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<インタビュー>誰かの救いになるように――そらる『ゆめをきかせて』に込められた思い



そらるインタビュー

 2008年に動画投稿サイトで活動を開始し、まふまふとのユニット“After the Rain”としても活動するそらるが、2年2か月ぶりのオリジナル・アルバム『ゆめをきかせて』を完成させた。活動10周年の集大成として、自身の作詞作曲を中心に作り上げた前作『ワンダー』から一転、本作は「子どもの頃の自分に聴かせたい一曲」というテーマを軸に、個性豊かなクリエーターの提供楽曲が収められている。聴くものに寄り添い、それぞれにとっての「救い」になるような曲を見つけてほしい、そんな願いが込められた本作について、話を訊いた。

――今作『ゆめをきかせて』は、前作『ワンダー』から2年2か月ぶりのアルバムとなります。この約2年間はそらるさんにとって、どんな期間になりましたか?

そらる:自分に限らずだと思うんですけど、やりたいこと、今まで当たり前にできていたことの多くができなくなった期間ではありました。「何をしたらいいんだろう?」とすごく悩みましたね。ライブをはじめとするリアルなイベントだったり、撮影とかもなくなったりして。打ち合わせもオンラインが増えましたし。

――アーティスト活動の大半が制限を受ける形になったかと思いますが、一方でプライベートの過ごし方に変化はありましたか?

そらる:もともと外に出るタイプではないので、劇的に変わったわけではないですけど、人と会って話をすることは減りましたね。誰かと会話をすることで自分の考えを整理したり、活動のモチベーションに繋げていたりしていた部分も少なからずあったので、それは自分にとっても変化だったと思います。

――ポジティブに捉えられることがあるとしたら?

そらる:例えばオンライン・ライブは、こういう状況じゃなかったら、あまりやる機会がなかったと思うんですけど、それによって海外のリスナーや、今までライブに行きたくても行けなかった人にも見てもらえるチャンスになったんじゃないかなと思います。自分はインターネット主体で活動してきたとはいえ、今までそういうツールを使ってこなかった人にとっては、いいきっかけになったのかなって。

――今年7月にはオンライン・ライブ、そして8月にかけては有観客のアコースティック・ツアーを開催されました。とりわけ制約が大きかったライブの再開となりましたが、どんな感慨がありましたか?

そらる:特にリアル・ライブはすごく久しぶりだったので、人前で歌えることのありがたみはすごく強く感じましたね。After the Rainも含めると、オンライン・ライブは何度かやらせてもらったんですけど、やっぱり目の前に人がいない状況だと、人前で歌うときと同じ気持ちにまで持っていくことは難しくて。久しぶりのリアルのライブは、声が出せない、マスクをしなくちゃいけないという制限はありましたけど、やっぱりお客さんとの一体感は感じられたし、自分はライブがそこまで得意なタイプではないと思っていたんですけど、大事なものだったんだなと改めて思いましたね。


――アコースティック形式にしたのも、お客さんが声を出せない状況に配慮したからですか?

そらる:そうですね。座席数は半分で、しかも着席で声も出してはいけない。だったらバンドのライブより、ゆっくり座って聴けるアコースティック・ライブのほうが無理なく楽しめるんじゃないかと思いました。

――アコースティック・ライブは久しぶりですよね?

そらる:もともと【あこそら】というアコースティック・ライブをやっていたんですけど、もう何年もやっていなかったので、かなり久しぶりでしたね。あまりガンガン動いたり煽ったりするのが得意なタイプではなくて、腰を据えて歌って、お客さんにじっくり聴いてもらうほうが性に合っているというか……それを再確認したライブでもありました。


――ツアーのタイトルは【SORARU ACOUSTIC LIVE TOUR 2021 -きみのゆめをきかせて-】で、今回のアルバムの表題曲ともリンクします。このあたりの意図は?

そらる:今回のアルバムを作るにあたって、過去の悩んでいる自分へ送りたい曲を入れたいと思って、自分がかけてほしい言葉を考えたとき、出てきたのが「ゆめをきかせて」という言葉だったんです。それを軸にしました。

――では、アルバムについてもお聞かせください。率直な手応えは?

そらる:どの曲も音源としてクオリティが高い作品になったんじゃないかなと思います。コンポーザーの方々も曲に対して思い入れを持ってくれたらと思っていたんですけど、皆さんすごく力を入れて書いてくれたように感じます。

――クリエーターの皆さんとはどのようなやり取りをされたのですか?

そらる:事前に「こういう曲にしたいです」と伝えた方もいれば、自由に書いてもらったほうがいいなと思って何も言わなかった方もいて。

――ヴィジョンの事前共有に関して、匙加減の判断基準になったのは?

そらる:そのクリエーターさんの過去のアルバムを全部聴いたりして、その中にイメージが近い曲があるかどうか、とか。過去にお願いしたことがあって、ある程度お互いの好みだったりを分かっている方は、あまり縛りがないほうがいいんじゃないかと思ったり、逆にちゃんとリクエストを出したほうが、こちらの意図をしっかり汲み取ってもらえるんじゃないか、とか。けっこう感覚的でしたね。

――先ほどアルバムには「過去の悩んでいる自分へ送りたい曲を入れたいと思った」と仰っていましたが、「子どもの頃の自分に聴かせたい一曲」というテーマを掲げた経緯についても教えてください。

そらる:まず、先ほども話した通り、楽曲提供していただくクリエーターさんに思い入れを持ってもらいたかったのが一つ。あとはこの1~2年間の活動は、色々と悩んだりすることがあって、すごく浮き沈みがあった期間でもあったので、その悩みを軽くできるようなアルバムにしたいという思いもあって。子供の頃ってすごく悩みが多かったと思うんですよね。大人になったら飲み込めちゃう場面でも、幼少期は色んなことを感じてしまう。実際に今、そういう時期にある人はもちろん、大人も必ずその道を通ってきたはずなので、このアルバムの曲が少しでも救いになってくれたらいいなと思って、このテーマに決めました。


▲「ぼくを叱って」

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きっと自分一人では多くの人の
気持ちを表現しきれないと思った

――前作『ワンダー』では、ほぼ全曲の作詞作曲にそらるさん自身が携わっていましたが、今作は様々なクリエーターが楽曲提供しています。そのあたりの人選はどのように考えていきましたか?

そらる:前作の『ワンダー』がちょっと特殊だったというか、同人で作品を出していた時期から書き下ろしをお願いすることは多かったんです。その中で自分が作詞作曲をすることはありましたけど、基本的には自分と関わりがある人とか、曲をカバーさせてもらうなかで親和性を感じた人にお願いすることが多かったので、今回も同じような感じですね。

――人選に関してはアルバムのテーマより、これまでの関係性や自分の好みに準じた感じでしょうか?

そらる:そうですね。逆にどんな作家さんでも強くメッセージ性を出せたり、書きやすいと思ってもらえたりするテーマにしました。誰しも子供だった頃の経験があって、きっと悩みがなかった人っていないと思うので。

――前作の制作スタイルが特殊だったと仰っていましたが、今作でそれを踏襲しなかった理由は?

そらる:自分は歌をうたうとき、演じるような感じで臨むことが多いんですよね。もともと“歌ってみた”から活動を始めたこともあって、自分の気持ちをうまく表現できる楽曲が、必ずしも自分が作った曲であるとは限らないと思っていて。それは前作の制作のときにも感じていたんです。もちろん自分で作詞作曲することの楽しさや大事さは感じるし、別の人の作品を自分が演じるか、自分の作品を自分で演じるかの違いでしかなくて、どちらにも良さがあるんですけど、場合によっては前者のほうが気持ちを乗せやすいときもあります。そっちを長く続けてきたので、当然と言えば当然なのかもしれないですけど、自分の性にはすごく合っているなと感じることはありますね。

――そらるさん自身の性格や考え方とも合っている?

そらる:自分は良くも悪くも自分のことを不幸ではないと思っています。ほかにもっと辛い思いをしている人がいて、自分は恵まれた環境で育ってきたほうなんじゃないかって。なので、誰かの悩みに寄り添うアルバムを作ろうと考えたとき、きっと自分一人では多くの人の気持ちを表現しきれないというか、表面的に歌うことはできても本心ではなくなってしまうと思ったんです。

――悩みや葛藤は人それぞれですし、できるだけ多くの人生に寄り添うために、色んなクリエーターの力を借りたということですね。すごく真摯な向き合い方だと思います。1曲目の「リユニオン」は、このアルバムのオープニングに相応しい、象徴的な楽曲だと感じました。

そらる:作詞作曲とアレンジをしてくれたYASUHIRO(康寛)さんとは、一緒にアルバム(『音ギ話劇場』と『リバース・イン・ワンダーランド』)を作ったことがあって、お互いの好みを理解していたので、自分の思いとYASUHIROさんらしさ、どちらも表現できたと思います。このアルバムは基本的にポジティブな曲が多いと思っているんですけど、この曲は特に自分らしさみたいなものをすごく感じて、1曲目に相応しいなと思いましたね。

――YASUHIROさんに対してはどういった形でオーダーしたのでしょうか?

そらる:YASUHIROさんが作る曲って、綺麗なロックの中でも曲調が変わったり、色々な表情があったりする曲が多くて、自分もそういう楽曲が好きなので、そのYASUHIRO節を出したロックをお願いしました。歌詞も曲のイメージとすごく合っていたので、アレンジ面の細かい部分で注文を出させていただきましたね。最初はゆっくりな曲だったんですけど、いくつかテンポの案も出していただいて、その中でいいなと思ったテンポでアレンジしてもらいました。

――その「リユニオン」とはある種、対照的な楽曲だと思ったのが2曲目の「ぽんこつ白書」です。疾走感という流れは汲み取りつつ、リリックは<天使はいない 迎えは来ない/天国もない 望んじゃいない><何も知らない 何も知らない あの頃の少年たちに/僕は言えない とても言えない 打ち切りのような終幕を>と、どこか希望を断ち切るような表現が多いですよね。

そらる:その「リユニオン」とはある種、対照的な楽曲だと思ったのが2曲目の「ぽんこつ白書」です。疾走感という流れは汲み取りつつ、リリックは<天使はいない 迎えは来ない/天国もない 望んじゃいない><何も知らない 何も知らない あの頃の少年たちに/僕は言えない とても言えない 打ち切りのような終幕を>と、どこか希望を断ち切るような表現が多いですよね。

――社会を生きていくうえで傷つき、痛みを知っていく大人のタフネスみたいなものを感じますね。

そらる:子供の頃の自分に対して「こういう辛いことがあるから覚悟しておいて」と伝えるというより、何も言わずに「こっちは任せて」「今は辛いことを考えなくていいよ」と言ってあげるというか。どちらかと言えば「ぽんこつ白書」はそっち側の気持ちで歌いましたね。

――対して3曲目の「自己採点」は、大人になりきれない人間の視点を描いています。こちらの楽曲提供は、Adoさんの「うっせえわ」でも知られるsyudouさんですね。

そらる:syudouさんの楽曲については、色んな救い方がある中で、誰かの気持ちに寄り添ってもいいし、一緒に相手を殴ってもいいし、syudouさんらしい救い方を描いてほしいと思って、こちらからは具体的に注文はしなかったんです。syudouさんなりの“反骨精神”みたいなものが「自己採点」に出ているなと思いますね。


▲「自己採点」


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当時魅了的だと思った人は今も魅了的
ニコニコ動画を見ていたか
気づいていたか、それだけの話だと思います

――すでにこの時点で三者三様のサウンドが鳴っていて、それぞれのクリエーター節が全開ですが、ボーカルのアプローチに関しても楽曲ごとのテイストに合わせて試行錯誤していった感じですか?

そらる:そうですね。色んな曲調があって、単純に歌うのが楽しかったです。ただ、アプローチのやり方は深く考えず、自然と曲に合わせていくなかで決まっていった感じはあります。曲によって難しい部分、歌いやすい部分はありますけど、作家さんごとの色が出たテーマになっていて、そこは汲み取りやすかったです。

――そらるさん的に特に新鮮だったり、チャレンジングだと感じたりした曲はありましたか?

そらる:すりぃさんの「ReAnswer」は「こういう感じでくるのか」みたいな印象はありましたね。もうちょっと軽快なロックのイメージが強かったので。

――今作屈指のヘヴィ・サウンドですよね。

そらる:若干懐かしい感じもあって、もしかしたら“昔の自分”みたいなことへの解釈から、あえてそういうサウンドの要素を入れたのかなと想像しながら歌いました。逆に「思春」は、てにをはさんの今のサウンドと昔のサウンドをどちらも出してくれている感じがしました。

――そんなバラエティ豊かな音を鳴らす今作ですが、ラストを締めくくるのが、そらるさん自身が作詞作曲を手掛けた「ゆめをきかせて」です。作られたのは提供楽曲が揃ってからですか?

そらる:そうです。こういうアルバムでは、最後に相応しいのはどういう曲かを考えながら、提供していただいた楽曲を全部聴いたうえで作詞作曲しますね。

――実際どんな楽曲にしたいと思ったのでしょう?

そらる:基本的には同じテーマに沿って考えていったんですけど、色々と考えすぎちゃって難しかったですね。「どう差別化したらいいんだろう?」と。曲中のギミックみたいな部分が他の作家さんと被っちゃったりして。後出しじゃんけんができるという意味では、ハードル低めだと思われるかもしれないですけど、後出しだからこそ出せない難しさがありましたね。

――郷愁感のある優しいバラードですね。

そらる:イメージは夕方の公園でした。帰りのチャイムが鳴っている、そういう風景が頭にありましたね。具体的にそのシチュエーションを描いたというわけじゃなくて、なんとなくパッと思い浮かんだというか。


▲「ゆめをきかせて」

――今作に限らず、そらるさんのアルバムにはボカロPの方々が多く参加されています。昨今、前述のsyudouさんやYOASOBIのAyaseさん、TikTokで「グッバイ宣言」がヒットしているChinozoさんなど、ボカロ文化をバックグラウンドに持つクリエーターの活躍が目覚ましいですが、ニコニコ動画の黎明期から歌い手として活動してきたそらるさんから見て、そういった動きはどのように映りますか?

そらる:今はストリーミング・サービスとか、YouTubeのような動画プラットフォームからバズる音楽って珍しくないと思うんですけど、実はボカロPさんだったみたいなことって多いですよね。でも、米津玄師さんとかもそうですけど、もともとニコニコ動画で活動していた方も多いし、当時魅了的だと思っていた人はちゃんと今も魅了的で、そういう人たちがもっと広い世界というか、一般層みたいなところにアプローチを向けても評価されているのって、結局、受け取り側が当時ニコニコ動画を見ていたか、見ていなかったかの違いでしかないと思うんです。昔も今も音楽はちゃんと魅力的で、それに気づいていたか、気づいていなかったか、それだけの話なんだと思います。

――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

そらる:コロナ禍で色々な制限があるなか、ライブに行きたいけど行けない、今やられても行けないよって方もきっといたと思います。なので、まずは見たいと思ってくれている人にちゃんと見てもらいたいという気持ちが強いですし、そういう人たちがライブに戻って来れるようになったときに、ちゃんと楽しんでもらえるよう、今は自分の活動をしっかり続けて、未来に向かっていけたらいいなと思います。もちろん新しいことにも挑戦しつつ、今までやってきたことをちゃんと積み重ねて、次の活動に繋げたいです。

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