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<インタビュー>Doulが語る原点、はみ出し者を救った音楽のチカラ

インタビュー

学校にはなにも期待していなかった

 2020年9月、「16yrs」で鮮烈なデビューを果たした福岡出身のアーティスト、Doul(ダウル)。サブスクリプション・サービスやYouTubeなどのプラットフォームを中心に楽曲をリリースしてきた彼女が、18歳を迎えた今年7月28日に最新EP『One BeyonD』をリリースした。




 「音楽の原点はリンキン・パークですね」そう話すDoul。

 「もともと父親がリンキン・パークが好きで、車で移動するときにはよくリンキン・パークがかかっていたんですね。それが自分の音楽の原点にあると思います。いまでも聴かない日はないってぐらい聴いてるし、一番尊敬するアーティストであり、死ぬまで聴くと思いますね」

 早くから音楽の魅力を感じ取っていた彼女が、小学校のときに纏めた自作のコンピレーションCDは、こんなラインナップだったという。

 「リンキン・パークはもちろん、G・ラヴ&スペシャル・ソース、スヌープ・ドッグ、エミネム、リアーナ、ケイティ・ペリー、レディー・ガガ、ジャック・ジョンソン……そんな構成だったと思います。自分の好きな曲を詰め込んで、CDに焼いて自分で聴いて、それに合わせて歌ったり踊ったりしてましたね」

 中学生になるとK-POPにも興味を抱くようになる。

 「BIGBANGや東方神起、SUPER JUNIORが好きでしたね。YouTubeでMVを観て、とにかくオシャレで感動したんです。それまで聴いてきた洋楽とはちょっと違う、パフォーマンス性の高さだったり、曲の中にラップが入ってくるようなバラエティの豊かさに惹かれて。それから衣装やスタイルも本当に格好よくて、髪色やメイクに興味を持ったのもK-POPがきっかけでした」

 並行してストリート・ダンスや、プロを目指すほどのめり込んでいたという格闘技など、様々なカルチャーと接していくなか、12歳でアコースティック・ギターを手に入れ、“リスナー”から“プレイヤー”への道を歩み始めた。

 「『ギタリストになりたいからギターを』というわけじゃなくて、カート・コバーンが気持ちよく弾き語りしてる映像がたまらなく好きだったんですよね。それでなんとなくの憧れでギターを手にとって、コード譜を読みながら練習して、エリック・クラプトンの「ティアーズ・イン・ヘヴン」を弾き語りしたときに「これだ!」という気持ちよさを感じたんですよね。それから毎日ギターで弾き語りをするようになって。「ティアーズ・イン・ヘヴン」がきっかけだったからアルペジオが得意ですね。だから今でも基本的にはずっと指弾きだし、カッティングするときは爪で弾くときが多いですね。ネイリストの人にも『トップコートを分厚くしてください』って(笑)」




 そして、InstagramなどのSNS上でのライブ配信に加えて、ストリート・ライブのようなリアルでの活動もスタートさせたDoul。年齢は14歳、中学生のときだった。

 「福岡の警固公園を中心に博多駅や天神内でストリート・ライブをやっていましたね。始めてから1年ぐらいで100人以上のお客さんに観て貰えるようになって」

 順風満帆な動きに見えるが、同世代の友人やクラスメートたちとの折り合いは悪くなったという。

 「中学校では目の敵にされてましたね。やっぱり人と違うことをやってるから、学校に行ったら数十人にいじめられたり、SNSでも住所を晒されたり。だから学校にはなにも期待していなかったし、同級生をまったくあてにしなかった。私にはストリート・ライブや音楽、ダンスや格闘技を通してちゃんと応援してくれる友達がいたし、もう学校では『放っておいて。あなたたちに興味はないし、私に興味も持たないで』という感じでした」

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新しい考え方を加えて欲しい

 その状況のなかで彼女を音楽に本格的に向かわせるきっかけが起きる。

 「ストリートじゃなくて、初めてちゃんとした音楽設備がある場所でライブをやったときに、お客さんが私の歌を聴いて涙を流してくれたんですよね。それは私の中ですごく大きい事件で。自分の歌声で、自分の弾く曲で誰かが涙を流してくれるぐらい感情を動かせたことが、自分にとってすごく糧になったんですよね。その時期は音楽と並行して格闘技のプロも目指していたんですが、そこからもう音楽しか見なくなりましたね。学校では嫌なことばかりだったけど、SNSでもフォロワーがすごく増えたし、自分の音楽に興味を持ってくれる人がどんどん増えていったから『もうこのまま進もう』って」

 当初はカバーがパフォーマンスの中心だったDoulだが、オリジナル楽曲の制作もこの時期に始めたという。

 「カバーに飽きたんですよね(笑)。それにカバーしようと思っても、キーが合わない曲も多かったんですよ。もともと声が低いタイプなので、女性アーティストの楽曲はキーが合いにくいというのもあって。それで『自分に合うキーの曲を作れば、一番自分が気持ちよく歌える曲ができるよな』ってすごくシンプルな気持ちで作曲を始めたんですね。それで自分の気持ちいいキーで、気持ちいいコードを弾きながら歌い始めたらやっぱり気持ちよかった(笑)。そこからとにかく作り続けていたので、どれぐらい作ったかは覚えてないです(笑)。100曲以上作ったと思うし、それはデモとしてiPhoneやPCに入ってます」

 そこで完成した1曲が「16yrs」。彼女が17歳のときに初めてリリースしたデビュー曲であり、注目のニューカマーを集めたSpotifyのプレイリスト『RADAR: Early Noise 2021』に採用されるなど、大きな注目を集めた。

 「リリース・アーティストとしてデビューすることができたのは本当に嬉しかったですね。デビューが決まってから『この先に楽しいことが起きるよ』ってSNSでは告知していて、「16yrs」がリリースされるタイミングではリスナーの方と一緒にカウントダウンをしたり。実際、サブスクやYouTubeで“Doul”を検索して、私の楽曲が出てきたときはやっぱり興奮しましたね。『やっと始まったな』って」

 以降、モード学園のTVCMに起用された「We Will Drive Next」など、コンスタントなリリースを続けるDoul。ティーンエイジャーという年齢から当然ながら“若き俊英”として評価されることの多い彼女だが、楽曲の中では殊更に年齢にこだわることはなく、それよりも普遍的な内容を歌詞に落とし込んでいるのが印象的だ。

 「『18歳でこういう経験をしました』『18歳だからこう考えてます』みたいに、世代を代表するようなことを言いたいわけじゃないんですよね。でも、私の歌詞は自分の記録でもあるから、この年齢だからこその感情だったり、思うことはどこか歌詞に反映されると思います。その歌詞が同世代にも60歳の人にも伝われば嬉しい……伝わるというか、楽しめるし、共感できるし、反論もできる、そういう歌詞を書きたいと思ってますね。そして、私の曲を聴いてくれた人の考え方を変えるんじゃなくて、新しい考え方が加えられればいいなって。例えば、やっぱり『タトゥーなんて入れて』とか言われることもあるんですよ、特に年上の人には。それには腹も立つけど、その考え方はその人の考えだし、変えるのは難しい。だから『その考え方を変えてやろう』じゃなくて、私の歌やアプローチによって、『こういう考え方もあるよな』『そう考えるんだ』って感じて欲しいし、新しい考え方をそこに加えて欲しい。そうすれば、もっと考え方や理解も豊かになるのかなって。」




 そして、彼女の書く歌詞は、現在のところ全て英語詞で構成されている。母語は日本語であり、英語自体は独学で学んだという彼女が、英語詞で作品を形にする理由はなんだろうか。

 「普段から詞は日常的に書いていて、それは英語でも日本語でも思いついたら書いてる感じですね。やっぱり感情的な言葉は母語の日本語で浮かんでくるし、もっとノリだったり、ライミングが大事な言葉は英語で浮かぶことが多くて。それを楽曲のリズムや音に合わせて、日本語だったら翻訳して英語で当てはめていく感じですね。そのほうが自分にとっては歌い心地がいいという、自然な流れですね」

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自分をちゃんと見てあげて、愛してあげて

 彼女がこれまでにリリースした楽曲、そしてEP『One BeyonD』はジャンルのカテゴライズを拒否するような、多面的な楽曲性が印象に残る。それは「The Time Has Come」のMVの中で、様々なジャンルと年代とスタイルのアーティストをオマージュしたファッションを、彼女が一人で演じていることにも通じるだろう。そして、そういった感性は、全ての音楽が同じプラットフォームに乗り、並列に享受されるという“サブスクリプション以降の音楽制作論”を感じさせる。

 「子供の頃から聴いてきた音楽のジャンルや年代はバラバラだったし、今でも年代とかジャンルにこだわったような聴き方はしません。だからこそ、バンド・サウンドと打ち込み、ラップとヴォーカルが一緒に入るような音楽になってると思うし、今までにない音楽、だけど今までの懐かしさも感じるような音楽を作りたいんですよね」




 彼女が作品をセルフ・プロデュースの形で制作していることも、その自由度の高さに通じるだろう。

 「セルフ・プロデュースしているのは、“自分が何ができるか”が知りたいからなんですよね。私はどんな服が着たいのか、どんなメイクがしたいのか、どんな詞を書きたいのか、どう歌いたいのか、どんな音楽が作りたいのか……それは毎日違うんですよね。グランジなファッションをしてる自分も、バキバキにダンスしてる自分も大好きだし、他のアプローチをすれば、もっと好きな自分に会えるかもしれない。だからこそ、自分で色んなチャレンジをして、自分を追求したいんですよね。プロデュースしてもらうのは、自分が何者かが分かってからでいいかなって」

 その性格を自ら“世界一のナルシスト”と評する彼女だが、それは「Howl」の中での<I can say I love myself>というリリックにも通じるだろう。しかし、その言葉に続くのは<But I hated me before>という言葉だ。では、彼女はなぜ自分を愛することができるようになったのだろうか。

 「先ほど話した、中学生の頃にいじめに遭ったときに「やっぱり自分が悪いんじゃないか」とか、そういうネガティブな考えになるときもあったし、そんな自分が嫌だなと思ったりもして。でも、そんなときにメイクやファッション、ビジュアルも含めて、とにかく自分磨きをしたんですね。自分が素敵になることに集中して、自分をブラッシュ・アップして。それは“自分を見てあげる”、“自分を愛してあげる”ということだったと思うし、それによって自分が綺麗になっていく、格好よくなっていくのが実感できたんですよね。周りの意見とか雑音なんか気にしないで、ちゃんと自分を見てあげれば、ちゃんと成長できるんだなってそこで気づいたから「Howl」みたいな曲が作れたし、Doulとして存在できるようになったと思う。だから、もし昔の私と同じように悩んでる人がいたら「自分をちゃんと見てあげて、愛してあげて」と思います。でも、愛するには変わろうとしないと絶対無理だし、その部分はすごくストイックに考えてますね」




 アーティストとしてこれからの音楽シーンを担うことになるであろうDoul。彼女の考える“その先”とはなんだろうか。

 「賞をとりたいとか、たくさんライブに出たいという目標はデビューのときから変わらないですね。でも、デビューしてから約1年が経って、自分の音楽をどういう風に捉えて欲しいとか、どういう感情になって欲しいってエゴが生まれたと思います。それまではただ作るだけだったけど、アーティストとしてデビューしたからこそ、自分の音楽に対して共感もして欲しいし、反感も持って欲しいと思うようになりました。でも、一番に思うのは、勇気を与えたい。色んな悩みを私の音楽で解決したいし、そういう気持ちで音楽に向かうようになりましたね。でも、もしかしたらまた来年は違うことを言ってるかもしれない。そういう風に色んな自分を探していけたらなって思います」

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