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<コラム>全米2位獲得!リル・ナズ・X『モンテロ』は多様性が重要視される現代の象徴



コラム

 リル・ナズ・Xの待望のデビュー・アルバム『モンテロ』が、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で見事、2位デビューを飾った。自身のセクシャリティを包み隠さず前向きに発信していく姿には共感と支持しか生まれておらず、それを堂々と利用していくプロモーション戦略には賛否両論が巻き起こるが、むしろそれもエンターテインメントと呼べる。「オールド・タウン・ロード」でチャートを席巻した彼の行動ひとつひとつに世界が釘付けになっていると言っても過言ではないだろう。

 その話題性にも引けを取らない『モンテロ』は、自分らしさを全開にしながら、自身の内面も告白する“公開日記”のような作品だ。実に恐れ知らずで、脆くもあるアルバムに仕上がっている。

もう一発屋とは呼ばせない!
自分らしさを追求する姿に世界が夢中

 先日、米ニューヨークにて開催されたファッションの祭典【メットガラ】では、3パターンのヴェルサーチの衣装で登場。そのうちのひとつであるゴールドの甲冑のようなコスチュームが、日本の人気戦闘アニメのキャラクターに似ているとソーシャル・メディアを中心に話題をさらったラッパーのリル・ナズ・X。ご存知の人も多いと思うが、ヒップホップ・R&Bシーンだけでなくポップ界全般において、エッジのきいた独自の世界・人生観を貫く存在として、現在最も熱い視線が注がれるミュージシャンのひとりだ。


 1999年、米アトランタ生まれのリル・ナズ・Xは、2018年に発表したカントリー・テイストを取り入れた楽曲「オールド・タウン・ロード」が動画投稿サイトをきっかけにヴァイラル・ヒット。翌年にこの楽曲がメジャーでリリースされ、さらにはマイリー・サイラスの父で実力派カントリー系シンガーとして知られるビリー・レイ・サイラスが参加したリミックス「オールド・タウン・ロード(リミックス) feat. ビリー・レイ・サイラス」が発表されると、たちまちヒットチャート上位を席巻した。結果、マライア・キャリーやルイス・フォンシなどを抜き、歴代トップとなる全米ビルボード・シングル・チャートにて19週連続1位(4月13日付~8月17日付)を獲得し、翌年の【グラミー賞】では2冠に輝き、さらにこのリミックスのみで全世界17億以上のストリーミングを記録するなど、2010年代の最後を締めくくるアンセムとして浸透した。


▲「Old Town Road ft. Billy Ray Cyrus」

 また、この楽曲がヒットしている時期に、自身がLBGTQ+であることをカミングアウト。性的平等性を、音楽だけでなく幅広い手法で「アート」として表現し、自分らしく生きることの重要性を訴えてきた。結果、アメリカの有名メディアが選ぶ「現代最も影響力のある人物」に何度も選出されるなど、現代のアイコニックな存在に。ゆえに、このたび完成した初のフル・アルバム『モンテロ』は世界的に大きな注目を集めるなかでのリリースになったのだ。


▲「MONTERO (Call Me By Your Name)」

 自身の本名モンテロ・ラマー・ヒルから取られたタイトル。恋愛経験を赤裸々に描いたという「モンテロ(コール・ミー・バイ・ユア・ネーム)」、自分をさらけ出すことができず孤独を感じていた頃を振り返るバラード「サン・ゴーズ・ダウン」、カニエ・ウェストがプロデューサーとして、また新鋭ラッパーのジャック・ハーロウも参加している「インダストリー・ベイビー」という先行トラックも収録されている内容。人気バンドであるワンリパブリックのフロントマンであり、アリアナ・グランデやアデルなども手がけているライアン・テダーをソングライターに迎え、軽快なギターに乗せ、失くして初めて気づいた真実の愛について綴る「ザッツ・ホワット・アイ・ウォント」(ウェディングドレスをまといギターを泣きながら奏でるリル・ナズ・Xの姿をとらえたミュージックビデオも必見)や、英国を代表するミュージシャンでLBGTQ+の活動家としても知られるレジェンド、エルトン・ジョンをフィーチャリングした「ワン・オブ・ミー」、また自身が「音楽だけでなく生き方にも刺激を受けている」というドージャ・キャットが参加した「スクープ」や、メーガン・ザ・スタリオンとのストロングなマイク・リレーに興奮する「ダラー・サイン・スライム」、マイリー・サイラスを迎えて制作したアコースティック・バラード「アム・アイ・ドリーミング」など、多彩なミュージシャンともタッグを組んで制作した華やかな仕上がりになっている。ゆえにサウンドに関しては、ラップに代表されるヒップホップ的なグルーヴにこだわるのではなく、ロックやポップス、ラテンなどの要素も加えて、どれも個性が光る。ジャンル(概念)にとらわれず、自身の好きな・追求したいものを表現したいという彼の音楽(ライフ)スタイルが垣間見える構成だ。


▲「THATS WHAT I WANT」

 そのいっぽうで歌詞に関しては、彼のモノローグのような内容になっているというか。自身がどのように悩み、苦しみながらここまで辿りついたのか、また大きな名声や人気を獲得した現在においても満たされることのない思い、もしくは新たに生まれた孤独の影なども滲ませながらも、自分らしい生き方を選択し、これからも歩んでいこうとする姿をありのまま綴っている気がする。ゆえに、アルバムはサウンドが多様性に満ちあふれながらも、一貫したストーリーが流れている印象だ。


▲「SUN GOES DOWN」

「このアルバムは僕の人生を描いているんだ。特に恋愛におけるものをね。そのいっぽうで、bop(最高にポップ)な仕上がりにもなっている。今回のアルバムを通じて、自分らしさを表現することと、多くの人に届くヒット・ソングの両方を追求でき、表現できたような気がするんだ」

 サブスクリプション・サービスの番組でそう語っていた彼。また、サウンドだけでなく80年代頃から人気のロマンティックなLBGTQ+アートの世界を連想させるアルバムのアートワークからも、セクシャリティに対する問題、自身の考えを提示している印象がする。そういう嗜好を持つ人もそうでない人にも自分のアイデンティティを大切にしてほしいというメッセージ性が伝わるのだ。彼は自身のソーシャル・メディアにて、14歳のカムアウトできなかった頃の自分に宛てた手紙として以下の言葉を残している。

「今の僕だって怖くて人を怒らせるのではないかって(自分の行動が間違っているのではないかと)思うことがある。考えを押し付けているって。確かにその通り。他人の人生や人間性にとやかく言うな、という考えを押し付けているんだからね」


 誰かに認められる人生を過ごすのではなく、自分が納得できる生き方を選択していくことの重要性をこのアルバムでは、どんな考えを持つ人にも教えてくれる(=押し付ける)作品になっていると思う。多様性が重要視される時代の象徴として語り継がれるに違いないアルバムだ。

3分でわかるリル・ナズ・X!

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