えるのかな!?」みたいな曲もあって。でも、「とりあえずやってみよう」と自分なりにできるラインを探していきました。RADWIMPSの野田(洋次郎)さんとのレコーディングとかは、もう夢のような時間で。RADの曲って、聴いているぶんには心地良いんですけど、カラオケで歌うとムズい、みたいな感覚があったんです。その謎がちょっと解けたというか。野田さんにディレクションしてもらって、音の当て方とか、「ここはこういうふうに歌うといいかも」という野田節を教えてもらって、それを体現するとすごく歌いやすかったりするんですよね。だから、種明かしされた気持ちでもあったし、それを真似て歌うとまた違う歌い方ができる。ヴォーカリストという意味ではすごく勉強になりました。
リリース情報
菅田将暉
アルバム「COLLAGE』
2022/3/9 RELEASE
「虹」によって一気に浸透した
――いまはDTMで自分一人で曲を完結させて発信することにこだわるアーティストも多いですが、今作は逆に、いろんな人との関わりを柔軟に形を変えながら表現している作品だと思います。それは役者として常に様々な役柄と舞台設定に挑戦している菅田さんだからこその強みなのかなと思ったのですが、いかがですか?
それは本当におっしゃる通りだと思います。それが楽しいというのもあるし、作曲家が演出家であり脚本家であり、自分が演者みたいな気持ちに毎回なるんです。と同時に、自分で全部を作れなかったりするから、こうせざるを得ないみたいなこともあるんですけど。でも、なんかいいですよね。本来ミュージシャンに対して、その人のカラーだったり手口みたいなところを無理やり知ろうとするのは「ちょっと詮索しすぎじゃないかな?」と思うけど、コラボでは公然とそれを知ることができる(笑)。それぞれのアーティストのいちファンだからこそ、僕はその贅沢さが実は一番楽しかったりするんですよ。
――そうしたアーティストの中でも、先ほどお名前が出た石崎ひゅーいさんは、いまや菅田さんの音楽活動には不可欠な存在だと思うのですが、お二人の関係性や音楽の表現の仕方って、最初の頃と比べて変わってきた部分はあるのでしょうか?
根本的にはあまり変わっていない気がしますけど、一番最初にひゅーいくんに会ったときに「『花瓶の花』の弾き方教えてください」と言ったら、あの人、コードの名前とかわからなかったんですよ。「人差し指でここ」「その次は、ここを3本同時に押さえる」みたいな(笑)。そんな人だったのが、いまはちゃんとコード譜をくれます(笑)。
――目に見える変化がありますね(笑)。
いまは家に音楽機材とかもあるから、ひゅーいくんの中での変化もあるんでしょうけど。でも、よくあるのが、ひゅーいくんが作った曲を僕が歌うときに「ちょっとここわかんない」となると、ひゅーいくんが歌ってくれて、僕が「ああ、こうやるのかな?」みたいに言うと、「半音ずれてるのかな? しゃくってるのかな?」って、ひゅーいくん自身がどんどん自分の癖に気付いていくという時間があるんですよ。「あ、俺そうやってんだ?」みたいな。これってそれぞれのアーティストも同じで、逆に僕が真っすぐに歌うことによって、自分の癖に気付いて、ちょっとはにかむみたいな。
――なるほど、それは興味深いです。
あの時間が僕はけっこう楽しくて。「ああ、そうか。俺ってそういうところあるんだ!?」って、5秒ぐらい固まったりして(笑)。それを経て、ひゅーいくんもまた違うアプローチで曲を作ってくれることもあったり、いい刺激になっていればいいなと思います。
――逆に、石崎さんから見た菅田さんの変化もありそうですね。
例えば「虹」は、「どうやったら子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで聴ける曲になるかな?」って、より聴きやすいようにするにはどうしたらいいか、ポップさみたいなものを二人で研究したんです。歌い方ひとつにしてもそうなんですけど。その作業は新鮮でしたし、最初に会った頃とちょっと違う作業にはなっているなと思います。
菅田将暉 『虹』
――その「虹」のMVが1月末に1億再生を突破しました。2020年にリリースされたこの曲がロング・ヒットとなって、これだけの支持を集めていることにはどんな感想を持っていますか?
ひゅーいくんさまさまですし、いろんなことがあってのこの「虹」なので、これ以上ない宝物になっています。そんな自分たちの中でも大事な曲が、ちゃんと自己完結で終わっていないところがビックリというか。今までになかった現象で言うと、先輩の俳優さんとかが「うちの子が『虹』めっちゃ好きなんだよ」みたいなことを言ってくれて。菅田将暉に対して音楽のことで話しかけてくれるということが「虹」以降、増えたんです。その現象が嬉しかったですね。別に恥ずかしいわけじゃないけど、いままでは音楽活動をやっていること、歌っていることを自分から特に言うこともなくて。「どうやったら浸透するかな」みたいなことは思っていたけど、それが「虹」によって一気に浸透した感じが嬉しかったですね。だから、僕の携帯にはいろんな有名人のお子さんが歌っている「虹」がいっぱいあります(笑)。一番嬉しかったのが、うちの実家にアップライト・ピアノがあって、小さい頃に自分も弾いていたんですけど、いまはもう誰も弾かないからって、実家をリフォームするときに地元のピアノ教室に寄付したんですよ。そうしたら、そこの生徒さんが「虹」を弾いてくれている映像が届いて。そんなことあるんだなって、すごくグッときました。
――この曲にそんなエピソードがついてきたら泣けますね。
本当、泣いちゃいますよね。小学2年生ぐらいの女の子が演奏していて。そこの先生は僕も教わっていた方なので、すごい現象が起きてるなと思いました。
リリース情報
菅田将暉
アルバム「COLLAGE』
2022/3/9 RELEASE
近藤華ちゃんという人との出会いを残したい
――今回、アルバムの初回盤に付属するBlu-ray収録の新録「ギターウサギ」のMVには、14歳の近藤華さんが出演、さらに映像のクリエイティブ・ディレクター兼アニメーション制作も務めているそうですね。このMVについて紹介してもらえますか?
こうやって肩書を見ると面白いですね(笑)。華ちゃんは、同じ事務所(トップコート)所属の14歳のモデル/女優さんなんですけど、僕もこの件で知り合うまではちゃんと認識はしていなくて。この「ギターウサギ」という曲は、少女が家にいて、一人で何かに没頭しているような歌なんですけど、それを聞いたマネージャーさんが「うちにいい感じの子がいる」って紹介してくれたんです。よくよく聞けば、その子は自分でアニメーションを描いたり、いろんなモノづくりが好きだということで「会ってみたいな」と思ったんです。実際に会ってみたら、そのときにはもう、iPad片手に自分で描いたVコンテがあって。「もうこれでいいじゃん!」みたいなクオリティだったんです。僕としては、別に無理してやらせたくないし、「冬休み真っ只中の中学生を捕まえて、友だちと遊ぶ時間を奪うのもなあ」と思っていたんですけど、気付いたら「冬休みを返上してアニメ描きます!」みたいなことを言ってくれていて。「じゃあもう、全部任せるから好きにやってみて」ということで、クリエイティブ・ディレクターと書いてある通り、現場での演出のカット割りから小道具の一つひとつまで、全部自分で指示を出して創ってくれたんです。
――初めてでそれはすごいですね。
できあがりもすごく素敵で。やっぱり拙さはあるんですけど、この『COLLAGE』に関して言えば、未完成なものもそのまま出せるところが強みだったりするから。近藤華ちゃんという人との出会いを残したい、というのが今回のMVです。たぶん、いつか華ちゃんは自分の最初の作品を見て、めちゃくちゃ恥ずかしくなるはずなので、そのときが楽しみなんですよね(笑)。
――ちなみに、菅田さんが14歳の頃って何をしてましたか?
何してたかなあ……ずっと漫画読んで、サッカーをしてましたね。ピアノはまだやってました。でも、何してたんだろう? 全然覚えてない(笑)。いろんなことをやってましたね。ピアノをやって、ダンスも始めたり、サッカーもやって、アメフトにも興味を持って、習い事に忙しい日々でした。
――14歳で制作の指示までするというのは、なかなか考えられないですか?
信じられないですよね。ちゃんと意欲があって、能力がある人を自由にさせる場所みたいなものを、ちょっとは先輩らしく作ってあげたいな、ということも今回思いました。
菅田将暉『ギターウサギ』
――「ギターウサギ」のMVなども含めて、『COLLAGE』は菅田さんにとってどんな1枚になりましたか?
本当にこの2年間だからこそ生まれたもの、形になったものなので、人にあまり会わなかったなかで人と触れ合った証というか。僕が一番心地良いものをそのまま残したという感じですかね。僕の思い出として、この“茶封筒”がいるな、という感じです。
――このアルバムを経て、今度の音楽活動はどんな方向に向かうのでしょう?
やりたいことはいっぱいあるんですけど、実力が伴っていない状況なので、まずはたくさん練習したいです。一つの変化としては、ちゃんと歌い上げて誰かに伝えよう、みたいな曲が多かったので、ちょっと想いを込めすぎたなと思っていて。そういうものは好きだし大事なんですけど、あまり朝イチから聴ける曲がなさそうだから、もうちょっと朝から聴ける曲をやりたいなって(笑)。心地良くコーヒーとかを飲みながら聴けたり、ドライブしながら友だちと喋ってるなかでBGMとして流せるような曲とか。ここからはやっとそういう、魂とはちょっと離れた感じで、純粋に音楽と触れ合えるのかなと思っています。
Photo by Yuma Totsuka
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菅田将暉
アルバム「COLLAGE』
2022/3/9 RELEASE
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