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<インタビュー>イングヴェイ・マルムスティーン、2年半ぶりの新作『PARABELLUM』は「俺が作った最もピュアなアルバム」
メタル・シーン屈指のレジェンド、イングヴェイ・マルムスティーンのおよそ2年半ぶりとなるニュー・アルバム『パラベラム』が7月23日にリリースされた。前作『Blue Lightning』では、彼が敬愛するブルース・ロックを体現したアルバムだったが、今作では原点回帰とも言えるネオ・クラシカル・メタル路線を追求し、「これぞイングヴェイ!」と快哉を上げたくなるような作品に仕上がっている。ローレンス・レナーバックの叩くドラム以外、全ての楽器を彼が一人で演奏したという本作。攻撃的かつ情熱的、ときに繊細で美しいその超絶ギタープレイは一体どのように生み出されるのだろうか。アルバム制作エピソードはもちろん、コロナ禍で考えていたことなど、たっぷりと話してもらった。
「そもそも前作がイレギュラーなアルバムだった」
――昨年から続く新型コロナウィルス感染拡大により、世界中のエンターテインメント業界は現在大変な苦境に立たされています。イングヴェイさんは、この間どのようなことを考えていましたか?
イングヴェイ・マルムスティーン(以下:イングヴェイ):もちろんコロナは悲惨だ。人が病気になったり、死んだりしているんだから本当に良くないことだよ。ただ、政府もちょっと騒ぎ過ぎているんじゃないかな。国民の面倒を見つつ、ワクチン接種を進める一方で、現状に向き合いそれに対処すべきだ。俺たちも強くならなきゃいけないしね。実は、後2週間でツアーに出ることが決まっているんだ。もちろん日本にも行きたいし、君たちが許してくれ次第、すぐに計画を立てるよ!
――是非ともそうなってほしいです。ちなみにステイホーム期間中は何をしていましたか?
イングヴェイ:俺たちが住んでいるマイアミは、ステイホームしなくても良かったんだ。ここの知事はとても優秀で、ロックダウンも一度もなかった。クルージングにも行けたしビーチにも行けた。なんでも好きなことが出来たんだよね。もちろん、今言ったようにツアーにはものすごく大きな影響があったよ。突然ギグがひとつも出来なくなったしね。ただ、おかげでレコーディングする期間が増えたから、時間を無駄にすることはなかったんだ。
――ツアーに出られなかったこと以外、生活はいつも通りだったわけですね。
イングヴェイ:その通り。何も変わらなかったよ。州によっては未だに制限がかかっているところもあるけど、フロリダでは2週間くらいしか制限はなかったんじゃないかな。しばらくの間、マスク着用は必須だったしね。でも今は全く問題ない。じきに完全に元どおりになると思っているよ。そもそも人間はロックダウンされていられるようには出来ていないんだからさ。もちろん、これまでにもパンデミックはあった。1918年にもあったし、2000年代になってからだってあった。そしてアメリカでは毎年8万もの人がインフルエンザで死んでいる。でも、それってどうしようもないことだよね。俺には分からないこともたくさんあるし、政治的なことには関わりたくないからな。でも、フロリダは今後ずっと良くなると思うよ。
――2020年4月からYouTubeでの動画配信を積極的に始められましたよね。あれはある意味、新しいことだったのではありませんか?
イングヴェイ:確かにね。コロナになって自分がどれだけツアーに出たかったのか、どれだけファンとの触れ合いを求めていたかに気がついたし、YouTubeで動画を配信するのは、ファンとの交流を続けていくためにいいと思った。実際にやってみて、とても良かったよ。根を詰めてやっていたわけではなく、リラックスして出来たしね。ファンからの質問にも答えることもできて、本当に最高だったよ。
▲In-Studio Masterclass
――そして今回、およそ2年半ぶりとなるニュー・アルバム『PARABELLUM』がリリースされました。前作『Blue Lightning』は、イングヴェイさんが敬愛するブルーズ・ミュージックのルーツを体現したアルバムでしたが、今作では原点回帰とも言えるネオ・クラシカル・メタル路線となりました。
イングヴェイ:そもそも前作がイレギュラーなアルバムだったんだよね。もともと俺はブルーズが好きで、その後クラシックにハマっていった。そこから俺のスタイルが形成されていったから、ギターを弾くと自然と今回のような作風になる。要するに、前作では意図的にブルーズをやろうと思ったけど、今回は特に方向性も定めずにただ俺の中にあるものをやっただけ。イングヴェイ・マルムスティーンと言えばこれなんだ。
イングヴェイ:ちなみに今回、アルバムのための曲を100曲近く作った。そしてその中から、最も強力な表現だと思える10曲を選んだんだ。俺は、俺らしくありたいと思っている。「これをやろう」と思ってやっているわけじゃないし、人を喜ばせようと思ってやっているわけでもない。俺は誰も喜ばせようとしていない。実際、完成するまで自分が書いた曲を誰にも聴かせなかった。いつもはデモを人に聴かせるのだけど、今回はネットにアップするまでエンジニア以外誰にも聴かせなかったんだ。
――それはなぜですか?
イングヴェイ:今作で俺は「何ものにも影響されまい」と心に決めたからなんだ。そういう意味で本作は、俺が作った最もピュアなアルバムだよ。それは間違いない。ほとんど常にイングヴェイ・マルムスティーンはイングヴェイ・マルムスティーンだけど、今回は時間をかけて最高のものに仕上げたし、何かに邪魔されて内容が薄まることを一切許さなかったんだ。
表現は内側からしか生まれないし、それをそのまま世に送り出して、聴いた人がそれを気に入ったり嫌ったりする。真のアートとはそういうものだと思うんだ。昔は、「こうこうこういう曲を書けば、MTVで流してもらえる」みたいなことが重要とされていたけどね(笑)。
――アルバム・タイトルの由来は?
イングヴェイ:これは2、3000年前に生まれたラテン語の表現だよ。‘Si Vis Pacem Parabellum’は、“平和を望むなら、戦争に備えよ”という意味だ。これはまさに真実を述べているし、とても気に入っている。昔ロナルド・レーガンは、「力による平和(Peace through strength)」と言ったけど、それと全く同じことを意味するフレーズだ。俺たちは平和を求めている。当然のことだ。でも平和を求めるのなら、戦争に備えないといけないんだよ。戦争に備えていなければ、戦争の方からこっちにやって来る。これは戦争だけでなく、全てのことに言える哲学的なフレーズでもある。
――日本語にも 「備えあれば憂いなし」というフレーズがあります。
イングヴェイ:俺にとっては、どちらかというと言葉遊びに近いんだよね。しかもラテン語は大好きだし、こういう仰々しいフレーズに常に惹かれるんだ(笑)。
リリース情報
『パラベラム』
- 2021/7/23 RELEASE
- KICP4032 [Blu spec CD] 3,080円(tax in.)
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取材・文:黒田隆憲
「Pro Toolsは完璧なんだ。でも、それ以外は昔と何も変わっていない」
――歌詞を読んでみても、「戦い」というワードがほとんどの曲に散りばめられていますよね。
イングヴェイ:俺の中から出て来たのはこれなんだ。中には「Eternal Bliss」みたいな曲もある。これは俺が歩んで来た全てのことに感謝している曲で、単に「ありがとう」と言っているんだ。次回はテディベアや虹や、ロリポップや綿あめについての曲を書くかもしれないよ。うちの犬はテディベアみたいだしさ。そして野原をスキップしながら、「ハロー!」って言うのはどうだい?
▲イングヴェイ・マルムスティーン「Eternal Bliss」
――(笑)いいかもしれませんね。ちなみに先行リリースされた「Wolves At The Door」では、ラフマニノフ作曲の「パガニーニの主題による狂詩曲」をモチーフにしたギターソロを披露しています。他にも超絶ギタープレイが全編にわたって展開していますが、特にチャレンジングだった楽曲というと?
イングヴェイ:「全部チャレンジングだった」っていうのはどうだ?(笑)。 「Toccata」「Presto Vivace」「Parabellum」「Wolves At The Door」、どの曲にもチャレンジングなパートを入れたよ。例えば「(Si Vis Pacem)Parabellum」のイントロは、弾くのがバカみたいに難しい。完璧にクリーンに弾くのがね。「Presto Vivace in C# minor」も同様で、ものすご~く難しい曲だ。
▲イングヴェイ・マルムスティーン「Presto Vivace in #C Minor」
イングヴェイ:一方、ギターソロはインプロバイズもする。自分自身をあっと驚かせるようなものを自分に求めるんだけど、それってほとんど不可能なんだ。どうすればいい? どうすれば自分を感動させられる? 無理だね。でも、俺はそれを求めている。「一体あれは何だったんだ?」って思えるようなものをインプロバイズしたいんだ。俺はそういう人間なんだよ。徹底している。諦めないんだ。そのおかげで俺は、今のテクニックを習得出来たし今の成功をつかんだんだと思う。
――なるほど。
イングヴェイ:俺は、自分が求めるレベルに達するまで諦めることをしない。それは全てのことに当てはまる。自分のプレイやパフォーマンスに対して常に批判的なんだ。これまでに俺がやった最高のライブはどれだったかと訊かれたら、「次にやるヤツだ」と答えるね。アルバムも同じ。例えば誰かに「それ、最高だったよ!」と言われても、ありがたいとは思うけど、だからと言って自分がすごいとは思わない。俺が自分のやったことに満足できるのは、インプロバイズしたり、パフォーマンスしたり、レコーディングしたものが俺自身をあっと驚かせた時だ。その時は自分で自分の肩を叩いてやるんだ、「よくやったな」って。ただし、翌日になったら、それはもう価値がなくなるんだ。
――ニック・マリノヴィックがキーボードをプレイした前々作の『World on Fire』(2016年)とは違って今回、全てローランドのギター・シンセサイザーを使って録音したと聞きました。
イングヴェイ:実を言うと、ニックが『World on Fire』でやったことはたったの2つだけで、残りは今作と同様に全てギター・シンセだったんだ。前作『Blue Lightning』(2019年)でも、ギター・シンセとハモンド・オルガンを使ったし『Spellbound』(2012年)でも使った。要は、スタジオでピアノ・パートなりバイオリン・パートなりを思いついた時は、誰かを呼ぶなんてことはしない。今やりたいんだから、ギターで今やるってわけ! それがダメだったら他のものと差し替えるけど、良かったらそれをそのまま使うんだ。
――そうだったんですね。あと、かつてはアナログ録音に拘っていたそうですが、現在はPro Toolsを導入したレコーディングを行なっていると聞きました。
イングヴェイ:以前Pro Toolsを使っていなかったのは、音が悪いと思っていたからだ。それが20年前だったかな、もうちょっと前だったかもしれない。プロデューサーのジェフ・グリックスマンは仲のいい友人で、彼がOTARIハードディスク・レコーダーを進めてくれて、それとテープを併用して来たんだけど、遂にドラムにハードディスク・レコーダーを使うようになって、その他のものには全てまた別のハードディスク・レコーダーを使うようになった。
一方で、とても重要なのはNEVE、SSL、1176コンプレッサー、そしてKEELEYチューブ・コンプレッサーといったアナログのコンプレッサーやプリアンプを今も使っていること。しかも、UNIVERSAL AUDIOの最高のインターフェースを使っているので、ほとんどアナログに近いサウンドが録れているんだ。もっとテープっぽい音にしたかったらSTUDERのプラグインを使えばその通りになる。それと、Pro Toolsなら細かいエディットもできるしね。俺の場合、1曲に1ヶ月もかけることがあるんで、「クソッ、ここは16小節にしとけば良かった」とか「このソロパートは曲のオープニングに持って来るべきだ」とか「このサビで曲を始めるべきだ」とか思うわけだよ。そんな時、Pro Toolsなら簡単に並べ替えることができる。
――アナログレコーディングの時は、それが不可能だった。
イングヴェイ:となると妥協せざるを得ない。君ももうわかっていると思うけど、妥協が大嫌いな俺にとってPro Toolsは完璧なんだ。でも、それ以外は昔と何も変わっていない。デカいミキシング・コンソールだってある。マーシャル・ヘッドは60台あるし、ギターは300本ある。俺のスタジオはクレイジーで最高だよ(笑)。
――ちなみにローレンス・レナーバックの叩くドラム以外、全ての楽器やヴォーカル、コーラスをイングヴェイさんが演奏しているそうですね。一人多重録音を行うことで、作品にどのような効果が生まれると考えていますか?
イングヴェイ:特に違いはないね。面白いエピソードを教えてあげよう。1982年のことだ。俺はスウェーデンで悪戦苦闘していたんだけど、どうにも埒が明かなかった。ある時地下鉄の駅にいたら、『Guitar Player Magazine』という雑誌を見かけた。そこには「カセットを送ってくれたら記事にする」みたいなことが書いてあったんで、俺はスタジオに入ってデモテープを作った。そこには「Black Star」「Now Your Ships Are Burned」とかが入っていたけど、アメリカへの切符をつかむことになったそのテープで俺はドラム、ベース、キーボード、ギター、ヴォーカル全てをやったんだ。
――そうだったんですね。
イングヴェイ:70年代中頃、子供だった俺は、祖母が所有していたビルに「おじ」が設立したレコーディング・スタジオを使わせてもらっていた。祖父がドラマーだったので、そこにはドラムキットも置いてあってね。その頃からずっとドラムを叩き、ベース、ギターを弾きながら曲を書いていたんだ。
――アルバムジャケットは、フォトグラファーのマーク・ワイスが撮影したあなたの写真をもとに、デイヴィッド・ベネガスが描いたもので、元々はあなたの妻エイプリルさんが立ち上げた『April Way Children’s Foundation』の最初のプロジェクトとして描かれた肖像画だと聞きました。
イングヴェイ:元々じゃない。アルバムを制作しているときに、コーヒーを飲んでいた妻が「アルバムジャケットはあなたの絵にするべきだわ」と言ったんで俺は「わかった」と言った。誰が描くことになるかもわからなかったけど、妻が画家を見つけて来た。妻が全てを仕切ったんだ。そしてアートワークはチャリティに使われたんだけど、結果的にとてもいいアルバムジャケットになったと思う。とっても満足しているよ。
――もうじきツアーに出られるそうですね。
イングヴェイ:7月23日が、ここマイアミでの初日なんだ。それから、フロリダ州タンパでライブがある。それからテキサス州でもいくつかライブがある。誰もブッキングしていなかった時にブッキングしたから、スケジュールを入れることが出来た。そして11月には大規模なアメリカ・ツアーがある。そして、8月、9月、10月も出来るだけブッキングしようと思っているよ。
――少なくともアメリカは、平常を取り戻しつつあるのですね。
イングヴェイ:ああ、州によるけどね。民主党支持の州は締め切っていて、共和党支持の州は開けている。州ごとに政府があるから、ほとんど50もの国があるようなものさ。だから、それぞれかなり違うんだ。法律も、税率も違う。気候も違うし。デカい国だからな。
――コロナがあったことで、今後の世界では音楽の届け方にどのような変化が生まれると思いますか?
イングヴェイ:変化しないことを願っているよ。個人的には、もうこのコロナにはうんざりなんだ。もうおしまいにしてくれ、頼むから。俺たちはもうさんざんな目に遭って来た。最初に話したように、ここマイアミではマスクもしていないし、全てオーケーだ。映画にだって行けるしライブにも行けるし、なんでも出来る。全てが普通だよ。
――そうですか。イングヴェイさんとしては、これまで通りのことをやって行きたいわけですね。
イングヴェイ:ああ。一度だけ、ラスベガスでストリーミング・ライブをやったけど、あれは俺向きじゃなかったね。オーディエンスとの絡みが大事だからさ。それが当たり前だとは思っていなかったけど、オーディエンスがいないとまるでリハーサルみたいだ。悲惨だよ。好きじゃない。しかも俺はリハーサルが嫌いだし!(笑)
――では最後に、あなたを待ちわびているファンに向けて、何かメッセージをお願いします。
イングヴェイ:アルバムを楽しんでくれ。一生懸命作ったからな、最初から最後まで聴いてみてくれ。1曲だけじゃだめだよ。そして出来るだけ早く、またぜひとも日本に行きたいと思っているよ。
リリース情報
『パラベラム』
- 2021/7/23 RELEASE
- KICP4032 [Blu spec CD] 3,080円(tax in.)
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取材・文:黒田隆憲
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