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<インタビュー>ちゃんみな『ハレンチ』葛藤や苦悩を超え、愛すべきものに贈る音楽
マルチな音楽活動で音楽シーンを牽引するちゃんみなが、2年ぶりとなるフルアルバム『ハレンチ』をリリースする。
インタビューでも語られている通り、特にアルバム新録曲に関しては“J-POP”の感触を強く覚える楽曲が制作され、USメインストリームやK-POPとの親和性も高かったちゃんみなのサウンド感からは転化を感じる音楽性が印象に残る。また、問題提起の側面も強かった「美人」や、ハードな世界観に貫かれた「Angel」といった先行曲に対して、アルバムでは柔らかな「太陽」や、アレンジによって内容の色合いが変わった「Never Grow Up(Acoustic Version)」など、楽曲のテーマ性自体もバラエティに富み、そこからは“これまでのちゃんみなを総括し、これからのちゃんみなを暗示する”ような聴き応えを覚える、力強い作品だ。
私が思うJ-POP
――まず、前アルバムからの2年間はどんな時間でしたか?
コロナによる変化が大きかったと思いますね。色んなものが崩れていって、色んなものが作られた2年間だと思います。
――Billboard JAPANでの「Angel」のリリース・インタビューでも、コロナ禍による変化のお話はされていました。しかし、今回の『ハレンチ』中では“コロナ”という単語であったり、この状況を直截的に描くことはしませんでしたね。
もちろんこの状況は作品に影響しているし、空気感として織り込まれてはいるんだけど、“コロナの状況”を直接的に落とし込むのは、少なくとも私がやるべきことではないのかなって。それに“コロナ自体”について言えることはないんですよ。自分は科学者でも医療従事者でもないし、その状況に巻き込まれてしまった一般市民だから。でも、そこで感じる憤りや苦しさ、やるせなさは私にも刻み込まれているので、そういった感情は作品に落とし込まれたと思いますね。
――そして、前作からの2年のあいだには、AK-69「Racin' feat. ちゃんみな」やジェニーハイ「華奢なリップ feat.ちゃんみな」、そしてUSのアーティストSaweetie「Best Friend(feat. Doja Cat, Jamie & CHANMINA)」など、印象的な客演もありました。ちゃんみな & SKY-HI「Holy Moly Holy Night」のようなコラボもありましたが、これまでほぼされてこなかった客演をこのタイミングで多く行った理由は?
たまたまお話をいただけるタイミングが揃ったというか(笑)。でも、いわゆるビジネスっぽい客演はしたくなかったし、お互いにしっかりとリスペクトがあって、内容にも齟齬がなく、かつスケジュールも折り合ってというハードルはけっこう高くて、それで客演はほぼしてこかなったんですね。だけど今のタイミングでは、その条件を超える客演のお話をいただくようになって。
――では、客演の手応えは?
本当に面白かったですね。今まで知らなかった自分の姿が見えたり、相手方の制作にお邪魔して、その手法を知ることができるというのは、本当に新しい刺激になりました。特にジェニーハイはバンドだから、自分の制作とは感触も違って。
ジェニーハイ「華奢なリップ」feat.ちゃんみな
――具体的にはどのように?
(川谷)絵音くんの作ったベーシックに対して、私がそこにヴォーカルを足していくという流れでしたね。新しい刺激をいただきました。
――「華奢なリップ feat.ちゃんみな」のバンド・サウンドとも繋がると思いますが、今回の『ハレンチ』もサウンド性が非常に幅広くなっていますね。
それはJ-POPに寄った楽曲が多いからだと思いますね。J-POPというと、ちょっとバカにされるようなイメージがあるし、ネガティブな意味でJ-POPと言われることもあると思うんですね。私自身「それってJ-POPじゃん」「ちゃんみなの曲ってJ-POPだよね」みたいに、それを罵りの言葉としてぶつけられたこともあって。でも、それって変ですよね。J-POPだってれっきとした音楽だし、そこに優劣はないわけで。私自身J-POPが好きですし、今回は「私が思うJ-POPをちゃんと形にしたい」というイメージがあったので、そこに挑戦してみた感じですね。特にアルバム新録曲に関しては。
――そのモードに至った理由は?
新しいプロジェクトを始める予定なので、そのための布石という部分もあります。
――ある種、決着をつけるというか。ちなみに、これまで影響を受けたJ-POPのアーティストは?
SEKAI NO OWARI、サザンオールスターズ、THE BLUE HEARTS、ONE OK ROCK、椎名林檎……たくさんいますね。
スランプを抜けた先
――では、アルバムのタイトル曲であり、“ディスコ・ファンク+J-POP”という感触のある「ハレンチ」の制作はどのように?
「美人」を制作してから、ちょっとブランクが生まれてしまったんですよね。言いたいことも言ったし、頑張りきったという感触もあったので、次の作品に向けてのイメージやモチベーションが湧きにくくて。なんというか……賢者タイムというか(笑)。物理的にも、コロナの影響でスタジオ・ワークができなくなったり、動きにくい時期でもあったんですね。それからライブの制作や客演もあったり、とにかくクリエイトしないといけないことが多くて。それから世間がずっと“同じテーマ”に向き合わざるを得ない状況で、人と会ったり、刺激を求めることが難しい、同じような生活を続けないといけなかったことも、スランプに繋がったんだと思いますね。それもあって、曲を作ってもモヤモヤと固まらなくて悩む時期が半年近くあったんですよ。だけど、偶然制作が2週間くらい空いたタイミングがあって、そこで「未成年」「Princess」の頃以来に自分一人で制作をしてみたんです。それをプライベートで仲のいいJ-POPが大好きな作家に急に連絡をして、私なりのJ-POPに落とし込むアレンジをお願いしたんですね。そうしたら、そこででき上がった曲にすごくしっくりきて、これが自分がいま表現したかったことだったんだなというのが見えたんです。そこから一気にスランプから解放されて。
ちゃんみな - ハレンチ (Official Music Video) -
――「ハレンチ」の最後に転調してテンションが上がる構成は、すごくJ-POP的なアップリフトの仕方だと思いました。「君からの贈り物」や「東京女子」もJ-POP的な構成を感じますが、使われる音や音感自体はいまっぽいサウンドで構成されていますね。
その部分はあまり意図していなかったと思いますね。今回のアルバムは、とにかくたくさん作った曲の中から厳選したものを収録しているので、そこに統一感があるとしたら、自然にそうなったんだと思います。
――アルバムに先行してリリースされた「Angel」や「美人」は、テーマ的にもサウンド的にも非常に強烈なものだったので、アルバムもそのテイストになるかなと思ったんですが、1曲目を飾る「太陽」は、非常に柔らかな質感と内容だったので、すごく驚きであり、印象的でした。
この曲がこのアルバムのキーになったと思いますね。スランプを抜けた先に作った曲だったので、私自身気に入っているし、この感触は何度も出せないから、その意味でも大事にしたいなって。
――ちなみに「美人」をリリースしての反響はいかがでしたか?
本当にビックリするぐらい大きかったですね。MVの内容も本当に刺激的な構成だったので、どういうふうに見られるんだろうと思ったし、嫌悪感を抱く人もいるかもしれないと思っていました。
――それぐらい賛否両論になると思っていたと。
でも、賛の声のほうが大きかったし、私の想像していたよりも、あの曲にフィールしてくれる人が多かったのが嬉しかったですね。
ちゃんみな - 美人 (Official Music Video) -
――それは「美人」の内容が非常に明確だったという部分もあると思いますが、一方で「東京女子」や「太陽」など、今回のJ-POP的なアプローチの楽曲は、歌詞の抽象性が高いことも印象的でした。
それも自然にそうなっていきましたね。あまり計算はしていないです。歌詞を書くときは入り込んで書いているので、あとで歌詞を見てこういうふうに思っていたんだと気づくことが多いタイプで。
――そうですか。抽象性の高い“誰でも自分のものとして感情移入しやすい”歌詞だと思ったので、その部分もJ-POP/歌謡曲的な感触があるなと。
歌詞に関してはJ-POPっぽさは意識していなかったですね。「ハレンチ」や「太陽」は、ラブソングともとれるとは思うんですが、自分にとってその歌詞の対象は、音楽やサウンド・クリエイトを象徴しているんですね。「ハレンチ」だったらスランプ真っ只中にいる自分にとっての音楽であり、「太陽」はその音楽を見つけて、その距離をしっかりと測れるようになった自分であったり。
――「花火」にもそれと近い感触を受けました。
近い部分はあると思いますね。私は今年23歳になるんですけど、その時期って特に女性は「自分はいつまで若いんだろう」みたいなことを考える人が増えるタイミングだと思うんですね。私もちょうどこの取材のタイミングで、メイクしながら新しいシミを見つけてしまってさらにそれを思いました(笑)。10代のときって、歳をとるなんて先々の幻のような話で、信じられないと思っていたんですけど、これぐらいの歳になると、歳をとることがリアルになってくる。だけど、歳をとったときに、いま自分が愛している対象に対して「どんなに歳をとっても、あなたに恋をしていたんだよ」という純粋無垢な気持ちを持っていたことを忘れないでねって。その対象は人かもしれないし、音楽かもしれないし、友達かもしれない。私にとってはリスナーでもありますね。リスナーが私を愛してくれる気持ちだったり、私がリスナーを愛する気持ちは、いつになっても鮮明に記憶に残っているよ、ということを「花火」に落とし込みました。
ちゃんみなの“これまでとこれから”
――その意味でも「花火」から「Never Grow Up (Acoustic Version)」の流れは、これまでの自分のクリエイションや自分とリスナーの関係、自分の活動に対して、ある種の決着をつけようとするような、複雑な感情が込められているように感じました。
この「Never Grow Up (Acoustic Version)」は、最後が笑い声で終わるんですけど、デビュー作の「未成年」が笑い声で始まってるんですよね。だから、自分が今までやってきたことの始まりと終わりを繋げることで、決着をつけるという感触はありますね。そうやって思っていたことが必然と歌詞になっていったというか。
ちゃんみな - Never Grow Up (Acoustic Version) [Studio Session]
――またポエトリー・リーディング的な「想像力」は、生い立ちから始まったので、そういった内容になるかなと思ったら、すごく意外な着地点で終わります。
一体なんの話だったんだろうっていう(笑)。誰に話しても私の見ているこの世界は理解されなかったので、それが分かりたいんですよね。だから、この曲を聴いたなかに詳しい人がいれば、この夢にはこういう意味があるとか、こういう心理状態じゃないかってことを教えてくれるかなって(笑)。
――カウンセリングを誰かしてくれないかと(笑)。「東京女子」のようなアーバン・シティポップ感も驚きました。
私自身、シティポップがすごく好きなので、そういう部分を落とし込んだ感じですね。
――この曲の<エレクトリックサッド>というキーワードも印象的ですね。
本当に思っていることも、本当は思っていないことも、すべて指先で伝えられるようになってしまって。だから(スマホやネットを媒介に)「電子的に悲しい」「電子的に嬉しい」みたいなことが主流になっていると思うし、いまはむしろ人と直接触れ合わないほうがいいと言われるようになって、逢いたい人にも逢えなくなって、余計にSNSやメールで思いを伝達するようになって。それは仕方ないことなのかもしれないけど、同時にすごく悲しいことでもあると思うんですね。やっぱり感謝の気持ちや自分の思いは、本当は直接伝えたり、声で伝えるほうがいいと思うんですね。たしかに私の世代はデジタル・ネイティヴだし、メールやSNSで伝えることは当たり前ではあるけど、デジタルだけでは伝わらないこともあるし、デジタルだけじゃ悲しい。やっぱり見つめ合って愛を伝えたり、手を取り合って友情を確かめ合いたいんですよね。
――なるほど。そして10月15日には日本武道館ワンマンが控えています。
武道館公演は、自分のこれまでの活動の集大成のような内容になると思いますね。みんなが愛してくれたちゃんみなと私が愛しているちゃんみなの“これまでとこれから”を見せて、私自身が一つになるようなライブにしたいですね。
――“武道館アーティスト”というのは一つの称号だと思いますが、その部分はいかがでしょうか?
まだそこに実感はないですね。それにコロナ禍前の武道館と、私も含めたコロナ禍以降の武道館は感触がどうしても違うと思うんです。お客さんは声を出せないし、感染予防のガイドラインを守らなくちゃいけない。本当はなんの屈託もなく祝って欲しいけど、この状況で武道館公演を開くこと自体にも疑問を持つ人も少なくはないと思います。そういった状況はこちらの演出にも関わってくるし、そのなかでライブをすることも含めて、どういったライブが見せられるかを考えていますね。
――その意味でも“ちゃんみなの2021年”をドキュメントする内容になりそうですね。期待しています。
Photo by Yuma Totsuka
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