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<インタビュー>神はサイコロを振らない×キタニタツヤが明かす「愛のけだもの」の制作裏話



神サイインタビュー

 神はサイコロを振らないが、7月にデジタルリリースしたアユニ・D(BiSH/PEDRO)×n-buna from ヨルシカとの「初恋」に続くコラボシングル第2弾「愛のけだもの」を、9月17日にデジタルリリースした。この新曲のコラボ相手として声を掛けたのは、ソロやバンドなど多方面で活躍するアーティスト・キタニタツヤ。活動するシーンも近く、キタニと神サイ・吉田喜一(Gt.)はプライベートでも交流があったそうだが、本格的な交わりはこのコラボが初となる。相思相愛の2組の共演は、どのような化学反応を起こしたのか。同世代ならではのリラックスした空気の中、互いの出会いと楽曲制作までの過程、共作の手応えや新たな刺激など、時に笑いを交えながらたっぷり語ってもらった。

左から:桐木岳貢(Ba.)、黒川亮介(Dr.)、キタニタツヤ、柳田周作(Vo.)、吉田喜一(Gt.)

――皆さんはこのコラボの前から交流があったんですか?

キタニタツヤ:吉田くん、話してくれたまえ。

全員:(笑)。

吉田喜一:経緯を話しますと、何年か前に共通の友人の誕生日会があって。そのときに、ベロベロに酔った俺とベロベロのキタニが初めて出会ったんです。

キタニ:共通点は日高屋とマンガの『BLEACH』で(笑)。どっちも好きで話が盛り上がって、仲良くなったのが始まりですね。

吉田:それ以降、そんなに頻繁に会うことはなかったんですけど、バンドで新しい刺激が欲しいよねという話が出て、「じゃあ、コラボしてみるか!」とキタニの名前が挙がったので、連絡したのが今回の企画の始まりですかね。

キタニ:でも、神サイのことは僕、大学生くらいのときからちょくちょく聞いていて。この人(柳田)のSNSも面白いから、ちょくちょく見ていたんですけど(笑)。

――では、実際にこの5人が揃ったのは?

柳田周作:レコーディング前日だよね。

キタニ:プリプロをするから、神サイが根城にしているスタジオに来いや!と呼び出されて。ボコられるのかなと思いながら行ったら、まだリズム隊の2人しかいなくて、こいつら(柳田、吉田)は社長出勤だったんですよ(笑)。

柳田:そうだったっけ(笑)? 先に個人練習に入っていたんじゃない?

黒川亮介:いや、そうじゃなくて(苦笑)。

桐木岳貢:「なんであいつらおらんねん!」と(笑)。

キタニ:そこが全員集合なんですけど、よぴ(吉田)と柳田はもうそれまでに3回ぐらい会っていて。最初に3人でファミレスで会って、2回目は柳田の家でどんな音楽が好きかを意見交換しながら、濃いめの打ち合わせをして、3回目は僕の作業場に来てもらって、メロを作ったんです。で、亮介くんは共通の友達がいて……僕のバンドのドラムのことなんですけど(笑)、亮介くんとめっちゃ仲が良くて頻繁に会っているので「今度、亮介くんと会うときは俺も呼んで!」と言ってたら、その後ちょくちょく一緒にYouTubeを観る会みたいなのをやるようになって。

黒田:そうなんですよ。まぁ、普通にごはんに行く友達みたいな感じですね。

キタニ:なので、プリプロ前までにガクさん(桐木)だけ会ったことがなかったんです。実際、プリプロで初めて会ったら、一番、一生懸命練習していて。

桐木:一番大変だったからね(笑)。


――柳田さんはキタニさんと最初に会ったときの印象はいかがでしたか?

柳田:俺、キタニのことは会う前から構えていたんです。音楽はめちゃくちゃカッコいいし、東大卒やし、打ち解けられるのかなと思って、実は緊張していたんです。1回目はファミレスで真面目な打ち合わせをして、メシを食って帰ったんですけど、2回目に全部崩壊して。最初は楽しく、互いに好きな音楽を聴いていたんですけど、気がついたら俺が服を脱がされていました。

キタニ:脱がされたんじゃなくて、自分で脱いだんだからね(笑)!

柳田:で、キタニが俺の尻を叩きながらビートを作って、吉田がギターを弾くみたいな音楽的な遊びがあり、「こいつ、めっちゃ俺と似とるかもしれん」と思ってから、すげぇ仲良くなって。3回目は逆にキタニのスタジオに行って、ちゃんと音楽をやって(笑)。そんな流れで、徐々に打ち解けていきました。でも、実は会うのってまだ5回目とかそんなものなんですよ。

――そうなんですね。では、音楽的にはお互いどういう印象がありましたか?

キタニ:僕が神サイを最初に知ったのは、「秋明菊」という曲でした。そのときは神サイがまだポストロックとかオルタナティヴ・ロックをやっていた頃で、僕も大学生でそういうバンドをやっていたんです。なので、共通の知り合いもいたりしてたんですけど、当時はその界隈でも(神サイが)頭ひとつ抜けていたので、普通にムカついていたんです(笑)。

全員:(笑)。

キタニ:嫉妬ですよね。でも、そのあとからギターのサウンドが重くなって、今はポップスに向かっている。自分も始まりはオルタナティヴ・ロックの世界だったけど、途中でヒップホップやファンクを通って、今はポップスを目指している。お互い途中で分岐したけど、根っこと今はわりと一緒だなと僕は思っています。

柳田:そう考えたらおもろいな。キタニはめっちゃカッコいいっすよ。ファンクでありつつも、闇属性で毒を持っていそうな感じがあるし。俺もそっち側の楽曲をたくさん書いてきて、どこかで通ずるところがあったので、ずっと羨ましいなと思っていました。

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こういうスネアの音やベースは
今までの神サイにはなかったと思う(柳田)

――お二方ともオルタナティヴなところからスタートして、今は王道感の強いものを突き詰めている。そんな似た位置にいる2組がコラボをすると知って、僕はしっくりくるものがあったし、聴く前から確実に面白いものになるなと確信していました。

キタニ:俺も話をもらったときに、そう思いました。なので、連絡をもらってすぐ「やる!」と返事しました。

柳田:3秒ぐらいでデモが届きましたからね。しかも2つも送られてきて。

キタニ:サビだけメロを付けて、AメロとBメロは空けておく、そういうオケをワンコーラスだけ、最初に2パターン送って。そのあとに「こういうのも欲しい」と追加でもう1曲送ったから、3つ作ったのかな。採用されたのは2番目のものなんですけど。どれも「俺が神サイだったら、こういうのを作りたいな」と想像したもので、1曲目は「神サイ ヤンキー」というイメージでした (笑)。

全員:(笑)。

キタニ:それはわりと僕の普段のノリに近くて、ファンクだけどちょっと重ためなノリ。2曲目は「愛のけだもの」の原型で、テーマは「神サイ サマーバイブ」(笑)。ちょっとK-POPっぽくて、K-POPの中でもファンクっぽいノリが欲しくて。そこにデュア・リパとか、最近のノリを加えて作ったものです。で、最後に作ったのが「神サイ エロ」(笑)。

柳田:あはははは! キタニがすごいところは、自分で詞曲から編曲まで全部やって、デモのクオリティもデモのレベルじゃないんですよね。「もう、このままでいいじゃん!」っていうクオリティで、それもすごいし、それを3つもパパッと作って送ってくる。超えてきた壁、踏んできた場数が全然違うなと。

――そのデモを受けて、神サイの皆さんはどう対応したんですか?

柳田:キタニを中心に、俺がメロディを作って、それを元にキタニが組み立てていきました。それをメンバーに送って、それぞれが「自分はここをこうしたい」と細かくアレンジして、そこから5人でプリプロに入って、翌日レコーディングみたいな感じでした。だけど、デモが送られてきた時点で楽曲の世界観はほぼ完成されていたので、そこから何かが大きく変わったわけではないんです。強いて言うなら、最初はサビメロがちょっと大人しかったんですけど、それを「派手にしたいね。華やかにいこう」と話し合って変えていったくらいですね。

黒川:最初のデモは、キタニくんがタイトな打ち込みドラムで作っていて。実はその曲を作る前から「打ち込みになるかも」と聞いていて、「俺はドラムが叩きたいなぁ」とこっそり伝えていました(笑)。

キタニ:その時点では、どの曲になるか決まってなかったからね。

黒川:そう。で、生ドラムが叩ける楽曲に決まって、届いたデモのクオリティも本当に高くて、「これを生でどう超えていこうか?」とめちゃめちゃ試行錯誤しました。音作りとかノリの出し方とか、いろいろ研究しました。

柳田:ああいうスネアの音って、今までの神サイにはなかったと思うよ。


▲「愛のけだもの」

――ベースに関しては、ファンクを通過したリズムということで、これまでとは違ったものが求められたのかなと思います。

桐木:そうですね。今回に関して言うと、神サイ色を出そうという欲があんまり自分にはなくて。「自分のエゴは要らない、むしろ吸収してやろう」みたいな気持ちで臨みました。

キタニ:ベースはデモから一番変わったんじゃないかな。僕はベースも打ち込みでなんとなく作っていたんですけど、要はアクセントの位置、ドラムのキックと合っているかと、コード進行さえ崩さなければ、わりと「何してもいいよ?」と言っていたので、一番自由に弾いているのはベースだったんじゃないかな。ガクさんはラウド小僧じゃないですか。なので、ああいうベースを弾くのが結構意外で。そういうの通ってきたんですか?

桐木:いや、ファンクは全然通ってなくて。だから、本当に吸収してやろうという気持ちだけだったかな。だから、キタニくんの曲もコピーしたりしましたね。

――確かにこの曲、ベースがすごく耳に残るんですよね。

キタニ:主役な感じがしますよね。

桐木:イントロはデモのままのフレーズだけど、一発目からグッときますからね。

柳田:神サイではベースって、最近わりとシンプルめだったけど、ここまで前に出てくる楽曲はなかなかなかったので、新鮮ですね。

キタニ:ベースソロもあるからね。

桐木:今までベースソロを入れたことがなかったので、緊張しましたね。ギタリストの気持ちが初めてわかりました(笑)。

吉田:そうなんだ(笑)。ギターに関しては、もともとファンクが好きなので、そんなに手こずることはなかったです。キタニからノリの説明を受けて、「こんな感じかな?」と手癖でやれたところも多かったので、そこは楽しかったです。そういう意味では……キタニのアンプ使いに刺激を受けたかな。キタニはベーシストじゃないですか。ベーシストが作るギターサウンドって俺、初めてだから新鮮だったんですよ。いつも使っているアンプに“FAT”スイッチが付いているんですけど、それを押したらバーっとゲインが広がって、個人的には全然好きじゃないんですね。「こんなスイッチ要らないだろ」と思っていたら、キタニがそれをポチッと押して、めっちゃいい音を作りだして。

キタニ:アンプの音作りって全員我流だから面白いですよね。俺、ギターも完全に家で録りきっちゃうし、スタジオでアンプを鳴らすというのが初めてだったから、知ってるふりしてやっただけなんだけど(笑)。カッコいいと言ってもらえてよかったです。

吉田:そうだったのか(笑)。

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韻を踏めなかったら、俺はダメだ
そういう静かなバトルもありました(キタニ)

――ボーカルも、柳田さんとキタニさんお二方の個性が強く打ち出されつつ、交わったときの気持ちよさと新鮮さも強いものでした。

柳田:最初の構想の時点で、サビはユニゾンしようというのがあって。そういうのも、一緒にやるからの遊び感だと思うんですよ。でも俺、ボーカル録りのときの記憶が全然なくて。仕事モードじゃなくて楽しんで録っていたからかなぁ。

キタニ:ボーカル録り、あっという間だったよね。歌がうまいから、終わるのもめっちゃ早くて。一応ディレクションもしたんですけど、どのテイクも使える感じで、「俺もこれぐらい歌えたら楽なのになぁ」とめちゃくちゃ思いました。俺はいつも、ひとりで歌って「あぁ……」と頭を抱えるタイプなので。

柳田:だから、キタニのボーカル録りの様子を、キタニん家に見に行きたかったんだよね。歌っているのを、後ろでずっと眺めたかった。

キタニ:絶対に嫌だ! 俺のボーカルRECは門外不出で誰も入れません(笑)。でも、確かにディレクションはやってもらえばよかったな。どのテイクかで迷ったときは、やっぱり人の意見が欲しくなるし。

柳田:わかる! 聞きたいよね。

キタニ:それもいずれやろう。

柳田:そうだね。今回だけで終わりとは限らないので。

――作詞に関しては、どういう形で進めていったんですか?

柳田:本当に2人で投げ合い、「俺、こんなん書いたけど?」と対抗しながらフルが出来上がっていって。

キタニ:まさにそんな感じです。例えば柳田が1番の<乾杯に我爱你>で、“アイニ”で韻を踏んでいるのに対して、2番では別の言葉で韻を踏もうとめっちゃ考えました。

柳田:それで<竜涎香>という言葉が出てくるのがヤバいね(笑)。

キタニ:そこで韻を踏めなかったら、俺はボーカリストとしてダメだと思って、シャワーを浴びながら考えていたら、急に「……竜涎香だ!」と降りてきて。その結果が<終点と竜涎香>なんです。そういう静かなバトルもありましたね。

――作詞に取り掛かる際の、軸となるテーマはどんなものでしたか?

柳田:最初に構想を練っているとき、エロでファンクでキャッチーというのは絶対に外せないというところから、2人の恋愛事情を探り合い始めて(笑)。

キタニ:元カノの話とか、したね(笑)。柳田の話からインスパイアされた部分もわりとあるし。

柳田:でも、2人が経験してきたものが似てないと、ここまで自然な歌詞にはならないと思うんですよ。実際、どこをどっちが書いているか、意外と周りからは意見が割れますしね。リリース後に歌詞を考察している人がいたんですけど、みんな外れていましたから。「こんなわからんものなんや」というぐらい、2人の書く詞が近くて、ここまで整合性が取れるのはすごいと思いました。

キタニ:綺麗にまとまったよね。温度感も似ていたし。

――そういう共作を経た今、リスナー視点で聴いていた頃には見えていなかったお互いの新たな魅力や印象って、何か見つかりましたか?

柳田:これはボーカリストとしてなるほどと思ったことなんですが、キタニは今、ファンクを軸に楽曲を制作しているじゃないですか。キタニって歌もメロディラインもちゃんとリズミカルなんだなと。逆に俺の歌って、全部レイドバックしているんですよ。でも、キタニってバシッ、バシッと歌を聴いていてノれるというか。それが一番の違いだなと気づきました。

キタニ:あぁ、確かにそうかも。声の息成分の多さも違うし。

吉田:キタニはアタックが速くて、K-POPっぽいんだよね。K-POPって子音のアタックが速くてパーカッシブに聞こえて、ノリを出しやすい。だから、低音がしっかり出せる要素もあって。そういう点で、キタニはリズムに特化していると思います。

キタニ:それで言うと、柳田の作った1番のAメロ、Bメロはメロウで日本歌謡的。逆に俺はそのニュアンスが出せないから、羨ましいんですよ。

柳田:……あ、急に思い出した! デモの段階で、俺が歌うパートにキタニが仮歌を入れていたんですけど、俺のモノマネで歌っていて。俺を小馬鹿にしたような歌で、「そんな声してねぇよ!」と(笑)。

全員:(笑)。

キタニ:あれはモノマネじゃなくて、俺のパートと別の人のパートだというのをわかりやすくするために、仮でああやって歌ったんだよ(笑)! でも、柳田がメインで歌って俺がコーラスの場合、歌い方のニュアンスを合わせないと変に聞こえるから、「これぐらい息を多めに入れるんだ」と、ちょっと研究しました。その歌い方を1番で学んだので、2番で僕がソロでAメロ、Bメロを歌うときにちょっとそれを意識してみたり。そういうのはありましたね。

――先ほど柳田さんが「この一回だけで終わりとは限らない」とおっしゃっていましたが、ぜひコラボ2作目も聴いてみたいです。

キタニ:今度はオケを先に神サイに作ってもらってね。

柳田:あえてポストロックみたいなのを作りたいね(笑)。

キタニ:え~、今やるの(笑)?

柳田:今やるのが面白いんじゃない(笑)?

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