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<コラム>秋山黄色「ナイトダンサー」眠れない夜を越え、眩い未来に向かっていく



コラム

豊かな想像力を具現化する職人技

 秋山黄色の半年ぶりとなる新曲「ナイトダンサー」が9月1日に配信リリースされた。幅広い曲調とアレンジで音楽家としての成長を刻んだ『FIZZY POP SYNDROME』を発表した後は、初の全国ツアー【一鬼一遊 TOUR Lv.2】を開催し、地元・宇都宮でのツアー・ファイナルまでを無事完走。「ナイトダンサー」はそんな秋山の新章の始まりを告げる1曲であり、DTM世代のミクスチャー・ロックを鳴らす秋山ならではのシグネチャー・サウンドが詰め込まれた、堂々たる仕上がりだ。



秋山黄色『ナイトダンサー』


 ソリッドなギターリフと生感の強いイーヴンキックにフィルターがかかり、暴力的なスネアのロールが打ち鳴らされるイントロの10秒間でまずグッと掴まれる。ブレイクを挟んで、序盤はそのままイーヴンキックで進むが、秋山らしい大胆なキメからドラムがビートを刻み始めると、要所に挿入されるピアノが楽曲のドラマ性を盛り上げる。

 サビでは後半からベースラインが大きく動き、ドラムとともに躍動感のあるアレンジを生み出していて、このあたりは山崎英明と城戸紘志という経験豊富なリズム隊の貢献も大きい。さらには、一瞬の裏打ちパートを挟んで、間奏ではコーラスのかかったギターが景色を広げていく。ここまで90秒足らずで、この曲がアニメ主題歌でもバッチリだったはず。

 2番のアタマでは、声フェチの秋山らしい話し声のようなサンプリングと、エフェクトのかかったドラムがわずかな違和感を演出し、<天才の内訳は99%努力と/多分残りの1%も努力だ>という泥臭い歌詞が印象的なBメロで再びエディット感のある大胆なキメを挟んで、2番のサビへと移っていく。1番と2番のアレンジが構成からして大きく異なることは、秋山の楽曲では通常運転だ。そして、ギターと歌残しの間奏から、ここにも秋山のシグネチャーであるスクラッチが一瞬使われ、最後のサビへ。アウトロのつんのめるようなリズムのギターに至るまで、この情報量の多さを3分半に満たないポップ・ソングにまとめ上げる手腕はさすがの一言である。

 『FIZZY POP SYNDROME』リリース時の『サウンド&レコーディング・マガジン』のインタビューで、秋山は作曲について、「頭の中に曲の全体像をイメージして、それをDAW上に具現化させていく」「あくまで作曲は頭の中のイメージ通りに行うことが多い」「頭の中のイメージは結構解像度が高くて、イントロやサビなどのパート構成や音色までイメージできている」といった発言をしている。「ナイトダンサー」もおそらく最初に全体像をイメージして、それを具現化したのだと思うが、このイメージを広げる想像力と、それを具現化する職人的な技量が、音楽家としての秋山の最大の魅力だと言えるかもしれない。


夜を越えた先にある未来へ

 「ナイトダンサー」は「BOAT RACE」のテレビCMシリーズ「Splash ボートレーサーになりたい!」のCMソングであり、ボートレーサーを目指す若者の懸命な姿をイメージして制作された楽曲だという。楽曲の発表時に秋山は「結果には過程がありますが 世界には結果しかありません」というコメントを寄せているが、このコメントと呼応するようなサビの<涙の数を世界がずっと見ないフリしている/意義ばかり数えている いつでも!>という怒りや虚無を、それでもあがき、もがいて、光へと転化し、<噛み締めた夜と世界を繋ぐ/その未来に用がある>と締め括っているのが非常に感動的だ。



秋山黄色 - ナイトダンサー Music Video (BOAT RACE ver.)


 かつて「そのぬくもりに用がある」を歌ったサンボマスターは、いわゆる“青春パンク”の盛り上がりの中にあって、単なる応援歌とは一線を画す、リアリティと理想を同時に描いた歌詞でその存在感を確かなものとしていた。そして、もがき苦しむ過程をそのまま歌詞に落とし込んだうえで、なんとか光を描こうとする秋山の作家性もまた、“青春パンク”的な括りとは一線を画し、同世代の中で特筆すべき存在感を放っていると言えるだろう。

 秋山は「ナイトダンサー」について、「ダンスを踊るように藻掻く夜が 僕は何より眩しく見えます」というコメントも残していて、ここには“いかにして夜を越えるか”を命題とするネット世代ならではの精神性を感じさせる。アートワークではスマホ、漫画、空き缶などが散らばった部屋で、一人クッションを抱えた男の子(もしかしたら、女の子かもしれない)の姿が描かれているが、眠れない夜を過ごす同世代や下の世代に向けて、<道がないことが道標に/そのあなたの夢を教えて>と歌いかける秋山の声は、とても優しい。

 この部屋の隅にはMIDIキーボードが置かれているように、秋山もまたやりきれない夜を越えていくために、想像力を広げ、それをディスプレイ上に具現化し、楽曲を生み出しているのだろう。そう、秋山の音楽家としての最大の魅力も、きっと“夜”から生まれている。その意味では、「ナイトダンサー」は秋山の表現における非常に本質的な1曲であり、この曲自体が夜を越えた先にある未来の欠片なのだ。

Text by 金子厚武

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