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<インタビュー>氷川きよしが「自分」と「あなた」を肯定する、ポップス・アルバム第2弾『You are you』を語る
氷川きよしが、ポップス・アルバムとしては約1年ぶり、通算2作目となる『You are you』をリリースする。自身が作詞を手掛けた表題曲「You are you」や「9月に逢いたい」、大黒摩季の提供によるロック・ナンバー「Glamorous Butterfly」、木根尚登の「RESET」やTM NETWORKの「SEVEN DAYS WAR」といったカバー曲など、計12曲を収録している。前作『Papillon(パピヨン)-ボヘミアン・ラプソディ-』で得た手応え、抑圧や偽りをすべて取り除いたピュアな“自分”を解放し、その姿を通して「あなた」を肯定する本作について、話を訊いた。
「あなたはあなたでいいんだよ」
――昨年6月にリリースされた氷川さん初のポップス・アルバム『Papillon(パピヨン)-ボヘミアン・ラプソディ-』は、Billboard JAPANの週間アルバム・セールス・チャート1位を記録するなど、大きな反響を呼びました。そこから約1年3か月、ポップス・アルバム第2弾となる『You are you』をリリースするに至ったのは、前作での手応えがご自身のクリエイティブを後押ししたからでしょうか?
本当におっしゃる通りです。前作では、醜い幼虫が美しい蝶として羽ばたいていく姿をひとつのテーマとして描いていったんですけど、それをたくさんの方に受け入れていただいたからこそ、そこに続く第2章として“You are you”というテーマを持った作品を作ることができたんですよね。まさに『Papillon』からの進化系と言えるのが今回のアルバムなんです。
――前作を作ったことで見えた、新たな可能性や欲求が今作に反映した部分もありました?
それはもちろん色々ありました。一番大きかったのは作詞だと思いますね。前作では「Never give up」という曲で初めて作詞をさせてもらったんですけど、今回は2曲も自分で書いてしまって。今までの自分は控えめな性格だったけど、もっとしゃしゃり出て「これが自分だ!」と言ってもいいんだという感覚に段々となってきたんですよ(笑)。そのきっかけが「限界突破×サバイバー」(17年10月リリースのシングル曲。TVアニメ『ドラゴンボール超』2期オープニングテーマとして大きな話題を集めた)であり、前回のアルバム『Papillon』だったと思うんです。自分は演歌歌手としてデビューしましたけど、ひとつのことだけにカテゴライズされるのではなく、「自分が生きていく中で何を作り出していけるのか」「唯一無二の自分というものを作っていくべきなんじゃないか」ということをより強く考えるようになりましたからね。それが自分で作詞をするということに繋がっているんだと思います。
氷川きよし / 限界突破×サバイバー ~「氷川きよしスペシャル・コンサート2018 きよしこの夜Vol.18」より【公式】
――“自分は自分であるべきだ”というメッセージは今作のタイトル曲であり、氷川さんが作詞を手掛けた「You are you」の歌詞にしっかりと込められていますよね。
はい。今の日本には、みんなと一緒でいることがいいことだという風潮があるじゃないですか。個性を出しすぎる人は叩かれてしまったりもするし。でも、これからの時代は、その人だけが持っているものをいかに伸ばしていくかが重要になってくると思うんです。だからこそ、この曲では「あなたはあなたでいいんだよ」ということをしっかり伝えたいなと思ったんですよね。自分自身、色んなことを抑え込んで生きてきた人間なので、その経験を通して感じたことを自分の言葉で綴ってみたんです。
――氷川さんの経験が反映されているからこその説得力がこの曲にはあると思います。
自分で歌うからにはやっぱり説得力があるものじゃないとなって最近はすごく思うんですよね。実際、振り返れば本当に色々経験してきましたから(笑)。ここからはその経験を通して学んだことを、後世の子たちの生きる力になるように歌っていけたらなと思うんです。悩み苦しんでいる子たちに、「どんなときも私が味方だからね。だから自分を否定するのではなく、ちゃんと肯定してあげてね」と言ってあげたいなって。今回2曲で作詞しましたけど、まだまだ言い足りないことがあるんですよ。昨日も夜に散歩していたら言葉がどんどん出てきちゃって。なので、今後も歌詞はいっぱい書いていきたいなと思っていますね。
――タイトル曲「You are you」の作曲は木根尚登さんが手掛けられていますね。
本当に大好きな曲になりました。木根さんとはもう10年以上のお付き合いなんですけど、人柄がすごくあたたかくて優しいから大好きなんですよ。だからこそ木根さんのメロディラインからは慈愛が溢れているし。今回「You are you」の歌詞を書いた段階で、これはもう木根さんにお願いするしかないなと思いましたね。氷川きよしの“ヒューマンポップス”シリーズには木根さんのメロディが必要だなって。
――ご自身で歌詞を書いた曲だと、より歌に感情が乗せられるところもあるんじゃないですか?
全然違いますね。気持ちがグッと入るというか。歌詞の内容も相まって、みんなに手を差し伸べながら歌いたくなる感じでした。「何があっても絶対に大丈夫」。聴いてくださる方に対しての、そんな思いを込めながら歌っていきましたね。
氷川きよし / You are you【公式】
“女性の強さ”がひとつのテーマ
――「生まれてきたら愛すればいい」でも木根さんが作曲を担当されています。作詞は「テルマエ・ロマエ」で知られる漫画家・文筆家のヤマザキマリさんによるものですね。
マリさんとはずっと仲良くさせていただいてるんですけど、彼女はイタリアに住んでイタリアの方と結婚しているので、物事に対する視点や発想のスケールがすごく大きいんですよ。なので、そういったマリさんならではの感性で歌詞を書いていただきたいなと思ったんです。お願いしてから半年くらい経って送られてきた歌詞は本当に素敵でしたね。で、曲を木根さんにお願いしたところ、素敵なシャンソンに仕上げてくださったのでまた感動しちゃって。これもたくさんの方に届いて欲しい曲になりましたね。
――美しく壮大な曲になっていますが、歌われているのはすごくシンプルなメッセージですよね。
そうですね。タイトルの通り、“この世に生まれてきたなら愛すればいい”ということです。誰かを愛することで人間は成長し、大人になっていく。人を憎み続けていたら、その人生はきっと敗北ですから。愛することが大切なんだというシンプルなことを、この令和のシャンソンで感じてもらえたらうれしいですね。
――「Glamorous Butterfly」は、大黒摩季さんが作詞・作曲を手掛けたロック・ナンバーです。これはどんなイメージでオーダーしたんですか?
摩季さんとは夜中によく電話するんですけど、そこで曲を作って欲しいというお願いをしたんですよね。そうしたら「自分の思っていることを言葉にしてどんどん送ってきてよ」と言われて。で、色んな思いを書いて送ったものを元にして作ってくれたのがこの曲だったんですよ。
――ということは、この曲には氷川さんのリアルな思いがしっかり込められていると。
はい。うわべだけの愛や友情はもういらない、本当に愛する人と一緒に生きていきたいという究極の愛を歌っている感じですね。自分の思いを反映してもらってはいますけど、完全に摩季さんらしい仕上がりになっているのが嬉しかったですね。もう完全に大黒摩季の世界(笑)。
――ボーカルに関しても、大黒さんが憑依しているように感じる瞬間があったりしますし。
そうですね(笑)。この曲は“強い女”というイメージを大事にして歌いました。「Jeanne d’Arc~聖女の微笑み~」という曲があったりもするので、このアルバムは“女性の強さ”がひとつのテーマになっている部分もありますね。
氷川きよし / Glamorous Butterfly【公式】
――氷川さんが作詞を手掛けたもうひとつの曲が「9月に逢いたい」ですね。こちらはどんな思いを紡いでいったんですか?
この曲では、これまでずっと応援してきてくださっているファンの皆さんに対しての氷川きよし像を書いていった感じですね。他の曲ではkiiやkiina(kii-natural)の表情が強く見えていると思うんだけど、ここでは「きよしくんがこんなこと言ってますよ」みたいなイメージで(笑)。一番優しい少年としての思いが出ているような気がします。
――タイトルや歌詞の中に登場する“9月”というのは……。
自分の誕生日が9月なんですよ。正直、43歳にもなると誕生日もいらないんですけどね。「祝わないでよ!」と思ったりもしますけど(笑)、でもそういう特別なときにファンの皆さんに会えるのは喜びでもありますから。今年は9月にポップス・コンサートで皆さんに会えることが決まっているので、そこへの思いを曲にしておきたかったんですよね。「いつもありがとう」という思いを。
常に新しい楽曲を注目していただける存在に
――前回のポップス・アルバム『Papillon』ではクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」をカバーされていましたが、今作にも2曲のカバーが収録されていますね。
そうですね。1曲目は木根さんの「RESET」。この曲は東日本大震災のときに福島県の人たちのために書かれたものなんですけど、そこで描かれている情景は今の日本の状況にもすごくマッチするように感じたんです。それに最後が<君と見つけたい これからのMyself>で終わるところもアルバムのテーマにピッタリだなと思ったので歌わせていただきました。
――もう1曲のカバーはTM NETWORKの「SEVEN DAYS WAR」ですね。
自分は映画『ぼくらの七日間戦争』(88年公開。「SEVEN DAYS WAR」が主題歌に起用されていた)世代だから、「ようやく歌えた!」という感じでしたね。自分の青春時代が戻ってきた感じがしたというか。同時に<自分で選びたいだけ><ただ素直に生きるために>というフレーズを今の自分として歌いたかった気持ちもあったので。
――ここにも“ありのままでいたい”という氷川さんの思いが込められているわけですね。
もう歌詞の全部が自分と重なっちゃった感じですね。この曲を歌って思い出したんですけど、デビュー前にアルバイトをしていたとき、オーナーさんにサインを書いたことがあったんですよ。「いつか値打ちが出るかもしれないから」って(笑)。で、自分の本名とその横に“歌謡界を革命する”と書いたんですよ。デビューもしてないのに大きく出ちゃって。図々しくて生意気でしょ(笑)。
――あははは。でも、革命っていうのはつまりレボリューションってことですよね。
そう!<Revolution/ノートに書きとめた言葉>という「SEVEN DAYS WAR」の頭のフレーズを歌ったときにそのことを思い出して。あの当時に抱いていた情熱みたいなものを改めて見つめ直すこともできたんです。周りからは馬鹿にされて笑われるかもしれないけど、そういう情熱を持ち続けることが大事なんだなって、この曲をカバーさせていただいたことで改めて感じることができましたね。
――2枚のポップス・アルバムがリリースされたことで、氷川さんの中では演歌と共にポップスも重要な柱になっているような印象もあるのですが、ご自身ではどう感じていますか?
ポップスというのは自分の思いや叫びをストレートに伝えられる場なんですよね。そういう意味ではめちゃくちゃ大事なものになっていると思います。ポップス系をやることによって、より一層、演歌のことが好きにもなりましたし。
――今後もポップスは歌い続けていこうと思っていますか?
もちろんです。やっぱり氷川きよしというと「きよしのズンドコ節」のイメージが強いと思うんですよ。パンチが強すぎる曲ですから(笑)。もちろん、今の自分を作ってくれた大事な曲であることは間違いないんですけど、願わくばそれ以上のヒット曲をポップスでも生み出したい。そして、氷川きよしのポップスを好きになってくれる方がもっと増えたらいいですよね。常に新しい楽曲を注目していただける存在になること、そこに重きを置いて今後も活動していきたいなと思っています。
――9月からは東京、大阪、名古屋でポップス・コンサート【氷川きよし-You are you- Release Tour 2021】が開催されます。楽しみですね。
すっごい楽しみです! めちゃくちゃ振り切るくらいの意気込みで頑張ろうと思っています(笑)。少しでも氷川きよしに興味を持ってくれている人はぜひ遊びに来てください。そういう方たちのことを音楽で励ます気持ちで歌いますので。お待ちしています。
Photo by 辰巳隆二
You are you
2021/08/24 RELEASE
COZP-1800/1 ¥ 3,700(税込)
Disc01
- 01.Frontier
- 02.Jeanne d’Arc ~聖女の微笑み~
- 03.Labyrinth
- 04.小夜月
- 05.紫のタンゴ (New ver.)
- 06.9月に逢いたい
- 07.生まれてきたら愛すればいい
- 08.RESET
- 09.You are you
- 10.SEVEN DAYS WAR
- 11.Glamorous Butterfly
- 12.I Don’t Wanna Lie
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