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<コラム>マカロニえんぴつ「なんでもないよ、」は“愛”をたっぷりと感じることができる曲 早くも多くの反響を寄せている本楽曲をレビュー
「なんでもないよ、」の後にあるニュアンス
横浜アリーナ公演を含むキャリア最大規模の全国ホールツアーに続き、全国15箇所を巡ったライブハウスツアー【マカロックツアーvol.12 ~生き止まらないように走るんだゾ!篇~】を終えたばかりのマカロニえんぴつが新曲「なんでもないよ、」を11月3日に配信リリースした。
「なんでもないよ、」は2022年1月12日にリリースされる待望のメジャー1stフルアルバム『ハッピーエンドへの期待は』にも収録される先行配信曲だ。LINE MUSICの「ソング Top 100」では11月3日のデイリーで6位とトップ10入りしているほか、同日に公開したミュージックビデオはYouTubeで急上昇入りをし、一日で15万再生を超えた。コメント欄には「マカえん史上最強ラブソングだ」や「聴きながら泣いていました」などといった反響が多く寄せられている。
▲マカロニえんぴつ「なんでもないよ、」
このように早くも反響が出ている「なんでもないよ、」について、本コラムではその音楽性を探ってみたいのだが、まずマカロニえんぴつの音楽の根底には、共通して、愛と生の痛みや切なさがある。全てがラブソングだと断言してもいい。ただ、ひと言に“ラブソング”といっても、目で見ることのできない愛には、いろんな形があり、いろんな関係があり、いろんな距離や対象がある。いわゆる恋愛もあれば、家族や友人への愛もあるし、自己愛もある。他者や自分自身だけでなく、音楽やバンド、世界や人生に向けられたものもある。また、欲望や執着や憎しみといったネガティヴな面もあるという意味も含めて、マカロニえんぴつのはっとり(Vo、Gt)は自身の歌を通して、愛を伝え、確かめ合い、伝播させていくロックスターであると認識している。
マカえんの代表曲といえば、YouTubeチャンネルでの再生回数が2,900万回を突破している「恋人ごっこ」が挙げられるだろう。<ひ、ふ、み、よ>というカウントから始まる、アコースティックギターを基調としたブリットポップ「恋人ごっこ」では、“愛”にまでは育たなかった “確かな恋”が描かれていた。
▲マカロニえんぴつ「恋人ごっこ」
さらに、友達以上恋人未満の男女の甘酸っぱくてもどかしい恋心を歌った「レモンパイ」や、憂鬱な夜に失恋を乗り越えていこうとする葛藤を描いた「ブルーベリー・ナイツ」(2,730万回超え!)など、“恋”の苦さや儚さを歌った曲の人気が高い。そして、昨年11月にリリースされたメジャー1stEP『愛を知らずに魔法は使えない』では、音楽という魔法を使うために、改めて、まずは自分自身を愛することに立ち返り、過去を振り返る過程で、家族に対する感謝の気持ちも歌っていた。その後、2021年4月にリリースしたシングル曲「はしりがき」では、青春をテーマに<いざ無駄を愛すのだ!>と歌い、<ただあなたには自分を愛して欲しいのです>というメッセージを投げかけ、同年5月には恋と友情と部活に込めた情熱が交錯する青春ソング「八月の陽炎」、10月には遊び心に溢れた歌詞の中で愛の種を撒いた配信シングル「トマソン」と、かなりのハイペースでリリースを重ねてきた。
▲マカロニえんぴつ「八月の陽炎」
そして、先のライブハウスツアーのファイナル公演でサプライズ披露された新曲「なんでもないよ、」は、これまでになく幸福で満ち足りた“愛”をたっぷりと感じることのできるラブバラッドとなっている。“愛”や“幸せ”ではなく、<とびっきりの普通と>という、ただ笑顔に溢れた当たり前の日常をくれた“君”に対する、<会いたいとかね、そばに居たいね、守りたいとか/そんなんじゃなくて/ただ僕より先に死なないで欲しい>とだけ願う純粋でストレートな思い。<言葉が邪魔になるほどの心の関係>と歌っているのだから、これ以上、言葉で説明するのは野暮だろう。タイトルにもある「なんでもないよ、」の後にあるニュアンス、この言葉にならない気持ちを想像して欲しいし、<好き>とか<愛してる>とか<永遠に一緒にいよう>などといった言葉を与えて安心させようとしない姿勢に深みを感じる。
また、サウンドとしては、途中で6/8ビートに変化する前述の「恋人ごっこ」を始め、1曲単位でストーリー性を感じさせるように展開し、さまざまな音色を使って主人公の心の機微を表現するなど、実験的で独特な音像を構築してきた彼らだが、この曲はとてもシンプルで音数も極力抑えられたアレンジとなっている。プレイボタンを押すと、まず、ピアノの伴奏に続き、はっとりが咳払いをし、声を整える様子までが録音されている。一発録りのようなムードの中、スッと息を吸い込み、優しく柔らかい声で歌い始める。やがて、フィンガースナップとビートが入り、シンセやエレキギター、トライアングルなどの楽曲が積まれていき、後半はディアンジェロ以降のネオソウルを経て、手拍子をしながら歌うゴスペルのような多幸感と高揚感、ダイナミズムが待っている。その後の<ラララ>と続くアウトロを聴くと、早くライブで大合唱したいという気持ちになるが、今はいつか来るその日まで楽しみに待っていたいと思う。
▲マカロニえんぴつ Major 1st Full Album「ハッピーエンドへの期待は」Teaser
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