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<コラム>令和のラブソングメイカー・ひらめが支持される理由とは?
「キャッチーな歌詞」が「わかりやすい手振り」へ
共感だけではない、ひらめのヒットの特徴
「ポケットからきゅんです!」で大ヒットしたシンガーソングライター・ひらめ。2020年6月にTikTokにて15秒の弾き語り演奏動画を投稿すると、1か月で億単位の再生回数を叩きだし、一躍人気者となった。TikTokには弾き語りでのカバー動画や、「きゅんです」と親指と人差し指でハートマークを模した「指ハート」と呼ばれるポーズを使った動画等、関連動画が約30万本投稿された。「キュンです」が元々流行語だったことも相まって、TikTokに限らず日常的にも高校生を中心に「ポケットからきゅんです!」は流行。2020年の『TikTok流行語大賞』受賞や、2021年2月には本楽曲で『ミュージックステーション』にも出演するなど、お茶の間からも注目を集める存在になった。
2020年はひらめに限らず瑛人、りりあ。、川崎鷹也など、TikTokからヒットが生まれることが多く、これまでにない流行の道が切り開かれた年だった。何人ものアーティストがTikTokから話題になったが、中でもひらめの楽曲には他にはない特徴があった。それは、動作と楽曲の親密さだ。
歌詞に想像の余地を残すことで、リスナーが自分事として解釈しやすくすることが重んじられる昨今。TikTokからヒットする、すなわち、動画の中で楽曲が使われヒットに繋がった曲には、そのような“共感できる余白”が仕込まれていることが多い。だがひらめの場合、第一に特徴として挙げられるのは〈ポケットからきゅんです!〉の歌詞から連想された一連の動きだ。〈きゅんです〉〈しゅんです〉といったキャッチーな言葉がわかりやすい手振りに繋がり、動作と楽曲が密接した状態で人気を得ることとなったのだ。動作と楽曲が強く結びついた状態で広がっていくことによって、「ポケットからきゅんです!」でないといけない理由が動画に付随されたことが、ひらめのヒットの特徴だっただろう。
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♬ ポケットからきゅんです! - ひらめ
@einstein_official0 アインシュタインがTikTokをはじめました〜🥳 動画撮影の様子はYouTubeからご覧ください! #ポケットからきゅんです #きゅんです #アインシュタイン#アインシュタイン稲田 #アインシュタイン河井
♬ ポケットからきゅんです! - ひらめ
それまでTikTokに動画を投稿するハードルを高く感じていた人も、「ポケットからきゅんです!」では、ゆったりとしたテンポの楽曲に合わせて簡単な手振りをするだけで動画ができ、なおかつ流行りに乗れるいい題材だと感じた人は多かったはずである。
いしわたり淳治とのタッグで効果倍増
「ぽんぽん」のインパクト
動作と楽曲の繋がりの点では、9月10日にリリースされた新曲「あたまぽんぽんしてあげる」にも共通している。タイトルの通り「ぽんぽん」という動作が一曲を通してキャッチーに響くこの楽曲は、既に手振りも加わりTikTokを賑わせている。
本作の作詞を担当したのは、Superflyや大原櫻子などの楽曲の作詞を手がけるいしわたり淳治だ。Huluでの番組共演をきっかけに今回のコラボが決定した2人。キャッチーな歌詞と歌声で人気を獲得したひらめと、これまで数々のヒット曲を書いてきたいしわたりの初タッグとなる。
これまでラブソングを多く歌ってきたひらめの歌詞の対象を恋愛以外にも広げつつ、言葉の可愛らしさは健在。「ぽんぽん」という擬音は「きゅんです」同様にキャッチーで、簡単なわかりやすい動作で表すことができる。楽曲と動作が結びついているだけでなく、感情も巻きこんでいるのも肝だ。きゅんです、であれば好意や胸が高鳴る様子を、「ぽんぽん」であれば頭をなでることでなぐさめる様子や慈愛など、リスナーにとって身近な感情を描いている。そのためTikTokでの応用もききやすく、「あたまぽんぽんしてあげる」を使った動画にはペットを撫でる動画やカップル動画、親子や家族での動画など、様々な友愛を描いた動画が投稿されている。
@muccu888 ムックはいつもお利口さんなので頭ポンポンしてあげます🥺##柴犬 ##犬のいる暮らし ##ペットのいる暮らし ##動物コレクション ##tiktok動画コンテスト
♬ あたまぽんぽんしてあげる - ひらめ
@onokano_ あたぽんの振り付け考えてみた!♡真似してくれたら嬉しい💞##YouTube見てね##同棲カップル ##あたぽん##あたまぽんぽん
♬ あたまぽんぽんしてあげる - ひらめ
新曲「あたまぽんぽんしてあげる」の歌詞の特徴は動作との関係性だけではない。「ポケットからきゅんです!」では曲の頭から〈ポケットからきゅんです!〉という脈絡のないフレーズからスタートすることでリスナーの興味を惹いた。「あたまぽんぽんしてあげる」でも〈ぽんぽん〉の使い方は効果的に配置されている。
1度のサビの中に〈あたまぽんぽんしてあげる〉が2度登場するだけでなく、サビの最後にも〈ぽんぽん〉が入っている。それも最後の〈ぽんぽん〉に向かう〈よしよしからの スマイルからの〉の2つの〈の〉は、音を伸ばすことでサビ全体の弾むようなリズムを落ち着けており、〈ぽんぽん〉に向けての道を整えているようにみえる。また、〈からの〉を2回重ねることによって、〈ぽんぽん〉をより一層引き立てる効果も感じられる。
このようなサビの構成は、TikTokなどの短い動画での使用においても効果を発揮するだろう。起承転結のような構成を組みにくく、短い中で展開させたりオチをつけるのが難しいTikTokにおいて、効果的な溜めから主題といった組み合わせは、動画自体にも緩急をつけやすくなるだろう。そのことによって、ユーザーに途中でスキップされることなく最後まで見られる動画が作ることができるのではないだろうか。
フォロワーを増やし続ける ラブソングメーカーとしての「ひらめ」
歌詞と動作の結びつきなど楽曲そのものの魅力でヒットを獲得したひらめだが、一方で一過性のバズにとどまらない支持を得る理由が彼女にはある。
ひらめのシンガーソングライターとしてのスタートは、数年前に趣味でギターを触り始め、遊び感覚で楽曲を作ったことだという。日常生活の中で思いついた言葉やメロディーを楽曲にしてきた経験がある。様々な恋愛を歌うゆったりとした甘い声がアコースティックギターの音色と混ざり合うひらめの楽曲は、その親しみやすさからTikTokという場でなくても令和のラブソングとして人気を集めていたはずだ。
彼女の楽曲を使用したTikTok動画は、楽曲に合わせて手振りをした動画だけでなく、ひらめ本人と同じように弾き語りでカバーをしている動画も多々ある。楽曲の力でヒットすると同時に、自身のフォロワーも着々と増やしている様子がうかがえる。
TikTokから発掘されたシンガーは、同世代からの圧倒的な支持、話題性を経て、メディア露出やコラボによってさらに活躍の幅を広げていく。今回のいしわたりとひらめのコラボでは、共感の対象を広くした動作の使用でさらに話題となりそうだ。今後、どのようなコラボや化学反応によってひらめの歌声が花開くのか、期待が高まる。
Text:村上麗奈