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<インタビュー>渡辺香津美、デビュー50周年のアニバーサリー・イアーに開催される【KYLYNが来る】に向けて
日本ジャズ界の最たるギタリストである渡辺香津美にとって、2021年はアルバム・デビュー50周年のアニバーサリー・イアーとなる。それに際し、名付けるは“KW50”。そして、その一環として【かわさきジャズ2021】のために行われるスペシャルな出し物が、【KYLYNが来る】だ。唯一無二のギターのスキルや自在の発想を武器に思うまま音楽界の前線を闊歩してきた彼にとって、1979年発表の『KYLYN』は大きな節目のアルバムとなる。プロデュースは当時親交の厚かった、YMO設立前となる坂本龍一。2人の自由なアイデアの交換を軸に、当時旬の奏者たちが集い創造性を重ねた同作、さらにライブ盤『KYLYN LIVE』(1979年)は今も日本の冒険するジャズ/フュージョンのアイコンとなっている。さて、この11月13日に渡辺香津美は新たな面々を招集し、あの意義深いプロジェクトを1日限りで蘇らせる。氏が『KYLYN』に持つ現在の所感、そして来たる【KYLYNが来る】プロジェクトの内容をここに語ってもらった。
ギターという楽器を通して、様々な人々との出会いに導かれてきた50年
――これまでの半世紀にわたるプロフェッショナルなミュージシャン活動を振り返ると、どんな感想を持たれますか?
渡辺香津美:デビューが早かったということもありますが、50年というのは自分でもびっくりしてしまいますね。1980年代、1990年代の音楽の面白い時期、激動の時期をがむしゃらに自分の音を作り、吸収してきたという思いはあります。マイルス・デイヴィスをはじめ、すごい巨匠もまだ生きていましたし。そういう時代を駆け抜けてこれたのはミュージシャンとして幸せです。あと大雑把に言ってしまうと、ギターという楽器を通して、様々な人々との出会いに導かれてきた50年という感じがします。
――唯一無二のギター演奏で、あらゆる荒波も、いかなるジャンルも泳ぎきってきたという印象をぼくは持ちます。これまで転機と言えるものは、あったりしますか?
渡辺:その時々でミュージシャンと出会うたびに音楽性が変わったりもし、だから音楽的な転機というとキリがないですよね。それを語ろうとすると、それだけで1時間は超えちゃうという感じです。人生的な意味での転機を話すとするなら、まず1971年に『インフィニット』というアルバムをレコーディングする機会を得たことですね。その前から様々な先輩ミュージシャンから可愛がられてライブ・ハウスでやったりはしていましたが、アルバムを出すことで一般の方々に認知されるきっかけを得て、またいろんなメディアから取材を受けたりもしました。50年前にそんなびっくりドキドキのミュージシャン生活が始まったというのが、まず一つの転機です。それから、1976年から1970年代後半にかけて、『KYLYN』に繋がった坂本龍一さんとの出会いや、リー・リトナーと知り合いアルバムをプロデュースしてもらったことでしょうか。いわゆるジャズのフィールドからちょっと違うところにシフトしていったんですよね。それで、渡辺香津美はジャズをやっていないじゃないかと散々言われたりしました。ところが、『マーメイド・ブールヴァード』(1978年)や『TO CHI KA』(1980年)を作ったり、YMOに参加したあたりから吹っ切れて、オレはジャズじゃなくてもいいんだぜみたいな気持ちになりました。ただそう思えば思うほど、自分のルーツにジャズがあるということがすごく大切なことに感じるようにもなったんです。ジャズの呪縛のようなものに囚われなくなった時期というのが、1980年前後かな。それも転機ですね。
――そして、そうした大きな転機の一つにあげられる『KYLYN』を題材に置く出し物を、11月に行います。オリジナル『KYLYN』は渡辺香津美さんにとってどういう意味を持つ作品なのでしょうか。
渡辺:あれはピットインで始まったウィークリー・セッションみたいなものから始まりましたが、先ほど言ったようにこれは坂本龍一さんとの出会いが大きいです。ポンタ(村上秀一)をはじめ参加してくれたミュージシャンたちがみんなでなんか新しいことをやろうぜという機運にあふれ、そんな気持ちの流れが『KYLYN』に結晶したと思っています。まあ、僕が団長にはなっていますが、みんなの気持ちが一つになり、そこには破茶滅茶さやがむしゃらさとかがあった。よくやったなと、思いますね。あの時に生まれたアイデアなりなんなりというのは、自分の中でその後の“渡辺香津美サウンド”を作る核のようなものになっています。それで、今回再びクローズアップしてみようかと思いました。また、ポンタが亡くなってしまったので、ちゃんとそれには落とし前をつけたいなという思いもありました。
――その後世界的な存在になるわけですが、当時は坂本龍一さんのどんなところに共感を持ったのでしょう。
渡辺:その前の『オリーヴ・ステップ』(1977年)というアルバムにも参加してもらっているんですが、出会いは新宿ピットインでした。僕の中にあるジャズ・ピアノとはまったく違う音楽性を持つ人が出てきて、一緒にやったらモーリス・ラヴェルの曲をシンセとディストーションを使ったギターのデュオでやってみようと言ってきたり。面白いアイデアを出してくるんですよ。そうしたやりとりを通して、こうじゃなきゃといった固定観念がどんどんなくなってきて、そのきっかけを作ってくれた人でした。
公演情報
【かわさきジャズ2021】【KW50 渡辺香津美「KYLYNが来る」】2021年11月13日(土)
神奈川・ミューザ川崎シンフォニーホール
OPEN 16:00 / START 17:00 ※終演 19:15頃予定
チケット:全席指定席 S席 6,000円 / A席 5,000円 / B席 4,000円 / U25席 2,000円[B席のみ](25歳以下限定、当日学生証など年齢を証明できるものをご提示ください)
チケット一般発売中
出演:渡辺香津美(Gt.)、井上銘(Gt.)、井上陽介(Ba.)、ヤヒロトモヒロ(Per.)、村田陽一(Tb.)、本多俊之(Sax)
ゲスト:大西順子(Pf.)、Rei(Gt.)
公演情報
フェスティバル情報
【かわさきジャズ2021】2021年9月17日(金)~11月14日(日)
ミューザ川崎シンフォニーホール、カルッツかわさき、ラゾーナ川崎プラザソル、新百合トゥエンティワンホール、昭和音楽大学ユリホール、川崎市アートセンター、ほか川崎市内各所
関連リンク
Interview:佐藤英輔
Photo:Yosuke Komatsu(ODD JOB LTD.)
【KYLYNが来る】ついて 「僕の中にある嵐の心を伝えたいです」
――今度の【KYLYNが来る】のバンド・メンバーは、井上銘(ギター)、井上陽介(ベース)、ヤヒロトモヒロ(パーカッション)、本多俊之(サックス)、村田陽一(トロンボーン)という面々が発表されています。本多さんはかつてのKYLYNバンドに入っていましたが、他は新しい奏者を呼んでいます。ジャズをちゃんと知りつつ、しなやかにジャズ以外の表現も俯瞰できる人たちに声がけしているという感想も得ますが、どういう理由でこの顔ぶれになったのでしょうか?
渡辺:いろいろメンバーを考えたときに、KYLYNということから離れて、今やったらすごい面白いミュージシャンを選びたいというのが、まず最初にありました。そして、会場となるミューザ川崎シンフォニーホールという会場が持つアコースティックな特性を考えました。音響的な面でドラム・セットを使うとあまりいい結果が出ないので、頼みたいドラマーはいるんですけど、パーカッション奏者のほうが適切だと考えましたね。それで、ずっと昔からやっているヤヒロトモヒロに最初に声をかけて、(本多)俊之と村田(陽一)君はソリストとしても素晴らしいし、いわゆるセクションとしても素晴らしい達人ですので、その2人に決まりました。そして、井上陽介は僕にとっては外せないベーシストですね。
――井上陽介さんは普段ダブル・ベースを弾いていますが、ここでもダブル・ベースを弾くんですか?
渡辺:いや、エレベを弾かせるかも。
――それから、ギタリストの井上銘さんに声をかけているのが興味深いです。
渡辺:彼はここ数年気にかけていて、やるたびに進化していて面白い。彼はトラディッショナルなジャズを大切にし、学んできたうえで、自分のサウンドを作っていこうという新しい世代のミュージシャンです。ジャズ・ギタリストの先輩としては、そんな彼をどんどんピックアップして、伸びてもらいたいなと思っています。
――買っていらっしゃるんですね。
渡辺:うん、買っています。
――かつてのKYLYNは、ギタリストは香津美さんだけでしたよね。それが今回は井上銘さんを呼んでいてツイン・ギターとなり、ほうと思っていました。
渡辺:長年バンドをやってきて、もう1人渡辺香津美がいたらいいのにと思うことがよくあるんですよ。もう1人の香津美にリズム・ギターをやらせて、そこでソロをとりたい。もしくは、もう1人の香津美にソロを弾かせて、そこで自分は裏に回る。とか、いろいろと思うんですが、ステージではダビングができないので、銘みたいなヤツがいると、自分のイメージに近いことができると思いますね。
――また、ゲストととしてピアニストの大西順子さんを招いています。
渡辺:僕はギター・トリオというのがベイシックに好きで、それ以上の編成でやるとしても、音を占めるタイプのキーボーディストをあまり必要としないんです。だから、鍵盤が入るとしたら、やっぱり今回参加してくれる順子さんのように、個性を持つピアノの達人を欲しますね。彼女とはちょくちょくライブ・ハウスでやっています。順子さんの好みに合う何曲かで参加してもらおうと思っています。
――他にも、ゲストが入る予定はあるのでしょうか。
渡辺:あと、1名お願いしている人がいます。まだ公表できないんですが、おっというような人です。お楽しみにしていただきたいです。
※このインタビューは追加ゲスト発表前に行われました。
――会場の特性もあり、ドラマーではなく打楽器奏者とやると仰ったんですが、誰もポンタさんのようには叩けないので、逆にドラマーを入れないというのは見識であり、彼へのクールな賛美の仕方のようにも思えます。
渡辺:僕がKYLYNだなんだとやっていると、どうせポンタは来るに決まっている(笑)。ちゃんと見ていて、オレにも叩かせろと言ってくるんじゃないかな。だから、彼のポジションは空けておきます。
――現在は2021年で、『KYLYN』がリリースされて40年以上たちます。新たな人たちとともに、今回の【KYLYNが来る】がどういう実演になるのか興味はつきません。『KYLYN』のスピリットを持ちつつ、今の『KYLYN』を送り出すライブとなりますよね。
渡辺:『KYLYN』のスピリットというのは、何にもとらわれず、破茶滅茶なところだと思うんです。そこが出ればいい。出来上がったものではなく、その場で生まれるものをお客さんと共有するのが、『KYLYN』の真骨頂だと思いますね。実際に客席には降りませんが、感覚的には音で客席にダイブするようなことをやりたいですね。あの時代の空気感みたいなものを自分で忘れないために、今回は『KYLYN』を呼び出してみたいと思いますので、ぜひ目撃に来てください。決して『KYLYN』を再現するものではないですが、僕の中にある嵐の心を伝えたいです。
――演目なんですが、『KYLYN』の収録曲を演奏するのでしょうか?
渡辺:あの中から当時『KYLYN』のライブでやって面白かった「マイルストーンズ」とか、あと「199X」とか、(ライブ盤の『KYLYN LIVE』に収録されている)「ブラックストーン」とか、そういうライブでハイライト的にやったものはマストでやります。また、『KYLYN』前後の自分の曲のレパートリーで、このメンバーでやってみたいなという曲をやりたいですね。
――『KYLYN』のアルバムって、赤と青がテーマ・カラーのようにジャケット・カバーに用いられました。もし、今回の【KYLYNが来る】を色で表現するなら、何色と何色になるでしょう?
渡辺:今思いついたのは、グリーンとオレンジ。今軽井沢にアトリエを作ってそこに結構いるんですけど、日々木々に囲まれた中にいると、少しずつ体質が変わってきたような気がします。やっぱり自然とか、オーガニックなものを大事にしなきゃという思いが出てきますね。今災害が多かったり、コロナもそうなんだけど、人間がこれまで自然に逆らってやってきたことが、ここに来て返ってきちゃっているような気がすんです。なるべくそうしたことにフラットに、争わずに流れていこうと言う心持ちを得ていますね。そして、そんな色をふと思い浮かべました。
――オリジナルの『KYLYN』と今回の【KYLYNが来る】双方の演奏に触れることで、渡辺香津美さんのギターへの向かい方の変化や成熟も観て取れるのではないかと思い、それが楽しみです。
渡辺:どうなんでしょうねえ。ギターを50年も弾いているわけですが、弾けば弾くほど奥が深いと感じているんです。自分が最初にエレキ・ギターを弾いてときのワクワク感みたいなのを忘れないようにしたいと思いつつ、とても可能性を感じ、まだまだやらなきゃならないことがいっぱいあると感じていますね。道はまだまだ、です。終わりがないからこそ、面白いということでしょうね。
▲【フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2021】で行われた【サマーナイト・ジャズ渡辺香津美KW50「トワイライト・ジャム」】ハイライト
公演情報
【かわさきジャズ2021】【KW50 渡辺香津美「KYLYNが来る」】2021年11月13日(土)
神奈川・ミューザ川崎シンフォニーホール
OPEN 16:00 / START 17:00 ※終演 19:15頃予定
チケット:全席指定席 S席 6,000円 / A席 5,000円 / B席 4,000円 / U25席 2,000円[B席のみ](25歳以下限定、当日学生証など年齢を証明できるものをご提示ください)
チケット一般発売中
出演:渡辺香津美(Gt.)、井上銘(Gt.)、井上陽介(Ba.)、ヤヒロトモヒロ(Per.)、村田陽一(Tb.)、本多俊之(Sax)
ゲスト:大西順子(Pf.)、Rei(Gt.)
公演情報
フェスティバル情報
【かわさきジャズ2021】2021年9月17日(金)~11月14日(日)
ミューザ川崎シンフォニーホール、カルッツかわさき、ラゾーナ川崎プラザソル、新百合トゥエンティワンホール、昭和音楽大学ユリホール、川崎市アートセンター、ほか川崎市内各所
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