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<インタビュー>J・ビーバーからE・ヴェダーまで、グラミー受賞プロデューサーのアンドリュー・ワットが振り返る2021年主要プロジェクト
2020年の【グラミー賞】で<年間製作者賞(クラシック以外)>を受賞したアンドリュー・ワットは、飛躍的な成長を遂げた昨年に続き、今年も多忙な日々を送った。ジャスティン・ビーバーと共作した大ヒット曲「ピーチズ feat. ダニエル・シーザー&ギヴィオン」は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で首位に輝き、【グラミー賞】の<最優秀楽曲賞>の候補になっている。そしてほかにもエルトン・ジョン、ヤング・サグ、エド・シーランなど、さまざまな大物アーティストの話題のプロジェクトに参加した。
その一方で、2022年の最初の大きなプロジェクトとして、パール・ジャムのリーダーであるエディ・ヴェダーの10年以上ぶりとなるのソロ・アルバム『アースリング』が控えている。このアルバムからは今年、「ザ・ハヴス」と「ロング・ウェイ」という楽曲が先行発売された。ワットは、2月11日に発売される『アースリング』のプロデュースに加え、ヴェダーが新たに結成したバンド、アースリングスに(レッド・ホット・チリ・ペッパーズの)チャド・スミス、ジョシュ・クリングホッファー、(ジェーンズ・アディクションの)クリス・チェイニー、(俳優でミュージシャンの)グレン・ハンサードと共に参加している。
そんな彼が、過去1年間の主なプロジェクトと、それらがきっかけとなって起きた仕事上の夢のような体験の数々を振り返った。
「ピーチズ feat. ダニエル・シーザー&ギヴィオン」ジャスティン・ビーバー
▲「Peaches 」 / Justin Bieber feat. Daniel Caesar & Giveon
ジャスティンは僕の家の近くに住んでいて、もう10年来の友人なんですよ。ある日、僕が別の作業をしている時に彼がふらっとやって来たんです。彼はピアノの前に座り、コードを弾き始めました。僕がそれを録音していることに彼は気づいていませんでしたが、そのコードは素晴らしかった。(続いて)彼はドラムを叩き始め、すごいビートを奏でました。僕がベースを手に取ると、彼は頭の中で鳴っているベース・ラインを伝えてきたんです。そしてヴォーカル・マイクでフリースタイルを始めました。その日は曲を作る予定ではなかったんですよね……僕たちが作っている間にショーン・メンデスがやってきてソファでくつろいでいましたし、(音楽プロデューサーの)ルイス・ベルもやってきました。みんなでワイワイやっていたんですよ。
それがあの楽曲の始まりで、そこからジャスティンの音楽監督であるバーナード・“Harv”・ハーヴェイがそれらの要素を使って、皆さんが知っている「ピーチズ」にしたんです。ダニエルとギヴィオンを参加させて名曲にしようと考えたのはジャスティンです。最初から最後まで、全てがジャスティンの頭脳によるもので、友人の一人が自分の欲しいものをそこまで正確に理解しているというのは、見ていて驚きでした。
「ピーチズ」が初登場で1位を獲得した時は完全に衝撃を受けましたし、とても興奮しました。“こうなることは分かっていた、1位になると思っていた”なんて言うようなやつには、“そんなことお前に分かるわけないだろ、誰もそんなこと分かるわけない”って言いたいですよ。人々がどうやって反応するかが分からないということが、この時代のワクワクするところなんです。人に音楽を無理やり押し付けてみるとか?そんなことをしようとしても、もう通用しないんです。みんなSpotifyやApple Musicを利用して、自分が聴きたいものを選んでいます。人々の反応を予測することはできませんが、ただ自分が良いと思うもの、自分が楽しいと思うものを作ればいいんです。この楽曲は、最初から最後までジャスティンが手がけたもので、彼にとっては全ての出来事が意味を持っているんだと思います。だからこそ、僕たちにとっても特別な曲なんです。
『ロックダウン・セッションズ』エルトン・ジョン
▲「Always Love You」 / Elton John, Young Thug, Nicki Minaj
エルトンは、歴代で最も素晴らしいコードを持っています。彼の素晴らしいところのひとつです。彼がピアノを弾いているところ、歌詞シートを読んでいるところ、映画や本でしか見聞きしたことのないようなあの有能な感じで作曲しているところ、そして彼がコードを繰り出すところを見れたのは(貴重な体験でした)。僕が、「エルトン、これでギターを弾く前にコード表をくれないと無理!」と言って、彼の狂気のピアノ・コードをギターに移調していると、彼は笑っていました。すると、今まで知らなかった、あるいは弾いたことのなかった新しいコードが手に入るんです。彼から習っているわけですから!そしてそのコードをほかのアーティストとのセッションに持っていけば、今まで持ち合わせていなかった新しいトリックを使えるわけで、それを彼から学ばせてもらったんです。
エルトンとの仕事は、オジー(・オズボーン、2020年の『オーディナリー・マン』)と一緒に念願のアルバムを作ることになった時に始まりました。「オーディナリー・マン」でエルトンに演奏してもらおうというのはオジーのアイデアで、(オジーの妻の)シャロンがそれを実現させてくれました。みんな古い友人同士だったんです。エルトンと初めて会ったのはその時で、その曲で意気投合して以来、ずっと連絡を取り合っていました。つまり数年かけた自然な流れだったんですが、彼が『ロックダウン・セッションズ』のアルバムを作り始めた時、ロサンゼルスに行くから一緒にやろうと言ってきたんです。僕のことを覚えていてくれて、一緒に仕事をしたいと言ってくれたことだけでも“誰か俺をつねってくれ”って感じでしたね。そして、彼が僕のスタジオで僕のピアノを実際に弾いてくれるなんて、とんでもないことでした。
彼がスタジオに入ってきた時、僕はグッチのトラックスーツを着て、イカれたサングラスをかけていたんですよ。彼のファッションを真似していたら面白いかなって。でも、彼がやってきた時、ジョークだってことを理解してなくて、単にイカしてるじゃないかって思っていたらしくて、それがさらに面白かったですね。
「ヘイト・ザ・ゲーム」&「フィフス・デイ・デッド」ヤング・サグ
▲「Hate The Game」 / Young Thug
▲「Fifth Day Dead」 / Young Thug
サグは、僕がこれまで経験した中で最も有能で素晴らしいアーティストの一人です。彼にとってはひと息つくようなものなんですよ。彼のためにトラックを用意すると、彼はそれを聞いてマイクに向かって、自分で(音楽ソフトの)ProToolsを操作して、コンピュータに向かって自分のヴォーカルをコンプしてしまうんです。自分が何を聞いているのか正確に把握しているし、いいテイクができたら分かるし、ひたすらそれの繰り返しです。
彼が15分で書き上げた楽曲が、“今まで聞いた中で最高だ”って感じなんです。彼は絶対にやり直さない。トラックを聞いた瞬間に、自分が話したいことが頭の中ではっきりと浮かんでいるんです。理想のテイクができるまでひたすら粘る。彼はマイクを使って直感的に話すことができて、それは見ていてすごいなって思います。
『アースリング』エディ・ヴェダー(2022年)
▲「Long Way」 / Eddie Vedder
ちょっと語り尽くせないくらいです。僕は1990年生まれで兄が85年生まれなので、パール・ジャムと(レッド・ホット・)チリ・ペッパーズばかり聴いて育ちました。自分がこれまでに何回パール・ジャムのコンサートに行ったかを認めたとしても、おそらく何の役にも立たないでしょうね。でも、僕は“‘アライブ’のギター・ソロを弾かせてください”と書いたサインを持ってパール・ジャムのコンサートに行っていたんですが、気付いたら【オハナ・フェスティバル】のステージでパール・ジャムと一緒に「アライブ」のギターソロを弾いていたんです。これまでの人生でずっと準備してきたような、まさに一周回ったような信じられない瞬間でした。そんなことって起こるわけないじゃないですか……(大好きなバンドの)ポスターを壁に貼ったりしていたやつが、その人たちと一緒に創作活動をする立場になるわけがないんです。
最高に素晴らしい経験をさせてもらいました。エドとは10年来の知り合いで、連絡を取り合って一緒に音楽を作るようになり、(レッチリの)チャドとジョシュも大いに参加してくれました。ものすごく楽しかった。ゆったり過ごしながら一緒に笑い合って、ビールを飲みながら、みんなが大好きな音楽を作りました。皆さんに聴いてもらうのがとても楽しみです。今ミックスなどを仕上げているところですが、本当にワクワクしています。あまり多くは語りたくないですが、目の前で彼の声を聞いて、その下でギターとベースを弾くことができたんですから、祝祭のようなものです。
By Jason Lipshutz / Billboard.com掲載 / Photo: Getty Images Entertainment
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