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「STAY」が世界で大ヒット!ザ・キッド・ラロイの人気の秘密に迫る



コラム

 豪出身の新人ラッパー、ザ・キッド・ラロイの勢いが止まらない。ジャスティン・ビーバーとコラボした「STAY」が最新米ビルボード・ソング・チャート“Billboard Hot 100”で通算7度目のNo.1に輝き、Billboardの今年の“21 Under 21(21歳以下の期待の21人)”の顔に選ばれたラロイは最新号で表紙も飾っている。MRCデータによると、世界で18.7億回以上もストリーミング再生されている「STAY」は、Spotifyだけでも英語圏内外の国の人気プレイリストに入るほど、非常に人気が高い。ザ・キッド・ラロイがこれほど多くの人々を惹きつけている理由とは――そこにはZ世代らしいTikTokのバズがかかわっていた。

レーベル争奪戦!
TikTokをきっかけに人気急上昇

 ザ・キッド・ラロイは2003年8月17日生まれの現在18歳。母国オーストラリアのアボリジニ民族の一つであるカミラロイ族(Kamilaroi)の血を引く彼の本名はチャールトン・ケネス・ジェフリー・ハワードで、ステージネームのラロイ(LAROI)はその民族名から来ている。音楽関係の仕事をしていた両親の影響から、早くから音楽制作に興味を持ちはじめ、アップロードした楽曲がきっかけでレコード会社と契約に至った。その後、2018年10月に「Lucid Dreams」が全米2位に輝くなど、絶大な人気を誇るラッパーのジュース・ワールドと出会ったラロイは、彼との共同生活を通して、ラッパー、クリエイターとしての腕を磨いていった。“あのジュース・ワールドが手塩にかけるアーティスト”という噂を聞きつけ、ラロイのもとには、ジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデ、デミ・ロヴァートのマネジメントを担当するスクーター・ブラウンや、マイリー・サイラスやリル・ナズ・Xを擁するアダム・レーバーといった業界大手のマネジメント/レーベルからラブコールが届き、若き才能を巡って争奪戦が起こった。

 ジュース・ワールドやリル・テッカなど、人気ラッパーとの客演で着々と知名度を上げていたザ・キッド・ラロイは、TikTokフォロワーランキング第3位のアディソン・レイの名前を大胆に使った<I need a bad b—ch (Okay)/ uh, Addison Rae(もっといい女が欲しい、アディソン・レイみたいな)>というリリックをTikTokに気軽にポスト(現在、この投稿は削除されている)。アディソン・レイは、コスメブランドを立ち上げたり、歌手デビューしたり、今年Netflixで主演映画が配信されたり(Netflixは彼女が主演・製作総指揮を務める複数の新作映画を制作するパートナーシップを契約)と、その驚異的なSNSフォロワー数と愛くるしいキャラクターを武器に、各業界からひっぱりだこの“超”人気インフルエンサーだ。この投稿にアディソン本人が反応したことで、一気に楽曲が拡散し、バズが起こったタイミングで「Addison Rae」を即座にリリースしたことで、より多くのリスナーにラロイの存在が知られることになった。

@addisonre moms reaction to hearing the song @sherinicolee ♬ Addison Rae - The Kid LAROI

 このバズが起こったのが2020年3月のことで、その後もザ・キッド・ラロイはTikTokを中心にしたバズを誕生させている。2020年12月には「WITHOUT YOU」を使ったバズも発生。「WITHOUT YOU」は、恋人と離れ離れになってしまう状況に苦しんでいる等身大の悲しいラブソングだが、18歳のKing Moxu(@kingmoxu)が彼女のショックな行動(考えてみればショックでもなんでもないのだが)に嘆きながら、上半身裸で踊るというシュールな動画が話題を呼び、ラロイ本人が登場するコラボ動画も相まって、人気が爆発した。この「WITHOUT YOU」は、後にマイリー・サイラスをフィーチャーしたリミックスver.の影響で“Billboard Hot 100”で最高8位を記録しており、単なるTikTokのバズで終わらずに、きちんとストリーミングやラジオに繋がっていることがアーティストとしてポテンシャルの高さが見て取れる。

@kingmoxu @thekidlaroi ♬ WITHOUT YOU - The Kid LAROI

@kingmoxu @thekidlaroi ♬ WITHOUT YOU - The Kid LAROI

40年ぶりの快挙!
モンスターヒット「STAY」

 そして、「WITHOUT YOU」が長くトップ20入りを記録している今年の7月にジャスティン・ビーバーを迎えた「STAY」がリリース。全米初登場3位という輝かしいデビューを飾った。ラロイは、同曲を収録した『F*ck Love 3: Over You』が米アルバム・チャート“Billboard 200”で1位に輝き、翌週に「STAY」も見事全米トップに。オーストラリア出身のアーティストが“Billboard Hot 100”で1位を獲得するのは、2016年8月に4週連続No.1に輝いたシーアの「Cheap Thrills (feat. Sean Paul)」以来の5年ぶりで、男性ソロ・アーティストとしてはリック・スプリングフィールドの「Jessie’s Girl」(1981年8月)以来、実に40年ぶりの快挙だ(なお、豪男性ソロ・アーティストが1位を獲得したのはリック・スプリングフィールドとザ・キッド・ラロイのみ)。


▲「STAY」

 その後、BTSの「Butter」やドレイクの新作『Certified Lover Boy』から「Way 2 Sexy feat. Future & Young Thug」、コールドプレイとBTSのコラボ曲「My Universe」に1位の座を奪われたものの、現在までに通算7度の首位獲得と、リリース以降、ロングヒットを記録している。

 Billboard JAPAN総合ソング・チャートでもストリーミングとダウンロードが牽引し、最高10位にチャートイン。洋楽曲がトップ10にチャートインするのは、2020年6月のレディー・ガガ&アリアナ・グランデの「Rain On Me」(総合8位)以来である。

 このヒットの裏側には、またしてもTikTokのバズがかかわっているが、もはやそれだけではないのがザ・キッド・ラロイのスゴイところだ。TikTokでは米アトランタの写真家デヴィッド・アレンのアカウントToTouchAnEmu(@totouchanemu)が、ドローンを飛ばし、「STAY」に合わせてお尻をフリフリする投稿がバズを生んだ。ToTouchAnEmuはベラ・ポーチやジェイソン・デルーロ、バックストリート・ボーイズのA.J.など、TikTokクリエイターや著名セレブとコラボするシリーズ展開までしている。日本では人気TikTokクリエイターの景井ひな(@kageihina)がトライしたことで、このお尻ふりふりダンスを見たユーザーは多いだろうが、写り込みチャレンジで「STAY」を使うユーザーも多かったようだ。

@kageihina こうすればいいのか!?🤔IB:@totouchanemu ♬ STAY - The Kid LAROI & Justin Bieber

@trendkayoko 「大久保佳代子が #写り込みチャレンジ やってみた」#大久保佳代子 #トレンド遊び ♬ STAY - The Kid LAROI & Justin Bieber

 TikTokから音楽ヒットが生まれる昨今の音楽シーンで、TikTok→ストリーミング→ダウンロード・ラジオオンエア・動画再生、というTikTok発のヒットサイクルがこの曲でも起こっている。景井ひなの投稿や写り込みチャレンジがスタートした8月、「STAY」はTikTokにおける再生回数や影響力などを総合的に判断して生成された国内週間楽曲ランキング“TikTok HOT SONG Weekly Ranking”で2位に初登場し(集計:8月9日~8月15日)、8月23日~8月29日の集計週から3週連続で1位を記録。国内ストリーミング再生数がぐんと伸びたのも8月中旬頃で、9月に入って国内ストリーミングサービスで週間600万回近く再生されるなど、TikTok内の楽曲人気が、他プラットフォームにも流れ込んだ。

 しかし、TikTokでバズった曲が全てこのサイクルを起こしているわけでもなく、そこはやはりTikTokユーザー以外の、シンプルな音楽リスナーの心を掴む音楽的な要素が絡んでいることは間違いない。日本のTikTokではMAISONdesの「ヨワネハキ」やP丸様。「シル・ヴ・プレジデント」、LEXとJP THE WAVYのコラボ曲「なんでも言っちゃって」など、踊りやすい楽曲がヒットする傾向がある。「STAY」もノリやすいサウンドではあるが、歌詞は「WITHOUT YOU」同様、とても悲しいラブソングだ。<Oh, I’ll be f—ked up, if you can’t be right here(君がここにいなければ、僕はダメになってしまう)>と、失って初めて気づく恋人の存在の大きさを嘆いているが、その裏にはポップで疾走感溢れるシンセが鳴り響く。このメロディを作ったのは、あのチャーリー・プースだ。

 また、2分22秒という短いナンバーの中でリズミカルに繰り返されるコーラスは、何度か聞いているうちにすぐに覚えてしまい、アップビートなメロディも相まって、口ずさみたくなってしまうのも、中毒性が高い証拠だ。オリヴィア・ロドリゴの「driver’s license」がティーンだけでなく大人世代も魅了したように、「STAY」もキャッチーなサウンドが幅広いリスナーに届き、その共感性の高い歌詞が彼らの心を掴んだのだろう。

 ザ・キッド・ラロイは米Billboardの最新インタビューで、2022年に正式なデビュー・アルバムのリリースと1月下旬から北米~欧州、そしてオーストラリア凱旋ツアーを控えている。まだ18歳の新人ながら超大型シンガーが、早くここ日本でパフォーマンスしてくれる日が来てくれることを切実に願う。

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