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<インタビュー>BIGYUKI、コロナ禍に信頼・尊敬するプレーヤーと創り上げた『Neon Chapter』



BIGYUKIインタビュー

 ア・トライブ・コールド・クエストや J・コール、マーク・ジュリアナにロバート・グラスパーと、世界の名だたるアーティストらと共演し、全米No.1獲得の2作品に参加するという「日本人初」の快挙を成し遂げたニューヨーク在住の鍵盤奏者・BIGYUKI。最近ではカマシ・ワシントンのツアーに帯同するなどジャンルを越えて活躍する彼が、実に4年ぶりとなるオリジナル・アルバム『Neon Chapter』をリリースした。ジャズやヒップホップ、R&Bなど様々なジャンルを取り入れながら、唯一無二のサウンドスケープを構築していくその姿勢は相変わらず健在。ゲスト・ミュージシャンもアート・リンゼイやマーク・ジュリアナ、ハトリミホなど錚々たる顔ぶれが並んでおり、昨年リリースされたEP『2099』で見せた新たな一面とはまた違った更なる新境地を開拓している。去る10月6日には、Billboard Live TOKYOにてソロライブを行ったBIGYUKI。その楽屋を訪れ、新作が生み出された背景について、時間が許す限り語ってもらった。

――実に4年ぶりとなる待望のフル・アルバムですが、制作はいつ頃からスタートしたのですか?

BIGYUKI:曲自体は、実は前作のEP『2099』と同時期に作っているんです。『2099』も当初はEPでなくフル・アルバムにするつもりで取り組んでいたのですが、年内に全ての楽曲を完成させることは難しくて。とはいえ、2020年のうちに作品を出すことの意味をすごく強く感じていたので、「だったら、フル・アルバムではなくEPで出そう」と。しかも今作は、音楽的に攻めた内容である必要はないというか、聴いていてストレスを感じない楽曲だけを集めたかったんですよね。そういう、『2099』のコンセプトから漏れた楽曲を中心に仕上げていったので、自ずと『2099』とは正反対の振り切った作品に仕上がったと思っています。

――確かに、ピアノだけでなくシンセ音も大々的に取り入れられているし、非常にカオティックかつポジティヴなパワーに満ちた作品だと思いました。『2099』にはSF的なアイデアも散りばめられていましたが、今作はどうですか?

BIGYUKI:例えば「LTWRK (feat. Paul Wilson)」という曲は、「シカゴフットワークのスタイルからインスパイアされた曲を作りたい」と思って、そこからフットワークをもじった「ライトワーク」という言葉が浮かんでそれを曲名にしたのですが、実は「人々にスピリチュアルな世界を伝える使命をもって生まれてきた人」のことを「ライトワーカー」と呼ぶらしくて。

――そうなんですね。

BIGYUKI:前作『2099』のタイトルは、「エンジェルナンバー」といって、普段生活していてパッと時計を見たときに出てくる数字が毎回同じだったり、「1111」みたいに何かしら意味ありげな番号だったりすると、それを「天使からのメッセージ」と捉える人たちがいるというのを聞いてつけたものなんですよ。しかも「2099」は、世界中に点在している、自分では気付いていないライトワーカー予備軍たちを目覚めさせる数字らしいんですよね。

――そこで前作『2099』と本作収録の「LTWRK (feat. Paul Wilson)」がつながるわけですね。

BIGYUKI:「LTWRK」は、『2099』から啓示を受けたライトワーカーの曲ということになる。コロナ禍で音楽という「啓示」を受けて目覚めたライトワーカーたちが、この世界をよくしてくれたらいいなという願いが込められています。

――なるほど。今作にはアート・リンゼイやマーク・ジュリアナ、ハトリミホなど多彩なゲストが参加しています。コロナ禍ではやはりリモートでのコラボレーションが中心でしたか?

BIGYUKI:そうですね。スタジオでセッションしながら詰めていく作業が物理的に難しくなったため、データをファイルで送ることも多く、そうするとある程度イメージが伝わるところまで自分で作り込まなければならなくなりました。例えばシングル曲になった「OH」などは、去年の春ごろに初めて自分で DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を立ち上げ、デモを作るところから始めています。これまでは誰かとペアを組んでやっていた作業を、自分一人でもできるようにならなければと思って挑戦した楽曲でもありますね。

――コロナという状況に置かれたからこそ、チャレンジした曲ともいえる。

BIGYUKI:まさに。普段から自分はメインアクトというよりは、アーティストをサポートすることのほうが多く、それはそれですごくチャレンジングな環境に身を置くこともできて楽しいのですが、自分のこととなると、忙しさにかまけてどうしても後回しになってしまうことが多かったので、そういう意味では、コロナ禍で集中して新しいことに取り組むことができたのは良かったと思っています。


▲「OH」

――コラボレーションで特に印象に残っているエピソードはありますか?

BIGYUKI:うーん、難しいなぁ……みなさんそれぞれ素晴らしいアーティストでしたからね。セルフ・プロデュース能力も非常に高く、アイデアが出てくるのも、それを形にするのもとにかく早い! そのスピード感に必死でついていきながら自分のアイデアを出したり、相手のアイデアに反応したりする時間は本当に刺激的でした。

例えばハトリミホさんと一緒に作った「Tired N Wired」や「Storm」でも、「何かもうワンアイデアが必要なんだけど、それが一体なんなのかわからない」みたいなときに、「とりあえず何か聞こえたらやってみて」と丸投げしても(笑)、それで返ってくるアイデアがめちゃめちゃカッコ良くて。僕には想像できないことを提示してくれるアーティストだなと思いましたね。本当に尊敬します。

――そうやって自分にない引き出しや、気づかなかった引き出しを開けてくれるのがコラボレーションの醍醐味ですよね。

BIGYUKI:その通りですが、そこで絶対に必要なのが信頼関係だと思います。ご時世なので基本的にはリモートのやり取りであり、一緒にスタジオに入って、文字通り、膝を突き合わせてする作業とは全然違うんですよ。自分のクリエーションが、完全に相手のコントロール下に置かれるわけじゃないですか。自分が大事に育ててきた楽曲がどんなふうに「料理」されるのか、信頼関係がないと「好きにお願いします」とは言えない。もちろん、今回はどの方も自分が尊敬してやまないアーティストだったり、プロデューサーだったりするので心配するようなことは一切なかったのですが。しかも皆さん、僕が想像していた以上のものを返してきてくれましたし。

それから共同プロデュースで参加してくれたポール・ウィルソンは、今までもちょこちょこ一緒に音楽を作ってきた信頼するニューヨーク在住の音楽仲間なのですが、今回は初めてアルバム単位でガッツリ組むことができたのも感慨深かったです。彼の自宅兼スタジオみたいなところで、どちらかが寝落ちするまで二人きりで何時間も作業したのもいい思い出ですね(笑)。

――ところでBIGYUKIさんは、アフターコロナの世界で音楽がどのようなものになっていくと考えていますか?

BIGYUKI:コロナ禍で世界中がストップしてしまったとき、「エッセンシャルワーカー」の重要性について語られる機会が多かったじゃないですか。エッセンシャルワーカーとは、最低限の社会インフラ維持に必要不可欠な労働者(医師や救急救命士、ソーシャルワーカーら)を指しますが、俺はその中に「アーティスト」も入れていいと思っているんですよね。ロックダウン中、みんな映画を見たり、音楽を聴いたりしていたと思うんですけど、もしそういったものが一切なかったら、恐ろしい世界になっていたと思うんですよね。

――本当にそう思います。

BIGYUKI:不要不急でもなんでもなく、人が正気を保つ上で音楽や映画、アートの力はとても重要だとコロナ禍で改めて強く感じましたし、これからも音楽は「なくてはならないライフエッセンシャル」としてあり続けると思いますね。

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