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<インタビュー>春ねむりが語る、行き詰った社会への想いと弱者のためのパンク精神



インタビュー

 春ねむりがニュー・シングル「Déconstruction」をリリースした。

 今年に入ってから「bang」「祈りだけがある」「セブンス・ヘブン」「Old Fashioned」とリリースを重ね、米シアトルのラジオ局、KEXPの『Live on KEXP at Home』に出演するなど、精力的に活動を繰り広げてきた春ねむり。タイトルの意味する“脱構築”をテーマにした新曲は、AURORAやLondon Grammarなどを手掛けるプロデューサー・デュオのMyRiotを共同プロデュースに迎えて制作された1曲。強靭なビートと叫びのようなヴォーカルが織りなす楽曲も、映画『ファイト・クラブ』に登場する「project mayhem」という言葉を引用したリリックも、とても強いインパクトを持っている。

 新曲の制作背景から、ライブに対しての思い、社会について考えることまで、様々なテーマで話を聞いた。

最も弱いものに最も優しい

――新曲、とてもよかったです。ガツンとくるタイプの曲でした。

ああ、よかった。うれしいです。

――「Déconstruction」という曲名は以前から自主イベントのタイトルに使っていたり、活動指針として挙げていたりした言葉だと思うのですが、この言葉に出会ったきっかけと、それがどういうふうに大事な言葉になっていったのかを教えてもらえますでしょうか。

そういう言葉があるのを知ったのは、大学の哲学の授業だったと思います。“脱構築”というのは、それまでの西洋哲学が二項対立的な物事の考え方をしていたのに対して、「その構造を破壊するべきだ」みたいな考え方で。自分はそれがめちゃくちゃしっくりきていて、今この世に必要なことはそれなんじゃないかと感じているんですね。意見を言うことってすごく難しいと思うんです。この世の問題を考えるときに、どうしてもAかBかで語る人が多い。Twitterでも短い文章で収めようとすると極端なものになる。みんながそういう二項対立的な物事の考え方をしてきて、それで行き詰ったこの世で自分たちは生きていると思うんですね。今はいろんな分断があると思うんです。ジェンダーとか、マジョリティとマイノリティとか、あとは資本主義社会も行き詰っていると思っていて。そのなかで生まれてくる貧富や教育の格差とかは、資本主義をやめることによっては解決しなくて。それを作っている構造を破壊しなくちゃいけない。現状のシステムによって権力や富を得ている人たちがいる。そういう構造を破壊しないと始まらないということを考えていて。自分自身が何かと向き合うときもそうだし、社会の問題もそうだし、有用な思想なのではないかなと思うんです。でも、哲学の世界以外ではあまり使っている人を見たことがなかったから、私はミュージシャンだし、音楽にしようと思って。

――なるほど。“脱構築“は哲学の言葉ですが、今おっしゃったことは、音楽の分野ではパンク的な価値観や考え方にリンクするものでもあるんじゃないかと思います。

そうですね。自分はそう思っています。人それぞれのパンクがあるとは思うんですけれど、私の中ではパンクとわりと合致しているところではあります。

――春ねむりさんのパンク精神って、この曲やここ最近の作品にははっきりと表れていると思っていて。

そう捉えてもらえるとうれしいです。




――なので、「人それぞれのパンクがある」とおっしゃいましたけど、春ねむりさんがどういうものをパンクと捉えるか、パンクが体現していたどういうところが好きなのかを語ってもらえると、この曲の説明にもつながってくると思うんです。そのあたりはどうでしょう?

自分にとってのパンクというのは、“最も弱いものに最も優しい”ということですね。

――例えばそれを象徴しているアーティストを挙げるならば?

私、ザ・クラッシュが好きなんです。ヴォーカルのジョー・ストラマーの逸話で、ザ・クラッシュが人気だったとき、ライブハウスの外で音漏れを聴いていた貧しい家庭の若い子をそっと裏口から入れてあげたという話があるんです。その話がすごく好きで。フガジのイアン・マッケイがライブのチケット代をなるべく抑えているというのもいいなと思っていて。日本も最近は貧富の差が激しいと思うんですけど、アメリカやイギリスはより格差が激しい国だと思うし、音楽のライブもアクセスしにくいものだと思うから、そういうことを大事にできるのはいいな、パンクだなと私は思います。

――パンクについての話とつながるところで言うと、春ねむりさんのTwitterのプロフィール欄には「RIOT GRRRL」と書いてありますよね。そこにもちゃんと意図が込められていると思うのですが、そのあたりはどうでしょう。

私、あんまり人間が好きじゃないんです。でも、公共というものは構築されるべきだし、それは弱者を中心に作られるべきだと思っていて。その過程で、どうしても連帯って必要になってくるじゃないですか。でも、私は人が嫌いだから、あんまり仲良くしたくないんですね。自分としては連帯することを目的に共生するというのは、あんまり健全ではないと思っているんです。「お互い、ここで生きてるよね」くらいの感じがちょうどいい。というのも、集団ってevilな性質を持ちやすいので、集団になることを恐れているし、怖くて。自分がつながれるとしたら、作品によってのみだなと考えているんです。RIOT GRRRL のムーヴメントって、自分が体感したわけじゃないからわからないですけど、作ったものによって連帯している感じがすごくいいなと思うんです。あの時代でバンドをやっていて、女の子がパンクをやっているからという理由で仲良くなることもあったと思うんですけど、それよりも作品が前提になっている感じが強いと思っていて。だから、それを書いています。



春ねむり HARU NEMURI「Déconstruction」(Official Visualiser)


――では、改めてこのタイミング、この曲のタイトルとして「Déconstruction」という言葉を使った理由は?

なるべく誰かが作る前に作らなきゃなと思って。あとは、アルバムに向けてパンチが強い曲も必要だろうなって。自分の指針になっている大事なテーマだし、ということはパンチが強い曲になるから、そういうものを作らなきゃなと思ったんです。


MyRiotと共同プロデュース

――今年に入ってから「bang」「祈りだけがある」「セブンス・ヘブン」「Old Fashoned」と曲を発表しているわけですが、これも次のアルバムに向けたもの?

そうですね。今まではあまりシングルを出さないでアルバムを作ってきたんですけど、ライブもできないし、今年は1曲ずつ出している感じです。



春ねむり HARU NEMURI「bang」(Official Music Video)


――曲の制作過程はどんな感じでしたか?

まずデモを作る段階では、シンプルで格好いい曲がやりたいと思って、サビから作りました。旗を持っている人が行進しているイメージの曲にしたいと思っていたので、ホーンも入れて、リズムもマーチングっぽくして。

――この曲はMyRiotが共同プロデュースに入っているわけですが、これはどういう経緯で実現したのでしょうか?

私、AURORAがすごく好きで。この曲も行進する感じで、かつ、大地を感じるような、AURORAっぽい感じがいいなという話をマネージャーとしていたんですね。で、プロデューサーを調べてDMしてもらったんです。返事は返ってこないだろうと思ったんですけど、曲を聴いてくれて「やってくれる」って。「インターネットすごいわ!」と思いました。

――実際の作業はどんな感じで進めていったんですか?

Audiomoversというウェブサービスを使って、Logicの画面をZoomで共有しながら、リアルタイムでアレンジ・セッションを3日間行い、作っていきました。

――データのやり取りとかじゃなくて、実際にオンラインで一緒に作っていったということ?

そうですね。Zoomを使ってセッションするのは初めてでした。MyRiotはすごく優しくて親切な方たちで、「作ったのは自分だから、自分が納得するようにしたらいいと思うよ」と言ってくれて。「じゃあ、ここはこうしたいです」とか、気兼ねなく言わせてもらいました。そうしたらその場でいくつか打ち込んで「このラインどう?」「これが好きです」とか、家から出なくても同じスタジオにいるような感じでやらせてもらって。「夢あるな」と思いました。自分だと「これはやりすぎかな?」と思うようなことも平気でやるんですよ。それが音像の広さとパンチの強さにつながっている気がしますね。

――コロナ禍でリモートワークの環境が広がったのもあって、リアルタイムで国境を越えてのセッションができた、と。

そうですね。いまだに対面で会ったことないのが信じられないです。今までだったら渡航しないとできなかったことができるようになった。ありがたいと思います。




――MyRiotの二人には、やり取りの前に曲についての説明や理想像のような話もしましたか?

わりと思想的な話はしました。冒頭に話したような、世界が行き詰った現状と、それを破壊していきたいという気持ちがあって書いた曲だと。あとは、大地を感じるような感じにしたい、「戦いに赴くんだ!」という雰囲気が欲しいと言ったと思います。

――話を聞いて思ったんですけれど、こうやってオンラインで国境を超えてつながれるようになったときに、大事になってくるのは価値観とイメージ、それからその背景にある文脈をどれくらい共有できているかということだと思うんですよね。それがあると強い曲になる。

そうですね。たとえばBメロではボンベイ・バイシクル・クラブみたいなインディ・ロックの感じにしてほしいと言ったら、ちゃんと完璧にやってくれて。「この感じ、どうしても自分じゃできないんだよね」と言ったら、「そのために僕らがいるから」と言ってくれて。そういう話もしたので、どういうコンテクストで生きてきたかというのは大事になってくると思います。


ライブは生きている実感につながる

――まさに今おっしゃったコンテクストに関係する質問なのですが、歌詞には“project mayhem”という言葉がありますよね。これはおそらく映画『ファイト・クラブ』からの引用だと思うのですが、その意図はどういうところにあるんでしょうか。

まず私、『ファイト・クラブ』がめっちゃ好きなんです。タイラー・ダーデンは過激なミニマリストとして語られることが多いと思うんですけど、自分的には構造そのものを破壊しようとしている映画に見えていて。なので、そのテーマを書くときに引用しても許されるんじゃないかなと思ったんです。だったらBメロでは絶対ピクシーズの「Where Is My Mind」を引用しようって。



Where Is My Mind?


――なるほど。『ファイト・クラブ』のエンディング曲ですよね。

あの年代のああいう価値観って、世界を変える力を切実に見た人に与えるというよりは、その力の凄まじさみたいなものを見せるという感じの受け入れられ方だったと思っていて。でも、私は今、そこから物事を変える力みたいなものを受け取っているから、そういう意味を書き加えたいと思うんです。世界を変えてしまうほどの力、テロリストになってしまうほどの暴力性みたいなものを、ただ暴力として受け止めたんじゃなくて。私は音楽という、自分が考え得る一番平和な手段、ギリ許されるんじゃないかという手段でそれを用いていきたい。そういう文脈があってもいいだろうというのは言っておきたいなって。ああいう暴力性って、自分の中にもめちゃくちゃあるんですよ。でも、そうしないでいられるのは音楽のおかげだから。

――『LOVETHEISM』以降、海外でのライブツアーが延期になった一方で、オンライン・ライブの機会は増えていると思うのですが、ここ1~2年を振り返ってどういう実感がありますか?

私は基本的に家が好きなので、人にそんなに会わなくて済むとか、よかったこともいっぱいあって。でもやっぱり、ライブができないのは本当に辛いです。いつもは省エネで生きているんですけれど、ライブのときは100パーセント以上を出せるように感じていて、生きている実感につながる。そういう「生きている」と思う時間をなくしたのがすごく辛い。無観客ライブもやったんですけれど、やっぱり人がいないと全然違う。“ミスが許されない映像コンテンツの制作”という印象が強いです。最近は制限がかけられているけれど、ちょっとずつお客さんを入れてのライブができるようになって、ライブは本当に大好きだなと思いました。

――お客さんがいるといないとで、どういう違いが大きいのでしょうか?

全てが違うと言って差し支えないと思います。人がいないと、だんだん虚無をノックし続けているみたいな感じになってくるんですね。ほんとにめちゃくちゃよくできているときのライブは、自分が自分から浮いている感じがあって。もちろん自分が歌っているんですけれど、自分もまたその音楽を浴びているみたいな感じがある。その中にいるときは守られているし、そこに完璧に入り込めているときは、私が音楽をやっているのではなくて、自分がその音楽の中で存在することをただ許されているという感じがある。人と仲良くしたい気持ちはないんですけど、お互いに存在することを許されたいという気持ちがあって。自分以外の人がそこにいてくれるのを許せるし、自分も許されている。そういう状態は、自分は有観客のライブでしか体験したことがない。存在しているから存在していていいんだというのが、たぶん生の実感というものに繋がっているんだと思います。

――ほんとに、その通りだと思います。

コロナになって、みんなも無観客ライブをやるのが辛いと言っていて。「あ、この感覚、自分だけじゃないよね」と思ったりします。

――USツアーは昨年春から4度目の延期ということになったわけですが。

今回は直前まで本当に行けそうだったので、ショックが大きくてへこみました。ニューヨークはチケットが売り切れていたんですよ。フルのキャパシティでライブもできるし、お客さんも自由に見ていいというスタイルで、久々にコロナ前にやっていたライブができそうだったので、すごく楽しみにしていたんですけど。でも、ビザの有効期限が切れる前には行けそうだということなんで、それは期待しています。

――ちなみにツアー・スケジュールが掲載されていたbandsisintown.comの春ねむりさんのサイトの“fans also follow”という項目はすごく興味深いですね。JPEGMAFIA、Rina Sawayama、iglooghost、black midiという並びになっている。つまり、北米や欧州では、こういうアーティストたちのファンに春ねむりのライブが待ち望まれているということで。この実感はどうでしょう?

めっちゃうれしいです。みんな好きなので。リスナーの人にJPEGMAFIA好きな人がけっこう多くて、「なんでだろうな?」とずっと思っていたんですよ。自分もめっちゃ好きなんですけど、読解するのに音楽的な教養が必要なタイプの音楽だと思っていて。でも、【Pitchfork Music Festival】のライブ映像を見たら、ステージ袖からリュックを持って出てきて、ステージの上でそのリュックを開けて、MacBookを出して繋いで、マイクを持ってヘドバンしながら歌っていて。こういう激しいのが好きな人が聴いてくれているのかなって。あと、【プリマヴェーラ・サウンド】に出たときも楽屋が近くて、「ああ、JPEGMAFIAさんだ!」と思ったんですけど、好きな人ほど会いに行けなくて。

――どこかのタイミングで、ぜひ一緒にライブをやってほしいなと思います。

対バンしたい! してみたいですね。

――他にも一緒にライブをやってみたい人はいますか?

たくさんいます。そうだなあ、Pussy Riotは一緒にやってみたいですね。ツアーに誘われたい。あとは、AURORAさんも。対バンとかしてなさそうなんですけれど、Bjorkも一緒にやってみたいです。あとは最近一番聴いているのは平沢進さんなので、平沢さんも対バンとかしなさそうだけど、やってみたいです。あとはLil Nas XとかYeah Yeah Yeahsとか……。たくさんいて、いすぎるくらいですね。




Interview by 柴那典

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