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supercellから空白ごっこまで ボカロ出身クリエイターのJ-POPシーン躍進を振り返る



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2007年に歌声合成ソフト「初音ミク」が発売されてから15年。いまやJ-POPの潮流を語る上でボーカロイドの存在は避けて通れないものとなった。米津玄師やYOASOBIはヒットチャートを席巻し、他にもボーカロイドを使って楽曲を制作しインターネットに投稿する“ボカロP”として音楽活動を始めた沢山のアーティストがブレイクを果たしている。

なぜボーカロイドシーンから沢山の才能が羽ばたいてきたのか。ボカロPがシンガーソングライターやバンドやユニットの形でアーティスト活動を始め、ポップミュージックの領域で成功を収めるようになってきた背景にはどんなものがあるのか。

その土壌には、00年代末から相互に影響を与えあってきたボーカロイドシーンと日本のロックシーンの関係性がある。この記事ではその変遷と現在について解説したい。

Text:柴 那典

supercell、ハチ、wowaka、Eveらが躍進
ターニングポイントは2009年

 黎明期のボーカロイドシーンはニコニコ動画を拠点にアマチュアのDTM愛好者たちが集う場所だった。商業音楽の領域とは全く接点のない、オンライン上のコミュニティだった。投稿される楽曲も当初は初音ミクのキャラクター性にスポットをあてたようなものが中心。ゲームや同人誌即売会とも隣接するカルチャーだった。

 現在のようにボカロPがJ-POPの領域で活躍する土壌が生まれた最初のターニングポイントは2009年だ。ボカロシーンの初期の代表曲「メルト」をきっかけに脚光を浴びたsupercellがこの年にメジャーデビュー。8月にはボカロ曲をカバーし動画投稿する「歌い手」として活動していたnagi(やなぎなぎ)をゲストボーカルに迎えた1stシングル「君の知らない物語」をリリースしている。アニメ『化物語』のエンディングテーマとしてヒットしたこの曲は、ボカロPとして活動を始めたクリエイターがヴォーカリストを迎えたユニットの形で商業的な成功を収める最初の例となった。


左から ika「みくみくにしてあげる♪」(2007年)
OSTER project「恋スルVOC@LOID」(2007年)
supercell「メルト」(2007年)
supercell「君の知らない物語」(2009年)

 また、この頃から日本のロックにルーツを持ちバンドに憧れて育ってきたクリエイターがボカロPとして活動を開始し、その独創的な作風で人気を集めるようになっていく。その筆頭がハチとwowakaだ。ハチは2012年に本名の米津玄師名義でシンガーソングライターとしての活動を始め、2013年に「サンタマリア」でメジャーデビュー。wowakaは2012年にバンド・ヒトリエを結成し、2014年にメジャーデビュー。ネット上だけでなく、ライブハウスツアーやフェスへの出演を経てロックファンにも支持を広げていく。


左から ハチ「マトリョシカ」(2010年)
米津玄師「サンタマリア」(2013年)
wowaka「ワールズエンド・ダンスホール」(2010年)
ヒトリエ「センスレス・ワンダー」(2014年)

 他にも2009年にナノウ名義でボカロPとしての活動を始めたコヤマヒデカズは、現在はバンド・CIVILIANのフロントマンとして活動。2010年に石風呂名義でボカロPとしてキャリアをスタートした朝日は現在バンド・ネクライトーキーのギタリストとして活動している。


左から ナノウ「ハロ/ハワユ」(2010年)
CIVILIAN『正解不正解』(2020年)
石風呂「ゆるふわ樹海ガール」(2011年)
ネクライトーキー「オシャレ大作戦」(2018年)

 また、Eveの初投稿は2009年、まふまふの初投稿は2010年。どちらも当初は歌い手としてニコニコ動画上で音楽活動を始め、その後にボーカロイドを用いたオリジナル楽曲を発表、現在はシンガーソングライターとして活躍する人気アーティストだ。こうしたタイプのミュージシャンが登場する動きの端緒も2009年から2010年にあったと言っていいだろう。


左から Eve「TRAGIC BOY(カバー)」(2009年)
Eve「ドラマツルギー」(2017年)
まふまふ「モザイクロール(DECO*27カバー)」(2011年)
まふまふ「メリーバッドエンド」(2018年)

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さらに活動領域を広げるボカロ出身クリエイター
YOASOBI、Ado、そして空白ごっこへ
 

 その後もボーカロイドシーンで人気を博したクリエイターがシンガーソングライターやバンド、ユニットの形でデビューし活動領域を広げていく流れは続いていく。代表的な存在にはバンド・ヨルシカのコンポーザーとして活動するn-bunaや、シンガーソングライター・須田景凪として活動するバルーンなど。2010年代半ばに結成され中心メンバーがボカロPとしての出自を持つバンドとしては他にもPENGUIN RESEARCHやサイダーガールなどがいる。


左から ヨルシカ「ただ君に晴れ」(2018年)
須田景凪「シャルル」(2016年)
PENGUIN RESEARCH「敗北の少年」(2016年)
サイダーガール「メランコリー」(2017年)

 そして2019年にはYOASOBIが「夜に駆ける」でメジャーデビュー。2020年には同曲でBillboard JAPAN HOT 100の年間チャート1位を獲得している。コンポーザーのayaseはもともと16歳からロックバンドのボーカリストとして活動し、その後にボーカロイドでの音楽制作を始めたというキャリアの持ち主だ。全く無名だったYOASOBIがCOVID-19のパンデミックによって社会全体が大きく変容した2020年にブレイクを果たしたことは、その後の音楽シーンのあり方にも大きな影響を与えた。


左から YOASOBI「夜に駆ける」(2019年)
Ayase「ラストリゾート」(2019年)

 2020年代の音楽シーンの大きな特徴は、J-POPのメインストリームとボカロシーンに垣根がなくなり、フラットにつながっているということにある。当初はアマチュア主体のコミュニティだったということもあり、米津玄師やヒトリエなどが活動を始めた頃は、ボカロPがメジャーデビューしアーティスト活動を行うことは、もともといた拠点からのある種の“越境”として捉えられることが多かった。しかし現在ではYOASOBIのayaseや、Ado「うっせぇわ」の作曲者であるsyudouなどを筆頭に、メインストリームな領域でのアーティスト活動とボカロPとしての活動を並行して行う例も少なくない。


左から Ado「うっせぇわ」(2020年)
syudou「キュートなカノジョ」(2021年)

 こうした時代性を象徴するバンドが、「下北沢発、インターネットシーンを中心に活動中」と銘打つ空白ごっこだ。結成は2019年で、メンバーはヴォーカリストのセツコ、コンポーザー針原翼、koyoriの3人組。針原翼はHarryP名義で、koyoriは電ポルP名義でボカロPとして長く活動してきたキャリアの持ち主で、歌い手として活動しHarryPのボーカロイド楽曲をカバーしていたセツコとSNSを介して出会ったのがバンド結成のきっかけ。ボーカロイドシーンを出自がありつつ、メンバーが所属する制作スタジオ「Evergreen Leland Studio」が下北沢の駅前にあることから“下北沢発”を打ち出しているグループだ。

 2019年12月にYouTubeに「なつ」を発表し活動をスタートさせた空白ごっこ。当初は配信や動画サイトで楽曲を発表し謎めいた存在感を保ってきたが、2021年からは拠点にする下北沢の街でライブを重ね、フィジカルな活動の場を広げてきた。渋谷や新宿に比べると街の規模は小さいが、ライブハウスやスタジオやレコードショップがひしめく下北沢は東京の音楽カルチャーの発信地の一つ。下北沢のライブハウスシーンはパンク、エモ、オルタナティブ、インディーロックなど様々なバンドたちを世に送り出してきたが、空白ごっこもそこに連なる音楽性を持つバンドだ。

▲空白ごっこ「なつ」(2019年)

 「運命開花」や「ストロボ」など、これまで発表してきた楽曲は疾走感あるオルタナティブ・ロックの曲調が中心。その魅力は吐息から叫びまで自在に使い分け繊細な感情を表現するセツコのヴォーカルにある。畳み掛けるようなギターフレーズを軸にしたアグレッシブなバンドサウンドを展開する。

▲空白ごっこ「運命開花」(2021年)

 一方、2月16日にリリースされた1stシングル「ラストストロウ」は初のバラード曲。TVアニメ『プラチナエンド』2ndシリーズエンディングテーマとして書き下ろされた一曲で、ピアノやストリングスを配した壮大でエモーショナルな曲調を持つ。最初のサビの「息をするまでの全部を」と歌うフレーズの一瞬前で無音になるポイントや、後半のギターソロからの展開など、緩急の効いたアレンジが聴き所だ。

▲空白ごっこ「ラストストロウ」(2022年)

 他にも、くじら、キタニタツヤ、NEE、Van de Shop、NOMELON NOLEMON、遼遼、神谷志龍など、現在の日本の音楽シーンにおいては、ボカロPとしての出自を持つバンドやユニットやシンガーソングライターが数多く活躍している。ボカロPとバンドマンの二つの顔を同時に持ち、インターネットとライブハウスシーン両方を拠点に活動するミュージシャンも珍しい存在ではなくなってきている。

 独自の発展をしつつある日本発の新たなポップカルチャーの先行きがとても楽しみだ。

空白ごっこ「ラストストロウ」

ラストストロウ

2022/02/16 RELEASE
PCCA-6103 ¥ 1,320(税込)

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  1. 01.ラストストロウ
  2. 02.カラス
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