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SHE'S『Amulet』井上竜馬(vo,key)単独インタビュー



SHE'S『Amulet』井上竜馬(vo,key)単独インタビュー

 大阪出身のピアノロックバンドとして【閃光ライオット】で大きな注目を集め、気付けば日本のバンドシーンを賑わす存在となっていたSHE'S。あれから結成10周年&メジャーデビュー5周年を迎えるほどのキャリアを積み上げ、多種多様な音楽性で驚きと感動を与え続けてきた彼ららしいニューアルバム『Amulet』がここに完成した。

 今回のインタビューでは、その(リスナーにとっての)お守り的な意味を持つ新作についてはもちろん、そこに辿り着くまでの変化と進化のストーリーも紐解きつつ、愛と対峙して完成させた収録曲「Chained」(映画『そして、バトンは渡された』インスパイアソング)の話から、実は『Amulet』とは別軸で構想していたもうひとつのアルバムや、10周年以降のヴィジョンについてまで井上竜馬(vo,key)に語ってもらった。

 今秋には【SHE'S 10th Anniversary Tour「So Close, So Far」】を敢行し、2022年2月24日には【SHE’S in BUDOKAN】なる日本武道館ワンマンライブの開催も決定。ぜひこのタイミングで今一度SHE'Sの魅力と物語を噛み締めて頂きたい。

ジミー・イート・ワールド、The 1975、エド・シーラン、アヴィーチー……あらゆる音楽の影響による変化

--結成10周年、メジャーデビュー5周年を迎えた訳ですが、自分の中では今SHE'Sはどんなバンドになっているなと感じていますか?

井上竜馬:音楽的なルーツがメンバー全員バラバラで、なおかつ洋楽に影響を受けて育っている4人が作っている音楽なんですけど、そのルーツや影響をしっかりアウトプットできるバンドになったし、音楽の好みが移り変わっていく度にソレを取り入れることに貪欲にチャレンジして、その時々で音楽性をわりと変えてきたバンドなのかなと。これからもそんな感じで、純粋に音楽を作ることを意欲的に楽しめるバンドでいたいなと思います。

■SHE'S - 5th Album『Amulet』【全曲トレーラー映像】

--そのカメレオン的なスタイルは結成当時からコンセプトとして掲げていたのでしょうか。それとも、気が付いたらそういうバンドになっていた?

井上竜馬:後者ですね。僕がデモを作ってメンバーに渡して各楽器のアレンジをしてもらうスタイルで制作しているんですけど、自然と僕が作るデモの音楽性がどんどん変わっていっていて。その変化に自分自身が気付いてからは、ピアノロックバンドって言っているし、海外のピアノエモと呼ばれるジャンルに影響を受けて始めたバンドだけど、ピアノに捕らわれる必要性もないし、僕がアコギやエレキギターを持って演奏する曲があってもいいなって。そんな風に変わっていきましたね。そこからは逆に意識的に「SHE'Sにはこういう曲がないから作ってみるか」みたいな感じでいろんな音楽性の楽曲を作っていくようになりました。

--前例がどんどん出来ていくと「アレをやったんなら、コレもやっていいよな」って許容範囲も広がっていきますもんね。

井上竜馬:そうなんですよ。リスナーとしてもいろんな音楽を聴くんですけど、その中で誰かの新作を聴いたときに「前の作品と似ているな」と感じると残念な気持ちになったりするんで。もちろんソレに安心するパターンもあるんですよ?「今回、ウィーザー節だな! 俺が好きになったときの感じだ!」みたいな。でも、それ以上に「え、こんなんやるの? でも、ちゃんとこの人たちの音楽だな」と感じられたほうが音楽として面白いと思ってからは、自分たちもそうでありたいなって。

--そう思えたのは、井上さんが満遍なく様々なジャンルの音楽を聴いていたからでもあるんですかね。

井上竜馬:元々はそんなに聴く音楽の幅は広くなくて、中高生の頃はめちゃくちゃポップパンクに偏っていたんですけど、そこからジミー・イート・ワールドを聴いてエモばかり漁るようになって。それでピアノエモという音楽に出逢って「日本でこういうバンドをやったら面白いんちゃう?」と思ってSHE'Sを結成することになったんです。なので、当初は英語の歌詞しかなかったし、どっちかと言えば暗めの音像だったし。でも、バンドを組んでからいろんなジャンルを聴くようになって、最近ではゴスペルも好きで聴くようになったし、そんな感じで徐々に広くなっていきましたね。

SHE'S『Amulet』井上竜馬(vo,key)単独インタビュー
アルバム『Amulet』初回限定盤

--そのときそのときのトレンドに影響を受けて変化することもある?

井上竜馬:めっちゃあります。ここ5,6年ぐらいはThe 1975にすごくハマっていて、そういう80'sリバイバルみたいな音も取り入れたりしたし、エド・シーランを大好きになってからはアコギを使う回数も増えたし。あと、「EDMもちゃんと聴いてみよう」と思ってアヴィーチーを聴いて、それで「格好良いな、この音の使い方」と思ってデジタルの音も取り入れてみたりとか。本当にそのときどきでトレンドや「良いな」と思ったモノと、僕のピアノや服部が聴いて育ったハードロックギターなどを混ぜることによって、SHE'Sのオリジナルを作っていっています。

--The 1975も新作をリリースする度に「これ、同じバンド? 前作と全く違う」と新しい衝撃を与え続けていますよね。今やリスナーもソレを楽しんでいる。ただ、日本の場合はカテゴライズしたがるというか、様々なジャンルを取り込んでいく形容し難いモノにアレルギー反応を示すリスナーも多いじゃないですか。そこでの葛藤はなかったんですか?

井上竜馬:ありましたけど、パーセンテージで言うとその葛藤はめっちゃ少なかったですね。客観的にリスナーとしてSHE'Sのアルバムを聴いていったとして、ずっと何かにカテゴライズされたままの音楽をずっと聴かされて「つまらない」と思われるほうが怖いんですよ。

--ずっと同じ音楽を聴いていたいなら「5年前のアルバムをずっと聴いていればいいじゃん」ってなりますもんね(笑)。

井上竜馬:そうなんですよ(笑)。「いや、それはもう作ってあるから」っていう。

--では、SHE'Sの場合は、その変化にファンも付いてきてくれた感じなんですかね。音楽性が変わると離れるケースも多いじゃないですか。

井上竜馬:多少は離れたりもあると思いますね。それで新しいリスナーと入れ替わっていくこともあったと思います。僕らの最新の音楽も聴いてくれているけど、「私の好きなアルバムはインディーズの1枚目です」みたいな方もいるし、「ああいう曲をまた作ってくれないかな」という声も聞くんですけど、そのときの僕らとは目指している楽曲の方向が違うから難しいなとも思うし、そこに迎合したら終わっちゃうし。なので、旧譜が好きなリスナーでさえも新しい僕らの音楽を理解してもらえたら理想かなと思いますね。

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  1. コライトへの憧れ~タイアップ曲の面白さ「俺が主題歌を書き下ろす!」
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コライトへの憧れ~タイアップ曲の面白さ「俺が主題歌を書き下ろす!」

--「それも良いけど、これも良いから聴いてよ」と思い続けるのは、発信者側の常ですからね。

井上竜馬:SHE'Sを始めたこと自体の理由が「曲を作るのが楽しくて仕方なかったから」なんです。歌うことよりも、演奏することよりも、作ることが面白すぎて始めたバンドだから「なんかなぁ……」と思いながら作りたくないんですよ(笑)。「これがやりたかったんだよ、出来たなぁ」ってニヤつきながらリリースしたいんですよね。それが受け入れられなかったらもちろん寂しいんですけど、かと言って曲げるつもりはないですね。

■SHE'S - Take It Easy【MV】 (カンテレ「2時45分からはスローでイージーなルーティーンで」テーマソング)

--ちなみに、SHE'Sはタイアップ曲も多数手掛けていますよね。今回のアルバム『Amulet』にも

・「追い風」(カンテレ・フジテレビ系火9ドラマ『青のSP(スクールポリス)-学校内警察・嶋田隆平-』主題歌)
・「Chained」(映画『そして、バトンは渡された』インスパイアソング)
・「Spell On Me」(水ドラ25『ラブコメの掟~こじらせ女子と年下男子~』エンディングテーマ)
・「Take It Easy」(カンテレ『2時45分からはスローでイージーなルーティーンで』テーマソング)

が収録されています。こうした番組のテーマありきの楽曲制作にはどのようなマインドで臨んでいるんでしょう?

井上竜馬:サウンド面においては、例えば「Take It Easy」という楽曲をカンテレの番組に向けて書くとき、まず『2時45分からはスローでイージーなルーティーンで』というタイトルだから、昼下がりに聴いてふわっと気持ちよくなるような、落ち着くような、楽しくなるような、テーマに合わせたイメージを膨らませていくんですけど、そこで1曲だけ制作して提出するんじゃなくて、自分がやりたいなと思っているテイストのサウンドの楽曲を3,4曲ぐらい、どれが選ばれても悔いがないように作って提出するんですよ。歌詞に関しては「こういう風にしてほしい」というリクエストを受けつつなんですけど、タイアップの書き下ろしという時点で「100%、自分のエゴで作りたい」という気持ちにはならないので、それはそれとして楽しんで書かせて頂いている感じですね。先方が「もうちょっとこうしてもらっていいですか?」と言ってくれたことによって、自分が想像していたモノよりめっちゃ良いモノに仕上がることもあるんですよ。それは複数人でクリエイトする醍醐味だし、面白い。

--タイアップって言うならばコラボレーションですもんね。先方が提示する世界観に対して、SHE'Sなりの表現でレスポンスして、時にはそこからまたディスカッションが交わされて、ゆえに井上さんやSHE'Sだけでは生まれなかった楽曲が構築されていく。これってクリエイティヴとしてかなり面白いカタチじゃないですか。

井上竜馬:そうなんです。だから面白いんですよ。今回のアルバム『Amulet』は書き下ろしが多かったんで、もちろん苦労もあったんですけど、僕はコライト(Co-Write/共同作曲)に結構憧れているところがあるから、めちゃくちゃ新鮮で楽しかったです。好きな海外アーティストは今みんなコライトで、ひとりで作っている人ってほぼほぼ居ないんですよ。最近、ジャスティン・ビーバーが17歳のザ・キッド・ラロイというラッパーとコラボして作った「ステイ」とかめっちゃ格好良いんですけど、クレジットをよくよく見てみたらチャーリー・プースも参加しているし、その他にも有名なプロデューサーやDJの名前もあったりとか、そうやって複数でディスカッションしながら作曲することが海外では当たり前になっているんですよね。

--コライトが主流になっていると。

井上竜馬:でも、日本は「ひとりで作詞作曲して売れるって凄い」と思う風潮がまだあるような気がしていて。その辺が変わっていけばいいなと思うし、僕的にはいろんな人といっぱい曲を作りたいですね。10年やってきて自分のクセも分かったし、自分ひとりで作れる限界も分かってくるから、そういう中でタイアップ曲とかでいろんな人が関わってくれると面白い変化が起きるんで、めっちゃ楽しいんです。なので、これからもやっていけたらそんなに幸せなことはないし、タイアップじゃなかったとしても他の人とコライトしてみたいなと思いますね。

--何より制作することが好きなミュージシャンである井上さんからしたら、そう思うのは自然な流れですよね。

井上竜馬:そうですね。今でこそ、こうやってタイアップとかもらえるようになって嬉しいんですけど、インディーズにもなっていない頃ってセルフでソレをやっていたので。例えば『キングダム ハーツ』というゲームをプレイして、宇多田ヒカルの「光」というテーマ曲があるにも関わらず「俺が主題歌を書き下ろす!」みたいな。

--勝手に主題歌を作っていたんですね(笑)。

井上竜馬:「俺なりの光を描く」とか言って作っていたんですよ(笑)。昔からそうやって曲を作るのが好きだったし、このバンドの4人で曲を作っていく面白さももちろんあるので、どんな形でどんな音楽を作っていても基本的には楽しくて。

SHE'S『Amulet』井上竜馬(vo,key)単独インタビュー
アルバム『Amulet』通常盤

--ちなみに、様々な活動形態がある中でバンドに傾倒した要因は何だったんですかね?

井上竜馬:ELLEGARDENが好きになってギターを弾くようになったんですけど、ELLEGARDENのDVDにツアーのオフショットとかも収録されていて、それを観て「めちゃくちゃバンド面白そうやなぁ」と思ってバンドを始めたから、バンドのロマンももちろん知っているし。それで軽音楽部に入って、地元のライブハウスでライブをしたからこそ出逢った仲間が今のSHE'Sのメンバーだし、その当時はSHE'Sを組んでバンドやること以外の選択肢はなかったですね。孤独に曲を作ってアップロードしていくような活動は思いつかなかったんで。

--それから10年、今はメンバー間の関係性はどんな感じになっているんでしょう。変わってはいるんですか? それとも、ずっと変わらない?

井上竜馬:変わらない部分としては、やっぱり「友達である」という部分ですよね。ベースの広瀬とギターの服部は中学時代からの同級生だし、僕と広瀬はその頃から塾がいっしょだったりして、本当に友達の延長戦で組んだバンドだったから、そこって仕事にしていく上で枷にもなるし、強みにもなるじゃないですか。だから「絶対に枷にならないように」という意識は全員で持ちながら、良い方向にだけ進めるように舵を切ってきた。その中で変わっていった部分ももちろんあって、仕事という面でちゃんとお互いに意見を言えるようになったし、それぞれに役割をちゃんと決めて担うようになっていって。かつては僕がメンバーに気を遣い過ぎてクリエイティヴのクオリティが落ちてしまうこともあったんですけど、今はそれもちゃんと伝えて好きに曲を書いていって、それに対してメンバーが「こうしたら面白いんちゃう?」とか「この楽曲にソレは要らないな」みたいなことを考えてくれたりとか、僕の頭の中にある音楽をブラッシュアップしつつ、でも寄り添うときは寄り添いつつ。そういう関係性で制作できるようにどんどん変わっていきましたね。

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新作『Amulet』と別軸で構想していたもうひとつのアルバム

--理想的な関係性に変わっていけたんですね。

井上竜馬:僕はメンバーをこのバンドに誘っている身なので、そういう意味では「人生を背負っている」感覚がすごくあったから、自分の作った曲のせいで売れなくて、お金がなくて、結婚が出来なくなったりしたらイヤだし、ゆえに「絶対に売れなきゃ」というプレッシャーの中で戦っていたんですよ。インディーズ時代とかメジャーデビューしてからしばらくは。それを一度赤裸々に、半泣きで吐露したときに「いや、でも、バンドをやるって決めたのは俺やから」って3人とも言ってくれて。その言葉にすごく救われて信頼できるようになれたのも、この10年の中で起きたことなんですけど、だからメンバー間の関係はとても良い状態ですね。

■SHE'S - The World Lost You【2021.06.26 SHE'S 10th Anniversary「Back In Blue」】J-LODlive

--そんなSHE'S結成10周年のタイミングで完成させたアルバム『Amulet』、どんな作品に仕上がったなと感じていますか?

井上竜馬:すごくいろんな角度からいろんなアプローチをしているアルバムですね。表情も曲それぞれで違うし。前作までとは違って、今作はテーマをがっつり決めてそれに沿って制作していったアルバムではなかったんですよ。と言うのも、書き下ろしが多かったからなんですけど、その結果として「1曲でもいいから、家を出て駅へ向かう途中で聴いたとき、マリオがスターを獲ったときみたいな無敵状態で歩いていけるような存在になったらいいな」と思えるアルバムになったんですよね。それで『Amulet』(お守りの意)というタイトルにしたんです。聴いてくれた人の生活、1日に寄り添えたらなと思って。なので、朝に向いた曲もあれば、夜に聴きたくなる曲もあるし、悲しいときに聴きたい曲もあると思うんですけど、そういう意味ではサブスク感覚で「今日はこの曲」みたいな感じで楽しめるアルバム。たった1曲でもいいから、人生の中で「こういうとき、この曲聴いちゃうんだよな」って繰り返し聴いちゃう曲になったらなと思って作りました。

--今回のインタビューでお話頂いたように、変化を恐れずいろんな音楽にアプローチしてきたSHE'Sだからこそ作れたアルバムでもありますよね。

井上竜馬:そうですね。変化を恐れず活動してきた「SHE'Sらしいアルバム」になったと思います。

--また、特に「Chained」(映画『そして、バトンは渡された』インスパイアソング)が象徴的だと思うんですけど、今の時代に愛の重要性を気付かせるアルバムにもなっているなと感じました。

■SHE'S - Chained【Official Audio】(主演・永野芽郁×田中圭×石原さとみ 映画『そして、バトンは渡された』インスパイアソング)
井上竜馬:「Chained」は元々デモがあって、それをコンペで気に入ってもらえて映画『そして、バトンは渡された』のインスパイアソングになったんですけど、それが決まってから歌詞を書き下ろしていったんですよね。僕は『そして、バトンは渡された』の原作が元々好きで、映画も関係者しかいない試写会で観ながらめちゃめちゃ泣いたんですけど(笑)、人の愛が引き継がれていく物語なんですよ。その「愛」という大きなテーマを入れてほしいとリクエストを頂いて、そこから「愛ってなんやろ?」と考えていったんですけど、例えば、大切が人が亡くなったら「寂しいな、悲しいな」と思いますよね。そして、その悲しみから徐々に立ち直っていくわけですけど、それってすべて「自分で完結しているよな、相手のことを想っていないんじゃないか」と思ってしまって。

--悲しんでいるのも自分の為だし、立ち直っていくのも自分の為だし、その大切な人の為ではないんじゃないかと思ったんですね。

井上竜馬:そうなんです。自分の人生からその人が居なくなってしまうのが悲しいだけであって、その人のことを想っていないんじゃないかって。それは叔母さんが亡くなったときに思ったんですけど、この感覚のままでは成長できないなと。で、その人が僕に何をしてくれたのか、何を渡してくれたのか、どれだけの愛をくれたのか、めちゃくちゃ思い返して。そしたら、その愛を今度は生きている僕が誰かに渡していかなきゃいけないと思ったんですよ。映画『そして、バトンは渡された』が体現していることにも通ずるんですけど、だから「Chained」ではソレをちゃんと言葉にしようと思って書きました。その愛を渡していくのであれば、また新しく大切な誰かに出逢えるんじゃないか。そしたら、その人が亡くなって居なくなってしまった未来も怖くなくなるんじゃないか。そんなことを思いながら。

--今の説明を伺って、この曲が何ゆえに今の時代にグッと来るのか分かった気がしました。コロナ禍やSNS社会の問題もあって今ってネガティヴな現象ばかりが目に付くじゃないですか。嫌悪や憎しみに溢れている印象を受けますよね。ゆえに本作のような愛のある作品が響くんだろうなって。

井上竜馬:実は今回のアルバム『Amulet』を作る前は、『Problems』というアルバムを作ろうと思っていて。社会問題とか、自分が「問題だな」と思っている世の中の出来事に対して、もう29歳になるし、しっかりと大きい声で発信していかなきゃいけないなと思っていたんです。めちゃくちゃ危機感を感じていたので。自分が世の中を変えられるわけじゃないけど、自分たちを好きでいてくれている人たちに対してだけは、見本でいなきゃいけないから。なので、いろいろな流れがある中で今回は『Amulet』に落ち着いたんですけど、どこかで『Problems』も完成させたいと思っているんです。

--それもぜひ聴いてみたいです。

井上竜馬:ただ、日本のアーティストって社会的な発言をすると叩かれるというか、批判される風潮があるじゃないですか。アメリカだったらアーティストが政治についてアレコレ発信するのは普通なんですけどね。ヒップホップシーンの人たちはもちろん、テイラー・スウィフトだって、10代のビリー・アイリッシュだってガンガン発言している。でも、日本ではソレが許されない。なので、いろいろと高いハードルはあると思うんですけど、まだ作れてはいないんですが、せめて僕らのリスナーには『Problems』のような作品を発信して聴いてもらいたいんですよね。今回の『Amulet』にも「Do You Want?」という醜いネット上の争いを見て書いた曲がさりげなく入っているんですけど(笑)、そういった方向に特化したアルバムがあってもいいのかなって。別に毒を吐きたいわけではなくて、ちゃんと問題に対して考えるきっかけを渡したいなって思うんですよね。

SHE'S『Amulet』井上竜馬(vo,key)単独インタビュー

--では、最後に、10周年以降のSHE'Sのヴィジョンや目標がありましたら伺わせてください。

井上竜馬:今と変わらず、みんなと音楽を楽しく作ることがいちばんですかね。ソレを今と変わらず持続する為には、今のままではいけないと思うので、より音楽の質を高めてたくさんの人に届けられるバンドになっていく。そこを目指してメンバーとスタッフとのチームで進んでいけたらなと思います。もちろん「地元の万博公園でフェスやりたいな」とか「フルオーケストラでライブやりたいな」とか具体的な目標もいろいろあるんですけど、その為にも音楽を楽しむこと、クオリティを上げていくこと、「届けよう」という気持ちを高めていくことが大切かなって。

Interviewer:平賀哲雄

SHE'S - Amulet【MV】

SHE’S「Amulet」

Amulet

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