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<インタビュー>山野ミナ、高橋幸宏らがプロデュースで「このアルバムでやっと歌手としてのスタート地点に立てた」
プロデュースは高橋幸宏、伊藤ゴロー。シンガーソングライター・山野ミナのメジャーデビューアルバム『L'ATELIER』は、“ヨーロッパ+ラテン”を掲げた大人のポップスアルバムに仕上がった。
幼少期からジャズに親しみ、ミュージカルに憧れていたという彼女。ジャズ、シャンソン、ボサノバなどの多彩な音楽、人生の機微を描いた歌詞を軸にした音楽性には、彼女自身のルーツや人生経験が色濃く反映されているようだ。
私のアトリエにフラッと遊びに来る感じで楽しんでもらえたら
――まずは山野さんの音楽的なルーツから聞かせてください。子どもの頃、家でジャズが流れていたそうですね。
山野ミナ(以下:山野):はい。お父さんがジャズのレコードのコレクターで、家では常にジャズがかかっていたんです。お父さんはリー・コニッツが好きで、ボーカリストだとジュリー・ロンドン、エセル・エニスなどを好んで聴いていて。あとはスタン・ゲッツとか……とにかくいろいろ聴いてましたね。
――素晴らしい音楽環境ですね! 山野さん自身、子どもの頃から歌への興味があった?
山野:歌は大好きだったし、漠然と「歌手になりたい」と思ってたんですけど、幼少の頃はとにかく恥ずかしがり屋で。人見知りで、ずっとお母さんの後ろに隠れてるような子だったので、「歌手になりたい」って言えなかったんです。でも、ひとりで遊んでるときに歌ったり、曲を作ったりはしていて。クラシックバレエも習ってましたね。
――でも、大学は美術系(大阪芸術大学美術学科)だったんですよね。
山野:そうなんです。小さい頃から、絵を描くのも好きだったので。大阪芸大を受けようと決めたのは受験日の3か月前なんですけど(笑)、今年はダメでもいいと思ってたんですが、一発で合格して。授業はそんなに好きじゃなかったんですけど(笑)、とにかく絵を描きたくて、ずっとアトリエにいました。
――大学時代は絵に集中していた、と。再びに音楽の道に進んだのは、学生時代に観たミュージカルがきっかけだったとか。
山野:大学4年のときに劇団四季の「キャッツ」を観て、衝撃を受けて。そのとき「歌手になりたい」と思っていたこと、バレエを習っていたこと、華やかな世界に憧れていたことを思い出したんです。やっぱり私はステージに立つ人間になりたいと思い、すぐにミュージカルの養成スクールを探して。
――すごい。その時点で既に怒涛の人生ですね。
山野:直感で動くというか、思い立ったらすぐ行動するタイプなので(笑)。ただ、ミュージカルの経験や知識がぜんぜんなかったので、すごく高い壁だったんです。いろいろとオーディションを受けたんですが、最終選考まで進んで、落ちるということが3年くらい続いて。そのうちに人前で歌うのが怖くなってしまったんです。「一度ミュージカルから離れないといけない」と思っていたときに、歌の先生から「ジャズのコーラスをやってみない?」と誘っていただいて。それがすごく楽しくて、大阪のジャズクラブで歌うようになったんです。
――幼少期に浴びるように聴いていたジャズが活かされた、と。
山野:そうですね(笑)。ただ、そこでも壁にぶつかるんです。関西のジャズはバップが中心で、「アドリブしなくちゃ」「スキャットをやらなくちゃ」みたいな変な思い込みに捉われてしまって、本当はそんなことないんですけど。それでだんだん歌うのが苦しくなってきて。
――2度目の挫折ですね……。その後はブラジル音楽に傾倒した時期もあったとか。
山野:従兄弟(ヒガシノリュウイチロウ)がボサノバ歌手だったんですが、彼の経営するお店で、ブラジル音楽の魅力――力が入ってなくて、自然体で――にすごく惹かれて。このアプローチを学ぶ必要があるんじゃないか?と思って、私も歌うようになったんです。
――ミュージカル、ジャズ、ボサノバ。これまで経験したことは、すべて今回のアルバム『L'ATELIER』に反映されてますね。
山野:基本的にヨーロピアン・サウンドが好きなんです。そこにボサノバやラテンのテイストも入っていて、私が好きなものが凝縮されているなと思います。前回のアルバム(『My Treasure』)で日本の歌謡曲のような哀愁を感じるメロディとヨーロピアンを融合させたことも活きてますね。歌手として尊敬する3大女性は、エディット・ピアフ、エリス・レジーナ、中島みゆきなんですが。
――人生そのものを歌う歌手ですね、3人とも。
山野:本当にそうですね。自分が好きで聴いてきた歌手のみなさんからの影響は、自然に入っていると思います。なので(アルバムのタイトルは)“アトリエ”なんですよ。ミュージアムほどきちんとしてないというか(笑)、私のアトリエにフラッと遊びに来る感じで楽しんでもらえたらなって。
リリース情報
山野ミナ『L'ATELIER』
- 2021/8/25 RELEASE
公演情報
【山野ミナ メジャー・デビュー記念ライヴ】
- 2021年9月13日(月)東京・コットンクラブ
- http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/mina-yamano/
- 2021年9月16日(木)大阪・ミスターケリーズ
- https://misterkellys.co.jp/schedule2021-09/210916-2/
関連リンク
取材・文:森朋之
写真:Yuma Totsuka
高橋幸宏との楽曲制作
――アルバムのプロデューサーは、高橋幸宏さん。
山野:共通の知り合いがたくさんいて、4,5年前からライブを観させてもらったり、皆で食事する機会もあって。「いつか曲を作ってあげるよ」と言っていただいたことがあるので、今回のタイミングで勇気を出してお願いしてみたら、「やるんだったら、しっかり関わりたい」と言ってくださって。伊藤ゴローさんを紹介してくだったのも、幸宏さんなんですよ。
――“ヨーロピアン×ラテン”というコンセプトにぴったりですよね。
山野:いい出会いをさせてもらいました。「青空と狂気」という曲は、幸宏さんがインスタにあげていた写真がきっかけなんです。軽井沢の青空と大きな“つらら”の写真で、“青空に凶器”というタイトルがついていて。これを歌にしたいと思って、タイトル先行で作ったのが、「青空と狂気」なんです。
――なるほど。「約束」「遠くで暮らすあなたへ」など、大切な人に向けられた楽曲も素晴らしくて。これは今の世情も反映されているんでしょうか?
山野:お察しの通りですね。アルバムに収録されているオリジナル曲はほとんどコロナ禍になってから制作したんですが、「約束」「遠くで暮らすあなたへ」は、2020年の3月・4月くらいに書いたんです。いちばん怖かった時期だと思うんですが、その頃にフッと舞い降りた曲で。私自身の大切な人に向けた曲なんですが、結果的に聴いてくれた方に響けばいいなと思ってます。
――コロナ禍はもちろん、山野さんの活動にも影響してますよね?
山野:もちろん影響はありますが、私はそんなにネガティブには捉えてなくて。曲もかなり書いたし、絵もずっと描いていて。コロナになってから、個展を2回やってますからね。音楽活動をある程度休まなくちゃいけなかったからこそ、いろいろと創作活動もできたし、いい時間を過ごせたと思います。もともと引きこもり気味というか(笑)、一人で歌を作ったり、絵を描くのが好きなので。
――「ダメな男」「La Seconde Femme~二番目の女~」は往年のシャンソンを想起させる楽曲。こういうストーリーはどうやって生み出しているんですか?
山野:実体験だったり、人から聞いた話を自分のなかで昇華して、脚本化している感じですね。先ほども言いましたけど、もともとミュージカルやお芝居が好きなので、 ストーリー性の楽曲もアルバムに入れたくて。
▲山野ミナ「ダメな男」
――カバー曲は高橋幸宏さんの「LA ROSA」(アルバム『Saravah Saravah!』収録)、「海辺の荘(いえ)」(アルバム『FATE OF GOLD』収録)、そして、ブレッド&バターの「ピンク・シャドウ」。
山野:まず“ブレバタ”の「ピンク・シャドウ」は、ライブでカバーしたことがあって。私、ピンク色が好きなのでピンクにまつわる曲をカバーしてるんですけど――「桃色吐息」とか「恋は桃色」とか――「ピンク・シャドウ」はそのなかの一つですね。幸宏さんの楽曲に関しては、「Saravah Saravah!」が大好きで、「いつかああいうアルバムを作ってみたい」という憧れがあるので、1曲カバーしたかったんです。「LA ROSA」はバラのことですけど、スペイン語、ポルトガル語だとピンクという意味があるんですよ。「海辺の荘(いえ)」は、幸宏さんのファンの方からのリクエストです(笑)。
――幸宏さんの楽曲提供による「Yo soy Yo」はスペイン語と日本語が混ざった楽曲。ここまでオーセンティックなラテンは、幸宏さんにとってもかなりレアなのでは?
山野:こういう曲を作ったのは初めてだって仰ってました。まずスペイン語でラフを作って、日本語の部分を幸宏さん、スペイン語のパートを私が書いて。スペイン語は強気な女の子、日本語は弱気な女の子というコンセプトで……それはつまり、私のことなんです。幸宏さん、よく見てくださってるんだなって思いました(笑)。
――1曲1曲の歌の表情も、このアルバムの魅力だなと。
山野:ありがとうございます。統一感も大事だと思いますけど、曲によって「こう歌いたい」というものが違うし、芝居やミュージカルのように曲ごとに声が変わったり人格が変わってもいいんじゃないかなと。
――自分の個性をアピールするより、曲を伝えることが優先。
山野:もちろん。個性や技術も必要ですけど、いちばんは表現力だと思うので。
――『L'ATELIER』によって、アーティストとしてのスタイルを確立できたという実感もあるのでは?
山野:そこまでの確信はなくて、「このアルバムでやっと歌手としてのスタート地点に立てた」と思ってます。ここまで長かったし、挫折も味わいましたけど、何も無駄じゃなかったなって。そう思えたことはすごくよかったですね。
――アルバムの楽曲をライブで体感できるのも楽しみです。
山野:私も楽しみです(笑)。それこそミュージカル仕立てというか、例えばジュディ・ガーランドみたいに、ちょっと芝居を取り入れたステージもいつかはやってみたくて。ミュージカルの舞台に立ちたいという気持ちも、まだ頭の片隅にありますね。
リリース情報
山野ミナ『L'ATELIER』
- 2021/8/25 RELEASE
公演情報
【山野ミナ メジャー・デビュー記念ライヴ】
- 2021年9月13日(月)東京・コットンクラブ
- http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/mina-yamano/
- 2021年9月16日(木)大阪・ミスターケリーズ
- https://misterkellys.co.jp/schedule2021-09/210916-2/
関連リンク
取材・文:森朋之
写真:Yuma Totsuka
L’ATELIER アトリエ
2021/08/25 RELEASE
COCB-54335 ¥ 3,000(税込)
Disc01
- 01.約束
- 02.ダメな男
- 03.LA ROSA
- 04.Parfum
- 05.ピンク・シャドウ
- 06.青空と狂気
- 07.遠くで暮らすあなたへ
- 08.海辺の荘
- 09.La Seconde Femme~二番目の女~
- 10.Sophia
- 11.MOTHER~大地なる母~
- 12.Yo soy Yo
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