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<インタビュー>じん 1stミニアルバム『アレゴリーズ』リリース “作品を作り続ける理由”を赤裸々に語る



じんインタビュー

 音楽・小説・脚本などをマルチに手がけるクリエイター・じんが、1stミニアルバム『アレゴリーズ』を2月16日にリリースする。2011年2月、ニコニコ動画にて処女作「人造エネミー」を投稿したじんは、目に関する能力を持つ少年少女の物語を描いた『カゲロウプロジェクト』が当時10代の少年少女を中心に耳目を集め、一連の楽曲のほか自身の執筆による小説から漫画、アニメ、映画へと複合的な展開を見せるほどのプロジェクトに発展した。

 その『カゲロウプロジェクト』の小説、漫画が完結したタイミングの2018年11月7日にじんがリリースしたのは、『カゲロウプロジェクト』の音楽編のエンディングを彷彿とさせる『メカクシティリロード』。そして、活動10周年を迎えた2021年4月1日、動画サイトに『カゲロウプロジェクト』のオープニング・テーマ「チルドレンレコード」のリブート版を投稿し、続けて8月には小説・漫画の投稿サイト『アルファポリス』のCM「終わりなく拡がる世界」に自身が歌唱した「後日譚」が起用されることに。

 じんが初めて全オリジナル曲のボーカルを務めた『アレゴリーズ』は一見、『カゲロウプロジェクト』と関連性のないタイトルだ。しかし、インタビューする中で見えてきたのは、作品を作り続ける理由をはじめ、『カゲロウプロジェクト』同様に、“子供”と“大人”の対話をテーマに語る変わらないじんの姿だった。『カゲロウプロジェクト』では表現できなかった思いがとめどなく溢れだした本作は、まさに大人になったじんの本当の声が詰まった短編集といえる。

――前作『メカクシティリロード』をリリースされたときから自身で歌唱するアルバムをリリースすることは考えていたんですか?

じん:昨年活動10周年の節目を迎えたんですけど、あんまり10周年の節目を意識していないこともあって、「この10周年何やろう、俺」みたいになって(笑)。最初は「チルドレンレコード」のリブート版の発表からスタートして、そのあとにアルファポリスさんからCMソング制作のご依頼をいただいたんです。そのときにいただいたテーマが物を作ること、創作をすること。自分も物を作る立場でもあるし、インターネットが出自で音楽を発表してそこから小説を書かせていただいていたことも含めて、この10年いろいろなことをやってきたので、いいものが書けそうじゃないかなと思い、お受けしました。ただ、そのテーマソングを誰が歌うんだっていう。まずは曲を書いて、アルファポリスさんには僕の声で歌ったデモソングを聴いていただいたんです。そうしたらそれが良かったらしくて、僕が歌うのはどうかという話になって。スタッフの方たちも「(ポカン)……いいんじゃないですか!?」みたいな(笑)。それで「後日譚」を制作して昨年の8月に公開したんですよ。

――じんさんにとっても思ってもみなかった流れでボーカルを務めることになったんですね。

じん:そうです。「後日譚」は、物を作ることに対して自分なりの角度で表現しようと思った作品だったので、10周年の節目らしい曲でもあるなと思っていたら、「この曲をきっかけにアルバムを作りませんか?」って事務所の人が言ってくれて。そこから自然発生的に自分が歌唱するアルバムを作るようになりました。なので企画意図とか策略的なものはなかったですね。


――「後日譚」はアルファポリスのテーマに沿う以上に、じんさんの感情がものすごく溢れだした曲なんじゃないかと感じました。

じん:たしかにそれはありますね。僕は中学校の頃、不登校だった時期があって、そのときにロック・ミュージックに出会いました。THE BACK HORNの曲を聴いたのをきっかけに僕は高校に入ってからずっとロックバンドをやるんですね。まず、ロック・ミュージックがすごくいいなって思ったのともう一つ、その頃に乙一先生という小説家が書かれた『ZOO』という小説を読んだんです。それに衝撃を受けて、そこから自分の活動は始まったんだということをアルファポリスさんからご依頼をいただいたときに考えたんですよ。

――なるほど。

じん:小説を書く人とか、自分の作品を人に見てもらいたい人とかって、「僕はこう思ってる」「私はこう思ってる」「こういうものがいいと思ってるけど、みんなはどうなんだろう?」って確認したいから、作品を作っているところもあると思ったんですよね。アルファポリスさんからお話をいただいたこの機会に、自分もそういう気持ちを抱えていたことを伝えたいと思ったんです。

――創作を始めたきっかけから、じんさんのこれまでに対する思いを描いたのが「後日譚」なんですね。

じん:そうですね。<2004年8月に死んでいた少年に捧ぐ>という歌詞があるんですけど、あれはまさに当時苦しんでいた中学生の頃の自分に対して言いたかったこと。僕はずっと創作のテーマとして中学校の頃の自分に対して作ると決めていて、大人を喜ばせることとかトレンドに乗ることとかは僕がやらなくていいことだと思っているんですよ。なので、「後日譚」は10周年を迎えて、変わらないものを再確認するような曲になりました。

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作品の行く末を期待してくれるファンの方たち
これこそ信じるべきもの

――『カゲロウプロジェクト』は非常に規模の大きい作品だと思うんですが、制作を続けてきた中で達成感を得て先が見えなくなることはありましたか?

じん:今まで僕が作ってきた作品は昔の僕が作った作品で、今の僕はまた変わっているわけなんですよね。生きていく以上、今の僕が考えていることがどういうふうに受け取ってもらえるかの確認作業は終わらないのかな。承認欲求はないんですけど、コミュニケーションは人間として生きている以上続けていかなくちゃいけないことだと思っています。それが僕の場合は音楽という形が一番適切だったんだろうなと。「飲みに行こうよ!」と言うことが得意な人もいれば、僕みたいに何かを残して誰かと感想のやり取りをし合うことが適切な人もいますよね。

――じんさんにとってのコミュニケーションは音楽。だからこそ10年も活動を続けることができたということですか。

じん:もちろん、人気者になりたいとか、スーパーヒーローになりたいとかは、宝くじ当たったらいいな、くらいの感覚では思いますけど(笑)。それは別に目標ではなく普通に到達したいな。

――本作収録の「FREAKS」には<あの太陽みたいな 人気者になりたいんだ>という歌詞がありましたね。

じん:あれはまさにそういう瞬間。今の僕とはちょっと違うんですけど、むやみに憧れを抱いていた小さい頃の僕っていう感じ。当時は人気者になりたいと思っていたときがあったんです。でも、遠くのほうを追いかけていくと近くで応援してくれている人たちが見えなくなる。それはすごく寂しいことだなって。例えば、人気者のインフルエンサーと仲良くなってその人たちを大事にしながらも、ずっと育ててくれたお母さんとかを大事にできなかったら自分の心は痛むんじゃないかと僕は思うんです。でも、それが正しいか間違ってるかというよりかは僕がどう思ったかが、「FREAKS」には入っているのかな。太陽を追いかけるんじゃなくて、太陽に負けないものに自分がどうなるかを考え始めた頃の話をしていますね。

――それはいつ頃の話なんですか?

じん:「サマータイムレコード」を投稿した2013年以降です。その頃は自分で考えて物を作ろうという気持ちが特に強くて。僕は誰も否定したくないんですけど、僕と考えが違う人たちはいるわけですよ。『カゲロウプロジェクト』を作っていく中で多くの人が関わっていくといろんな思想が生まれてくるんですよね。僕の思想だけじゃ当然なくなっていく。それですごく悩んで、何をやったらいいかわからなくなったとき、いたずらにどこか空を目指すんじゃなくて、あらためて昔の自分に対してもっと真剣に生きていこうと思ったんです。そう思えたのは、純粋に作品の行く末を期待してくれるファンの方たちがいたから。これこそ信じるべきものだと、そのときに思ったんですよね。

――『カゲロウプロジェクト』といったん離れた本作は、じんさんのこれまでの苦悩や心中がストレートに語られているアルバムですが、今回はサウンド面でもこだわったところは多いんじゃないかなと思いました。

じん:そうですね。やっぱり『カゲロウプロジェクト』となると『カゲロウプロジェクト』のムードを意識して作ろうとか変に考えちゃうこともあるんです。でも、今回は「自分のファンにこういう思いを届けたい」という視点で作ったので、割と愉快に作ったというか(笑)。それこそ今までやってこなかった人たちと一緒にやってみたり。ロックを絶対やろう、バラードを絶対やろう、ピアノを絶対に使わないとダメ、みたいに決めないで、それぞれのテーマに合った音像を選んで作りました。

――ロックからエレクトロ、エキゾチック、ラブバラードとすごくバラエティーに富んでいて。初回限定盤Aの2枚目のCDに収録されている可不による「GURU」は、特に新鮮でした。

じん:「GURU」はオフィシャルYouTubeチャンネルを作ったし、思い付きでやってみようと、非常にインスタントな作り方になりました。別にこれで何かを狙うわけでもなく、残す作業ですね。今後1年ぐらいの期間で1か月に1曲ずつ出していくつもりでいます。

――ミュージックビデオ制作には、「グッバイ宣言」でブレイクしたボカロPのChinozoさん、Adoさんの「ギラギラ」のMVのアニメーションを手がけた沼田ゾンビ!?さんと、新進気鋭のクリエイターの方々が加わっていて、じんさんなりの思惑があるのでは、と思ったんですが、どうでしょう?

じん: Chinozoさんは僕の音楽制作を担当してくださっている方とお知り合いだったんですよね。「Chinozoさんという方がいるよ」という話がきっかけで可不のエディットの部分でいろいろと教えてもらったりしました。沼田さんは好きな絵を書く方だなと思っていて、普通にご相談したら「いいよ」と言ってくれたので、「やった!」っていう。あんまり策略はないですね(笑)。

――なかでも、<キモく生きていこうぜ>という歌詞がじんさんの生きざまのような歌詞で。

じん:<ザコい者同士だ キモく生きていこうぜ>って義務教育の失敗みたいな歌詞ですよね(笑)。「おまえが間違ってるんじゃなくて両方間違ってるんだから、仲良くしようぜ!」っていう。やっぱり辛い時代だからこそ、誰が悪い、誰が正しいという話になりがちなんですけど、正しい人なんているわけないし、普通にみんな間違ってると思うんですよね。


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結局、自分を止めてるのは自分だなって

――初音ミク、IAはボーカロイドそのものですけど、可不は少し人間味がありますよね。人間の声に近づいたボーカロイドが出てくることについて思うことはありますか?

じん:歌詞を書く立場からすると、人間っぽい声がどんどん使えるようになることで、ボーカロイドに合わないと思っていた言葉が使えるようになるのはありますね。そもそも人間の声を元にしているとはいえ、人間みたいに聴こえるのはすごい技術だと思うんですよ。あと、ボーカロイドはボーカロイドっぽいから好きという人がいるじゃないですか。僕はそれも正しいと思うんですよね。僕も中学生の頃に聴いた音楽がぐちゃぐちゃな音の音楽だったのもあって、綺麗な音の音楽よりそういう音楽のほうが好きだし、泣けることはよくある。ボーカロイドも良し悪しじゃないと思うんです。今回、『アレゴリーズ』の初回限定盤AのDISC 2には「消えろ」の可不バージョンが入っているんです。自分で歌いつつ、可不が歌うのもいいなと思って両方のバージョンを作った曲なので、結構面白いと思いますよ。


――昔の自分を肯定してあげるようなじんさんの歌詞が書かれた「後日譚」を聴いて思わず安堵したんですが、「消えろ」ではやっと納得できたのに邪魔するものがあって呪いが消えないみたいに否定的な気持ちが前面に出ていて。「あれ? 結局じんさんは今も苦悩を抱えたままなのかな?」と考えてしまったのですが。

じん:救われたのかと思いきや(笑)。生きていて、嫌なことがあったり、大事にしていたものが崩れてしまったりすると死にたいと思う日があって。インターネットで“自殺 楽な方法”って調べたことがある人って割と俺だけじゃないと思うんですよね。でも、死にたいと思ったときはたいてい死なないんですよ。「俺が死のうと思ってるときに止めてるのは誰だ」と思うんですけど、結局、自分を止めてるのは自分だなって。なので、<うるさいうるさいうるさいうるさい><消えろ>は割と自分に対しての歌詞なんですよね。僕が、飛び降り自殺とかしないで済んでいるのは、自分自身の心を殺して済ませているからなんだろうなと。それは少しずつ大人になっていき、「まぁ、こんなもんでしょう」という気持ちになっていく意味では、「後日譚」と同じなんですよ。「後日譚」の<心が死んでいった>という歌詞がまさに「消えろ」とつながる。自分が死ぬ代わりに感情的な心を殺すことで生きている。そういう歌だなと。

――大人になっていくことに近いみたいな。

じん:なんでもかんでも辛い、悲しいと感受性強く言っている自分を殺すことで、辛いと思うことなく生きていけるようになる。「満員電車も別に怖くないし、上司の悪口も怖くない。そんな生き方しかできなくてごめんね」って自分に言っている曲ですね。

――今回、『カゲロウプロジェクト』の楽曲を作るのとはまた違う作りになったと思うんですが、その点では何を意識して書かれましたか?

じん:よりパーソナルなものですね。『カゲロウプロジェクト』はキャラクターというフィルターがあったんですけど、今回は直接起こったファクトを選んで曲にしました。例えば、「VANGUARD」は友人が亡くなったときに作った曲なんですが、その友人の亡くなったという知らせがあってから、SNSでは「悲しい」「どうして」「早すぎる」「もっと音楽聴きたかった」という声がたくさん出ました。「なら、なんでもっと早く言ってあげなかったんだ」と、勝手にすごく嫌な気持ちになったんですよ。何を言っても、その人は何も言わないし、好きだったなんて言葉も聞けないのにって。それでそのことを曲にしようと思いました。

――たしかに誰かが亡くなったときに、いろんな人がTwitterに思いを書き込んでTwitterのトレンドになっていたりしますね。生きているときにそれを言ってあげれば、変わっていたかもしれない。

じん:そうですよね。もっとライブにたくさん通ってあげるとか、そんなに好きなら直接伝える方法を考えるとか。あと、「MERMAID」は、新婚旅行の行先に向かうはずが墜落して海の中に沈んでいく飛行機に乗った女の人の曲なんです。恋愛に限らずいろんな人間関係がある中で、お互いを好きになることはあると思うんですよ。でも、関係を続けていくと嫌なところが見えてきて、嫌いになることがある。好きという気持ちが絶頂のタイミングで死んでしまうのは、もしかしたら正解になりうるのかもしれないと考え始めたときがあって。そういった、「みんなもそう思わない?」と思うことを曲にして問いかけているのが、今回のアルバムですね。

――じんさんの哲学が詰め込まれていながら、どこか『カゲロウプロジェクト』の面影が感じられるアルバムですよね。歌詞、サウンドからも、懐かしさを覚えるようなところもあって。

じん:そうですね。無理に新しいことをしないで、その瞬間、瞬間で思いついたものを作っていきました。『アレゴリーズ』というタイトルは寓話集をイメージしてつけていて、すごく淡泊なタイトルです。パタンと閉じた本、みたいな形にできたらいいなと思っています。

――『アレゴリーズ』の一方で、「チルドレンレコード」のリブート版から動き出した今後の『カゲロウプロジェクト』も期待していいんでしょうか?

じん:もちろんです! 『カゲロウプロジェクト』は多くの人が関わっていて僕一人の作品じゃないので、気長に新作を待ってくれたらありがたいなと思います(笑)。今後も、少なからずいいと言ってもらえるような作品を自分らしく作るのが一番の目標になると思うので、活動を引き続きやっていきたいですね。


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