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<インタビュー>ポルノグラフィティが語る充電期間中の気づき、再確認した“役目”を果たす新曲「テーマソング」
ポルノグラフィティが約2年ぶりとなるニュー・シングル『テーマソング』をリリースした。2019年の東京ドーム公演を終えて以降、バンドとしての表立った活動を控え、メンバー個々のソロ活動を中心とした充電期間に入った彼ら。ファンも待望の新始動を告げる今作は、聴き手を鼓舞するような力強いメッセージと合唱パートが印象的なナンバーで、ここからまた新しい一歩を踏み出すポルノグラフィティの門出を祝福しているかのようにも感じられる。“離れ”での個人活動に打ち込んだ充電期間を経て、改めて見つめなおしたポルノグラフィティという“母屋”の存在、シングル収録曲の制作過程、そして9月25日にキックオフするツアーへの意気込みなど、二人に話を訊いた。
ミュージシャンとしての役目
――2019年9月の東京ドーム公演【NIPPONロマンスポルノ’19~神vs神~】以降、ポルノグラフィティは充電期間に入りました。そのあいだ、昭仁さんはソロシンガーとして精力的に活動。7月にBillboard JAPANのインタビューにご登場いただいた際には、ソロを経験したから見えたポルノのすごさについてお話してくれましたよね。
岡野:そうでしたね。ソロという“離れ”ができたことで、ポルノグラフィティという“母屋”のすごさを実感したんです。「ここの柱はこんなにも立派で太かったんだ」「だからグラグラせんのやろうな」みたいなね。そういうことに気づけたからこそ、その母屋にどれだけいいものを持ち帰るかということを意識してソロ活動できたところはありました。
――一方の晴一さんはミュージカルのためのストーリーを執筆されるなど、言葉での表現を突き詰める活動をされていたわけですが、そこで改めてポルノグラフィティを省みる瞬間はありました?
新藤:東京ドームで見せてもらえた景色が本当にすごいものだったので、ファンのみなさんにまた改めて「ありがとう」を伝えたい、ちゃんとお礼をしたという思いはずっとあったんですよ。そういう意味ではこの2年、ポルノを意識していたところはありました。ただ、ドームを終えたことと、その後のコロナ禍によって、自分がまとっていたものを一度すべて脱ぎ去って裸になったというかね。単純に一人の人間になったような感覚もあって。で、その状態からもう一度、歩き出すことが自分にとってはすごく大変なことでもあったんです。だから、この2年は自分のやれることを日々、頑張ってやってきた感じかな。ようやく今、やっとポルノをやれるというところまで来たような気がしています。
――ということは、これからまたポルノという存在の大きさを改めて噛みしめることになるのかもしれないですね。
新藤:きっとそうだと思います。みんなが待っていてくれたことはすごく心強かったし、だから頑張れたところはありましたからね。自分にとってポルノが大事な場所ということはもう間違いないことです。
――ソロとして動いているあいだにもポルノのために曲を作り溜めたりはしていたんですか?
新藤:何曲かは作ってたかな。そもそも僕はミュージカルのことも頭にはあったので、曲自体は常に作ろうとしていたんですよ。で、その中に「これはポルノにも合いそうだな」と思えるものもいくつかあるっていう。
岡野:うん。僕の中でもポルノ用の曲は増えてはいました。
――そんな中、新始動一発目となる今回のシングルはどんなビジョンを持って制作されたんですか?
新藤:この2年間、「エンターテインメントとは?」みたいなこともいろいろ考えたんですけど、やっぱり今の世界の状況を踏まえると、僕らの曲を聴いて勇気や希望を感じてもらえるものがいいなとは思ったんですよね。明るいとは言えないこの世の中を、曲を聴いている数分間だけでも忘れられるものがいいなっていう。
岡野:そこはミュージシャンとしての役目みたいなことだと思います。コロナ禍になって以降、自分はミュージシャンとしてすごく無力なんじゃないかと思ってしまう瞬間も多かったんですよ。でも、僕は歌うことがとにかく好きだから、やるしかないんだという気持ちでソロ活動をしていたわけです。もしかしたら、そのことによって何かしらの役には立てるんじゃないかという期待を持ちながら。で、そうこうしていると、だんだんミュージシャンとしての矜持みたいなものも芽生えてきたし、今すべきことが見えてきたところがあったんですよね。聴いてくれた人が勇気を持ってもらえるような歌、みんなが求めているであろう歌を今は歌うべきだというシンプルな気持ちになれたというか。それは結局のところ、自分たちの役目をもう一度、心に刻んだということだったような気がします。
――表題曲となる「テーマソング」はまさに聴き手に希望を与えてくれる、ストレートな応援歌になっていますよね。合唱パートが盛り込まれていることで“一人じゃないんだ”という勇気も与えてくれます。作曲は昭仁さんが手がけていますね。
岡野:ユニゾンで歌い合う曲をずっと作りたいと思っていたんですよ。ポルノとしてはそういう曲をほぼやったことがなかったので。シングルに向けての制作期間で僕は何曲か作ったんだけど、これは最後に取り掛かったんですよね。ユニゾンという構想が頭の中で膨らみすぎちゃって、「ほんとにできるのか?」と逆に思ってしまう瞬間があったというか(笑)。新しい挑戦でもあったから、ちょっと怖くなって作るのを後回しにしていたんです。とはいえ、僕が今一番作りたい曲はこれだったから、最後の最後に頑張って形にして。結果、それがシングルの表題曲になったのは、自分としてはすごくうれしいことでしたね。
ポルノグラフィティ『テーマソング』document movie(Full ver.)
――作詞は晴一さんですね。メロディに対して迷いなく言葉が収まっている、本当に気持ちのいい歌詞だと思います。
新藤:自分の書きたいことに対して、昭仁の作ったメロディや展開が非常に盛り付けしやすい器になってくれていたんですよね。パートごとに「ここはこういうことを歌って欲しいんだな」というのがすごくよく分かるというか。だから今回は、素直に言葉を乗せていった感じです。書き方としてもすごくストレートになりましたね。みんなの背中をてらいなく押そうっていう。「今の状況でのエンタメってそういうもんやん?」という気持ちで。
自分の意思、自分なりの意図
――アレンジは立崎優介さん、田中ユウスケさん、ポルノの共同クレジットになっています。
岡野:今回のアレンジで一番考えたのは構成ですね。どう構成していけば、みんなにドキッとしてもらえるかなっていう。そのあたりは田中くんがすごく上手なんですよ。「ここでこんなコーラスを入れたらどうでしょう?」とか、本当にいろんなアイデアを出してくれましたね。1コーラス目と2コーラス目でちょっと違った雰囲気にしたいとか、僕からもいろいろリクエストはさせてもらいました。
新藤:言ったらシンプルなアレンジではあるんですよ。でも、要所要所に効いてる音があるから、まったく寂しさはないっていう。聴き手を飽きさせない、すごくいいアレンジになったと思いますね。
――晴一さんはTwitterにレコーディング風景の写真をアップし、ベフニック12弦ギターがどこかに入らないか虎視眈々と狙っているとツイートされていましたよね。この曲で使うことはできたんですか?
新藤:いや、入らんかったです、さすがに(笑)。いちおう持って行ってはいたんですけどね。でも、ライヴでは使えそうだから大丈夫です(笑)。
――「テーマソング」のボーカルはいかがでしたか?
岡野:以前はどんなトーンで歌うのかという部分は、無意識でやっていることだったんですよ。無意識に自分の声色を変えていたっていう。でも、ソロ活動で歌をたくさん歌ったので、自分の声の理解度が深まった実感がすごくあって。それによって今回のレコーディングでは、「ここはこの声色で」みたいなことをわりと意識的にやっていた気はしますね。
――ボーカリストとしての進化を感じさせる歌になっていますもんね。
岡野:あくまでイメージでしかないんですけどね。トーンを決めるとき、例えば頭の中に青色を浮かべているとか、それくらいのことではあるんですけど、そのイメージをちゃんと声に乗せて具現化できるようにはなってきたと思います。この2年のおかげでね。
――2曲目の「REUNION」は、昨年12月に開催された有観客&配信ライヴ【CYBERロマンスポルノ’20~REUNION~】で初披露された楽曲。この曲もまたコロナ禍を生きる人たちにパワーを与えてくれるナンバーですが、音源化にあたってはかなりブラッシュアップされている感じですね。
新藤:そうですね。歌詞も少し変えたし、大サビも新たにつけましたからね。
ポルノグラフィティ 『REUNION』(LIVE MOVIE)
岡野:昨年12月のライヴでやることを想定して、あのタイミングの空気感を封じ込めるようとして作りましたけど、そこからまた少し時間が経って、世の中の状況もまた変化しましたからね。この音源には当初とは少し違った色合いがあるような気がします。
――サビの最後にある<決して切れない意図を変えて張り巡らせる>のところが僕はすごく好きで。音として聴いていると<決して切れない“糸”>だと思うけど、実際は“意図”で。「すげぇ!」って思いました。
新藤:ありがとうございます。ミスプリントじゃないですから(笑)。要はダブルミーニングですよね。糸を張り巡らせるためには、そこにしっかり自分の意思、自分なりの意図がないといけないんじゃないかなと思ったので。書きながらしっくりきました。
――こういう言葉のギミックをひらめいたときってガッツポーズが出る感じですか?
新藤:あははは。ガッツポーズするときもあるんですよ。例えば「THE DAY」(2016年5月リリースのシングル表題曲)とか。曲頭で爪を噛んでたのが、最後には爪を研ぐになってるところは、書きながら「めっちゃ気持ちいい!」って思いましたから。でも、この曲はそこまでではなかったかなぁ。そこをインタビューで拾っていただけたことで、今、心の中でガッツポーズしてますけどね(笑)。
――あははは。あと、昭仁さんのボーカルで言うと、ラストのフェイクがものすごくかっこよかったです。
岡野:ありがとうございます! まぁでもね、こういうロック調の曲でフェイクをすると、どうしてもジョン・ボン・ジョヴィになっちゃうんですけどね(笑)。自然とそういう部分が出ちゃう。顔が赤くなるくらい恥ずかしいんですけど、でもかっこいいと言っていただけるならよかったです。
楽しむことこそが一番の恩返し
――そして、もう1曲は晴一さんが作詞作曲を手掛けた「IT’S A NEW ERA」が。
新藤:これはもう、曲で伝えようとしているテーマは1曲目とまったく同じですね。曲調が違うから、違う言葉を選んだっていう。曲自体は僕の好きなミュージカル音楽に影響を受けている部分は少なからずあるような気がします。こういうタイプの曲はそもそも好きで、自分のカラダの中に入っているものなので。
――歌詞もサウンドも歌も、曲が進むにつれてどんどんドラマチックで壮大になっていく流れになっていますね。
新藤:ミュージシャンの方々にもそこはしっかりお願いしたところでもあって。Aメロから勢いよく走り出すのではなく、最初は湖畔をしょんぼり歩いている感じでお願いします、みたいなことは事前に話しました。
岡野:トラックがそういう雰囲気になっているので、ボーカルもまた必然的にそういった部分を意識したものになりますよね。サビに向けて力強い声になっていくように。平メロのところに関しては、新藤やアレンジャーの(宗本)康兵にディレクションをもらいながら、いろいろな表現を試していった感じです。
――平歌の繊細な表現があるからこそ、サビの力強さがより増幅されていますもんね。
岡野:そうですね。強く歌うのか弱く歌うのか、弱く歌うにしてもどのくらいの弱さなのか、みたいなところですよね。表現として薄くいくのか濃くいくのかっていう判断もあったと思うし。この曲は全体的に強く声を出さないと歌いづらい音域でもあるんですよ。だから、弱さを出す歌い方は難しくもあったんだけど、上手いことディレクションしてもらえたおかげでいい歌が録れたかなと思いますね。
新藤:サビのオケはものすごい熱さのある演奏になっているんだけど、昭仁の声が入ることによって、その熱さが倍増したところもありましたしね。それはほんとによかったなって思います。
――ライヴではストンプやクラップでファンも参加できる曲になりますね。
新藤:そうですね。それはコロナ禍でもできますから。楽しみです。
――気づけばデビューから丸22年が経過しました。23年目を踏み出した今の心境はいかがですか?
新藤:今のシーンを見れば、若い世代やおもしろいことをやっているアーティストがたくさんいて、そこに対してのリスペクトはあるんです。でもね、やっぱり僕らは僕らでしかないなっていう思いもあったりして。それはメジャーでそういったアーティストと戦うことを諦めたとかそういう話ではなく、あくまでもポルノはポルノらしくやればいいんじゃないかなっていうことで。そんなことを今はすごく感じていますね。
岡野:ミュージシャンとして22年もやらせてもらえているのは、それはもうファンの方たちのおかげでしかないわけで。だから、僕らはそれに対して恩返しをしていかないといけないわけだけど、今の自分たちとしては歯を食いしばって頑張るとか、そういうこと以上に、歌うことが楽しいとか、ステージ立つことが楽しいとか、そういう姿を見せ続けることが大事なんじゃないかなって思うんです。幼稚な言い方になりますけど、自分たちが楽しむことこそが一番の恩返しになるんじゃないかなって。引いてはそれこそがポルノらしさにも繋がるんだと思うし。
――23年目のポルノを突き動かす原動力が「楽しむこと」っていうのは最高ですね。シンプルなことですけど、音楽って本来そういうものだと思うし。
岡野:うん。僕の場合はもっとシンプルで。音楽どうこうの前に、人に向かって歌いたいだけだったりしますしね(笑)。20年を超えたことで、いろんなものがそぎ落とされた状態になったのかもしれないです。で、ここからはそこにまたポルノにしかないものをどんどん肉付けしていくことになるんだと思います。
――9月25日からスタートする【17thライヴサーキット“続・ポルノグラフィティ”】も楽しみですね。
岡野:「ステージに立ちたい」という思いをここまで強く持った状態でツアーをスタートさせるのは、もしかすると初めてかもしれないです。「22年やってきて初めてかよ」って言われそうですけど(笑)、でもそれくらい本当に楽しみでしかないんですよね。僕らがステージ上でうれしそうに歌い、演奏している姿を見てもらうことで、会場に来てくれたみなさんが少しでも楽しくなってもらえたらいいなって思います。
新藤:コロナ禍の状況を考えると、本当にステージに立てるかどうかの確約がないままツアーを回ることになるとは思います。でも、だからこそ今までのライヴとはまた違った、新たな意味合いを付加した内容になっていくような気もしていて。今の僕らがどんなものを見せることができるのかをしっかり考えたうえで、しっかりツアーを回りたいですね。「待ったかいがあった」ってことを1本1本のライヴで証明していこうと思います。
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