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<インタビュー>miletが語る、ポジティブなパワーに満ちた2ndアルバム『visions』
miletの約1年半ぶり、通算2作目となるフルアルバム『visions』が完成した。
2021年は自身初の全国ツアー、東京オリンピック閉会式でのパフォーマンス、2年連続となる『NHK紅白歌合戦』への出場など、ますます活動の勢いを加速させた彼女。一方、社会ではコロナ禍以降の新しい生活様式が浸透し、人と人の繋がりの形も変わっていった。
今作『visions』は、本人いわく「コロナ禍の影響はとても大きかった」アルバムになっている。シングルとして先行リリースされていた「Ordinary days」を筆頭に、歌唱、サウンド、作詞――あらゆる面で前作『eyes』では見られなかった要素、チャレンジングな姿勢が刻み込まれているが、その背景には目まぐるしく駆け抜けていった2021年の日々、そのなかで起こったmilet自身の様々な心境の変化があるのだろう。
もともとファンだったというiriとのコラボ・ナンバーや、デビュー当初からのメンター的存在でもある音楽プロデューサー、Ryosuke“Dr.R”Sakaiとの思い出の1曲なども収録した2ndアルバム『visions』について、そして2022年以降の活動に向けた意気込みや期待など、本人に話を訊いた。
どこかに暗さがあるからこそ、より光が見える
――2020年6月にリリースされた1stアルバム『eyes』以降、コンスタントに音源をリリースされてきたmiletさんですが、そんななかで2ndアルバムを意識して動き出したのはいつ頃だったんですか?
『eyes』のときもそうだったんですけど、アルバムに向けて制作に取り掛かるというよりかは、活動のなかで曲をたくさん作っているうちに「そろそろアルバム作りたい」というモードになっていくんです。『visions』に関してもそういった流れでした。ただ、主に『eyes』以降に生まれた曲たちのテーマは、一貫してどれもポジティブなもので。暗い部分から這い上がっていくようなパワーのある曲たちが揃ったので、アルバムとしてはすごくまとまったものになったと思います。
――ご自身からポジティブな楽曲が生まれていたのには何か理由があるんですかね?
コロナ禍の影響はとても大きかったと思います。最近は自由な気持ちに振り切って楽曲制作をしているんですけど、2020年はツアーが2度中止になったり、いろんな活動が延期になったりしていたので、そこでの感情を無視しては曲作りできないところがあったというか。
――大変な状況だからこそ、気持ちを前に向ける必要があったと。
そうですね。特に「Ordinary days」は、なかなか会えなくなってしまったファンの方に届けたい思いも込めたので、まさにコロナ禍だからこそ書けた曲だと思います。コロナ禍になっていなかったら、2枚目のアルバムは全然違った印象になっていたのかもしれないです。
――アルバム収録曲のうち、9曲にタイアップがついているのも印象的で。タイアップするドラマや映画、CMなどから受け取ったものがポジティブな要素を引き出してくれたところもあったのかもしれないですよね。
それも絶対にあると思います。私の曲を求めていただけることは、自分の存在理由を確かめるひとつの要因になるし、何かの作品に自分の音楽が組み込まれていることは、大きな喜びでもあるんですよ。しかも関わる作品によって、自分が普段作らないようなタイプの曲を引き出してもらえる。「Fly High」(NHKウィンタースポーツテーマソング)では、今までに書いたことがないストレートな応援ソングを書くことができましたし、「checkmate」(『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』主題歌)のようなエッジの効いた楽曲を求めていただけたのも初めてでしたし。いろんな角度から自分の音楽性を引き出してもらえるのはタイアップの大きな魅力ですね。
milet「checkmate」MUSIC VIDEO(『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』主題歌)
milet「Ordinary days」Music Video(日本テレビ系水曜ドラマ「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」主題歌)
milet「Fly High」MUSIC VIDEO (NHKウィンタースポーツテーマソング・先行配信中)
――EPには必ず収録されていたダークでディープな楽曲もmiletさんの大きな魅力だと思うのですが、今回のアルバムでは影を潜めていますよね。
そうなんですよ。強いて言えば「邂逅」や「The Hardest」のような孤独感が漂った曲はあるんですけど、地獄のように暗い曲は今回1曲もないですね(笑)。そういう意味でもやっぱり、今回のテーマは光や希望というものだったんだと思います。
――とはいえ、光を感じる曲であっても、miletさんらしいウェットな声はどの曲からも感じられますからね。
そこを感じていただけるのはうれしいですね。明るい曲でもどこかに暗さというか、私がもともと持っている沼のような湿度は自ずと出てきてしまうものなので。それがあるからこそ、より光が見える部分もあるだろうし、聴き手の方に寄り添える優しさも表現できているんじゃないかなと思います。
――前作以上に多彩な楽曲群が揃ったことで、新たな表情を感じさせてくれる歌声も満載されています。そこも大きな聴きどころだなと。
今回、歌声には特にこだわっていて、「Fly High」や「Who I Am」では意志の強さをしっかり出した歌を意識しましたし、「Loved By You」では上に向かってグッと伸びていくようなクラシカル要素を感じさせる歌にも挑戦しています。日本語がはっきり聴こえる発音を意識した「Ordinary days」もありますしね。本当にいろいろな歌い方をさせてもらえた曲たちが詰め込まれているので、自分で聴いても「これ、同じ人が歌ってるの?」と思ったりするんですけど(笑)。でも、それくらいカラフルになっているので、いろんな楽しみ方をしていただけるんじゃないかなと思っていますね。歌詞の内容も含め、聴いてくださる方の人生を投影できるような曲ばかりなので、このアルバムを通してご自身の“visions”を広げていってもらえたらうれしいです。
私の原点でもある曲
――アルバムは「SEVENTH HEAVEN」という楽曲で幕を開けます。この曲のタイトルは、昨年開催された初の全国ツアーのタイトルでもありましたね。
まさに昨年の【SEVENTH HEAVEN】ツアーの最中に作った曲で。あのツアーは自分が想像していたものを軽く凌駕するほど楽しいものだったので、「この興奮をどうにかしなきゃいけない!」と思って曲にしました。私はライブが始まるときのワクワクが、飛行機が離陸するときの感情に似ている気がしているんですよ。未知の世界に飛び立っていく感覚が同じだなって。なので、「ここから離陸するよ!」という気持ちを込めてアルバムの1曲目にしたんです。そこから高く飛び立つという意味を込めて2曲目の「Fly High」に繋がっていく流れですね。
――声が出せる日が来たらライブで一緒に歌いたい曲だなあと。
そうなんです。それを想定して、みんなの分のコーラス・パートも入れてあるので、ぜひ声が出せるようになったら一緒に歌って欲しいですね。レコーディングではライブの光景を思い出しながら、みんなの顔を思い浮かべて歌ってました。この曲はライブで絶対盛り上がるんじゃないかな。
milet 1st tour SEVENTH HEAVEN<for J-LODlive>
――3曲目の「Outsider」はめちゃくちゃかっこいい仕上がりですね。
ありがとうございます! これは自分の中にある強くなりたいという思い、虚勢を張って生きていきたいという思いを込めて作ったんですよね。私は案外、臆病なところがあるので、そこを音楽で武装していきたいなって。今回は全体的に柔らかくて優しい、聴き手を大きく包み込むような曲が多かったので、「checkmate」と共にエッジの立った、アグレッシブな曲を入れておきたいなという意図もありました。そういう部分もまたmilet節だったりするので、ずっと応援してくださっている方はきっと気に入っていただけるんじゃないかなって。この曲もライブでかなり映えそうな気がしています。
――ループを軸としたトラックで、全体的に音数はかなり絞られていますよね。
そうですね。ピアノのリフレインとメロディ、そして声の圧力で押していくタイプの曲になっていて。シンプルな作りなんですけど、だからこそ出る強さがあるなと思いますね。ちょっと気だるさのある声で、絶対に日常では言えない「なめんじゃないわよ!」という感情を歌っています(笑)。音楽ならではの楽しさを味わいながらレコーディングに臨みましたね。
――6曲目の「Loved By You」は、miletさんの新たなボーカル・スタイルを特に強く感じさせてくれる1曲です。
私の曲は地声で強く歌うタイプがけっこう多いので、ここまでサビをファルセットでずっと歌うことは珍しいんですよね。肩の力を抜きながら、キーの高いところまで柔らかく縦横無尽に歌っていく曲は初めて作りました。昔習っていた声楽での発声を思い出しながら、ソルフェージュをイメージした感じです。しかも、これまで経験してきた自分の恋愛をモチーフにしたのも珍しいところで。ちょっと恥ずかしさはありましたけど(笑)、でも新しい色としてみなさんに聴いてもらいたいなと。1番と2番の展開の違いとか、プロデューサーであるドック(Ryosuke“Dr.R”Sakai)さんの新しい試みが感じられるところも気に入ってますね。
――2コーラス目でビートが入ってくると、かなり雰囲気が変わりますもんね。
そうそう。せつなさで満ちていた感情の中に、少し振り返って「楽しかったね」と言えるような余裕が徐々に生まれてくる。そんなサウンドになっていますね。
――デビュー以来、ドックさんとはたくさん曲を作られてきていますけど、その関係性はより深まっている感じですか?
お互いにしっかり信頼できている感じがします。お互いの出したい音、作りたい曲としての流れが、もう言わずもがなでわかり合えているので、本当に安心して、自由に音楽を作れるのがありがたいですね。
――アルバムにはドックさんが参加されている「Come Here(Session1)」という楽曲もあって。タイトルから察するに、この曲って……。
そう! ドックと初めてのセッションで作った曲なんですよ。だから“Session1”。
――出会ったその日にセッションしたんですよね?
はい。まさか会ったその日に曲を一緒に作ることになるとは思ってなかったんですけど(笑)。「はい、じゃあマイクの前に立って、何かメロディを出してみて」と言われて。ビクビクして歌ったのがこの「Come Here」なんです。「なにこの人?」と思いましたけど(笑)、でも自分の中から出てきたメロディと歌詞がすごく気に入って、自信につながったんですよね。ずっと一番好きな曲だったから、世に出すタイミングを待っていた感じでした。
――今回収録するにあたって、手直しをした部分もあるんですか?
歌だけはちょっと録り直したところがありますけど、ほとんどデモのままです。にもかかわらず、できたてほやほやな新曲たちに交じってもまったく遜色がないことにビックリしました。年数が経っても曲の魅力が変わらないという部分で、ドックの音作りへのこだわりのすごさをあらためて感じましたね。ある意味、私の原点でもある曲をみなさんにも味わっていただけたらうれしいです。
とにかく今を、その瞬間を楽しんでいけばいい
――10曲目「jam with iri」では、シンガー・ソングライターのiriさんをフィーチャーされています。ご自身名義では初コラボじゃないですか?
いろんなアーティストの方の楽曲に参加させていただくことはあったんですけど、自分の曲でのコラボは初めてです。iriさんは事務所も同じだし、もともとファンだったんです。で、「jam」は「絶対iriさんの声が合う!」と思ってお願いしました。もともとはもうちょっとポップなイメージで作ってはいたんですけど、iriさんに参加していただけたことで、彼女ならではのどこかボーイッシュでアンニュイな魅力を生かした曲にすることができました。
――iriさんとのコラボによって、miletさんの新たな声の表情を感じることもできました。
自分の知らない自分になれるのがコラボのおもしろさですよね。iriさんがいてくれたことで、私はすごく女の子っぽく歌えたところがあるんですよ。普段の私はクールな印象が強いと思うんですけど、この曲ではもうブリブリでやっちゃおうって(笑)。歌っているときもキャピキャピした動きになってましたね。そんな自分がすごく新鮮で楽しかったので、今後一人で歌う曲でもブリブリしちゃうことがあるかもしれないです(笑)。
milet「Wake Me Up」MUSIC VIDEO (テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」テーマ曲・先行配信中)
milet「One Reason」MUSIC VIDEO (映画「鹿の王 ユナと約束の旅」主題歌)
――本作を引っ提げた全国ツアー【milet live tour “visions” 2022】はすでにスタートしています。これから参加する方に向けて一言いただけますか?
前回の【SEVENTH HEAVEN】ツアーと比べると、ガラリと印象の違うツアーになっているような気がします。アルバム『visoins』を作る際、光の屈折や角度によって見えるものが変わってくるプリズムをイメージしていたところもあったんです。なので、今回のライブを体感することで、それぞれの曲たちが音源とはまた違った聴こえ方をしたらいいなという思いもあるし、引いては来てくださったみなさんにとって、会場を出た後の景色の見え方が何かしら変化したらいいなと思っています。
――昨年はオリンピック閉会式での歌唱や2度目の『NHK紅白歌合戦』への出場など、大きな飛躍を遂げられたmiletさん。2022年も楽しみですね。
新しい年を迎えて早々にアルバムをリリースし、ツアーで全国を周れるというのは何よりうれしいことです。それによって勢いづくことで、今年も楽しく走っていけそうな気がしています。ただ、去年を振り返るとオリンピックや紅白など想像もしていなかったことがたくさん起こったので、今年はあまり具体的な想像をするのはやめようと思ってますけどね。
――現実が軽々と想像を上回ってきちゃうから。
そうそう(笑)。きっとまた思ってもみないことが次々起きてくると思うので、自分としてはいろんなことに目を向けて、何も制限することなく、とにかく今を、その瞬間を楽しんでいけばいいのかなって。応援してくれるみんなが常に側にいてくれることがとにかく心強いですしね。
――『visions』リリースの翌月にはなんと! 新たなEP『Flare』も届きます。ここからも引き続きハイペースで制作を続けていく感じですか?
そこはもう変わらずですね(笑)。アルバムが完成した直後にすぐスタジオに入ったりしてましたから。そうやってどんどん未来に向けて動けることがとにかく楽しくて仕方ないんです。なので……miletは今年も止まらないですよ(笑)。
Photo by Shintaro Oki(fort)
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