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<インタビュー>荒木飛呂彦『ジョジョ』シリーズでともに歩んできたプリンスを語る



荒木飛呂彦インタビュー

 プリンスが急逝してから早5年――今もなお、世界中のアーティストやリスナーを虜にしている孤高の天才が、2010年にレコーディングしたものの、お蔵入りにしていた“幻のアルバム”『ウェルカム・2・アメリカ』が、11年の時を経てリリースされた。そこには、彼が長年頭を悩ませてきたマスメディアによる情報のコントロールや人種差別、偏見に対するメッセージが込められており、今私たちが直面している問題を再度見つめ直すきっかけを与えている。

 プリンスを愛し、彼から受けた影響を自身の作品に色濃く投影させているのが、『ジョジョの奇妙な冒険』の漫画家・荒木飛呂彦だ。プリンスの大ファンで知られる荒木は『ウルトラジャンプ』で2011年6月号から連載が始まった第8部『ジョジョリオン』の歴史に幕を下ろしたばかり。現在『ジョジョ』ロスが全国で広がっているが、そんな彼にプリンス愛を語ってもらおうと取材をオファーしたところ、「プリンスのためなら」と時間を割いてくれた。『ジョジョ』シリーズに隠されたプリンス愛や自身の活動の支えとなっている音楽について語る貴重なインタビューをお届けする。

――『ジョジョリオン』の連載お疲れ様でした。今のお気持ちはいかがですか?

荒木飛呂彦:なんとなくの完結ではなく、ちゃんと完結したので創作的には満足しています。仕事を毎日続けていると、身体へのダメージがありますので……。今はその辺をリセットしているかな。

――連載はシリーズ最長の10年ということになります。連載開始が2011年ということで物語には震災が色濃く描かれていて、コミックスで荒木先生もコメントされていますが、「ジレンマ」への接近という意味ではコロナ禍を連想させる描写もあります。激動の10年だったのかなと思いますが。

荒木:激動だし、上ってきている10年でもある気がしていました。一つの目的に向かうというか。その前の(第7部)『スティール・ボール・ラン』も目的に向かって主人公が突き進む話ですけど。時代というか、終わるべくして完結できたっていう感じがありますね。

――一方でこの10年の間には、2016年にプリンスの死がありました。

荒木:そうですね。衝撃的で、自分も体調が悪くなりましたね……。虚無感というか、信じられなかったです。マイケル・ジャクソンもそうですけど、若すぎるというか。作品が途絶えてないし、過去の人という感じがしないんですよね。僕は音楽をかけながら仕事をするんですけど、音楽をかけるのはミュージシャンの考えやファッション、時代に対する姿勢だとかを隣において、感じるためでもあるんです。(プリンスと)一緒に歩んできたので、そこが途切れるのかと思うと「どうしたらいいんだよ?」って思いましたね。ミュージシャンやアーティストたちが、苦しさとかトラブルを抱えながら創作した音楽を届けてくれているんだと思うと、励みになるんですよ。

――それこそ、プリンスという名前を捨てて、ラブ・シンボルとしてマークになった時期もあったわけで、にわかには信じられないファンもいたのではないかと思います。

荒木:ファンタジーの中にいるようなミュージシャンでもあるので、信じられない気持ちも確かにあるんですよね。


▲「Somebody's Somebody」

――そもそも荒木先生とプリンスの出会いはいつだったんですか?

荒木:プリンスは、だんだんと好きになってきたアーティストなんです。「Soft and Wet」(アルバム『For You』(1978)収録)やアルバム『Dirty Mind』(1980)を時々聞いていた程度だったんですけど、アルバムを重ねる毎にいいなと思いはじめて。『1999』(1982)までも全部いいアルバムで、『Purple Rain』(1984)で衝撃的な盛り上がりがありました。この人は急に売れた人じゃないんだっていうか。芸術的には裏切ってくるんですけど、ミュージシャンとかアーティストとしては確かなアーティストで、作品が出たら絶対に買うっていう、そういう人になったんです。「代表作は何?」って聞かれると困るくらい、どれもいいんです。

――「Soft and Wet」を聞いていたということは、デビューからチェックされていたということですか?

荒木:そうですね。R&Bのアーティストなのに音や楽器の使い方が奇妙な感じがありました。その時代を生きてるんだけど、新しい文化やファッションを見せてくれていたし、衝撃的なジャケットもあって、自分のヌードを使った『Lovesexy』(1988)は下手したら変態と紙一重だし、ビキニのパンツを履いた『Dirty Mind』も、普通の人だったら完全にアウトだけど、プリンスがすると、そうでもない気もして。「何を考えてるんだろう?」っていう謎めいた部分がプリンスですよね。
 アルバムそのもので言うと、曲の順番があるんですよ。いろんなアーティストがいるけど、昔だとレッド・ツェッペリンの2枚目(『Led Zeppelin II』(1969))の「Heartbreaker」と「Livin' Lovin' Maid (She's Just A Woman)」の2曲はペアなんですよ。曲が終わって次の曲に入っていく感じが重要で、その位置にいなきゃダメなんですけど、プリンスもそういうのが多いんです。例えば『Purple Rain』だったら「Let's Go Crazy」からの「Take Me With U」。終盤だと「I Would Die 4 U」と「Baby I'm A Star」と「Purple Rain」。この3曲は絶対に切り離しちゃいけない、組曲的な曲で、繋ぎ目や入り方もすごくいいんですよ。動かせない運命の流れみたいなものがアルバムの中にあって、それがたまんないんですよね。圧倒的なんですよ。

――『The Gold Experience』(1995)も1枚で1曲の組曲のようなアルバムですよね。

荒木:そうですね。その順番じゃなきゃダメなんですよ。ヒットしたからといって(そのシングルを)1曲目に持ってきちゃダメなんです。そういう作り方というか姿勢が、どのアルバムにもあって、すごくいいんですよね。聞いていて完璧な世界に浸れるというか。

――事前にお聞きしたアンケートでは、荒木先生がお好きなプリンスの作品は「強いて言わなければならないとすれば「Purple Rain」」でした。

荒木:それが最高峰かなって。でもたくさんあります。「Mountains」も好きだし、「Lovesexy」もいいです。

――『Purple Rain』はアルバムとしてはもちろん、映画もあって、そこら辺も付随して一つのセットというか。

荒木:そうですね。MTVがあったからヒットしたというのもあるけど、流れから曲順、イメージがどれも完璧なアルバムです。

――映画自体についてはいかがですか?

荒木:ファッションの異様さというか、ある種の気持ち悪さがあるんですけど、観ると面白いですね。何回も観てます。紫色のイメージがすごく強い映画で、どこの国なんだろうとも思うし。

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