Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>ReNが振り返る“道”を見失った2年間、その先に訪れた一筋の光『ReNBRANDT』



インタビュー

 コロナによって世界が大きく変わろうとしている今、アーティストにも変化が迫られているように思う。ReNは、そんな今の世の中で起きている変化を敏感に感じ取ったシンガー・ソングライターのひとりだ。

 「自分だけの言葉や自分だけのエゴの世界が作品として成立しない。今はみんなにとっても必要な言葉を届けなきゃいけない」

 レーサーとしての道が閉ざされ、アーティストとして活動を始めたのが二十歳のとき。それからギター1本でステージに立ち、順調にリリースを重ねてきた。そんな彼に、また新たな壁が立ちはだかる。新型コロナウイルスの感染拡大によって、自分の存在意義とも言える場であったライブすらも奪われたのだ。しかし彼は、それでも諦めない。前を向き、果敢に歌い続けている。雲間から差す、一筋の“光”を求めて。

――今回のアルバム『ReNBRANDT』は、フルアルバムとしては2017年以来、4年ぶりとなります。コロナはもちろん、平成から令和という時代の変わり目など、世の中的にも大きな変化のあったこの4年間は、ご自身にとってどのような意味を持つ期間でしたか?

ReN:前回のアルバム『LIFE SAVER』(2017)を出してからの2年はライブもしつつ、順調に制作も進んではいたんですけど、やっぱりそれからの2年間ですよね。いま振り返ってみてもこの2年はすごく大きくて、けっこう自分はしんどかったです。コロナでライブができなくなったことで、何を目的としていいのか分からなくなって。それまではたしかに道はあったように見えていたけど、その道すらも本当になくなってしまって、ゴールだけが遠くに微かに見えているような。どうやって進めばいいんだっていう。みんなの前で自分の楽曲を披露する場がなくなってしまったので。

――それは喪失感のような感覚ですか?

ReN:喪失感というより……不安ですね。今まではライブがモチベーションに繋がっていた部分があったので、ライブがあるから次の作品の世界が見えてきたり、自分自身の存在意義を確かめられたり。それくらい自分にとってライブは大きい存在だったから、それがなくなる不安感というんですかね。やっぱり、(ライブが)またできるようになるのかなって心配せざるを得なかったし、いつかできるようになるまで今できることをやろうと捉えられるようになるまでは、僕の場合、ちょっと時間がかかったんです。正直すごくしんどかったけど、でもそこで感じたものが今回の作品に良い影響として出ていると思います。結果的に前に進める期間にはなりました。

――そうやって変われたタイミングやきっかけはあったのでしょうか?

ReN:ライブができていたときは、自分が歌いたい曲や描きたい世界観だけをやってきて、それを気に入ってくれたみんながついて来てくれてました。でも、それってライブがあったからこそ成り立っていたことなんですよね。ライブができなくなると、自分だけの言葉やエゴの世界が作品として成立しないと思ったんです。自分が歌うのは自分にとって必要な言葉なんだけど、今はみんなにとっても必要な言葉を届けなきゃいけない。自分のためだけではない、誰かのために、自分が今この瞬間で紡いだ言葉を届けることのほうが、自分には幸せに感じられたんです。

――その変化はかなり大きいですね。

ReN:コロナの世界のことを無視したような曲も頑張って作ってはみたんですけど、なかなか上手くいかなくて。それで去年「We'll be fine」という曲を“大丈夫なんだよ”と自分に言い聞かせる思いで歌ったんです。そしたら、たしかに自分の曲を聴いてくれている人たちがいて。ちょうど僕自身、気持ちが沈んでいた時期でもあったので、「こんなに聴いてくれてる人たちがいるんだ」と強く思えたんです。僕の作った音楽で誰かの日常を笑顔にできたんだなって実感できた。もちろんそれは今までもライブを通して感じてはいたんだけど、より大きく自分の中で大切なものとして感じられたんです。それで曲を作るのが楽しくなってきて。自分の曲で誰かが前向きになってくれるかもしれないということに気づけたんですよね。

――自分のためではなく、聴いてくれる人のために書くことで曲作りが楽しくなっていったと。

ReN:「聴いてくれる人のために」というとちょっと綺麗な話になっちゃうんだけど、でも実はそれは自分自身に必要な言葉だったり、伝えたい言葉でもあったりするんですよね。そういう言葉を歌にすることで、結果的に自分のものが人のものになっていく。それがよく分かった時期でした。

NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. Next>


――今回のコロナだけでなく、ReNさんはこれまで何かの壁にぶつかったときや挫折したとき、それを上手くプラスに変換してきた印象があります。

ReN:キャリアで見れば二十歳のとき、挫折というんですかね、そういうのがあったんですけど、それを単なる挫折という言葉で片付けたくなかったんです。「そういうこともあるよ」と言いたかった。そこで止まっていたら本当に挫折になっちゃうから、「ここで終わらせたら凡人だぞ」と自分に言い聞かせて、最終的に「ああいうことがあって良かった」と思えるためにこういうことが起きてるんだと信じ込ませるしかないと思ってました。そうすると、不思議と怒りとか苛立ちの気持ちが自然と湧いてくるんです。這い上がるときって優しさだけじゃ絶対に駄目で、怒りの感情も必要だと思うんですよ。そういうものを吐き出す手段が、結果的に僕の場合は音楽だったんです。

――先行シングル「One Last Try (feat. Maisie Peters)」は、まさにReNさんのそうした過去の体験が反映された作品ですよね。

ReN:この曲はアシックスのCMソングとして書き下ろしたんですけど、楽曲のデモ自体は去年の段階ですでにあったんです。ただ、その時点では歌詞がまだ不透明でした。なので世界観は見えているんだけど、明確な腑に落ちるものを探していた状態で。ちょうどそのデモを聴いてもらったら「ピッタリ合う」という返事をいただきました。なので、せっかくだから自分の経験を混ぜて、当時の悔しさをしっかり引っ張り出してみようと。

――“すべての闘う人へのアンセム”とのことで、聴いていると心が奮い立つような力強さを感じます。

ReN:本来は去年開催されるはずだったオリンピックに向けて頑張っていたのは、なにも選手だけではないと思うんです。実現させようと努力していた人たちの感情を想像してみたとき、たぶん怒りや苛立ちもあったと思うし、孤独な気持ちも大きかったと思う。その気持ちは僕が過去に感じてきた気持ちと同じはずだから、選手の人たちも、今のコロナ禍と闘ってる人も、自分も、みんな同じように闘っているんだということを、この曲で表現できたらなと思いました。

――ボーカルにはMaisie Petersを迎えていますね。

ReN:日本だけではなく世界で起きていることなので、世界の人たちも闘っているからこそ、英語と日本語というそれぞれ違った母国語を持った二人が歌う意味を追求できたと思います。

――ReNさんのディスコグラフィーを振り返ると、主に2019年の「HURRICANE」(2nd EP『Fallin'』収録)以降、色んな人が制作に関わる曲作りをされていると思います。一人で完結した曲作りと、今回のMaisie Petersのように複数人が関わる制作にはどんな違いがありますか?

ReN:誰かと一緒に作業すると絶対に“想定通り”にいかなくて、それがやっぱりすごく良いんです。もちろん自分がデモを作って、自分で詞を書き上げて、自分で歌ったものが一番自分の中で新鮮ではあるんです。でも、関わる人が多いと絶対に違う方向になって返ってくる。自分が歌ったメロディを同じように歌ってもらっても必ず変わってくるんですよね。そこが色んな人と作ったり、コラボする大きな意味だと思いますし、楽しいところです。

NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. Next>


――今回のアルバム・タイトルの『ReNBRANDT』に込めた意味や思いを教えていただけますか?

ReN:雲間から光が差す景色をよく見ることがあるんですけど、その光はレンブラント光線というんです。レンブラントという画家の名前に由来するんですけど、レンブラントはいわゆる”光”を表現した画家さんで。その風景が“今”にものすごく合っているなと思ったんです。

――なるほど。世の中の現状に対する思いみたいなものを表現しているんですね。

ReN:それと僕が歌ってきた音楽って、常にどこかにそういう思いがあって。

――というと?

ReN:暗闇から光が差してきて、その奥には光があるという……僕自身の願いでもあり、自分が追いかけている大きなテーマでもあります。1stアルバムも『Lights』だし、2ndアルバムも『LIFE SAVER』。自分を救い出してくれたり、希望に導いてくれたり、歌うことによって気持ちを浄化できたりっていうイメージなんですよね、僕の作品は。なおかつ”ReN”という自分の名前も入っているから、これはタイトルにするしかないだろと思って(笑)。

――たしかに、そう言われてみると一貫していますね。

ReN:このアルバム自体もそういう作品になってほしいと思ってこのタイトルにしました。

――ReNさんの魅力のひとつにライブがあると思いますが、なかなかこれまでのようにライブができない状況が続いていると思います。こうした中でアーティストに求められていることは何だと思いますか? また、ご自身がこの状況の中で心がけていることはありますか?

ReN:最近、アーティストにとって重要なことがようやく分かり始めてきたんです。アーティストって“ワクワク”を作り出せる人だと思うんですよ。

――ワクワク?

ReN:特に音楽の世界は、聴いてくれる人たちが「次の作品はどんなものになるだろう」と楽しみに待てるようなものを生み出すことが大切だと思うんです。それが今、アーティストに求められているんじゃないかな。もちろん作品のクオリティは突き詰めていかなきゃいけないけど、そうやってみんなが楽しみにできることが重要だと思うし、本当の意味で音楽の力ってそこだと思うんです。こんなのが出る、あんなのが出るというワクワクや楽しみを提供できるポジションに自分がいれることに感謝しています。

――最近ワクワクがどんどん減っている気がするので、とても沁みる言葉です。

ReN:娯楽がないと人って悪い方向にいくんですよね。僕もライブがなくなったことで、自分の中の癒しみたいなものがなくなってしまって、いつか文句垂れた人になりそうで怖いんです。自分の心を解放できていない気がしていて。だから楽しみを見つけないと駄目な人間になると思って、僕けっこうお笑いも好きだから、YouTubeでお笑い関連の動画をよく見るんですけど、昔はただ単に笑わされていただけなのに、今は本当にありがとうございますって心から思うんです。この笑えない時期に、みんなが笑えることをこんなに一所懸命に考えてくれていることに本当に感謝しています。

――音楽の世界では日本で刺激を受けている方はいますか?

ReN:僕はヒップホップが好きで、リリックを重要視するようなラップ・ミュージックをよく聴くんです。例えば、もう亡くなっちゃっているんですけど、不可思議/wonderboyが歌っていたことは魂を削っているようで感動します。




――ReNさんの音楽とはジャンルが違うので意外です。

ReN:自分と音楽性はまったく違うんですけど、アーティストとして持っていなければならないものを持っていると思うんです。特にヒップホップの世界にはかなり多い気がしていて。日本の現実を歌ったり、日本で生きていく葛藤を歌うような、そういう方の作品から僕は歌詞を書くうえで影響を受けてますね。言葉とリズムで言霊を届けるというか、メンタリティとか生き様の面ですね。マインドは共通していると思います。

――将来こうなっていたいというような、目指しているアーティスト像があれば教えてください。

ReN:人物を挙げるのは難しいんですけど、やっぱり自分が納得できる音楽をし続けたい。カッコイイだけでは満足できなくて、やっぱり僕自身が人に伝えたいものが作品に宿ったときが一番幸せなんです。こうなりたいとか、ああなりたいというよりも、自分がこうだと思うことをずっと継続してやっていきたい。その結果、自分の目指しているところに行けると思っています。それと嘘のない音楽ですね。僕、器用なようで器用じゃないので。わりと臆病なタイプだし、小さいことを気にしちゃう性格がコンプレックスだったりして。でも自分はそれでいいんだと思っているんです。そういうのって曲に出てくると思うので、曲を聴いてくれた自分と同じような人に届けられたら嬉しい。自分が思っていることをしっかりとみんなにピュアに届け続けて、なおかつそれをみんなが自分のものとして捉えてくれたらいいなと思います。

Interview by 荻原梓
Photo by Yuma Totsuka

関連キーワード

TAG

関連商品

ReNBRANDT
ReN「ReNBRANDT」

2021/09/08

[CD]

¥2,970(税込)

Fallin’
ReN「Fallin’」

2019/11/27

[CD]

¥1,980(税込)

存在証明
ReN「存在証明」

2018/08/15

[CD]

¥1,834(税込)

LIFE SAVER
ReN「LIFE SAVER」

2017/06/28

[CD]

¥2,547(税込)

LIFE SAVER
ReN「LIFE SAVER」

2017/06/28

[CD]

¥2,547(税込)

Lights
ReN「Lights」

2016/06/01

[CD]

¥2,547(税込)

ReNBRANDT
ReN「ReNBRANDT」

2021/09/08

[CD]

¥2,970(税込)

Fallin’
ReN「Fallin’」

2019/11/27

[CD]

¥1,980(税込)

存在証明
ReN「存在証明」

2018/08/15

[CD]

¥1,834(税込)

Lights
ReN「Lights」

2016/06/01

[CD]

¥2,547(税込)