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<インタビュー>INORANが最新アルバム『ANY DAY NOW』をリリース 「惑わされなくてもいいんだな」と感じてもらえる音楽が出来るまで
2020年9月に『Libertine Dreams』を、そしてその約半年後に『Between The World And Me』をリリースしたINORANが、早くも最新アルバム『ANY DAY NOW』を完成させた。コロナ禍で移動の自由を奪われ、ほぼ全ての楽器演奏を一人で行い作り上げた「三部作」の最終章とも言える本作は、バンドサウンド中心だった先の2枚から一転、EDMやフューチャーベースを大々的に取り入れたエレクトロ色の強いサウンドスケープを展開。アフターコロナの世界を描く「希望」に満ちた内容に仕上がっている。『Libertine Dreams』では自己の内面に深く潜り、『Between The World And Me』では自分と世界との境界線を描いてみせたINORANが、今作では「旅」や「自由」をテーマにオプティミスティックなアルバムを作り上げたのはなぜか。その制作過程を紐解きながら、その真意に迫った。
この18ヶ月の間に変わらなかった軸
――前々作『Libertine Dreams』は2020年9月30日、前作『Between The World And Me』はそのおよそ半年後となる2021年2月17日にリリースされました。当時のインタビューによれば、この2枚のアルバムは「地続き」にあるとのことで、確かにサウンド的には共通するものを感じました。が、本作『ANY DAY NOW』はそれとは大きく異なるサウンドスケープを展開しています。
INORAN:『Libertine Dreams』と『Between The World And Me』を制作していたのは昨年の春から初夏にかけてで、新型コロナウイルスの感染拡大によって、何もかもできなくなってしまった状況が突然やってきた時だったんですよね。「移動」という、人間にとって最も「自由」を感じられる手段を奪われてしまった中で、誰にも邪魔されない、誰にも奪われないものは何かを考えた時、それは自分自身の想像力だと再認識したんです。頭の中で思い描く世界を自由に旅するというか、いわばインナートリップをしてみたのが『Libertine Dreams』で、そこから少し視野を広げ、自分自身と世界の間にある境界線を描いたのが『Between The World And Me』。今作は、そこから実際に外の世界へと「移動」するためのアルバムだったのかなと思っています。
――改めて、コロナ禍でINORANさんが考えていたことについて聞かせていただけますか?
INORAN:この18ヶ月の間に、世の中の状況は目まぐるしく変化していきましたよね。そんな中、僕自身がずっと思っていたのはやはり「音楽を止めない」ということ。そこはずっと変わらない軸だったなと今振り返っても思いますね。
最近、ある人のインタビューを読んでいてすごく自分にしっくりくるなと思ったのが、「コロナに屈しない」という言葉だったんですよ。僕自身、今の活動のモチベーションというのは「自分がやりたい音楽をやりたいようにやる」ということよりは、ファンやスタッフをはじめ、関わる全ての人たちに対しての強い「責任感」なんですよね。ありがたいことに、これだけ長く活動を続けてこられたということは、僕自身の活動はたった一人で成り立っているわけではない。僕自身がストップしてしまうことで、困ってしまう人たちがたくさんいるわけですから。
――コロナ禍では社会の様々な問題点も浮き彫りになり、それに対して様々なアーティストが多かれ少なかれアクションを起こしてきました。そのことに関してはどのような見解を持たれていますか?
INORAN:これもみなさんそうだと思うのですが、本当にいろんなことを考えましたよね。サスティナブルについてもそうですし、人権問題についても一人の人間として思うところはたくさんあった。コロナで日常がリセットされたことによって、きっと多くの人たちがこれまで後回しにしてきた様々な課題について、じっくりと考え直す機会ができたと思う。例えば都会に住むのか、それとも地方へ移住するのかという現実的な課題もそうですし、「思いやりとは何か?」みたいな本質的な問いもそう。自分自身、そういった社会的なこと、政治的なことを踏まえた上でこれまでもずっと音楽をやってきたつもりです。
僕は「音楽人」ですから、あくまでも新しい作品を生み出し、それによって少しでも多くの人が笑顔になってもらえたら……という気持ちが一番強い。コロナ禍で僕自身が特に深く考えていたのは、最初にも少し話したように「自由」であることの重要性、もっといえば「自由」そのものの定義についてでしたね。
▲INORAN「Wherever,Whenever」
――「自由」であることの重要性と、「自由」そのものの定義ですか。
INORAN:好き勝手することが自由ではないけど、例えば「これをしてはいけない」「あれをやっちゃいけない」という自粛ムードに対しては思うところがあって。音楽業界も槍玉に上がり、実際そうしたムードに呑み込まれかけたわけじゃないですか。もちろん、感染予防に関してやるべきことは最大限やらなければいけない。「こんな時に何やってんだよ」と思われても仕方ない出来事も、実際に何度かありましたしね(苦笑)。
ただその一方で、「こんな時だからこそ」という自分自身の覚悟も問われていたと思うんです。それが、最初に話した「コロナに屈しない」という気持ちでもあるわけで。それは「反骨精神」とかそういうことではなく、一人の音楽人としての「使命」なのかなと思っていますね。
リリース情報
INORAN『ANY DAY NOW』
- 2021/10/20
公演情報
【INORAN 2021-2022 PREMIUM ACOUSTIC LIVE】
- 2021年11月23日(火・祝)Billboard Live TOKYO
- 1stステージ OPEN 15:30 / START 16:30
- 2ndステージ OPEN 18:30 / START 19:30
- http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13048&shop=1
- 2021年12月25日(土) Billboard Live OSAKA
- 1stステージ OPEN 15:30 / START 16:30
- 2ndステージ OPEN 18:30 / START 19:30
- http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13047&shop=2
- 2022年1月16日(日) Billboard Live YOKOHAMA
- 1stステージ OPEN 15:30 / START 16:30
- 2ndステージ OPEN 18:30 / START 19:30
- http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13049&shop=4
関連リンク
取材・文:黒田隆憲
「希望」を見つけていくことが「生きること」
――今INORANさんがおっしゃったことは、「多様性」ということにもつながるのかなと思いました。正解や不正解がなかなか見つけづらい状況の中で、誰かがしたことに対して頭ごなしで否定したり、あるいは付和雷同して流されたりするのではなく、それぞれがまず自分の頭で考え、相手の言動に対しても一定の敬意を払うことが、それぞれの「自由」を担保することなのかなと。
INORAN:そう思います。人それぞれの立場や考え方がありますからね。これまでの歴史を振り返ってみても、自分を正当化するために他者に対して「否定」から入ってしまうと、それはいつの時代においても目を覆うような状況を生み出してきたわけじゃないですか。コロナ禍でもそういう状況はたくさん見てきたし、実際そういう世の中になりつつある。「でも、そんなことにいちいち惑わされなくてもいいんだよ?」と語りかけるというか、「惑わされなくてもいいんだな」と感じてもらえるような音楽が今回は作りたかったのかもしれない。
――ちなみにアルバムタイトル『ANY DAY NOW』にはどんな意味が込められているのでしょうか。
INORAN:『チョコレートドーナツ』という映画の中で、アラン・カミング演じる主人公が歌う「I Shall Be Released」の一節ですね。これはボブ・ディランが作詞作曲した楽曲のカヴァーですが、“Any day now, any day now I shall be released ”(今こそ僕は自由になれるさ)という歌詞から取りました。
▲ボブ・ディラン「I Shall Be Released」
――なるほど。まさに先ほどの「自由」というテーマにもつながるわけですね。最初にINORANさんがおっしゃっていたように、そろそろ自由に「移動」というか、旅がしたい気分です(笑)。
INORAN:そして旅には「連れ」がいるわけじゃないですか。コロナ禍のソーシャルディスタンスで、そういうものもずっと奪われてきたわけで。会いたくても会えなかった人、会いたかったのに、もう二度と会えなくなってしまった人、そういう人たちへの想いが重なって、「旅」や「自由」がアルバムのテーマとなり、アルバムタイトルやサウンド、歌詞、ジャケットのアートワークなどが決まっていった感じですね。
――歌詞はJon Underdown、Nelson Babin-Coy、Mark Stein、そしてTim Wellard が書いていますが、大まかなテーマなどINORANさんから何かしらリクエストをしているのですか?
INORAN:前作、前々作と同じ人もいるので、なんとなく歌詞の世界観の設定は理解してもらっているし、デモ音源を渡すときに「そろそろ旅に出たいよね?」みたいな、ざっくりとした方向性についての話はしました。あとはそれぞれが曲を聴いて感じてくれたこと、今感じていることが歌詞の中に表れていると思います。直しなどもほとんどないですね。「ちょっと、ここは言葉が詰まり過ぎて歌いづらいな」みたいな調整をしたくらいで(笑)。
――「A Beautiful Mess」の、“This life’s a beautiful mess, such a beautiful mess”(この人生は美しい混乱 なんて美しい混乱)というフレーズが個人的にはとても好きです。
INORAN:こんなめちゃくちゃな世の中だからこそ、そこに「美しさ」を見いだせる人間でありたいですね。明日、何が起こるか分からない状況を「楽しみだね」と言える余裕というか。それに、きれいなものだけが「美しい」わけじゃない。残酷なことがあるからこそ、美しさを感じる時もあるわけじゃないですか。
――そういう意味では「Dancin’ in the Moonlight」も逆説的というか。失敗すること、チャレンジすることの先にしか新しい世界は広がらない、ということを歌っていると思いました。
INORAN:確かに。この曲も、今の時代に自分自身が持っていたい「信条」や「信念」を歌っていますね。人間は一人で生きられないし、たとえ一人で生きていても、それは限界がある。いろんなことをコロナで奪われた中、残ったものが「信条」や「信念」だと思うんですよね。そのことについて歌う楽曲でアルバムを締められたのは良かったなと思っています。
たとえどんな状況であっても、そこに「希望」を見つけていくことが「生きること」だと思うんですよ。しかも誰かと見る「希望」、誰かと語る「希望」こそが、この分断された世の中で必要なものであり、生きていくためのエネルギーになると僕は心から信じています。
リリース情報
INORAN『ANY DAY NOW』
- 2021/10/20
公演情報
【INORAN 2021-2022 PREMIUM ACOUSTIC LIVE】
- 2021年11月23日(火・祝)Billboard Live TOKYO
- 1stステージ OPEN 15:30 / START 16:30
- 2ndステージ OPEN 18:30 / START 19:30
- http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13048&shop=1
- 2021年12月25日(土) Billboard Live OSAKA
- 1stステージ OPEN 15:30 / START 16:30
- 2ndステージ OPEN 18:30 / START 19:30
- http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13047&shop=2
- 2022年1月16日(日) Billboard Live YOKOHAMA
- 1stステージ OPEN 15:30 / START 16:30
- 2ndステージ OPEN 18:30 / START 19:30
- http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13049&shop=4
関連リンク
取材・文:黒田隆憲
ANY DAY NOW
2021/10/20 RELEASE
KICS-4022 ¥ 3,300(税込)
Disc01
- 01.See the Light
- 02.Wherever,Whenever
- 03.Feel It In The Air
- 04.Live it Up
- 05.Run Away
- 06.A Beautiful Mess
- 07.Count Me In
- 08.No Way But Up
- 09.flavor
- 10.Dancin’ in the Moonlight
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