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<インタビュー>星野源 音楽の探求心は止まらない――未知の領域から完成させた新曲「Cube」
星野源から新曲「Cube」が届けられた。「Cube」は菅田将暉主演の映画『CUBE 一度入ったら、最後』の主題歌で、絶望的な状況に置かれた人々を描いた映画のストーリーと重なる歌詞、そして、奔放なトラックメイクを軸にした音楽性を含め、星野源の新たな音楽世界を感じられる楽曲に仕上がっている。「Cube」を軸に、制作スタイルの変化、現在のモードなどについて聞いた。
――新曲「Cube」は映画『CUBE 一度入ったら、最後』の主題歌に起用されていますが、楽曲の制作のはじまりは、映画を観るところからでしたか?
星野源:そうですね。オリジナルの『CUBE』(『CUBE 一度入ったら、最後』は1997年公開のカナダ映画『CUBE』のリメイク版)を観て、続けて今回のリメイク版を観ました。まず『CUBE』のようなスリラーというジャンルの作品でオファーをいただくことがなかったので、単純に「今までとは違う音楽の世界に行けるんじゃないかな」という興味があったんです。実際、オリジナル版を観たときに、すごく自分の中で響くものがありました。音楽の面では「未知のものができそうだ」という楽しさだけがあって、歌詞に関しては「こういうものを書こう」というイメージが具体的に浮かんできたんです。どちらかというと、歌詞世界の方が先だったと思いますね。
――星野さんがオリジナル版『CUBE』を観て感じたものとは?
星野:<あるのは人間の果てしない愚かさだ>というセリフがあるんですが、それは今、自分の実感として持っているものでもあって。その実感を歌詞にすることで、世の中に響かせる意味があるんじゃないかと思えたんです。歌詞のいちばん最後の所ですね。
――<僕らいつも果てしなきこの愚かさの中>ですね。こういう感覚は、この数年でさらに大きくなってる気もします。
星野:そうですね。もちろん昔からなのだと思うんですが、どんどん強く感じるようになってきています。
▲「Cube」
――人間は愚かで、それは終わることがないという前提に立ちつつも、「Cube」からは“ここで生きていくしかない”という覚悟も感じられました。絶望を抱えながらも、命を真っ当したという。
星野:この楽曲が映画の主題歌になることが発表されたとき、監督(清水康彦)や菅田(将暉)くんがコメントを出してくれて、“希望を感じる”ということを書いてくださっていたんです。でも、自分としては希望を込めたつもりが全然なくて。なので、この曲から希望を感じ取ってもらえたことは少し意外だったというか。希望というのは、未来や外側にあるイメージなんですけど、「Cube」の歌詞はキラッとしたものに向かっていくというより、自分のなかで湧き上がる“理不尽に死にたくない”という気持ちに近いのかなと。監督や菅田くんが希望のように感じてくれたのは、たぶん、菅田くんのパワフルなお芝居のニュアンスが歌詞の中に入っているからかもしれないですね。
――映画を観終わったときに「Cube」を聴くと、希望が滲んでくるという?
星野:そうですね。あと、感覚として映画から強い怒りや、いろいろな方向の「ふざけんな」という感情を感じたので、それを爆発させた曲になっていると思います。
▲『CUBE 一度入ったら、最後』予告映像
腕が6本、足が4本のドラマーという設定を作ってみました
――サウンドメイクに関しても聞かせてください。まず、リズムがすごいことになっていますね。
星野:ありがとうございます(笑)。
――ホントに(笑)。手数の多さもすごいし、グルーヴも濃密で。mabanuaさんが共同編曲として参加されていますが、星野さんのトラックを二人でブラッシュアップさせたんでしょうか?
星野:そうですね。まず僕が打ち込んだものをmabanuaくんに渡して、手を入れてもらって、またこっちで直すという感じです。
――トラック、オルガン、ベースを軸にしたアンサンブルも強烈でした。星野さんのなかでは、どんなサウンドのイメージがあったんですか?
星野:60年代後半から70年代前半くらいのソウルバンド、もしくは田舎の教会でゴスペルの歌に合わせて演奏しているバンド。そんなドラム、ベース、オルガン、ギターくらいの小編成のバンドがすごくプログレッシブで、わけがわからない音楽をやってる、みたいな。
――いや、本当にその通りのサウンドですよね(笑)。
星野:嬉しいです。リアルな生音でやりたいと思いつつ、このドラムパターンは人間では演奏できないので、もし生音に寄せるんだったら、実際に叩けるように音を間引く方法もあったんです。でも途中で「何でそうしなくちゃいけないの?」という気持ちになってきて(笑)。「人間ができないことをやってもいいじゃん!」と思って、“腕が6本、足が4本のドラマー”という設定を作ってみたんです。千手観音みたいな状態ですね(笑)。
――確かに生音に聴こえますよね、このドラム。最初、ミュージシャンのクレジットを見ないで曲を聴いたので、「これ、どうやって叩いてるの?」と思いました。
星野:そうですよね。オルガンもそうで、人間味があるのに、人間には不可能なプレイになっています。僕が弾いているものと、別のプレイヤーのものが重なっているので。去年までは孤独な作業が多かったんですけど、「創造」以降、mabanuaくんに編曲を手伝ってもらうようになって、音楽制作がさらに楽しくなりました。
――自由度も上がっている?
星野:そうですね。まず、ギターで作曲していたところから、キーボードで作曲するようになり、打ち込みもガッツリやるようになってものすごく自由度が上がりました。コロナ禍になってから明らかに音楽作りのフェーズが変わりましたね。
――しかも「創造」「不思議」「Cube」と曲によって方向性も違っていて。
星野:SAKEROCKのときからそうだったんですが、自分にとって新鮮なものがあったほうが楽しいんですよ。“新鮮=未知の領域”というか。これまでは小さい要素を加えることでそれをやってた気がするんですが、去年からは完全に未知の世界になって、新鮮度が上がっていると思います。客観的に「前と違うことをやろう」と意識しているわけではなくて、そもそもが未知の状態だから、どこに向かっても新鮮なものになるっていう。
――星野さんとZion.Tの楽曲「Nomad」(マーベル・スタジオ最新作『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のインスパイアド・アルバムに収録)も新しいトライアルでしたか?
星野:そうですね。EP『Same Thing』から続いているんですけど、「今までやったことなかったけど、おもしろそうだな」とアンテナが反応することをやりたくて、それが自分の性質にも合っているのかなと。「Nomad」に関しては、もともと88risingから「Zion.Tと一緒にやらない?」というオファーがあったんです。トラック、メロディは既にあったんですが、歌詞を変えたり、メロディを追加したりしていいということだったので、「そこに集中したことは、今まであまりやってなかったな」と。英語で歌うこともそうだし、作業自体もおもしろかったし、新たな世界を知れるきっかけになりました。
▲「Nomad」
――さらにオンラインゲーム『フォートナイト(FORTNITE)』が開催するバーチャルイベント【サウンドウェーブシリーズ】にも参加されるなど、新たな活動はさらに広がっていきそうですが、創作に集中する時間、素の自分に戻る日常の時間のバランスは取れてますか?
星野:どうだろう……今年は音楽の一年にしたので、楽曲制作にすごく夢中になれているんです。シンセサイザーへの興味が尽きなくて、勉強するつもりじゃなくても、自然と知識が増えていて。精神的にも健康な気がします。
――意識しなくてもインプットできているというか。
星野:そうですね。20代前半の頃の感じというのかな。「やらなくちゃ、インプットしなくちゃ」ではなくて、夢中になれている状態ですね。
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