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<インタビュー>世界的ドラマー神保彰がアルバム『SORA』と『アメアガリ』同時リリース “AOR”と“テクノ”そしてドラムという楽器の面白さ
世界で一番有名な日本人ドラマーの神保彰が2枚のソロアルバムを2枚同時リリースした。
1980年、カシオペアでプロデビューして以来、40年以上の長きにわたって常に音楽シーンの最先端を走り続けるトップ・ドラマー。“ドラム・トリガー・システム”を使ってメロディやアンサンブルを一人で叩き出す、ワンマンオーケストラとしての活動や、デビュー30周年で再結成したJIMSAKUの24年ぶりのニューアルバムの発売。そして、1986年のソロデビュー以来、ソロアーティストとして31作目『SORA』と32作目『アメアガリ』を同時発売する。
ドラムを一番最後に録っている理由
――今回、AORフィーリングな『SORA』とドラムソロにフォーカスした『アメアガリ』の2枚のアルバムが同時リリースです。テーマや構想について教えてください。
神保彰(以下、神保):これまで“ファンク”と“ラテン”という大きな2本の柱だったのですが、今年発売した前作の30枚目のアルバム『30 TOKYO Yellow』を作ったことで1つの区切りがついたので、新しい作品はシフトを変えてみようということになって、今年3月の制作ミーティングで“AOR”と“テクノ”というキーワードが出てきました。AORもテクノも1970年代後半から1980年代初頭にかけて大きな波がありました。僕は、まさにアマチュアからプロになる過渡期の大学生で、非常に大きな影響を受けた2つのジャンルだったんです。ただ、自分が1980年にカシオペアでデビューして、ジャズやフュージョンのフィールドで主に活動していたので、あまりAORやテクノからの影響を表立って前面に出すということはなかったんですけど、今回はその部分に光を当ててみたんです。
――AORやテクノは、どのあたりのアーティストの影響が強いのでしょうか?
神保:AORというと、すぐ名前が思い浮かぶのがマイケル・フランクス、スティーリー・ダン、ドナルド・フェイゲン、デビッド・フォスター、ジェイ・グレイドン、エアプレイ、ボズ・スキャッグス、ネット・ドヒニー、ビル・ラバウンティ……。当時ヘヴィローテーションで聞いていましたね。テクノですと、クラフトワークとYMOですね。YMOはちょうど、カシオペアもYMOもアルファレコードで、80年代によくスタジオですれ違ってご挨拶させていただいたりもしていました。YMOは当時一種の社会現象にまでなりましたね。
――『アメアガリ』はドラム以外、すべてプログラミングです。
神保:前作の『30 TOKYO Yellow』というのが、初めてプログラミングとドラムだけで作ったアルバムで、他のミュージシャンが入らない、すべて自分の中だけで完結するという作品でした。すごく手応えがあり、これはぜひ続けていきたいと思って、その続編的な意味合いがありますね。
――テクノテイストの『アメアガリ』の曲作りはどうでしたか?
神保:『アメアガリ』の曲は、歌モノような“A・B・サビ”という構成ではなく、1つのグルーヴが最初から最後までずっと続いていて、メロディはすごくシンプルな1つのモチーフが提示され、それが変化していく。この『アメアガリ』は既存の楽器を使わず電子音だけで構成され、生の楽器はドラムだけにして、自然にドラムがクローズアップされるような曲作りをしています。
――タイトル曲の「アメアガリ」はずっこけたような、リズムの再構築ともいえるドラムパターンが入ったユニークな楽曲です。
神保:最近の自分のドラミングのコンセプトが“正しくずっこける”というもので、すごくうまくずっこけられたなと思ったので、1曲目に「アメアガリ」を持ってきたんです。テクノに一番近いのは2曲目の「シャボンダマ」でしょうか。リズムはスカなんですけど、ちょっとYMOを彷彿とさせる部分があるかもしれないですね。
――他の曲にもずっこけるようなリズムトリックのようなテクニカルなアプローチも目立ちます。
神保:自分の最近の興味がそっち方向に向いているんですよね。2000年代に入ってからこういうずっこける変なビートがいろいろなところで発展してきて。酔っ払って千鳥足になったような感じなので“ドランクビート”って呼ばれるんです。デタラメになっているわけでなくて、ちゃんと法則性があるんですよね。2で割れる音符と3で割れる音符のズレをうまく利用することによって、カックンカックンとズレてずっこける感じが出るんですけど、そういうのを研究しだすと面白いんですよ。こういうビートはどちらかというとヒップホップの世界で流行っているもので、あまりメインストリームには出てこないですけど、トラックメーカー達が、面白いぐにゃぐにゃのリズムにわざとずらして、実験的な面白いことをしていたんです。
――ドラマーはコピーしたがるでしょうね。どういうリズムになっているのか分析しそうです。
神保:そうですね(笑)。解剖すれば、意外とわかりやすいかもしれません。2で割れる音符と3で割れる音符を共存させて、3で割れる音符を4でグルーピングしていく。ポイントがわかると、なるほどそういうことかと理解できると思います。今回、自分なりに勉強したものであるとか、研究中のものであるとか、今できることをすべて詰め込んだ感じです。
――今回、最後にドラムを録っているそうですが。
神保:2枚ともドラムを最後に録りました。今年発売した28枚目の『28 NY Blue』から、ずっとそういう録り方ですね。それより前はコロナの前なので、ロスに行ったり、ニューヨークに行って、せえのでバンド録音しましたけど、それができなくなってしまったので。でも、リモートレコーディングはリモートなりの面白さがあるなと強く感じましたね。現地に行ってやることによってミュージシャン同士の化学反応みたいのを瞬間冷凍パックするのが、海外レコーディングの醍醐味なんですけど、リモートの場合はそういう化学反応がないので、熟慮に熟慮を重ねてドラムを一番最後に入れて完成させます。ドラムが入ったことによって作品が1つの上のレベルに行くようにするにはどういうアプローチをとったらよいのか、熟考するんですが、それはとっても面白いチャレンジだなって思いました。
リリース情報
- 2021/12/22 RELEASE
- KICJ 855 3,300円(tax in.)
- 2021/12/22 RELEASE
- KICJ 856 3,300円(tax in.)
31thアルバム『SORA』
32thアルバム『アメアガリ』
公演情報
【CASIOPEA 3rd/2021 WINTER LIVE】
- 2021年12月25日(土)愛知・名古屋ボトムライン
- OPEN 17:00 / START 18:00
- http://www.jailhouse.jp/
- 2021年12月26日(日)大阪・BIG CAT
- OPEN 16:30 / START 17:30
- http://www.sound-c.co.jp/
- 2022年1月2日(日)東京・Shibuya duo MUSIC EXCHANGE
- OPEN 14:00 / START 15:00
- http://www.duomusicexchange.com/
【CASIOPEA 3rd/2021 WINTER LIVE(仮)】
【神保彰 ワンマンオーケストラ 2022 -SHIBUYA DE JIMBO-】
関連リンク
取材・文:井桁学
80年代的なエッセンスを今のテイストで提示した『SORA』
――AORテイストの『SORA』がリモートレコーディングです。
神保:自分の中では、“AOR=アメリカ西海岸のサウンド”なんですよね。ロサンゼルスのミュージシャンとのリモートレコーディングになることと、「アントニオの歌」をカバーすることも3月のミーティングで出てきたアイディアなんですけど、自分にとってAORを代表する1曲なんですよね。1977年に大ヒットして日本でもそこら中でかかっていたんですが、ただ、アントニオ・カルロス・ジョビンへのオマージュの曲なので、原曲はボサノヴァなんですよ。AORというと、都会的なサウンドをイメージしますよね。ですので、都会的なアレンジに焼き直すと、違った良さが出るんじゃないかなって思ったんですよ。マイケル・フランクスがどちらかというとささやき系のボーカリストなので、そういう声の人自分の周りにいるかなぁって思ったときに、すぐネイザン・イーストの名前が浮かんで。ネイザンはベーシストとして認知されていますけど、ボーカルもすごくいいですよね。最初ネイザンに「アントニオの歌」を歌ってくれないかって、ボーカルでオファーしたんですよ。快諾してもらえたので、「じゃあ、ベースも何曲か弾いてくれる?」という流れで決まっていきました。
▲神保彰(AKIRA JIMBO) - アントニオの歌(Antonio's Song)MV
――ネイザンとはどこで出会ったんですか?
神保:1982年にカシオペアの『FOUR BY FOUR』というアルバムで共演しているんですね。カシオペアの4人と、リー・リトナー・バンドの4人(リー・リトナー〈Gt〉、ドン・グルーシン〈Kb〉,ネイザン・イースト〈Ba〉,ハーヴィー・メイソン〈Dr〉)が1日スタジオに集まって、1日でアルバムを作るという、結構大胆な企画だったんですけど、そこで初めて共演しまして。その後も、楽器ショーなどで何回も顔を合わせたり、演奏することもありましたね。レコーディングということになると、その82年以来ですから、ほぼ40年ぶりです。
――そこから他のメンバーの方は?
神保:パトリース・ラッシェンにピアノをオファーして、スケジュール大丈夫だよって返事をもらったので、だったら彼女の大ヒット曲「Forget Me Nots」を歌ってくれないかなぁって。断られたら断られたでしょうがないとダメ元でオファーしたら、快諾してもらえまして。だったら、オリジナルでベースを弾いているフレディー・ワシントンにお願いしようっていう流れになったんです。ベースラインがすごく印象的な曲で、楽曲の共作者でもあるんですね。とても豪華なカバーになりましたね。
――映画『Men In Black』でもサンプリングされた有名な曲です。
神保:これはかなり原曲を尊重しました。ただ、ベースドラムのパターンを大幅に変えていて。原曲は4分音符で、ドン・ドン・ドン・ドンというのがずっと続いているんですね、1982年の曲ですから当時ディスコ全盛期で、ディスコで踊れるように4つ打ちになっているですけど。4つ打ちだとそれが曲を支配してしまうので、すごくベースラインが印象的な曲なので、低域にもっと空間を設けたら違った良さがでるなと思って、ベースドラムを思いっきり間引いているんですよね。前はボトムを支えているのがベースドラムだったんですけど、このアレンジだとベースがボトムを支えているようになっています。フレディーさんは原曲ではスラップというはじく奏法で演奏しているのに対して、こちらは指で弾いているんですよ。ですので、原曲よりも重心が低い、落ち着いた感じになっています。
――他にはジェフ・ローバーさんも参加しています。
神保:ジェフさんとは、JBプロジェクトという、僕とブライアン・ブロンバーグ(Ba)とのユニットがありまして。その3枚目のアルバム『Brombo III !!!』(2017年)で初めて共演させていただいたんですね。ライナーノーツにも書いたんですけど、ジェフさんの作るサウンドというのは、日本のフュージョンの雛形になっているですよ。ファンキーなリズムにかっこいいコード進行がついて、でもメロディはポップでメロディアス、それがその後のT-SQUAREやカシオペアなどのサウンドと同じ方向性なんですね。時代的にはちょっと前で1970年代後半。我々にとっては先生みたいな存在ですね。
――結果、2021年は5枚のソロアルバムを出したことになります。
神保:夏にJIMSAKUデビュー30周年記念アルバム『JIMSAKU BEYOND』を出したので、それを入れると6枚という(笑)。出しすぎだろってね(笑)。例年ですと元旦にアルバムをリリースするので、本来だと来年の1月1日に発売されるものだったのですが、少し前倒ししてクリスマス前に出ることになったんですよね。
――神保さんは、カシオペアやJIMSAKU、“ドラム・トリガー・システム”を使ってメロディやアンサンブルを一人で叩き出す、ワンマンオーケストラの活動もされています。他にも活動されていますか?
神保:ピラミッドというユニットをやっているんですけど、ギターの鳥山雄司くんと僕と、ピアノの和泉宏隆(元T-SQUARE)の3人でやっていて。3人高校時代から一緒にやっていた同窓生の音楽仲間なんですよ。新しいアルバムの話を3人で話していたさなか、今年の4月に和泉くんが亡くなってしまったので、2人のユニットになってしまったんですけど、その新譜を作ろうということで動き出しています。
――アルバム発売後のライブはあるのですか?
神保:1月2日に恒例の【神保彰ワンマンオーケストラ2022-SHIBUYA DE JIMBO-】が渋谷のduo MUSIC EXCHANGEであります。
――ライブレストランBillboard Liveにはどんな感想をお持ちですか?
神保:何度もお世話になっております。本当にいつも気持ちよく演奏させていただいています。スタッフのみなさんのホスピタリティも素晴らしいですし、会場もロケーションもいいですし。すごく洗練されているし。おしゃれな空間ですし。お客さんにとっても、ここで音楽が聴けて幸せだなぁって感じられる空間ですしね。本当に素晴らしい場所だなと思いますね。カシオペアで出させていただいたり、今年は向谷実さんと櫻井哲夫さんをゲストにお招きして“かつしかトリオ”というユニットで出させていただいて。年末の12月26日にビルボードライブ大阪でカシオペア3rdのライブがありますね。
――最後に、2枚の聴きどころを教えてください。
神保:『SORA』はAORという80年代のサウンドにフォーカスして、80年代を懐かしむということではなくて、自分の中にある80年代的なエッセンスを今のテイストで提示した作品。珍しく2曲ボーカル曲が入っていますし、あまりインストゥルメンタル、ジャズ、フュージョンとかに興味のない方でも楽しく聴いてもらえる作品に仕上がったのではないかなと思っています。ぜひたくさんの方に聴いていただきたいなと思います。
『アメアガリ』の方は、ドラムという楽器の面白さを最大限にフィーチャーした、自分の研究発表といったら変ですけど(笑)、いろいろ新しいものを取り入れて、今自分ができること、今自分ができるリズム表現というものを全部詰め込んだアルバムです。耳障りがとってもいいというのがポイントだと思います。ドラムをフィーチャーしたアルバムっていうと、とてつもなく難解な音楽が展開されているんじゃないかと印象をもたれちゃう場合が多いですけど、それとは間逆な音作りをしています。ぜひ、先入観なしに大勢の人に聴いていただけたらなと思っていますね。
リリース情報
- 2021/12/22 RELEASE
- KICJ 855 3,300円(tax in.)
- 2021/12/22 RELEASE
- KICJ 856 3,300円(tax in.)
31thアルバム『SORA』
32thアルバム『アメアガリ』
公演情報
【CASIOPEA 3rd/2021 WINTER LIVE】
- 2021年12月25日(土)愛知・名古屋ボトムライン
- OPEN 17:00 / START 18:00
- http://www.jailhouse.jp/
- 2021年12月26日(日)大阪・BIG CAT
- OPEN 16:30 / START 17:30
- http://www.sound-c.co.jp/
- 2022年1月2日(日)東京・Shibuya duo MUSIC EXCHANGE
- OPEN 14:00 / START 15:00
- http://www.duomusicexchange.com/
【CASIOPEA 3rd/2021 WINTER LIVE(仮)】
【神保彰 ワンマンオーケストラ 2022 -SHIBUYA DE JIMBO-】
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取材・文:井桁学
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