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<インタビュー>伊波杏樹が語る「自分自身の歌」を紡いでいく覚悟、役者経験も活かされたアルバム『Fly Out!!』について



インタビュー

 声優や舞台女優として活躍する伊波杏樹が、ニュー・アルバム『NamiotO vol.0.5 Original collection『Fly Out!!』』をリリースした。2013年にアニメ映画 『陽なたのアオシグレ』で声優デビュー、2015年からは『ラブライブ!サンシャイン!!』の高海千歌を演じ、今も舞台『「僕のヒーローアカデミア」The “Ultra” Stage本物の英雄 PLUS ULTRA ver.』にトガヒミコ役として出演中の彼女。ソロ名義では初のフルアルバムとなる計10曲入りの本作は、そのうちの9曲を伊波本人が作詞。紛うことなき“伊波杏樹としての歌”を紡ぎ、いつか日本武道館のステージに立つという夢に向かって、大きく力強い一歩を踏み出した彼女に話を訊いた。

歌のルーツ

――今回はアルバムの話はもちろん、シンガーとしての伊波さんのルーツやバックグラウンドについてもお伺いできればと思っています。まず最初に、歌をうたうことに関する一番古い記憶を思い出せますか?

ものすごく小さいときから画面の前に立って、歌をうたっちゃうような子供だったことは覚えています。ミニモニ。とかモーニング娘。が大好きで、テレビを見ながら真似して歌ったり。あと、慎吾ママが好きだったことも親から聞いたことがあります。お父さんが車の中で音楽を流していることが多かったので、日常に歌があったんですよね。

――どんな音楽が流れていたんですか?

お父さんはいま50代なんですけど、当時は安全地帯さん、槇原敬之さん、米米CLUBさん、中森明菜さん、山口百恵さん、松田聖子さんとかが多かったですね。

――80~90年代のJ-POPですね。お父さんにとっては世代の音楽だったのかと思いますが、伊波さんもそのあたりの音楽から影響を受けている実感ってありますか?

受けてますね。2018年にリリースした『NamiotO vol 0.5~cover collection~』では、松田聖子さんの「赤いスイートピー」もカバーさせていただきましたし、その年のクリスマスには【An seule étoile】というライブ・イベントも開催したんですけど、久保田利伸さんの「LA・LA・LA LOVE SONG」だったり、幼い頃にお父さんと一緒に聴いていた曲をセットリストに組み込んだりして。自分の中ではずっと素晴らしい楽曲として残っていて、音楽ってそうやって年代関係なく愛されていくんだなと思います。

――幼少時から馴染み深かった古い楽曲のほかにも、きっと学生時代にはその当時に流行っていた音楽もありましたよね? そのあたりはいかがですか?

小学生の頃はやっぱりドラマ主題歌とか、世間で流行っていた音楽を聴いていたんですけど、中学生になってからはアニメというものにすごく惹かれるようになって、アニメ・ソングというジャンルにも興味を持つようになりました。あとは当時、ボーカロイドがめちゃくちゃ流行っていたので、ニコニコ動画でボカロPさんの曲や歌い手さんのカバーをずっと聴いていて。カラオケでもそういう音楽ばかり歌っていましたね。その頃から「流行っているから」ではなく「自分が好きな曲だから」聴くというふうに変わっていったのかなと思います。

――ちなみに好きだった歌い手さんは?

Geroさん、伊東歌詞太郎さん、000さんとか。特に好きなのはりぶさんで。今度アルバムをリリース(※11月24日にベストアルバムとアコースティックカバーアルバムを同時リリースした)するので、すごく楽しみです。動画サイトをきっかけにCDリリースってすごいことじゃないですか。学生時代はそういうところに憧れを持っていたんだと思います。自分もそういうことをやってみたいと思った時期なので。



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――今でこそ大手のレコード会社に所属する歌い手さんやボカロPさんもたくさんいますが、当時はみなさん、インディペンデントに活動していて、ニコニコ動画もそういう人たちの自由な創作の場として親しまれていた時代でした。そういった活動スタイルの部分からも影響を受けている?

受けたと思いますね。やっぱりかっこよかったし、伸び伸びとされていて。自分の個性になる表現をどこに入れるか、みたいな部分でヒントを得ていた感じはします。


覚悟を持って「ここから飛び出す」

――伊波さんは声優としても活動されています。役者としての活動から音楽活動に還元されるものもありますか?

伊波杏樹として歌うことと、役として歌うことは全くの別物だと思っていて。ただ、役者として歌ってきた経験、そこで得てきたスキルは自分自身の歌にも影響していると思うし、確実にレベル・アップさせてくれたと思います。これまでも歌うことの難しさでもがき続けてきたので、経験値として還ってきているなって。ライブの場数も踏んできていると思いますし、単純に喉が強くなったり、表現の引き出しをどんどん増やしていけたのも強みかなと思います。ミュージカルや舞台では、演じる役にそれぞれの人生があるので、受ける影響もそれぞれで。今回のアルバム『NamiotO vol.0.5~Original collection~『Fly Out!!』』にも、そういった経験がかなり投影されていると思います。

――逆に、個人での音楽活動が役者活動やAqoursなどのグループ活動にも影響することも?

あったと思います。私が舞台に立ち続ける理由に繋がる話でもあるんですけど、それぞれの活動経験がお互いに還元し合わないと成長には繋がらないと思っていて。

――そうやってタフに活動を展開できるのも、歌うことや演じることが好きだからこそですよね。伊波さんは“歌”のどんなところが好きなんだと思いますか?

楽しくいられることですね。あとは、たった1曲で人の人生を変えられること。『バーレスク』というミュージカル作品がすごく好きで、自分もミュージカルをやりたいと思ったきっかけになった映画なんですけど、歌って自分の気持ちを乗せることができるじゃないですか。特に現代の人たちは、辛いことや悲しいことを溜めこみやすいと思っていて。私自身、内に秘めたまま、自分だけで解決しようとする節があるんです。そういうとき、たった一言、たった一音で空気を変えてくれる歌や楽器ってすごいなと思っていて。

――『バーレスク』でクリスティーナ・アギレラが演じた主人公も、とてもパワフルな歌声で聴くものの心を動かしながら、ショー・ビジネスの世界に挑んでいくんですよね。

【An seule étoile】を開催したのも、このまま今年を終わりたくないという自分のワガママがきっかけで。どんなにスケジュールがタイトでも、みんなに言えなかったことを歌で伝えるんだ、という気持ちから始まったんですよね。何の役も演じていない素直な自分を歌に乗せて伝えることで、応援してくださるみなさんにも知っていてもらいたいなって。改めて考えてみると、それが私の歌の原動力なんだなと思います。

――自己表現だけに留まらないというか、聴き手がいてこそ成立する、ある種のコミュニケーションというか。

そうですね、コミュニケーションだと思います。演技でも同じことが言えて、役をいただいたときは「こういうところがすごく共感できるな」とか「そう思っちゃうの、分かるな」って寄り添うというか。もちろん作品の世界観や脚本の中での立ち位置を考えつつ、演じる私自身がそのキャラクターの一番の味方でいてあげたいんです。そういう在り方は歌の表現でも同じかもしれないですね。聴いてくれる方に寄り添って音楽を作るというのは、このアルバムを作っているとき、ずっと考えていたことかもしれません。

――アルバムを出そうというモードになったのはいつ頃から?

昨年ですかね。昔は自分自身のことより、演じる役を通して見る世界が一番だと思い続けてきたんですけど、単独イベントを重ねていくうちに、応援してくださるみなさんが「伊波杏樹が好きだ」ということを声を大にして言ってくれることが少しずつ自信になって、それと同時に感謝の気持ちが伝えきれないぐらい溢れ出してきて。そこに対する恩返しという意味でも、アルバムにチャレンジしてみてもいいんじゃないかと思ったんです。『Fly Out!!』というタイトルは、「ここから飛び出す」と自分を鼓舞するようなイメージでつけました。飛び出す覚悟、歌をうたっていく覚悟をしっかり持ってやっていきたいなって。

――制作開始当初、どのような構想やヴィジョンを思い描いていたのでしょうか?

先ほどボーカロイド楽曲が好きだとお話ししたと思うんですけど、私の中で「こういう作り手さんが作る、こういう曲が好きだな」というイメージが明確にあるんですよね。それを反映したのが『NamiotO vol 0.5 ~Original collection~』で、そこでひとつ夢が叶った。そんな感じで今回も、プロデューサーの多田三洋さんに「私はこういう曲が好きなので、こういうポジションにあたる曲が欲しいです」という提案は10曲分させていただいたんですけど、結果的に半分ぐらいは多田さんが「こんなのどう?」と投げてくださった楽曲の良さに惚れ込んでしまって。今回は10曲中9曲で作詞もやらせいただいたんですけど、本当はここまで自分で書く予定ではなかったんです。でも、多田さんは伊波杏樹のことをすごくよく知ってくれていて、私に合うような曲もたくさん考えてくださって、そこに私が乗っかって「これ、歌詞書きたいです」となっていくうちに、気づいたらほとんど作詞もしていたという。



伊波杏樹 オリジナルCD『NamiotO vol 0.5 ~Original collection~』試聴動画



みんなと叶えたい夢

――実際にほぼすべての曲を自分で作詞してみていかがでしたか?

一番最初に4曲目の「I Copy! You Copy?」のデモをいただいて、その時点でほぼ完成形に近い状態だったんですけど、私が「なんですかこれ、めちゃくちゃいいでね!」と気に入ってしまって。気づいたら歌詞を書き始めていて、結果的に2~3時間ぐらいで完成しました。それがすごく楽しかったんですよね。自分でも驚いてしまうようなワード・イマジネーションというか、「こんな歌詞を書くのか自分…でも、すごく可愛いじゃん」みたいなところを攻めているので、そこでひとつ自信に繋がりましたね。もちろん言葉が浮かばないときもあったんですけど、不思議と次の日には出てくるようになっているんですよ。想像って一日一日違うんだなというのを実感しました。

――そうやって様々な世界観を言葉で表現できるのも、伊波さんの役に入り込む力が活きているんだろなと思います。例えば3曲目の「Dubbing Water」では情景が思い浮かぶような筆致で“あなた”との過去に想いを馳せている“僕”が描かれているし、4曲目の「I Copy! You Copy?」の主人公はひたすら無邪気で、恋する乙女の無敵感に溢れていて。

「Dubbing Water」は「I Copy! You Copy?」とは違った歌詞の降り方がありました。携帯にメモを残しながらデモを聴いていたんですけど、気づいたら誰かの日記のようなものになっていて。私自身、海に行くことはあまりないし、そういうところが出身というわけでもない。でも、たしかにどこかで見た何かが描かれていて、それを感じている誰かがそばにいた感覚でした。きっと役者として誰かの人生を生きてこなかったら、こういう歌詞は書けなかっただろうなと思います。逆に「I Copy! You Copy?」は、ラジオのお便りやファンレターから感化された部分も大きくて。特に女性のファンの方やリスナーさんからは、学生時代の可愛い恋愛のエピソードが届くこともあるので。

――6曲目の「I bet my life」の歌詞は、作詞家の渡邊亜希子さんとの共作です。これはどういうご縁で?

渡邊さんにはすごく助けられました。曲自体は「I Copy! You Copy?」の後くらいにできあがっていて、最初は一人で作業していたんですけど、サビの歌詞がなかなか出てこなくて難航していたんです。ジャジーな雰囲気のメロディに言葉をはめ込むのが難しくて、もう少し多方面の知識をつければよかったなと後悔していたんですけど、そしたら「誰かと一緒にやってみるのはどう?」と提案いただいて、渡邉さんを紹介してもらって。私ってふんわり柔らかいタイプというより、強く壁にぶち当たりにいくタイプとして見られることが多いと思っているんですけど、「I bet my life」でもそういう強い女性を描きつつ、その芯の中にある弱さとか、それを覆い隠してしまうようなところも含めて、「前から私のこと知ってました?」と言いたくなるような歌詞を提案をしてくださって。直接お会いしてやり取りさせていただいたときから、私も渡邊さんもこの曲に対して見ている色が近かったように思います。

――近しい解釈を持ちつつ、足りないピースをはめ込んでくれたような。

そうですね。それに渡邉さん自身からもヒントを得ていたかもしれないです。いろんな方と会って、いろんなお仕事をされている方なので、立ち振る舞いみたいなところとか。レコーディングも立ち会ってくださって、とても心強かったです。

――力強い人間像は次の曲の「VICTORIA」でも感じられます。

これはもう勝気でしたね。勝利というイメージをしっかり持って、自分の成果を高らかに掲げているような楽曲になっています。この曲の歌詞を書いたのは最後のほうだったので、それまで作ってきた楽曲とは違う言葉回しにしようと思って。カッコいい曲なので言葉面もギラギラさせました。昔の私は、自分の夢は自分自身で叶えていくものだと思っていたんですよ。でも、活動を続けていくうちに、気づいたらそばにいるみんなが私の夢を応援してくれて、悔しいときは同じように悔しくて、嬉しいときは一緒に喜んでくれて。自分だけで追いかけていたと思っていた夢が、みんなにとっても叶えたい夢になっていたことに驚いたんです。その関係性ってとても大切だなと思い、だったらみんなと一緒に掲げられる夢を持ってみようと思って、2019年の夏に神戸で【An seule étoile ~Rythme d'ete~】というライブをしたときに、日本武道館に立つという夢をお話しさせてもらったんですけど、その宣言を改めて約束する意味でも書いた曲になっています。

――歌詞にはアルバム・タイトルの“Fly Out!!”というワードも入っています。

タイトルが先だったので表題曲がなかったし、でも、どこにも入らないのもどうかなと思っていたら、この曲を作っているときに自然と降りてきて。でも、曲の内容的にも必然的だったと思いますね。

――個人的には<嘲笑う者たちを巻き込んで!Break Out!!>というラインが印象的でした。

最初は“巻き込んで”ではなく“蹴散らして”にしようと考えていたんですけど、いろいろと考えた結果、そういうことじゃないなと思ったんですよ。たとえ貶されてもそこに真実はないし、だったらむしろ巻き込んで、楽しくわかり合える仲間にしていけばいいじゃんと。そっちのほうが伊波杏樹像に近いんじゃないかと思って。ここはギリギリまで悩みました。


2年前の自分

――一方で、「笑描き唄」以降はサウンドの圧も抜けて、ラフな佇まいモードに移り変わっていきます。

「笑描き唄」はウッディというか、ナチュラルな世界観で作りたくて。なおかつ、可愛らしいモチーフを考えたとき、食べ物とかいいなと思ったんですよね。チョコレートって普段はあまり食べないけど、ちょっとした疲れを感じるときに食べたくなるし、それぐらいの気持ちで人に寄り添うような優しさが、この曲の感じには合うかなと思いながら歌詞を書いていきました。疲れを溜めやすいこのご時世だから書けた曲だったかもしれないです。

――ラストの「また会えるよ。」では作曲もされています。なにかきっかけがあったのですか?

実は2年前に作った曲なんですよ。当時のマネージャーさんに「作詞してみたら?」と言われて、書いた歌詞に遊びっぽい感じで歌を乗せてみて、携帯のボイスメモで録っておくということをしていた時期があって。そのときの曲が2~3曲あるんですけど、中でもこの曲が一番形になっていたんです。それは多田さんにも聞いてもらったことがあるので、10曲目をどうしようと話していたら「あの曲は?」って。タイトルも歌詞もほとんど変わっていなくて、2年前のままです。

――いま読んでみて「2年前の自分だな」と思います?

めちゃくちゃ思います。いまと比べて2年前はみんな前向きで、自分の夢に向かって真っすぐな人も多かったと思うんですけど、この曲の歌詞もキラキラしていて、希望に満ち満ちているなって。そんな歌詞だからこそ、私自身が背中を押されてしまったというのはあると思います。いまとなってはなかなかみんなに会えないし、モヤモヤした感じもあるけど、2年前の自分は当然そんなことを知らないから、平気で駆け抜けているんですよ。そんな伊波杏樹にすごく励まされたし、「なんだ、このときから伝えたいことが見えてたじゃん」と思いました。テンポも突っ走り感がすごいし。

――言葉数も一番多いですよ。

「こんなに詰める?」ってぐらいですよね。今だからこそ歌えたと思うし、成長を実感できた曲だなと思います。

――伊波杏樹の現在地を刻んだマイルストーン的作品であり、目指している高みまでを視野に入れた野心的な1枚だと思います。そんな本作を引っ提げ、約2年ぶりとなる有観客ライブ【『Fly Out!! ~Reach out your hand!~】の開催が来年1月に控えています。ライブへの意気込みも含めて、最後にリスナーのみなさんにメッセージを。

正直、このアルバムを作ったあとでも伝えたいことだらけで。みんなの感想も聞きたいし、私の感想も言いたいし、だからこそ一人でも多くの人に届いてくれたらなと思います。そうすれば楽しいことの規模感もどんどん大きくなっていく。ライブでもそういう希望を感じてもらいたいです。夢を大きく、武道館に立つと大きい声で言ってしまったからには、有言実行したいと思っています。“Fly Out”すると宣言したので、後戻りできないぞって。それすら最高に楽しみたいと思います。



『An seule étoile』MV


Interview by Takuto Ueda

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