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泣き虫☔︎、インタビュー&コラムで紐解く話題曲「トーキョーワンダー。」
SNSを中心に若者から支持を集め、yamaやAdoといったシンガーとコラボレーションをするなど、精力的な活動を続けるソロアーティスト・泣き虫。TVアニメ『東京リベンジャーズ』の第2クールエンディング主題歌に抜擢された「トーキョーワンダー。」はリリース以降も話題を集め、海外での注目度も上がり続けている。キャリアのなかで最も大きな動きを見せている2021年、彼はどんなモードで音楽と向き合っているのだろうか。泣き虫というアーティスト像を探りながら、「トーキョーワンダー。」の核心をインタビューとコラムで紐解いていく。
匿名の写真アカウントから始まった泣き虫のスタイル
――このインタビューは『トーキョーワンダー。』の東阪リリースツアーが終了し、1週間ほど経ったタイミングで行っています。最近はいかがお過ごしですか?
泣き虫:スケジュールに余裕があるので、毎日ひたすら寝てます(笑)。
――(笑)。まず泣き虫さんと音楽の関係性を伺いたいのですが、音楽に魅せられたきっかけはロックバンドと出会ったことだそうですね。
泣き虫:親が車で聴いていたJ-POPしか知らなかった僕に、仲良くなったONE OK ROCK好きの友達がロックバンドを教えてくれたんです。ロックに触れたのは初めてだったので、聴いた瞬間にとにかくかっこいい!と衝撃を受けましたね。もともと『けいおん!』が大好きで、劇場版は映画館で4回観ました(笑)。
――前々からバンドに馴染みはあったと。
泣き虫:だからすぐに自分もロックバンドをやってみたいと思うようになりました。それからしばらくして音楽好きのメンバーが揃って、コピーバンドを始めましたね。今までイヤホンやスピーカーから聴いてたギターの音が、自分の鳴らしたギターから出ているのが快感で、すごく楽しくてしょうがなくてどんどんバンドにのめり込みました。好きなことはたくさんあったけど、やりたいことはバンド以外になかったから、「自分にはバンドしかない」「バンドで食っていきたい」という気持ちは大きくなっていきましたね。
――音楽は人生を賭けるに値するものだったということですね。
泣き虫:そこからどんどん音楽漬けの生活になっていきました。でも最初に組んだコピバンのあと、いろいろバンドをやってみるんだけど思うように進んでいかなくて。だから音楽と距離を置いて1年間ほかのことに集中して、なんなら将来はそっち方面の仕事をしようとまで思ったんです。好きだし興味のあることだったんですけどね……びっくりするくらいつまんなかったんですよ。全然楽しくなくて飽きちゃって、音楽に戻るんです。でもゼロからメンバーを集めるのは億劫だったので、ひとまず自分ひとりで歌うようになって今に至る、という感じですね。
――現在お使いのTwitterアカウントは2016年5月に開設されていますが、その時からご自身の本名、素顔、年齢すべて非公表にするスタンスを取ってらっしゃったんですか?
泣き虫:遡ると、写真だけを淡々と載せている匿名のアカウントをたまたま見つけて。自分もそういうのを持ってみようかなと思って作ったのが、今の泣き虫として使ってるTwitterなんですよね。だから最初は身元を明かさずiPhoneで撮った写真を上げまくってて。そんな時にまた音楽を始めることにして、「じゃあ作った曲をここにアップしていけばいいかな」って。それで「君以外害。」を投稿したらそれを聴いた人がカバーしてくれて、そこからどんどん広がっていったのかな……? たぶん(笑)。
――たぶん(笑)。
泣き虫:昔のことあんまり覚えてないんですよね、なんでも衝動的に動くから(笑)。その最初のスタイルが今もまだ続いてるっていう感じです。
――匿名の写真アカウントに心を惹かれたことが、泣き虫のスタイルを作ったということですよね。なぜ「誰だかわからない」というものに惹かれたのでしょう?
泣き虫:僕本人がこの世から消えておきたいからですね(笑)。『メン・イン・ブラック』に記憶を消す道具(※ニューラライザー)があるじゃないですか。ああいうので自分の存在を消したい(笑)。今も身元を明かしていないおかげで、買い物も好きな時に好きな服で行けるので便利です(笑)。
――身元を隠して人間界にひっそり暮らす妖怪みたいなことをおっしゃっていますが(笑)。
泣き虫:あー、妖怪いいっすね。好きっすね。なりたいです(笑)。
――泣き虫さんはSNSで日常的に様々なアーティストの音楽をシェアしていますが、そのラインナップも幅広さや、アンテナの速さにも感心します。
泣き虫:音楽を聴くのもMVを観るのも好き……というか、つねに音楽を聴いていないと気持ち悪いんですよね。ひとりで外出する時は絶対にイヤホンしてるし、音量もMAX。だから無意識のうちに、毎日つねにアルバムをダウンロードして聴いて、いろんなMVを観てます。CDショップに行くのも好きで、気になるアー写やジャケットを見掛けたらすぐ調べて音源もチェックしてますね。だから音楽に触れることは、自分にとって呼吸と同じくらいのもので。それが自然と自分の作る音楽にも影響を及ぼしてるなと感じてます。
リリース情報
『トーキョーワンダー。』
2021/07/02 RELEASE配信リンク:https://lnk.to/_TokyoWonder
ステムデータ&インスト音源 無料配布:
http://nakimushi-tokyowonder.com
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Interview&Text:沖さやこ
自分にとっては、ひねくれた感じがストレート
――身元を明かしていないし、ご自身の心情や人生を歌詞にしないけれど、歌詞も楽曲もご自身の好みやセンスに忠実ではありますよね。ご自身の琴線に触れるものしか泣き虫として発信していないような印象があるのですが、いかがでしょうか。
泣き虫:やろうと思えばどんな曲も作れるんですよね。ほかの人の曲を聴いているときに、衝動的にインスパイアを受けて曲を作ることがよくあって。だからすっげえ「頑張れ!」って励ます系の曲ができることもあるんですけど、自分がそういう言葉を歌いたいとは思わないし、それを泣き虫でやる可能性は今のところないかな(笑)。聴き心地が良くて、完全に自分が好きだなと思う曲を泣き虫で発信してる節はあるかもしれないです。
――歌詞に陰のあるワードが多いのも、それが関係していますか?
泣き虫:そういう言葉のほうが好きなんですよね。ネガティブ寄りの感情って、素直な感じがするし。綺麗事しか言わない学校の先生がめちゃくちゃ嫌いで(笑)、その先生の言うこと全部が嘘っぽく聞こえるんですよね。それからひねくれ始めて、ちょっと意地悪な言い方だけど、揚げ足取るのが好きにもなって(笑)。
――また妖怪みたいなことをおっしゃる(笑)。シニカルな雰囲気はそういうところから来ているのかもしれません。それに本心を語るとなると、陰のある言葉が出てくることは多いですよね。
泣き虫:そうですよね。だから自分にとっては、このひねくれた感じがストレートでもあるし、心に突き刺さる感覚があるんですよね。わかりやすい。だから好きなんだと思います。歌詞は語感重視で意味は後回しだったりするんですけど、あとから読み返して自分が共感することがよくあるんです。外からの情報を得て感じたことを、無意識のうちに曲にしてるのかもしれない。ストレス発散でもあるのかもしれないですね(笑)。
――「ネモネア。」や、先日のライブで初披露した未発表の曲は海でお作りになったとのことで、「大迷惑星。」のMVの舞台が海岸ですが、泣き虫さんとって「海」はどんな場所なのでしょう?
泣き虫:地元が海のある街なので、海に朝までずっといることが多いですね。それが自分に馴染んでいるというか。誰にも邪魔されずギターを弾ける場所。たまにヤンキーに絡まれるけど(笑)。海で書いた曲もいくつかあるし……自分にとっては大事な場所。かも。
――かも?
泣き虫:かも(笑)。自分のこと、自分がいちばんよくわかってないんです。今やりたいと思ったことはそのうちにやらないと忘れるし、欲しいものもその時に買わないと欲しかったことを忘れちゃう。作ってる最中に飽きちゃって作らなくなる曲、作り終えたけど飽きちゃったから世に出してない曲もいっぱいあるんです。
――ということは世に出ている泣き虫の曲は、お気に入りしかないということですね。
泣き虫:あははは、そうですね。
――「トーキョーワンダー。」をきっかけに海外のリスナーを増やしていますが、この状況をどう捉えていますか?
泣き虫:うれしいです。洋楽も好きだし、海外のノリはめちゃくちゃ好きですね。「どんなことを歌っていても響きがかっこよければ聴いていて気持ちがいい」というのは、洋楽を聴いていて感じたことでもあるし、それが語感とメロディを大事にする自分のスタイルにつながっている気もしています。ツイキャスやインスタライブに海外の人がアクセスしてくれることも増えて、英語がわからないなりに返事をしています。だから海外でライブをしたい気持ちもあるんですけど、すぐ家に帰りたくなるので……。日帰りで海外行けますかね?
――まずは国内で宿泊トレーニングを始めましょう(笑)。泣き虫さんの感性がどんな音楽や感覚に反応して、どんな音楽を作っていくのか、この先も楽しみにしています。
泣き虫:前々からあってまだ世に出していない曲もまだあるし、この先の自分がどんな音楽を作るのか、どんなことをやりたいと思うのか、自分でも全然わからなくて。たぶんこの先も、その時その時でやりたいことは変わっていくんだと思う。だからほんと、自分でもこの先にどんな曲ができるのか楽しみなんですよね。
リリース情報
『トーキョーワンダー。』
2021/07/02 RELEASE配信リンク:https://lnk.to/_TokyoWonder
ステムデータ&インスト音源 無料配布:
http://nakimushi-tokyowonder.com
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Interview&Text:沖さやこ
衝動的な制作から生まれた「トーキョーワンダー。」
『東京リベンジャーズ』との親和性
2021年7月にリリースされた泣き虫の配信シングル「トーキョーワンダー。」はTVアニメ『東京リベンジャーズ』の第2クールエンディング主題歌。Apple Music J-Popランキングでは28か国でトップ10入り、iTunes Store J-Popランキングではイギリス、ブラジル、タイなど14か国でトップ10入りを果たし、国外からも注目を集めている。
エッジーなバンドサウンドとデジタルサウンドが溶け合った同曲は、ポップネスとダークネスがせめぎ合う前衛的な音像に仕上がっている。オープニング主題歌のOfficial髭男dism「Cry Baby」が作品の主人公・花垣武道や東京卍會を表しているとしたら、「トーキョーワンダー。」は「血のハロウィン編」で東京卍會と敵対する芭流覇羅の面々の空気感に近い。サビにある《怠い》はまさに副総長・半間修二の口癖だ。
「寝っ転がってギターを弾いてたらかっこいいコード進行ができて。それに合わせて直感的に歌ってみたら出来たのが「トーキョーワンダー。」ですね。最初に作ったものからほとんど手直しはしてないかな。最初に口でそのまま歌ったメロディと歌詞です。サビメロの気持ち良さも気に入ってますね。自分にフィットしていて歌いやすいし、攻撃的で疾走感のあるサウンド感は個人的にも好きなジャンルです」
緊張感と気だるさがない交ぜになったサウンドスケープは、泣き虫のクールなハスキーボイスとの相性もいい。加えてそれらは、若者が胸の奥に隠し持つ牙のような、いまにも爆発しそうな危うさや鋭さを体現している。つまり「トーキョーワンダー。」は、様々な心境を抱えながら自分の信念を貫くために闘う『東京リベンジャーズ』の登場人物の空気感を表しながらも、泣き虫というひとりの人間と密接な関係にある楽曲なのではないだろうか。
「いちばん最初に作った「君以外害。」はめちゃくちゃ考えて、カロリー使ってすっごい時間を掛けてフル尺を作ったんです。その時はそういう制作も全然苦じゃなかったんですけど、最近は時間がかかればかかるほど面倒になってきちゃう。出来るだけ時間をかけずに早く作らないと、その曲を作ることに飽きちゃうんです。スーパー面倒臭がりな性格が曲に出ちゃってるのかも(笑)」
生き急ぐように本能のままに己のセンスのみで特攻していく、衝動的な制作。「トーキョーワンダー。」が『東京リベンジャーズ』とここまでの親和性を見せたのは、アーティスト・泣き虫の本質が作品の登場人物と共鳴したからだろう。これまで泣き虫が発表した楽曲のなかでも非常に攻めた、変化球的なアプローチ。泣き虫の斬新で大胆なワードセンスやソングライティングの独自性をより顕著にしたアッパーチューンだ。
リリース情報
『トーキョーワンダー。』
2021/07/02 RELEASE配信リンク:https://lnk.to/_TokyoWonder
ステムデータ&インスト音源 無料配布:
http://nakimushi-tokyowonder.com
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Interview&Text:沖さやこ
rendez-vous
2021/02/10 RELEASE
PCCA-4998 ¥ 2,750(税込)
Disc01
- 01.からくりドール。
- 02.アイデンティティ。
- 03.くしゃくしゃ。
- 04.アルコール。
- 05.心配性。
- 06.夢遊。 (Acoustic Ver.)
- 07.Shake It Now. (feat.Ado)
- 08.POISON.
- 09.ケロケ論リー。
- 10.9
- 11.207号室。
- 12.ネモネア。
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