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<インタビュー>藤井 風の配信ライブから考える “Free”と“HELP EVER HURT NEVER”の意味
2020年2月後半から猛スピードで全国に広まった新型コロナウィルスの脅威によって、不要不急のカテゴリーに入ったエンタメ事業もそうだが、各業種がコロナ前に完全復帰するまでは長い道のりになりそうだ。そんな中でも、昨年8月からマスク着用、歓声・私語厳禁、キャパシティを半分以下に抑えてソーシャルディスタンスを守ったライブが再開し、少しずつではあるが着実にライブ産業に光が戻りつつあった。しかし、それらの対策を講じても、100%不安を払拭することができず、日本を代表する大型音楽フェスの開催有無には多くの批判の声が上がっている。この1年以上、慎重に進めてきたライブ・音楽イベントへの世間からの見方が変わり、いまだその論争の渦中にいる。
今年5月に政府の科学的イベント研究プログラムの一環として、社会的距離&マスク着用なしで開催されたイギリス最大の音楽賞【The BRIT Awards】の授賞式は、会場のキャパシティの約20%にあたる4,000人の観客を動員。検査で陰性であることを証明するなど、政府のガイドラインやイベント主催者が定めた規則を遵守する必要はあったが、屋内環境の安全性、社会的距離の縮小、マスクの不使用における安全証拠収集のため、そしてなにより音楽イベント復活のために、政府と主催者が前向きに動いていることが日本からも関心を集めた(その後、このイベントでコロナ感染者はゼロであったことが発表されている)。
▲【The BRIT Awards 2021】ダイジェスト映像
その後も米マイアミで3日間にわたって開催された世界最大のヒップホップ・フェス【Rolling Loud】や英音楽フェス【Reading & Leeds Festival】など、コロナ前と同じスタイルのフェス――観客が密集し、モッシュしたり大合唱したり――が世界各地で開催されており、SNSや報道で伝わるその光景は今の日本では考えられないものである。もちろん海外アーティストの中にもフェス反対派やワクチン接種を呼びかける/かけない者はおり、それぞれの考えがあるなか、大型イベントやライブが行われているのは世界共通だ。
国内外で差はあるものの、ちょうど有観客実施に対する論争が絶えない現在の日本では、「曲が売れているんだから、わざわざ有観客にする必要はないのでは?」という声もたくさんある。しかし、フィジカル/デジタル作品で得る収入と、ライブやグッズ販売で得る収入があって、アーティストの次作が生まれている。そしてライブをするには音響や照明に関わる裏方スタッフが必ずいる。観客には見えないところで、アーティストの人数以上のスタッフが動いており、彼らなくしてライブができないことを知っているアーティストは、そのスタッフたちやサポートメンバーが仕事を失い、苦しんでいるのを間近で見ているからこそ、ライブなしの音楽活動は考えられないだろう。
そういったアーティストとファン、音楽ファン以外のそれぞれの思いが、どれも間違いでもない今、人々のマインドはマイナスへ向かっているのは間違いない。自分主体で行動することを無責任と呼ばれてしまう現在、様々な制限が強いられながらも一向に回復しないコロナ情勢に、正直、誰もが疲労困憊している。「私はこんなにも我慢しているのに」という思いはもう隠せないだろう。

そんな状況が1年以上続き、まだこの先も続くことが予想されるが、人々の希望や支えになっていると、昨年から支持を集めているのが藤井 風だ。コロナ禍真っ只中の2020年5月にリリースした1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』は“常に助け 決して傷つけない”という彼の人生の教訓をテーマにしており、実際、その“誰かのため”の音楽に助けられている人が多く存在する。どこか懐かしくもあり、新しくもある、邦洋ジャンルが入り交ざったメロディーと、時には琴線に触れ、時には情熱的に発せられるボーカル、そして存在感のある佇まいと裏表の無いナチュラルな姿が、耳と目を伝って人の心を魅了している。それと同時に、弱冠24歳のミュージシャンが大事にする言葉と「今をどう生きるか」というメッセージから、コロナ禍以前に、人間として大切な優しさや思いやりにも気付かされる。また藤井は英語も巧みに操り、YouTubeには英語で楽曲説明するビデオもあれば、英語字幕もつけられている。将来、グローバルな展開が期待されるアーティストの一人だ。
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